ザ・グレート・展開予測ショー

(元)チルドレンへの陰謀(絶チル?)


投稿者名:DOOR
投稿日時:(05/ 7/30)



「「「…………」」」
 薫、葵、紫穂のチルドレン三人組の目の前にあるのは、高級ホテルのプールであった。しかも、貸切
らしく、他の客は見えない。
「ひゃあ、凄えな」
 薫は声を上げた。
「どうしたの、皆本さん?」
「そうや、皆本はんにこんな甲斐性があらへんしな」
 的確すぎる紫穂と葵の突っ込みである。
「甲斐性がないのは誰のせいだ、誰の!?」
 皆本の心からの叫びである。何しろ、皆本の給料はこの三人に食いつぶされてるのだ。
「「…………」」
 紫穂と葵は無言で人差し指を皆本に向けた。
「お前らだ、お前らのせいだ」
 皆本は思わず地団駄を踏んだ。
「皆本はん、ヒトのせいにするのはあかんで。ヒトとしてサイテーの行為や」
 葵は呆れたように首を振って見せた。
「そうそう、皆本さんにはもっとしっかり稼いでもらわないとわたしたちが困るもの」
 ニコニコと頷く紫穂。皆本が三人を養わなければならないのはもう純粋な事実である。
「…………」
 ふたりのトドメに、皆本はがっくりと肩を落とした。
「……ま、まあ、いい。キミたちの慰労のために局長が骨を折ってくださったんだ。桐壺局長の友人か
らの紹介でね、ここを半日自由に使ってかまわないそうだ」
「ほえ?」
「だから、今日はここで自由に遊んで構わない。もちろん、力を使うのは最小限にしてくれよ」
「力を使ってもいいのか?」
「そう言わなかったのか?」
 皆本は笑みを薫に向けた。力の抑制に一番ストレスを溜めているのは薫なのだ。ここで思い切り発散
させるのも悪くないだろう。皆本は局長と見知らぬ局長の友人に頭を下げた。
「水着はレンタルできるから」
 はしゃぐ三人を見ながら、皆本は言葉を続けた。
「じゃあ、僕はバベルに戻るから」
「「「ええーーーーっ!!!」」」
 三人は一様に不満そうな叫びを上げた。
「何言ってるんだ。僕はまだ勤務時間中だ」
 皆本は平静を装って告げた。三人がここで遊んでくれれば、自分はのんびりできる。いろいろ読みた
い論文もあったし。このまま三人が疲れきってくれれば、なおさら好都合だ。
「わッ!?」
 そのまま歩き出そうとする皆本であるが、次の瞬間、身体がフワリと宙に浮かんだ。そのまま、フワ
フワとプールに漂っていく。
「確か力を使っても構わなかったよな」
 薫は残りのふたりに賛成を求めた。
「ええ」
「ナイスや、薫」
「なあ、皆本、一緒に遊んでくれるよな?」
「ここで、皆本さんがウンと言ってくれなかったら、薫ちゃん、力の使い方を間違うかも?」
「そら、あかん、あかんで。そうなったら、皆本はん、プールにまっさかさまやで」
「水浸しのまま、バベルの戻ることになるのかしら?」
「ああ、勿体ない、スーツがダメになってまうで!」
「……お、お前らなあ……」
 皆本は精一杯威圧するような唸り声を上げて見せた。
「レンタルなんて一回限りや、そんな無駄なこと言わんで、皆本はんがプレゼントしてくれてもええや
ろ?それなら、この夏使えるで」
「スーツを新調するより、安くつくかも?」
「それに、あたしらの今年の初水着を拝めるんだ、安いもんだろ?」
「「「…………」」」
 三人の美少女はキラキラ(ギラギラ?)と期待のこもった目で皆本を見つめていた。
 その可憐(?)な視線に、皆本が抵抗できるハズがなかった。




「またせたな、皆本!」
「皆本はん、どうや?」
「……どうかしら?」
 三人は口々に言いながら、羽織っていたパーカーを脱ぎ捨てる。
「………………」
 さっさとレンタルのバミューダ・パンツに着替えて、三人を待っていた皆本は思わず絶句した。
 薫は豹柄のビキニである。露出度は高さは……おそらく18金ではないか?そもそも、こんなのでハ
ミ出すとかとかしないのか?皆本の脳裡に深刻な疑問が浮かんだ。しかし、薫のプロポーションに相応
しくない……ということはできない。こんな格好でビーチを歩いたら、人だかりができるのは疑いなか
った。
 葵は濃紺のハイネックのワンピース。斜めのストライプでハイレグが強調されて見えるが、まあ、競
泳用のウェアの範囲だろう。
 紫穂はコサージュ付きの純白のワンピース。腰にパレオを巻きつけたおとなしめのスタイルだ。紫穂
によく似合っている。ふたりに比べて、露出は遥かに少ない。体型補正機能付きであるのも、ふたりに
に完璧におとるプロポーションを補正するためでは……決してない。紫穂的には将来を考えて、である。
「皆本、イヤらしい目であたしらを見るなよ」
 薫の笑いはあくまでオヤジ臭い。
「薫。少しは紫穂と葵を見習え!」
「へえ、この格好はOKなんか、皆本はん的には?」
 ニヤリとした葵は皆本に背を向けると、ヒップを突き出してみせた。
「!!」
 皆本は絶句した。バックは大きくカットされて、葵の滑らかな背中は完全に剥き出しなのだ。
 そして……。
「どうや、皆本はん。ウチもなかなかのもんやろ?」
 葵はまるで皆本を挑発するようにプリプリしたヒップを振って見せた。
「あ、葵!」
 罵声を上げかける皆本を止めたのは薫の突っ込みだ。
「スキなのを買ってイイって言ったのは皆本だぜ」
 葵もそれに賛同するように頷いてみせる。
「そや!だから、皆本はんが困らんようにウェア選びに付き合ってくれと頼んだのに。それなのに、そ
れなのに……皆本はん、断るから!」
「…………」
 紫穂ひとり、横目で薫と葵を睨んでいる。
「…………」
 皆本は反論を飲み込んだ。この小悪魔ども。これじゃ、まるで僕のほうが悪者じゃないか。それに、
なにか叱ると倍以上の反撃を浴びそうだ。そして、そのダメージはきっと致命的なものに違いない。
「わ、わかった。よく似合ってるよ、三人とも」
「「「…………」」」
「でも、薫に葵、それを着るのはTPOを弁えろよ」
「分かってるよ、なあ、葵」
「もちろんやで、皆本はん」
「…………」
 ニヤニヤ笑いあうふたりに、皆本はなぜか背中に寒気が走るのを避けられなかった。


「皆本はん、到着ゥ!」
「畜生、また、負けた!」
 紫穂の宣言に、薫はプールの途中で泳ぐのを止めた。さっきから皆本と競争しているのだが、全敗である。
「皆本なんかに」
 いくらなんでも、体力で皆本に負けるのは薫のプライドが許さない。
「いくら何でも、まだお前には負けないぞ」
 皆本は笑いながら、薫を慰めるように付け加えた。
「でも、二年後は分からないけどな」
 皆本はリターン・マッチを求める薫を無視して、プールから上がった。
「へえ、皆本はん、結構筋肉ついてはるなあ」
 葵は皆本にさりげなく腕を絡ませながら、感心したように言った。
「昔はガリガリやったのになあ」
「あのなあ、週二日も護身術の訓練を受けてたら、誰でもそうなるよ。それに元は運動不足だったしな」
「そう?でも、家でも筋力トレーニングも欠かしていないんでしょ?」
 紫穂も葵につられたように皆本の身体をペチペチ触り始めた。
「まあ、お前たちの足手まといにだけはなりたくないからな」
 皆本は頷いた。自分の非力さで彼女たちを傷つけることがあってはならないと誓っていた。
 三人とも皆本の思いを知っている。
「でも、局長はんみたいに筋肉ムキムキはいややで。皆本はんは今のままが一番ええ」
「……そ、そうか?そんなにキンニクが付いてるのか?だ、だったら……あたしにも触らせろ!」
 バシャバシャ音を立てて、皆本たちに近寄ってくる薫。
「なんたって、オトコの価値はキンニクだからな」
「…………」
 皆本は薫を目にした途端、顔に冷や汗を浮かべて、後じさりを始めた。
 しかも、葵も紫穂も同様なのだ。
「な、なんだよ、その顔!?」
「「「…………」」」
「逃げることないだろ、逃げること!?葵も紫穂もさ!」
「逃げずにいられるか!」
 皆本はたまらず薫を怒鳴りつけた。いくら薫がプロポーション抜群の美少女とは言え、満面のイヤら
しい笑み、そして、両手をワキワキさせながら目を血走らせて迫られるのだ。おぞましい以外の何もの
でもない。
「いっぺん、自分の姿を鏡で見てみろ!」
「いいだろ、減るもんじゃなし」
「だから、お前のオヤジ趣味が嫌だって言ってるんだ」
 皆本の指摘に、葵も紫穂も賛成するように頷いた。
「なんだよ!イヤよイヤよもスキのうちっていうじゃないか!!」
「か、薫!!一体、お前はどこまでオヤジが入ってるんだ!!!」
 皆本の叫びはこれまで一番大きかった。



「ちぇっ、ホンキで怒ることないだろ?」
 頭を押さえてうずくまった薫は上目遣いに皆本を見つめた。
「だ・か・ら、そのオヤジ趣味だけはやめろ!ジッとしてたら、それなりの美少女なんだぞ、お前は。
分かってるのか?それが台無しじゃないか?」
「「!!」」
「そ、そうか!?皆本はあたしのことを美少女って言ってくれるのか!?」
 皆本の言葉に一瞬戸惑いながら、嬉しそうにニヤける薫である。その表情は年相応であった。
「だから、少しは考えろ」
「やっぱり、皆本はあたしのことを……」
 速やかに妄想を始めようとする薫である。
「冷たい態度は、愛の裏返し!?」
「「皆本さん(はん)?」」
「………………」
「「うち(わたし)は?」」
「なあ、葵に紫穂。ムリヤリ言わせるのはよくないぞ、ムリヤリは」
 薫は余裕タップリでふたりを静止する。さっきまでムリヤリしようとしていた薫はどこにいったのだ。
「あたしのように皆本から言ってもらわないとな」
 薫はオヤジ臭い笑い声を上げている。
「「!!!!」」
 それがふたりの神経をいっそう逆撫でした。普段から、皆本は薫への心配度が高い(と感じられる)
のだから。それについては、一番の危険人物であるからと納得せざるをえない。しかし、今は……。
「…………」
 皆本は高まるプレッシャーにその場から逃げ出したくなった。
「薫、もう一勝負してみるか?こんどは何かを賭けて」



 散々遊んだ(遊ばれた)皆本は一休みを宣言して、プールサイドのデッキチェアに横になった。それ
から30分以上立つのに、未だ復活していない。
「んだよ、皆本、寝ちゃってるのか?」
 薫は皆本を覗き込むと、呆れたように言った。薫はまだまだ遊び足りないのだ。
「なあ、起こそうぜ」
「このまま、寝かせておいてあげたら」
「…………」
「皆本さんだって、疲れてるんだし」
 紫穂は皆本の傷跡を指先でなぞりながら、薫に告げた。
「どうしたんだ、紫穂?」
「皆本さん、傷跡が増えてるなって。初めて会った時はこうじゃなかったわよね」
 紫穂はふたりに訊ねた。
「あ、ああ」
「薫が力を使うからやで」
「あ、あたしのせいだけじゃないぞ」
 薫は目を逸らしながら、反論した。しかし、皆本のケガの多くは薫の暴走、もしくは巻添えによるも
のなのだ。
「でも、皆本さん、こんな目にあってるのよね。普通だったら、我慢できないわ」
「そうやな、皆本はん、どんな時でもウチらを守ってくれてはる」
 しかし、これには多少葵の美化が交じっているだろう。
「それに、わたしたちをイヤがることはなかったわ」
「………………」
「本気で怒って、本気で心配してくれる。そして、なんやかや言っても遊びに連れてってもくれる」
「そういえば、こんなコト、ホンマの家族にもしてもらった覚えあらへんなあ」
「…………」
「な、なに言ってんだよ、違うだろ!ふたりとも!!」
 薫は小さく落ち込んだふたりを思い切りどやしつけた。
「だからさ、あたしたちには皆本がいるだろ、皆本がさ!」
「「!!」」
「皆本が本当の家族なんだよ、あたしたちのさ!!」
 薫は力強く宣言した。
「誰が何と言っても!きっと皆本だって、そう思ってるさ!」




(元)チルドレンへの陰謀(絶チル?)




 照明が落とされた会議室には数人の恰幅の良い男たちが顔を揃えていた。
 スクリーンには三人の美少女がアップで映し出されている。つい先ほどのプールのシーンである。し
かも、かなり際どいアングルからのショットもある。
 もし、このような画像の存在がチルドレンに知られたら、所持人の殲滅は間違いないだろう。
「おう、これは新しい画像ですな」
「目の保養になりますなあ」
「特に薫クンのプロポーションのよさはそこいらのグラビア・アイドル顔負けですからな」
「それがあんなマイクロビキニ姿を晒け出してくれるなんて、タマりませんな」
「いや、プロポーションでは葵嬢も負けてはいませんぞ」
「折れそうなウェストがまたいいですな」
「そうそう、それにあのキリッした雰囲気。スーツを着せたら、よく似合うでしょうな。あんな美人秘
書がうちに欲しいもんですなあ」
「いや、女のコは可憐なのが一番ですよ、紫穂ちゃんのように」
「あんな家庭的なコがいいんですよ」
 しかし、紫穂が三人の中でもっとも腹黒い(紫穂>>>薫+葵)ことを知ったら、発言者はどう思う
だろうか?



「それにしても」
 チルドレンのお宝画像をタップリ愉しんだ男たちは末席に畏まっている桐壺に向かった。
「いいかい、桐壺君」
「このために、キミに動いてもらったわけではないぞ」
「…………」
「彼女らは日本国の至宝なんだよ」
「分かっているのかね?」
「彼女たちには相応しい相手を考えてやらないといけない」
「悪い虫が近づくのを放置するわけにはいかんぞ」
 示されたのはチルドレンに囲まれた皆本である。まるで、公費によるデートではないか。チルドレン
と皆本の親密さは周知であるが、ここまで見せ付けられると流石にまずいのだ、彼らの目的にとって。
「彼女たちにはちゃんとした相手を探してやるべきですな、我々が責任を持って」
「その点、うちの息子はお似合いだと思うんだがね」
「フン、裏口で入った大学さえ卒業できずに、留学で誤魔化したそうですな」
「な、なんだとッ!」
「幾ら見かけが良くてもそれでは」
「その点、わしの孫はいいぞ。現役のT大生だからな。彼女らが成人する頃には丁度釣合いも取れてる
だろう」
「いやいや、こちらはもう葵クンのご両親も了解も得ていますからな、誕生日を迎えたら早速」
「札束で顔を叩くとは、成金にお似合いのやり方ですなあ」
 その場にいる者たちの関心は、どの一族がチルドレンを取り込むかであった。そこにチルドレンの自
由意志は存在しない。彼らの最終的な目標はチルドレンのバベルからの寿退職。そうすれば、レベル7
という絶大な力を私物化できるのだ。
「それにしても、彼は随分とチルドレンと親しいようだな」
「はい、ほぼ6年近くチルドレンの担当官を務めておりまして、チルドレンから絶大な信頼を受けてお
ります。彼の命令であれば、火の中でも躊躇わず飛び込むでしょう」
 桐壺は皆本の価値を強調するように告げた。皆本の解任は避けたいのだ。
「「「…………」」」
 席上の男たちは視線を交換しあった。それにはそのような人事を許していることへの驚きも交じって
いる。
「いくらなんでも、異例ではないのか?」
「6年だぞ、6年」
 なにしろ、官庁の人事異動はおおむね3年ごとなのだ。早ければ、経歴に箔を付けるためだけの腰掛
さえある。皆本なら、どっかの大学の助教授クラスの配属も可能である。
「彼もチルドレンの担当官どまりの人材ではなかろう」
「これでは彼のキャリアにも響くだろう?」
 どこをとっても、非の打ち所のない公式発言。ちなみに議事録に残されるのはこの部分だけである。
皆本のキャリアを心配しているということで、きっとチルドレンからの受けもいいだろう。
 客観的に見て、皆本は無能ではない。それどころか専門分野では有能極まりないと言ってもいい。そ
して、政治性はまったくない。権力を持つ側にとって、好都合な人材なのだ。
「それは……彼以前の担当官で1ヶ月以上持った者がいなかったのです。それでつい後任の選定を」
「怠っていたと言う訳か?」
「それはキミの怠慢だろう?」
「もちろん、そうですが。しかし、ここ2年ほど、本人からの強い要望もあり、後任を鋭意探しており
ます」
 桐壺は言葉をとぎらせた。それ以上はある意味、バベルの恥を晒すようなものである。
「それで後任も選べないほど、バベルは無能なのか?」
「いえ、選定はするのですが、選定から一週間以内に本人からすべて辞退されまして」
「「「…………」」」
 皆一様に呆れたような表情を浮かべてしまう。
「しかし、退職まで申し出られては」
 桐壺は言葉を切った。その裏にはチルドレンの暗躍があると確信していた。しかし、証拠はなく、相
手がチルドレンであるため、下手に疑惑を公にすることもできない。
「……皆本クンといったかな」
「まず彼に相応しいポストを考えてやるのが先決でしょうな」
「決定は追って伝える」
「桐壺君、君はもう退席してよろしい」
「…………」
 桐壺は内心の安堵を隠して、頷いた。もし、何か……何か、起こったとしても、それは桐壺に及ぶこ
とはないだろう。


 皆本に異動の内示が出たのはその直後であった。異動先はモスクワ。精神医学のメッカのひとつであ
るセブルスキー研究所との交換留学が名目であった。栄転間違いなしの人事である。チルドレンが大騒
ぎした上、勤務を数日拒否したのはいうまでもない。

 しかし、その異動は発令数日にして、唐突に取り消されることになる。その直前、ある大臣の収賄事
件がマスコミを騒がせたのは記憶に新しいところである。

 その背後にバベルに所属する三人の特務エスパーの活躍があった…………………………………………





ことは公式には確認できなかったことを付け加えておこう。

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