こんなお話
投稿者名:天馬
投稿日時:(05/ 7/31)
こんな話を知ってるか?まぁ、暇つぶしに聞いてみてくれ。床で寝転んでいるだけでは、退屈だろう?
あるところに一人の男がいたんだ。そいつは、絶対に自分には勝てない存在、魔王に喧嘩を売ってしまってね。その理由が、敵となる相手の女幹部と恋に落ちて、彼女を助けたくて喧嘩を売ったという話。なんとも面白いだろ?我々神魔には考えられない。まぁ、経過については省略するがなんとその男、紆余曲折の末に敵を討ったんだ。
が。
退けた代償は女だった。自分の無力のせいで彼女を無くした。男にとっては、男にとってでなくとも、悲劇だな。男は悲しみのあまり、幾日も悲嘆に暮れる日が続いた。どうして、どうして、とな。何日も死んだ日を繰り返した。そしてある日、男に光明が差し込んだ。彼女を生き返らせることができる、ってな。自分の魂がくっついてとれなくなった女を、再び愛せるってな。
それから、奴にとってそれは希望であり、全てであり、贖罪になった。
悲劇はここからさ。
ある日その男、仕事中に死んだのさ。さっきも言ったが、この男の魂には愛する女性の魂が混ざっていた。そして愛する女性を生き返らせる方法はただ一つ。自分の子どもとして蘇らせる事。それだけだった。奴は薄れ逝く意識の中で必死に生きたいと望んだ。自らの死は、愛する女性を二度殺す事と同義。必死で生きようとした。死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない。ずっとそんなことを想って。
終に死んだ。
奴らの知人は皆嘆き悲しんだね。そう、心の底から嘆き悲しんだ。
そして時が進んだある日、一つの事態が起こった。奴の『生きたい』と言う執念は終に奴自身を悪霊に変えたのさ。そして奴の職業はGS。事態は最悪な方向へと進路を変え始めてしまった。
おや、怪訝そうな顔をしているね。GSとて人間だ。ましてや悪霊の拠所は、この世への『未練』と『生への執着』だからな。奴は、どこまでも貪欲に、無様に、悪霊になるには充分過ぎるほどのソレを持っていたってワケさ。
考えてもみな。ただの人間でさえ、悪霊となっちまったら元の姿の何十倍、何百倍の力となって悪に染まる。奴の力は、常人のソレを遥かに凌駕していた。魂だけとなった彼の存在は、共に遭った最愛の彼女、魔王の側近の魂と癒着し。史上最悪の悪霊が生まれちまったわけさ。皮肉な話だ。霊的に最も弱く、その為に成長速度が尋常ではない人間と言う存在であったがゆえに、最強の悪霊と化すとはな。
ん?納得のいかない顔をしているな。魂の癒着ごときでそんな風になるのかって顔だ。ところがなるんだよ。かの有名なGS、美神令子を知っているか?知っているよな。やつが一番いい例さ。彼女の魂には、ある魂の結晶があった。それをやつは長い間溜め込むことによって完全に癒着し、その結果、霊能のピーク、つまりは限界があるにもかかわらず限界を超えた。これからも伸び続けるだろうがね。
そして魔王が作った兵鬼がこうも言った。「悪魔になれば、魂の切り貼りは簡単にできる」とな。もしかしたら奴は、無意識にそれを行ったのかもしれないな。まぁ、理性のない悪霊となって、切るのを忘れたってオチだろうがな。ははは。
世界の被害は甚大だった。そりゃあひどいものさ。人間は死に、下級の悪魔、神は滅ぼされ。あまつさえ自然をすら滅ぼしてしまった。知り合いを殺し、見知った風景を滅ぼし、昼夜問わず破壊の限りを尽くした。そして壊すたびに、殺すたびにやつは嘆いたのさ。いきたい、いきたい、とな。逝きたいのか、生きたいのか。私にはわからなかったがね。もちろん、なかには殺されなかったものもいるさ。だがそのだれもが狂い、壊れ、そして嘆いた。悲しみから、痛みから、己の無力から。さまざまな感情で。私も人間くさくなったかな?あまりにもむごい世界だ。
しかしなんと荘厳で、美しい光景か。ふふ、私もまだまだ悪魔の端くれ、かな。
さて。終いには奴の存在は、上級の神や悪魔の力をかりなければ、太刀打ちできないほどになったのさ。そして、そんな奴を屠る為の人選は、極東にいる竜神の女神や、かつては神でありながらも、キリストにより堕天させられた戦乙女だったわけさ。奴と、遠からぬ縁をもった存在が奴を討つ。皮肉な話さ。
さて、そんな奴らでも彼を完全に滅する事は出来なくてね。まぁ間接的とはいえ、魔王を滅ぼしたほどの男だ。完全な消滅はなかなかに難しかったわけさ。さてここで。奴らは何を考えたと思う?どんなことをしたと思う?
ところで知ってるか?人間と言う存在はなんとも面白くてな。神や魔のように圧倒的な力がない代わりに、奴ら以上に長けたものがある。それはなんだと思う?それは結界だよ。守る力だ。最も非力であるがゆえに、最も守る力が成長した。
バチカン、と言う所を知っているか?そこには、神や魔ですら簡単には破ることが出来ない人類が作り上げた最強の結界があるのさ。神魔は、奴を封じ込めるには絶好の場所と判断したのさ。そして奴をそこにぶち込んだ。これでこのお話はお終いだ。なんとも淡々とした話だったな。
そうそう、バチカンの結界ってのはなんとも面白くてな。どうやら、魔族の破壊衝動やらを抑制して、逆に理性を働かせてくれるらしい。だからこそ、あの魔神ベリアルですら、GSが来た頃に、あの程度の反抗で済んだのかもしれないな。
ちなみにその男。奴が人間だった頃に知り合ったほとんどの人間を殺しちまったらしいな。なんでも、奴にけじめをつけようと勇んだ連中だったが、あえなく敗北してそのまま死んだらしい。奇跡的に生き残ったやつもいるにはいるんだがなぁ。残ったのは二人だけだった。やつと一番付き合いの長い女性二人さ。だけど片方は己の無力さと罪悪感から壊れた。奴と同じ背丈の人形をもって、一日中奴を幻想しつつ、ずっと。壊れたまま。一生を終える。死ぬ歳まで言ってやろうか?彼女は八十を越える歳まで壊れ続けた。
もう一人の女は、その悪霊となった男に逆に返り討ちにあって、両手足を失う。そして一生他人の世話を受けながら、抜け殻のような生活を余儀なくされた。一方で悲しいかな、男に対しての屈折した愛情はなぜか一生消えることはなくてな。さながら生き地獄そのものだよ。享年は百を超える。ふふふ、長寿ゆえに地獄か。それもよし、それもまたよし。
つくづく奴は哀れな男と思わないか、お隣さん。
いや、横島忠夫?
嘘だ、でたらめだと叫ぶがいいさ。隣で寝ている女史も、一緒に来た女の子も。君が殺すのさ。君の仲間たちも、この世界も。彼女が救った世界も。すべて君自身の手で滅ぼすのさ。そして君は、終わることのない生を、この牢獄で過ごす。ついでにもう一言言っておこう。この牢にいれば、いずれは理性を取り戻す。そして君は狂う。また戻る。永遠の地獄だ。
信じる信じないは君次第だ。如何に私といえども、この牢から出ない限りは前知の能力が不安定なのは君も、十分に承知のはず。
さて、このラプラスの暇つぶしを、ご満足いただけたかな?
今までの
コメント:
- これも一つの結末。言うことはありません。それだけの、お話です。信じる信じないも、横島忠男同様、貴方次第です (天馬)
- 世界は多くの方向に無限の可能性があります。
なるほどコリャ怖い話です。しかし背筋が凍る話ですな。
めでたしめでたしが大好きな自分ですが、面白い話でした。 (ヤタ烏)
- かなり信憑性はありますよね。ラプラスの話を聞いてないままその後の歴史が続いたなら。
仕事で絶対死ぬことなく過ごす保障なんてないし、その時まだ生んでない可能性は当たり前にある。その時執念を持ったまま死んでしまったら悪霊化するでしょうし、とんでもない力を持つのも自然な流れ。
でも話を聞いたあとなら別かと。そうなる前に転生させるもよし。死ぬ間際に理性を残したまま霊体が変質するように細工すればルシオラは本人のまま復活。知ってればいくらでもとれる方法がある。
といいますかラプラスの予知って結末だけを告げるから過程が変わっても同じ結果になってしまう強制力があるってもんだと思うので、そこまでの流れをこうまで詳細に語ったらいくらなんでも変えれると思います。だって前提が変化すれば起こりようがないし。
予知が不安定と言ったのがどういう意図だったか邪推してしまう自分がいました。 (九尾)
- あり得る話では、ありますね。なので賛成……ではありますが――九尾さんと多少被りますが、ラプラスがここまで詳細に語るかなぁ、という疑問もあります。
覆らざる全ての『結果』を知るが故に、それを『ちっぽけな希望』を信じる人間が回避しようとして足掻く光景を<楽しむ>というのがラプラスの持つ<楽>の感情の本質ではないのかな、と思います(あくまで、すがたけ也の解釈ではありますが)。
なんにせよ、ラプラスという難題を描写した天馬さんの腕前には感服です。敬意とともに、賛成票で! (すがたけ)
- ヤタ烏さん、九尾さん、すがたけさん。コメントありがとうございました。まとめてレスを返信させて頂きます。
九尾さんとすがたけさんが感じた『果たしてラプラスがここまで饒舌になるか』という点です。ラプラスの能力は前知、そしてそれは絶対のもの、とされています。ここで鍵となるのは、予め全てを知っていて、なおかつ、誰からこのような未来の情報を得たのか、ということです。
もしかしたら横島忠夫。ラプラスからこのような事を聞いたがゆえに尚いっそうの生への執着を持ったのかもしれません。そしてラプラスはもしかしたら横島忠夫本人からこの情報を得なかったのかもしれません。それゆえに微妙な所でのぼかしがあるのかも。
さて、ラプラスの語ったこの物語。ご満足いただけましたか? (天馬)
- 賛成です。
どう転んでも思うつぼとなりそうなその語りの内容が悪魔のそれだなと思ったので。 (Nar9912)
- ◇Nar9912さんへ
はじめまして。コメント、ありがとうございます。
さて、「どう転んでもそうなりそう」というのは、こちらが狙ったものです。
其れを読み取ってもらえたようで嬉しいです。
ありがとうございました(^^) (天馬)
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