狐と闇と光
投稿者名:天馬
投稿日時:(05/ 7/19)
漆黒の闇は、どこまでも暗く、まるで未来を暗示しているよう。
何を思ったのか、屋根に上って夜空を見る。星さえも見えないこの真っ黒な雲に遮られた空は、じっと眺めていても、決して気分が良くなるわけではない。
喧騒の中にいると時々。いや、喧騒の中だからこそ、不思議と孤独感を感じるのだろう。未来が見えないのだろう。
そう、ちょうどこの真っ黒な空のように。
孤独自体を好むわけではないが、それでも孤独は嫌いではない。むしろ今となっては、なるべくなら避けたいのかもしれない。
ここの住人と関わって。ここの住人と関わりのある人間と関わって。いつしか孤独はなくなっていた。いつしか一人ではなくなった。
メガネをかけて、男の子だからって精一杯強がってる生き物に関わって。異質な何か――私自身――を肯定する存在に関わって。
私は一人じゃなくなった。独りじゃなくなった。
だけれど。時々感じるこの一抹の寂しさはなんだろう?
私は不老不死かどうかは、はっきり言ってもはやどうでも良いのだ。その事に関してはある種で諦観している。
問題は群れがいないこと。
仲間はいる。友人はいる。掛け替えのない存在もいる。だけれど同属の群れはいないのだ。私には――
つまり、ある意味で未来が見えないって事だろう。不老不死、変幻自在なこともきっとそれに拍車をかけているかもしれない。
何が言いたいのかわかんない。思考がループする。馬鹿馬鹿しい
下の階では相変わらず馬鹿騒ぎの声が聞こえる。
あぁ、なんだか寂しいかも。
くだらないけどね。
「ターマモ」
ふと声が聞こえる。この声は…シロか。あの馬鹿犬、大方匂いでこっちの気配を知ったわね。
「なによ馬鹿犬」
「馬鹿でもなければ犬でもござらん。何をしてるでござるか?」
「空を見てるのよ」
「空を?」
「そう。真っ黒な空を、眺めてるの」
真っ黒な空を見てんのよ。アタシみたいに全然、未来――光――が見えない真っ黒な空を、ね。
「雲が厚くて光が見えないでござるな」
「まぁね。……ねぇ?」
「?」
「アンタ…この空見て、どう思う?」
「どうって…」
そう言って、二の句が繋げてない。あんたもやっぱり、暗いとか怖いとか思うのかしら?
あんたも私みたいに、寂しさと怖さを感じるのかしら?
「希望に満ちているでござるな」
――――え?
「真っ黒の空。もしかしたら雨も降るかもしれない。雷だって鳴るかもしれないでござる。
そうなったら散歩には行けなくなるし、つまらないでござる。
けど、晴れれば散歩にも行けるでござるし、雲が晴れたら月光が差し込む。星の光が瞬く。
希望に満ちてる感じでござるな。期待に胸が膨らむでござるよ♪」
最後に、曇り空ならではの楽しみだってあるでござるよ♪と声を出して。
この娘は言い切った。声を嬉々と弾ませながら。そこには一片の寂しさも無く。
アイツの言葉を借りるならその声は『希望に満ちていた』――
「………この、馬鹿犬。単純なのよアンタ………」
「…何か言ったでござるか?」
「何も言ってないわよ。ねぇ?」
「?」
口を開きかけて。私は言葉を発するのを止めた。どうせ、この犬は人の――特に私の――賞賛を素直に受けたがらないし、ガラじゃない。
シロが顔を出しているであろう窓からは声が聞こえる。美神さん、おキヌちゃん、そして横島の声。わいわいがやがやと煩い声。
だけれどやっぱり。安心する声。漏れる光。時折聞こえる笑い声や私の名前。
「なんでもないわ。それより小腹が空いちゃった」
「なんだか意味深でござるなぁ。ま、良いでござる。皆いるでござるよ」
起き上がり、とっとと降りて来いと、アイツが最後に呟いたのを流す。そして私は何を思ったか、もう一度夜空を見上げると。
雲が分かれ、微かだけれど、確かな星空と月光が差し込むのが見えた。
暗闇の中にある、確かな光。
まぁ良いわ。たまにはこんな日もいいかもね
今までの
コメント:
- 光が見えないからこそ、それを探すことができる。その輝きを見つめることができる。
そういう感性が好きな自分にとってとても良い話でした。
重く暗い雲の向こうには無限の星空が広がっていて、それがすべて希望なのだとしたら……素晴らしいですよね。
なんだか温かい気持ちにさせていただきました。もちろん賛成票を送らせていただきます。 (ちくわぶ)
- 見えないものとか、まだ見えてこないものを信じられるのって、スゴイことだと思います。
タマモちゃんも、勇気をもらいましたよね♪ (猫姫)
- 辺りが闇ならば、自分の想いを光として進めばいい。自らの足元を照らし、高みを目指し、前を目指して雲を突き破れば、そこには希望の光が満ち溢れている。
単純明快な『仲間』によってそれを教えられたタマモ……二人の関係が伺える一編でした。
もし、突き抜けたそこもまた月も星もない闇だとしても、明けない夜もまたない。だから、目を前に――使い古された言葉ですが、それを付け加えて賛成票を投じさせていただきます。 (すがたけ)
- ども。元HN「浪速のペガサス」こと、天馬です。久しぶりの投稿でしたがいかがでしたでしょうか?謹んでコメントを返します!
◇ちくわぶさんへ
こちらでははじめまして。ある意味ではシロの言っている事は欺瞞でしかないのかもしれません。ですが、そこに光があるのもまた確かな事実。考え方はまさしく、人それぞれなのでしょう。この場合、シロよりもピートの方がいろいろわかってる(もしくは割り切っている)と、俺は思います。
◇猫姫さんへ
見えないものや、まだ見えてこないものを信じるのは確かにすごいことだと思います。ですがこの場合のタマモ、それを少しなくしていたんでしょうね。臆病な、こんなたわいもない一日。こういう日を積み重ねて、彼女らは生きていくのでしょう。
◇すがたけさんへ
はじめまして。闇の中だからこそ、光は輝くものです。同時に、前を向かなければその光すらも見ることはかなわない。在る意味で真理でしょうね。しかし、このシロ。そのことを分かってこの言葉をかけたのでしょうか?(笑) (天馬)
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