ザ・グレート・展開予測ショー

ルシオラちゃんの育て方


投稿者名:犬雀
投稿日時:(05/ 7/23)

『ルシオラちゃんの育て方』





「ヨコシマ!ルシオラちゃんが生き返るかもしれないんでちゅよ!」

いきなり人の部屋に飛び込んできて開口一番何を言うかねパピリオさんや。
俺はまだチェリーですぜ。
繁殖行動の「は」の字もしてませんぜ。

「年頃の乙女に何を言うんでちゅか!!」

OK…ナイスパンチだパピリオ。
でも二発はやりすぎだぞ。
まあ出がらしで良ければ茶でも飲んで落ち着いてくれ。

「ありがとでちゅ…ってそうじゃなくて!ルシオラちゃんが生き返るかもなんでちゅってば!!」

そしてパピリオはブンスカと両手を振り回して、ゼスチャー満々に説明してくれた。
つまり…。

「マジでルシオラが生き返るのか?!!」

「さっきからそう言ってまちゅ!!」

「どうやって!!」

「説明は後でちゅ!今は妙神山へ急ぐでちゅ!!」

そして俺は一週間ほど前にパピリオに引っ張られて妙神山に来たわけだ。
パピリオは妙神山までの空の旅の間に色々と説明してくれたが、すまんなパピリオ…人間ってのは首を持たれて吊り下げられると大抵は死ぬんだわ。
まあ俺は一週間ほど意識を失っただけですんだけどな。
おかげでどうやって生き返るか聞けてない。
俺の持っているルシオラの霊気の固まり。例の蛍の形のアレが役に立つとか言っていたが…まあそれは後でゆっくり聞くとしよう。
だって俺の前には…。

「ヨコシマ…会いたかった…またこんな風に会えるなんて…」

ああ。ルシオラ…それは俺も同じさ。
目の前に歓喜の涙を浮かべて立つ彼女の姿は以前と全然変わりなく…なかった。
ルシオラ…ちょっと、いやかなり縮んだんじゃないか?
なんかパピリオと同じぐらいに見えるぞ。

「コホン…それについては私から説明しますね。」

小竜姫様、相変わらずお美しい…って、はいはい解りました。理解したので神剣はしまってください。
ルシオラもケツを抓るのはやめろ。マジで痛いから。
とりあえず話題を変えよう。

「それでどうやってルシオラが復活できたんですか?」

「実は竜神王様のお屋敷が改築になりまして、その時に出た廃材を老師様が貰ってきたんです。」

「はあ?」

なんか長くなりそうな話だ。
でも子供化したルシオラが背中に抱きついてくるから、飽きずに聞けそうな気もする。
それにしても前にちょっとだけあった膨らみがカケラも無いな。

OK。また口に出したか。すまん謝る。だからチョークスリーパーは止めてくれないか。

「続けて宜しいですか?」

「是非お願いします小竜姫様。俺の気道を確保するためにも…」

「はぁ…それで横島さんが保存していたルシオラさんの魂のカケラですが…」

後ろでルシオラが息を飲む音がする。
もしかしたらお前も自分が復活した理由を知らんのか?
目で問えばコックリと頷くルシオラ。
ははは…さすが魂から繋がっているな。以心伝心って奴だぜ。愛い奴め。

「試しにそのカケラを竜神王様の館の廃材に埋めてみたら……生えてきちゃいました。テヘ♪」

「キノコかぁぁぁぁぁぁ?!!」

「そんな…私はキノコ…ツルタマゴテングダケと一緒…」

それは随分マニア向けの毒キノコだぞルシオラ。まさかお前、毒持っているのか?
だったらお前を食えんじゃないか?

OK。了解だ。マイハニー。そんなに怯えないでくれ。
食べると言ってもそういう意味じゃない。
何かって?そりゃあ当然…ゲフンゲフン。

「あの…そういう話題はこういう場所では控えていただけませんか?」

「お嫌いですか?」

「興味はあります。」

即答ですか小竜姫様。
顔を真っ赤にして話題を変えようとする姿が萌えです。

「と、とにかくですね!おそらくは長年の竜神王様の神気の篭った廃材からの影響で、魂が増殖してルシオラさんが生えてきたんだと思うんです。」

生えたとか言わんでください。それ以外は言いようがないにしろ、ルシオラが泣いてますから。

「でも、なんで子供の姿なんですか?」

「わたしが悪いんでちゅ」

居たのかパピリオ。すまん、ちっとも気がつかなかった。
俺の首を引っこ抜こうとしたことは怒ってないから隠れてなくていいぞ。

「パピリオが待ちきれなくて収穫しちゃったんですよね…」

収穫とか言うのもやめてください小竜姫様。ルシオラが完全にいじけて丸まっちゃったじゃないですか。

「だから今のルシオラちゃんは幼虫なんでちゅ…」

「んじゃ育つってことですね。」

「そうです。」

ごめんなさいと頭を下げるパピリオに俺は笑って見せた。

「気にするなって。それに幼虫ってことはこれから育つってことだろ。だったら胸も前より育つかも知れないじゃないか。ルシオラだって喜ぶさ。」

「そ、そうでちゅね…」

待てパピリオ。今、口の中で「しまった」とか言わなかったか?
もしかして早期収穫は計画的なのか?

まあ、あんまり気にしても仕方ないわな。
それに俺にはもっと気になることがある。

「それでどのぐらいで育つんですか?」

「そうですねぇ…」と小竜姫様はどこから取り出したか知れないけど一冊の本を開いた。
きっと神様の書物なんだろう。古文の苦手な俺には到底読めそうも無い…と思ったら「小〇館 昆虫の飼育法」って本でした。

喜べルシオラ。菌類から進化したぞ。

「適切に飼育すれば1ヶ月程度で成虫になると思いますが。」

「飼育」と言う単語が「鬼畜」に聞こえたのは俺が汚れているせいでしょうか?

OK。ルシオラ。俺が悪かったからケツに齧りつくのは止めてくれ。
それはともかく。

「はあ…だったらつれて帰っても構いませんね。」

「ええ。他は特に問題ありませんし。」

「そうですか。んじゃつれて帰って大切に飼います。パピリオ。ルシオラが育ったらまた来るからな。」

「わかったでちゅ。折角会えた恋人たちを邪魔する気はないでちゅ」



こうして俺は最愛の彼女を取り戻したんだ。



話も終わり俺たちは手を振る小竜姫様たちに見送られ妙神山を後にした。
もっともまだ幼虫のルシオラは飛べないので俺が文珠で転移したんだが、アパートに着く早々困ったことが起きた。

「ヨコシマ…お腹空いた。」

子供っぽく指を咥えて御飯をおねだりしてくるルシオラ。
あるジャンルの人たちから見れば最高の萌えシチュエーションなんだろうけど、生憎、俺にはそっちの趣味は無い。

「砂糖ならあるぞ。待ってろ。今、最高に美味い砂糖水を作ってやるから。」

砂糖と水だけで味に差を出すのは至難の技だ。
ここはやはりコンビニでミネラルウォーターを買わねばなるまい。
安上がりな恋人で助かったぞルシオラ。何をそんなに気まずそうな顔してる?

「あのね…私は幼虫なのね…」

「ああ…」

「幼虫は肉食なの…」

そういえばそんなことを聞いた気もするな。
肉となったらちょいと値が張るが、俺のルシオラのためだ金を惜しんでいられない。

「いいぞ。何が食いたい?」

「うーんと…牛かな。」

「牛肉か…高いな。輸入肉でいいよな。」

松坂牛とか言われたらちょっと泣いていたかも知れないが、流石はマイハニー、嫌な顔一つせずに微笑んでくれた。

「で、何グラム買ってくる?スーパーだと大抵は200グラムだとかだが?」

「一頭…」

「ああ…一頭………って買えるかぁぁぁぁ!!」

「だってだって…そのぐらいいるんだもん!それに…」

「なんだよ」

「たくさん食べた方が、きっと成虫になったときおっぱいも大きくなっていると思うの。」

「貯金を下ろしてくる!…ってやっぱり無理じゃぁぁぁ。」

確か俺の銀行残高はカードでは卸せないレベルだった気がする。
肉牛一頭ってどのくらいかわからんけど、980円均一セールとかで売られてないんだから1000円は超えるだろう。

「ヨコシマ…獲ってきて♪」

「日本には野良牛はいないんだよ…ルシオラ…」

「んじゃ盗ってきて♪」

「日本には牛泥棒も居ないんだよ…」

探せば居るかも知れないが、俺がそれになるのはちょっと遠慮したい。
駄目だぞ。いくら指咥えて「むーむー」言っても。
畜生!可愛いじゃないか!!

「牛じゃなきゃ駄目なのか?」

「別に牛じゃなくてもいいけど…」

そこで俺は思い出した。確かテレビで某県の山がイノシシの被害で困っていると言っていたではないか。
それなら何とかなるかも知れない。

「イノシシとかは?」

「うん♪それでもいいよ♪」

こうして俺たちはイノシシ狩りに出発したんだ。




人里からちょっと離れた山の中、俺は背後にルシオラを庇いながらイノシシたちと対峙していた。
相手は三頭。とにかくデカイしそれに黒い。潰れた片目が凶悪さをかもし出している。
「フゴッフゴッ」と鼻を鳴らしてこちらを威嚇してくる姿はちょっと勝てそうな気がしない。

「ヨコシマ大丈夫?」

大丈夫だともルシオラ。お前を飢えさせたりしないって。
お前の将来の巨乳のため!俺はこの三頭を倒す!!

霊波刀を発動させ、ルシオラに近くの木の影に隠れるように言うと俺はイノシシに向かって突き進んだ。
先手必勝とばかりに叩き込んだ霊波刀があっさりかわされる。

「何とっ?!」

驚く俺から距離をとったイノシシたちは一直線に並ぶと俺めがけて突っ込んできやがった。
まさかこの技は?!!
戦闘の一頭をかわしたのもつかの間、死角になっていた二頭目の牙が俺のズボンを引っ掛け、バランスを崩した俺に三頭目の渾身の体当たりが炸裂する。

「のっひょひょ〜!!」

自分でもマヌケだなと思える悲鳴とともに吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた俺を「ブモッホッホッ」とあざ笑うイノシシども。

おのれ、ボタン鍋の具の分際でジェット・ストリーム攻撃を使うとは…。

衝撃に朦朧とする頭を振りながら立ち上がった俺にイノシシは「ブモウ」と感心した視線を向けると、再び一直線に並び出した。
くっ!さすがに二発くらうと命がピンチ。

そんな俺の前に木の枝を構えてルシオラが立ちはだかる。

「よくも私のヨコシマを!許さないわ!!」

「待て!」

止める間もなくルシオラはイノシシ目掛けて突っ込んでいった。
突貫してくるルシオラに一瞬驚いたイノシシだが、彼らも歴戦の戦士なのだろう、すぐに牙をふり立てて三頭まとめて突っ込んでいく。

「危ないルシオラ!!」

「一頭目は囮だ」と叫ぶ前にルシオラは先頭のイノシシの頭を踏みしめ二頭目を飛び越えた。

「ブモッブモモモモ〜?!!」

必殺のコンビネーション技をすかされ、「俺を踏み台にしたぁぁぁ?!!」と聞こえなくも無い驚愕の叫びを上げるイノシシを無視して、ルシオラは無防備に突っ込んできた三頭目の鼻に木の枝を突っ込んだ。

ズン!と重い音とともに動きが止まる三頭目。
しばらくブルブルと震えていたがトドゥと音を立てて崩れ落ちる。

「「ブモブモォォォ!!」」

相棒を倒され茫然自失としていた二頭目が仲間の仇とばかりに突っ込むより早く、飛び出した俺の霊波刀で切り倒された。
俺は残った隻眼の一頭に霊波刀を向ける。

「さあ、残りはお前だけだ。しかし俺たちの目的は果された。今更、お前を倒すつもりはない…」

「ブモ…」

震えながら鳴くイノシシだか、生憎俺にはイノシシ語はわからない。
ルシオラだって無理だろう。

「「ふざけるな」って言ってるわよ。」

訂正…俺の彼女はバイリンガルだったらしい。
なんとなく脱力感が纏わりついてきた気もするが、無理矢理振り払って目の前のイノシシに向き直る。

「ブモッブモッフモモモ〜!!」

「えーと…「我ら三人、ともに生きるも死ぬも一緒と誓った。俺だけが生き延びるわけにはいかん!俺に生き恥を晒せと言うのか!」…だって。」

「それはすまんかった。ならばこのGS見習い横島忠夫。全力でお相手しよう!」

「ブモっ!」

「「感謝する」だって…」

「あー。今のは俺にもわかった気がする。」

言葉はわからなくても熱い漢の魂は繋がるものなんだよルシオラ。

そして俺は霊波刀を構えてイノシシの前に進み出た。

ニヤリと笑うイノシシ。

風に舞った枯葉が俺たちの前を通り過ぎた時、イノシシが突っ込んできた。
俺も彼に合わせて全力で突っ込む。
二人が交差する刹那の瞬間に勝負はついた。

ドウと倒れるイノシシ。
彼の牙があと少し長ければ結果は逆だっただろう。
俺は死を迎えつつある勇者に近寄った。

「ブモ…ブモモ…ブモッブモ…」

「「勇者よ。俺は満足だ。最期に良い戦いが出来て良かった」だって」

「ああ…俺もだよ。」

「うーんと…ブモモブニャ〜」

待てルシオラ。なんでいきなりイノシシに通訳するか?さっきまで通じていたやん!とは思ったが、鼻を摘んで「ブニャ〜」とか言うルシオラが可愛かったので突っ込みは断念した。

「あ、はいはい。あのねヨコシマ「俺を食え。俺は貴様の血肉となって生きよう。さらばだ。強敵と書いて友よ」だって…」

「そうか…安らかに眠れ友よ。」

俺の言葉に満足したのかイノシシはニヤリと笑うと息絶えた。

「遠慮なく頂かせてもらうぞ友よ。」

しばし黙祷して目を開けたときイノシシはどこにも居なかった。
不思議に思って振り向くと、香ばしい匂いが漂ってくる。

「あ、先に食べちゃってた。ごめんね。」

ニッコリと笑うルシオラの目の前で俺の友は香ばしくローストされ、すでに骨になっていた。

すまん友よ…お前は俺の彼女の血肉になったようだ。
願わくば乳に集まってくれるとありがたい。

俺は目からこぼれる汗を拭おうともせず、心の中で友に詫びた。




それからあちこちの山や海で戦うこと十日ほど、ついにルシオラに成長の兆しが現れた。

「ヨコシマ…私、そろそろサナギになりそうなの。」

「マジか?ならばもう戦わなくてもいいんだな!奥羽山脈で野良犬と一緒にデカイ熊と死闘を繰り広げたり、オホーツク海で口から冷凍ガスを吐くトドを相手にしなくてもいいんだな?!!」

「ええ。もう大丈夫よ。」

殺伐としたハンターの生活から解放される嬉しさと、ルシオラが大人になれるという喜びに俺は泣いた。
文珠の力で久々にアパートに戻るとルシオラは俺の押入れの中身を引っ張り出しはじめる。
出てきた映像媒体を笑顔で踏み砕きながら、ルシオラは押入れに上るとニッコリと笑った。

「これからサナギになるけど…覗かないでね。」

「ああ。待っているよ。大人になったら……」

「もう!馬鹿ね…♪」

ぬ?反応がまんざらではない。ってか心を読まれたか?

「鼻の下見ればわかるわよ♪」

そしてルシオラは頬を染めたまま押入れの扉を閉めた。
しばらく中でごそごそとしていた音が唐突にやむ。
少しだけ心配になった俺の耳にルシオラの叫び声が聞こえてきた。

「強力招来!!」

俺はコケながらもルシオラがサナギになったことを確信した。



それから一週間ほどしてルシオラは大人になった。



押入れから出てきてはにかむその姿は、紛れもなくあの時のルシオラそのままだった。

胸も……。

「今、何か凄くムカっと来たんだけど?」

「気にするな…そんなことより…ありがとうルシオラ…戻ってきてくれて…」

クソっ!涙が止まらねえ。
だけど俺はちっとも恥ずかしくないぞ。
ルシオラだって泣いてるじゃん。

「うん…私も嬉しい…これからはずっと一緒に…」

「ああ…ああ…ほら見てごらん。いつでもいいように準備は出来ている。」

「え?準備?」

俺の示した方を見たルシオラの顔がピキっと引きつった。
ははは。照れているのかいマイラヴァー。

「なんで…布団が引いてあるのかな?」

「はっはっはっ。マイスウィート。そんなのは当たり前じゃないか。それに布団だけじゃないぞ。」

「枕元にティッシュまでっ?!!」

「それだけじゃないぞ。シーツだって新品だ!」

「もう!そんなことばっかりマメなんだからっ!!」

あれ?もしかして俺、外した?なんかルシオラ怒ってない?
またやっちまったのか俺って奴は…。

「もしかして怒ったのか?」

恐る恐る聞く俺にルシオラは全身を真っ赤に染めながら俯くとそっと呟く。

「嫌なはずないじゃない…でも…」

「でも?」

「お腹すいちゃった。てへ♪」

大丈夫だ。今度はミネラルウオーターも砂糖も用意済みである。
この横島忠夫、こういうことには準備も金も惜しまん!!
だけどそんな俺にルシオラは抱きついてくると耳元に唇を寄せて甘く囁いたんだ。

「ねえ…これって二人の結婚式みたいなものだよね。」

「ああ。そうかもな。」

「だったら…美味しい砂糖でお祝いしたいな。そしてその後で♪」

「ませとけっ!!」






そして俺たちは奄美大島にあるという伝説のサトウキビを手に入れるために旅を続け、ついに今、サトウキビの守護者だと名乗る巨大なハブたちと戦っている。

「ちぇぇい!」

「ヨコシマ!ここが終わったら次は北海道の砂糖大根よ!!頑張って!!」

どうやら俺たちが真に結ばれる日はまだ先らしい。


                                   おしまい



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