ザ・グレート・展開予測ショー

魔法のブラシ


投稿者名:おやぢ
投稿日時:(05/ 8/ 3)

珍しく避暑地に慰安旅行に来ていた時のことである。
山奥の別荘・・・・山を見て自然に戻ったシロは、予想通りというかドロだらけになって戻ってきた。

「ちょっと、そのままで入らないでよ!!」

顔を顰めながら令子は言った。
令子の苦言も尤もである。
それほどまでにシロは汚れていた。
バスルームに向かうまでには、かなり掃除をしなくてはいけない有様だ。

「フフフフ、すべて想定の範囲内です。」

どこかで聞いたようなセリフを横島がのたまった。

「なにが想定の範囲内よ。」

「おまかせあれ。」

横島は荷物をかき回すと、中からブラシを取り出した。

“ペット用ブラシ”

「このバカ犬が、山で野生に戻る事はすでに予想していました。」

横島がそういうと、シロはなにやら“犬”に反論していたが皆いつもの事なので完全に流していた。

「そこで“これ”!!!人間だと不可能ですが、犬ならば外で洗っても平気の平の字!バカ犬ならではの離れ技!」

本当に弟子を思いやっているかどうかは謎なセリフであるが、自分の頭脳に酔っている横島には
何をいっても無意味である。
一方、犬発言にまたしても反論するシロであるがすでに完全無視されている。
シロを除く全員は、なるほどと頷いており、シロの意思は蚊帳の外である。

「というワケで、シロ。精霊石外せ。」





ジーパンを捲り、タライに足を突っ込んだ状態で横島はシロを洗っている。
頭、背中、尻尾。

「ほれ、シロ。お手。」

正面を向かせて手を挙げさせ、腕を洗う。

「足。」

足を上げさせ足を洗う。
よく考えると、とんでもない事をしているが誰も気にしていない。
シロ本人さえ気にしていない。
気分は完全に『犬』であった。

「おすわり。」

素直に従うシロ。
おすわりの体勢で顎から下を洗う。
微妙にシロの顔に変化があったのだが、誰も気がつかない・・・・タマモを除いては。

シャンプーが終わると、ホースで水をかけ泡を流す。

「よし!シロ、ブルブルしろ。」

犬や猫が身体に水がつくと、身体を振るアレである。
近くにいた奴は、シロの飛沫の洗礼を浴びた。

「このヤロ・・・仕返しかよ・・・」

横島は文句をいいながらも、タオルで身体についた水気を拭き取り
持ってきたブラシで身体にブラッシングをする。
目を瞑り、かなり気持ち良さそうにしている。
尻尾の付け根を丁寧にブラシをかけると、シロは尻尾の方をふり向き噛む仕草をみせた。

「ほんと・・・犬そのものね・・・・」

令子は腕組みしてその様子を眺めていたが、かなり呆れていた。

「まぁ犬や猫はここ弱点っつーか、自分では掻けないっスからね。」

人狼はそうではないと思うのだが、まぁ動物といえば動物なので“野性”に戻ったといえば戻ったのであろう。

「よし、おしまい!」

横島がそういうと、シロは横島のTシャツの袖を咥えた。

「な、なんだよ。」

ベランダに上がり、寝転がると仰向けになり腹を見せた。
思わずコケる、横島・令子・おキヌ。

「シ、シロちゃん!あなた女の子でしょ!!」

おキヌの言葉にハっとするシロ。
しかし、ブラシの魔力には勝てないらしい。
それでも、鼻で鳴いて催促する。
横島はかなり情け無い顔で、令子の顔色を伺う。
令子は井桁を浮かべていたが、大きな溜息をついた。

「まぁ仕方ないわね・・・今回は慰安という事で“ト・ク・ベ・ツ”だからね!!!」

なぜか横島でなく、シロに向かって言う令子。

「アンタも!“犬”相手に欲情すんじゃないわよ!」

今度は横島に向かって、青筋を浮かべながら言う。
なにやらシロがキャンキャンと抗議していたが、誰も犬語など判らないから当然無視されていた。

“犬相手にどう欲情せいっつーんだ・・・”

まぁ人間形態でそれをやられたら問題あるが、動物形態でやられても欲情しようもない。
さすがの横島も獣〇の趣味は無いようである。

お腹をブラッシングすると、シロの尻尾はブラッシングに合わせて揺れていた。
かなり気持ち良さそうである。

「今度こそ、終わり!」

横島がそういうと、シロは名残り惜しそうにブラシを持った手に甘噛みした。

「甘えるな!」

反対の手で頭を撫で付ける。
甘えるなといいつつ、かなり甘いようである。
何かが水に入る音が聞こえた。

「「「タマモーーー!!??」」」

タライの中に、狐に変化したタマモが入っていた。
澄ました顔でいるが、いかにも“洗え”と主張している。

「シ、シヨウガナイワネ、イアンダカラ!!!」

令子の顔には井桁が数箇所にでている。

「オキヌチャン、チョットイラッシャイ!」

ブルブルと震えながらおキヌを手招きする令子。
怯えながらも逆らったら命が危ないと悟ったおキヌは、大人しく従う事にした。
横島は女二人の怪しい行動に目をやりながらも、タマモを洗う事にした。
シロと不公平がないように、同じように洗ってやる。
ブラッシングも同じように・・・・すべて同じである。
ただ違う点といえば尻尾・・・・シロの1本と違い、タマモは9本。
ブラッシングが大変であった。

「俺はトリマーかよ・・・」

2匹も洗うとかなりな疲労を伴う・・・横島は部屋へ上がろうとした。
すると、そこには脱ぎ捨てられた服。
しかもたった今、脱ぎ捨てられたものらしい。
令子とおキヌが先程まで着ていたモノである。
そこには本人達の姿は見当たらない・・・










かわりに犬と豹が目の前にいた。

「アンタらもかーーーーーーーー!!!!!」

絶叫する横島。
変化の符などは、当然持ってきているワケもなく・・・やはりといってはなんだが、最終兵器“文珠”
を使ったのであろう。

「アンタ普段、俺にむやみに使うなっつーといて・・・」

さすがの横島もコメカミに血管が浮き出ていた。
豹に近づき文句をいうが、豹はそっぽを向いて知らん顔をしている。
おそらく豹になったのが令子であろう。
猫科であり、豹というのがいかにもである。
豹に詰め寄っている間に、水音が聞こえた。

“がうっ!!!”

“きゅ〜ん”

なんと言っているかは不明である・・・・
おそらく『抜け駆けずるい!』『すいませ〜ん、えへへへ』ぐらいであろう。

「まったく・・・おキヌちゃんまで一緒になって・・・」

横島はやれやれといった表情を浮かべた。
ホースとシャンプーを手に犬となったおキヌの背中を洗う。

「まぁ慰安ですからね・・・」

そう言いながらおキヌ犬を洗う。

「ううう・・・・俺の慰安はどこへいった・・・・」

思わず涙がでてしまう。

「しかもみんな動物になっちまって・・・これが普段の姿なら・・・・」

もわもわ〜〜〜〜っとピンク色の妄想が広がる。













「あ・・・ダメ・・・・横島さん・・・・そんなとこまで・・・・」

「ダメだよ、おキヌちゃん。ちゃんと洗えないよ・・・」












背中に猛烈な痛みが走る。

「ぐわっ!!!!!!!!」

後ろを向くと、豹が爪をたて歯を剥きだしにして威嚇している。
毎度の事ながら、横島は妄想が口にでていたようである。

「あわわわ・・・ちゃんとやります!やりますってば!!」

豹になっても、令子は令子のようである。

“きゅ〜〜〜〜〜〜〜ん”

なにが不満だったのか謎だが、おキヌ犬は残念そうである。
一応“慰安”なので、シロタマと同じように扱う。
さすがに鈍い横島でも、何をやって欲しいというのは判ったようで尻尾にブラッシングすると、
おキヌ犬もシロと同じような仕草をする。

「元が人間でもここは気持ちいいんかな?」

おキヌ犬は顔を赤らめながらコクリと頷いた。
犬が赤くなるなんてかなり珍しい。
さてブラッシング終了・・・・・・と思われたが、やはりといってはなんだがシロタマに習っておキヌ犬も
ベランダで寝転がった。

「お・・・おキヌちゃん・・・・・」

もう嬉しいというより、どう対応していいか判らない。
令子パンサーに伺いをたてると、ムスっと不機嫌な顔をしていたが一声吠えて顔を振った。

「やれ・・・って事っスね。」



“これは犬だ・・・これは犬・・・おキヌちゃんじゃない・・・”

自分に暗示をかけながらブラシをかける。
邪な妄想をすれば、肉食獣の爪と牙が飛んでくる。
恐怖と妄想の板挟みになりながら、横島はブラシをかける。
すでに慰安などではない。
精神がここまで磨り減る慰安など存在しない。

「お・・・終わった・・・・」

大きく呼吸をして、横島はブラシを置いた。
すると、おキヌ犬は横島の顔をペロっと一舐めしてぺこりと頭を下げた。
後ろにいた、シロタマがキャンキャン叫んでいる。

「う〜ん嬉しいけど、犬の姿じゃなぁ〜・・・・本能なのか本気なのかさっぱりわからん。」

横島は嬉しいような困ったような顔を浮かべた。
またしても水音。
令子パンサーの番である。

「豹の水浴びなんて聞いた事ないぞ・・・・」

ぶつぶつと文句をいいながら、洗い出す。

「それにしても怖ぇ〜なぁ・・・・」

今までは、いつもの狼、小狐それに犬である。
しかし、令子は豹・・・・完全な成獣でしかも肉食獣。
機嫌を損なうとまさに、『とって喰われる』状態になっていた。
豹のその筋肉質の身体は、横島にとってはかなり残念である。

「うううう・・・・あのちち、しり、ふとももが・・・・」

またしても涙が零れる。
だいぶ慣れてきたのか、洗い方も様になってきたようである。
令子パンサーの目はずっと細いままである。
尻尾がたまにピクピクと揺れている。
わき腹を洗っているときに事件は起こった。

「あいだーーーーーーーーーっ!!!!!」

ジャレあっていたシロタマキヌのトリオが駆け寄ってくる。
横島の耳から出血が見られた。
申しわけなさそうに令子パンサーが、耳をぺろぺろと舐めている。
あまりの気持ちよさに、令子パンサーが甘噛みしてしまったのだ。
豹の甘噛み・・・耳に穴が開いてしまった。

「う〜む・・・顔向けたら要注意だな・・・いつ噛まれるか分からん。」

横島は、それでも律儀に身体を洗った。
今度は洗っている間、大人しくしていたようである。
そしていよいよブラッシングへ・・・・
体中をブラッシングしていたが、横島は尻尾へのブラッシングをどうするか迷っていた。
あのおキヌ犬でさえ、噛みそうになったくらいである。
令子パンサーに噛まれた日には・・・・手が無くなる・・・・

「さ、終わりです。」

尻尾にブラシをかける前に横島は、そういった。
すると令子パンサーは寂しそうに項垂れながら、尻尾の根元を見つめている。

「ぐっ!普段はそんな顔しないくせに・・・・・」

引き攣りながらも横島は、陥落した。
ブラシを手に令子パンサーの隣に座った。

「わかりました、やります。けど・・・噛まないでくださいよ。」

横島がそういうと、令子パンサーは頷くと尻尾をピンっとたてた。
根元にブラシをかけと、プルプルと身体が震えている。
ジャレつきたいのを我慢しているらしい。
そのままゴロンと横になり、腹をみせる。

「アンタもかい・・・・・」

普段の令子なら絶対みせない甘えっぷりであるが、自然に戻ったからか、それとも魔法のブラシのせいなのかは
不明だが、他の3匹以上の甘えっぷりである。

「ううう・・・・せめてちちさえあってくれたなら・・・」

涙を流しながらブラッシングすると、牙を向けられた。
『いらんこと考えるな!』とでも言いたいのであろう。
お腹にブラッシングをしていると令子パンサーの様子が少し変わった。
身体を左右に揺らせて足がピクピク動き、落ち着きが無い。
なにか身の危険を感じた横島は、ブラシを止めた。
止めた瞬間、前足で手を押さえられ




“かぷっ♪”




「あいたーーーーーー!!!!!」

雄叫びを上げる横島だが、令子パンサーは今度は全くといっていいほど気にしていない。
横島に纏わりつき爪は立てないものの、甘噛みしまくりジャレまくる。
それを見ていた3匹は、先を越されてなるものかと参戦。

「俺はムツゴ〇ウさんかーーー??」





陽もくれる頃に、ようやくシロが元に戻りタマモをそれに合わせて人型に戻った。
が・・・・文珠の効果はまだ切れてないようで、令子とおキヌはまだそのままである。

「腹へったでござるな・・・」

シロが床に寝そべって、力無くそういった。

「そろそろ文珠の効果も終わるさ。」

横島はそういいなが、まとわりつく令子とおキヌを両手でガシガシと撫で付けた。

「これって、動物の本能だよな・・・・・・本能・・・・・・」

横島の顔が、邪に歪む。
あまりの邪気のために、令子もおキヌも毛を逆立てて横島から離れた。

「なぁシロ、お前ら人狼って人型の時と狼の時と少しばかり本能が違うよな。」

「そうでござるな。狼の時にあった欲求も、人型の時にはいくらかは和らぐでござるよ。」

シロの言葉を聞き、横島は台所にかけこんだ。
そして再び戻ってきた時に手にしたものは・・・・・



『またたび酒』



「それはかなり危険なのでは・・・・」

「ボトル5本は軽く飲み干す美神さんだぞ。これが猫には効く“またたび”ではどうなるか?興味ないか?」

横島は口元を緩ませながら、器にまたたび酒を注ぎ中にあったまたたびを入れた。
匂いをかぎつけた令子パンサーが、すぐに寄ってくる。
酒は飲まずに、またたびの実だけをガリガリと食べている。

「やっぱ完全に猫になってるなぁ。」

思わず関心してしまう3人(2人+1匹)。
あっという間に食べてしまうと、横島の手にした大瓶の方に目をつける。
その目は完全に座っていた。

「よ・・・横島!早く差し出すのよ!!!喰われるわよ!!!」

動物同士相通じるものがあるのだろうか、それとも自然の法則で身体が反応しているのであろうか、
タマモがかなり動揺している。
横島が慌てて大瓶を差し出すと、令子パンサーは顔を突っ込んでまたたびをむさぼり食った。
いつもの上品さの欠片も見当たらない。
食べ終わると、ゴロンと横になり気持ち良さそうに体を揺すっている。

「う〜〜〜む・・・・さすが猫科。完全に大きな猫だ。」

危険を感じたのか、シロタマにおキヌ犬は側から避難していた。

「あ・・・」

周りに誰もいない事に気付いた横島だったが、時すでに遅かった。











酔っ払った猫に理性はありません。

「あぎゃあああああああああああああああ!!!!」

先程の甘噛みと違い、セーブ無しの噛み。
爪は立てたままで、噛み付いての猫キック。
普通の猫にやられても、生傷だらけになる事を豹にやられているのだ。


横島の悲鳴が響く中、3人は部屋に避難して扉を硬く閉じていた。

「先生・・・御無事で・・・・」

「横島・・・成仏してね・・・」

「ああああ・・・・横島さん・・・」









「「え??」」

聞き慣れた声に、はっとしてシロとタマモはおキヌの方を見た。

「「「文珠の効果終わってる・・・・」」」




横島の悲鳴は終わり、当時者二人は固まったままである。
またたびは猫には効くが、人間には効かない。
人に戻った令子は、当然酔いも急激に冷めている。
素っ裸のまま、横島に噛みついたまま時が止まっていた。
令子は、横島から口を離し自分の今ある姿を見渡した。
ついでに横島も、令子の姿をじっと見渡している。
それはもう・・・舐め回すように・・・・・
令子が大きく息を吸った。








「なに襲われてんのよ!!!!!!!」

黄金の右を喰らい、星になる横島。

「んな理不尽なーーーーーーーーーーーー!!!」

彼の言葉はドップラー効果となって消えていった。
嗚呼、彼の慰安はどこへ・・・・










後日談・・・・・

さてこの魔法のブラシであるが、当然処分されたと思われていたのだがそのあまりの魔力のために
未だ処分されないでいた。
そして現在はどこにあるかというと、事務所の机の上に置かれている。
週に1度、美神除霊事務所は動物の声と若い男の叫び声が聞こえてくるという・・・



----おしまい-----


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