ザ・グレート・展開予測ショー

お姉さんは心配性!!


投稿者名:ちくわぶ
投稿日時:(05/ 7/23)


※注意:以下に該当する方は、この話はなかったことにした方が精神衛生上に良いと思われます



 1:ワルキューレは格好いいお姉さんだ


 2:ワルキューレはバカなことはしない、言わない


 3:ワルキューレはクールじゃなきゃヤダ




 以上を踏まえて問題ナッシング!!という方はこの先へどうぞw


































「……妙だ。」


 ワルキューレはプライベートルームでポツリと呟いていた。
 暗い部屋を照らす証明はモニターの淡い光のみ。
 しばらくその画面を見つめていたワルキューレは、やがて電源を落とし立ち上がる。
 彼女を知るものが闇に紛れたその表情を見ていたなら、人生で最も険しい表情をしていると言っただろう。


「これは……何かある……急いで調査しなければ……!!」


 取る物もとりあえず、ワルキューレは部屋を飛び出してゆくのだった……














 〜お姉さんは心配性!!〜














「それで、緊急事態ってなんなのワルキューレ?私こう見えても忙しいのよねー。」
 ヒャクメは魔界の出張所に来ていたところをワルキューレに捕まり、話があると強引にカフェに連れ込まれていた。
 魔界といえど都市には一通りの施設が揃っており、治安も悪くない。
 よく見れば客の中にも神族がちらほらと見受けられる。
 ともかくその店の一角で、ワルキューレは深刻な面持ちで顔を上げた。


「これはまだ誰にも話していないことだが……他言しないと誓えるか?」
「わ、わかったわー。」
 ワルキューレの鋭い眼光に、ヒャクメはゴクリと息を飲む。
「実は……。」
「実は……?」


 そして、しばしの沈黙。


「ジークの様子がおかしいのだぁぁぁぁぁッ!!!!」
「きゃーッ!?」


 突然両手をバァン!!とテーブルに叩き付けてワルキューレは叫ぶ。
 それに驚いたヒャクメは思わずジュースをひっくり返してしまう。
 店中の視線が彼女達に注がれたが、ワルキューレがギロリと睨み返すとみんな目を逸らしてしまった。
「頼む、原因を調べるのに協力してくれっ!!」
「……っていうか、緊急事態って……コレなの?」
「当たり前だ!!いつもなら休日に4,5通は来ているはずのメールが一通しか届いてないんだぞ!?」
「それって、ただ単に忙しいだけなんじゃ……。」
「そんなはずはない!!いくら忙しくても今までこんな事はなかったんだ……あの真面目なジークがなぜ……。」
「か、考えすぎだと思うのよねー。」
「こうした小さなサインを見逃して、ジークがグレたらどうしてくれるんだ!?もしそうなったらお前のせいだぞヒャクメ!!
 というわけで協力しろ!!」
「ええー!?ひどい言いがかりな上にジャイアニズムなのねー!!しかもワルキューレはブラコンだったのねー!?」
「うるさい!!もし断ったら……。」
 だんっ!!とワルキューレはテーブルにコンバットナイフを突き刺しヒャクメを睨む。
「さあ、返答を聞こうか。」
「ううう……協力させて下さい……。」
 滝のように涙を流しつつヒャクメは首を縦に振るのであった。




「で、私は何をすればいいのかしらー?」
「妙神山に連絡を取ったところ、ジークは外出しているという。そこでお前には、ジークの行き先をサーチ及びトレースしてもらいたいのだ。」
「なんだか追跡捜査みたいなのねー。ちょっとわくわくしてきたかも。」
 ヒャクメはトランクケースからノート型端末とケーブルを取り出し、自分の感覚器官と接続する。
 こうすることで、ヒャクメが霊視したジークの居場所がディスプレイに映し出されるというわけだ。
 まず最初に、ジークのオーラを視覚化した点が画面に現れる。
「むー、どうやらジークは人間界にいるみたいねー。」
「人間界……そんなところで何をしているんだジークは。」
 怪訝そうな表情のワルキューレをよそに、ヒャクメはキーボードを操作していく。
「こうして…人間界の地図と座標を合わせて……よし、これでジークの行動はバッチリ把握できるのねー。」
 画面には自動車のナビのように、地図の上にジークの現在地が映し出されていた。
「直にジークの映像を表示できないのか?」
「魔界からじゃあこれが限度なのねー。でも、行動を追跡するならこれでも十分よー。」
 気を取り直して画面に目をやると、どうやらジークは繁華街にいるらしい。
 通りを移動し、いろんな店に出たり入ったりを繰り返している。
「あれ……?」
 ジークが出入りした店の名前を見ていたヒャクメが、ふとあることに気が付く。
「どうした?」
「今の店、女性専門のブティックなのねー。そんな所に何の用があったのかしら…?」
「な……ま、まさか!?」






 その瞬間、ワルキューレのバックに稲妻が走る!!






 まさかジークはそっちの世界に目覚めてしまったのか!?
 私の教育方針に何か落ち度があったのだろうか?
 それとも、交換留学生という立場の肩身の狭さから歪んだ道に走ってしまったのかっ!?




 ワルキューレの脳裏には、必要以上に女性らしい服装と仕草をするジークの姿が浮かんでいた。







「なぜ……なぜ一言私に相談しなかったんだジークーーーーーッ!!」
「ひええええっ!?」


 ワルキューレは力一杯拳を握り、歯を食いしばって号泣していた。


「ちょ、ちょっと落ち着くのねワルキューレ!!っていうかなんで泣いてるの!?」
「うるさい!!お前に私の気持ちがわかってたまるか!!これからジークを人に紹介するたびに、
 弟なのか妹なのか迷わなくてはいけないんだぞ!?」
「なんの話をしてるのかサッパリわかんないのねー……。」
 苦笑いしながら画面に目を戻したヒャクメは、ジークがたどってきた道筋を見ながらあることに気が付いた。
「あれ……これってもしかして……。」


 今までジークのみに限定していたオーラ受信のチャンネルを広げてみる。
 その途端画面には無数の人間達の信号で埋め尽くされたが、その中のある信号が常にジークのそばに寄り添っているのがわかった。


「なるほど、こういうことだったのねー。」
 クスクスと笑うヒャクメを見て、ワルキューレは何がおかしいのかと詰め寄ってくる。
「つまり、ジークはデート中だったのねー。彼も案外スミに置けないわねー。でも、グレたんじゃなくて良かったわねーワルキューレ。」
 笑顔でワルキューレの顔を見上げると、そこには一匹の修羅がいた。
 怒りの波動が、地響きを起こさんばかりに噴き上がっていた。


「な〜ん〜だ〜と〜〜〜〜〜!!!!」
「いっ!?」
「どこの腐女子が弟に手ぇ出しくさっとんじゃあああああ!?分析しろヒャクメ!!」
「なんかワルキューレのキャラが変わってるのねー!?」
「敵の規模は!?戦力は!?速やかに報告せよッ!!」
「ジークだって大人なんだし、デートくらいで目くじら立てなくても〜。」
 その言葉に、ワルキューレが確かな殺意が宿った瞳を向ける。
 あまりの迫力に、ヒャクメは蛇に睨まれたカエルのように固まってしまう。


「いいかよく聞け……ジークは私が手間暇かけて、どこに出しても恥ずかしくないインテリ美形魔族に育て上げたんだ。
 小さい頃は姉上姉上と私『だけ』を慕ってくれたものだ……それを、どこの馬の骨ともわからん女に簡単にくれてやれるかぁ!!
 それにもしかしたらジークはその女に騙されて貢がされているかもしれんのだぞ!?ああ……なんて可哀想なんだぁぁぁぁッ!!」


 わなわなと震えながら叫ぶワルキューレに、ヒャクメはもう開いた口が塞がらなかった。


「……行くぞ。」
「はい?」
「今すぐ人間界に行くと言ってるんだ!!」
「ええええ〜〜〜!?」
「この手でジークに付いた害虫を駆除してくれるわゴルァァァァ!!」
「あうあう〜〜今日は厄日なのね〜〜〜〜。」
 完全に目が据わっているワルキューレには逆らえず、ヒャクメは渋々ワルキューレに付き合うことにしたのだった。





「ヒャクメ、目標までの距離は?」
「その角を曲がって100メートルなのねー。ところで……。」
「どうした?」
「この格好は一体何の意味が……?」
 電柱の影から先の様子をうかがう2人は、白い布でできた三角形のマスクを被っている。
「隠密行動中に万一正体がバレてはいかんだろう。」
 どうやらこのお姉さん、弟が絡むとまともな思考ができなくなるらしい。
「こんな死ね○ね団みたいな格好の方が余計目立つと思うんだけどねー……。」
「……行くぞヒャクメ!!」
(流された!?)


 ワルキューレとヒャクメは一気に飛び出し、ジークの背後に駆け寄っていく。
「待てぇい!!そこな2人!!特に女の方!!貴様らの不純異性交遊、天が見逃してもこの私の目は誤魔化せんぞ!!」
 すびしっ!!と指をさしワルキューレはジークと連れの女性を呼び止める。
「えっ?」
 いきなり呼び止められ振り返った女性は、ジークやワルキューレと同じく軍に所属しているベスパであった。
「……って、お前かベスパぁぁぁぁ!?どんな手でジークをたぶらかした!?怒らないから言ってみろぉぉぉぉ!!」
「……。」
「……。」
 ワルキューレがベスパに詰め寄り叫んだのを最後に、その場に沈黙が広がった。






 そして、最初に沈黙を破ったのはジークだった。
「……何をやってるんですか姉上。」
「なっ、なんのことかなっ!?人違いではないのか!!」
「だから……何をしているんですか姉上。そんな格好をして。」
「違うっ、私はお前の姉上などではないっ!!第一何を根拠にそんなことを言うのかね?」
「……声を聞けばわかるじゃないですか。」
「ぐっ!?た、たまたま私の声がお前の姉に似ているだけだ!!」
「……で、何をしているんですか姉上。」
「違うといっとろーが!!」
「じゃあ、あなたは誰なんですか。」
「わ、私は……。」


 しばし考え込んだ末に、ワルキューレは自信たっぷりに答える。


「私は……あっちの世界からやってきた、おばけのワルQさんだっ!!」


「……。」


 もうジークは何と突っ込んでいいのかわからず、ベスパとヒャクメは笑いをこらえるので必至になっていた。


「……それで、そのワルQさんが私に何の用なんです?」
 ジークはこめかみを押さえてため息をつきながら尋ねる。
「君は騙されているんだよ正ちゃん。」
「誰ですか正ちゃんって……。」
「お前は弱みを握られて貢がされているんだろう!?そして絞れるだけ絞り取られたあと、ボロ屑のように捨てられてしまうんだぞ!!
 今ならまだ間に合う!!早く目を覚ますんだ!!」
「どーいう思考回路してるんですかっ!!何か嫌なことでもあったんですか姉上!?」
「何が不満なんだ!?女のことが知りたいのなら私が1から10まで教えてやる。だから帰ってこいジーク!!」
「さらっと危険すぎることを言わないで下さい姉上ぇぇぇぇ!!!!」
「だから私は姉上ではないというのにっ!!」



 どうやら、ワルQさんには姉上攻撃が有効らしい。
 その事実に気が付いたジークは、怒濤の姉上攻撃を開始する。
 もうこれ以上身内の恥を晒すわけにはいかない。



「もういい加減にして下さいよ姉上。」
「私はワルQさんだ!!」
「私に恥をかかせて何が楽しいんですか姉上。」
「いや、だから……。」
「どうせそこのヒャクメも無理矢理連れてきたんでしょう姉上。」
「そ、そっちまで……。」
「背格好と頭の形でわかりますよ姉上。」
「ううう……。」
「あまり他人に迷惑をかけてはダメでしょう姉上。」


 次々に繰り出される姉上コンボに、とうとうワルキューレは限界に達してしまった。


「ジークの意地悪ーーーーーーーッ!!!!」(ドップラー効果)


 ワルキューレはマスクを脱ぎ捨て、泣きながら走り去っていく。


「あははははははははははは!!!!」
「ダ、ダメ……お腹がよじれそうなのねー……ぷぷ……!!」


 そしてベスパと残されたヒャクメは、周囲の目も気にせず爆笑し続けた。


 この後、一週間ほど引きこもったワルキューレはジークとベスパの関係にあれこれ口を出すことはあったが、
 二度とワルQさんになることはなかったという……




 劇終
  

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