ザ・グレート・展開予測ショー

ジーク&ワルキューレ出向大作戦5−2 『魔獣』


投稿者名:丸々
投稿日時:(05/ 7/19)

早朝のオカルトGメンの会議室。
普段ならまだ誰も出勤していない時間だが今日は様子が違っていた。
会議室は物々しい雰囲気に包まれていた。

いつもなら会議は日本支部長である美神美智恵、実働部隊隊長の西条輝彦、
一年前にヨーロッパから日本に移った香上春夏、今年入隊したピエトロ・ド・ブラドー、
後は実働部隊と内勤の橋渡しを担当する人間数名で行われる。

だが今日の会議はいつもの面子に加え、警視庁の面々も顔を揃えていた。

U字型の長机にオカルトGメン、警視庁で二つに分かれ席についている。
会議室では昨晩に起こった警官隊惨殺についての緊急会議が開かれていた。
大型のディスプレイには惨殺現場となった倉庫街が映されていた。

ディスプレイの映像が切り替わり、警官隊の無惨な遺体が映し出される。
それを見た警視庁の人間やオカルトGメンの内勤の人間が目を逸らし口元を押さえる。
対照的にオカルトGメンの実働部隊は顔色一つ変わっていない。
除霊を日常的にこなす彼らにとって、この程度の映像は珍しくなかった。
唯一人、ピートの表情が曇っていたが、それは不快感からではなく助ける事が出来なかった後悔からだろう。

「美神支部長、無線の救援要請からオカルトGメンの到着まで約10分。
たったの10分でここまで人間の体をバラバラに出来るものなのかね。」

吐き気をこらえるように顔を顰めながら、この会議の議長である警視庁の長官が美神美智恵に問う。
ディスプレイに映っている警官隊の姿はどれ一つ五体満足で揃っているものは無かった。
遺体を回収してから本人照合にかなりの時間が掛かったそうだが、それも当然だろう。

「抵抗する訓練された武装警官をたったの10分程度でここまで破壊できるような存在は極僅かです。
時間制限が無ければある程度の力を持った妖怪なら可能でしょうが。」

美智恵は淡々と答えているが、その内心は平静ではいられなかった。
警視庁の人間に余計なパニックを起こさないためにあえて言葉にしなかったが、
西条やピートから報告された魔獣の能力を考えると、恐らく実際には5分程度で
これだけの事をやってのけたと美智恵は判断していた。

「相手の素性は掴めているのかね」

長官とは別の人間がオカルトGメンに質問する。
人間の犯罪者なら警視庁の管轄だが、人外についてはオカルトGメンに頼るしかない。

「オカルトGメンのデータバンクを当たってみたところ、一件の該当がありました。」

遺体の写真からディスプレイが切り替わり、ある種族のデータが表示される。




■スキュラ■
・6個の頭部と12本の足を持つヨーロッパ方面の海に生息する魔獣。
・若く美しい女性に寄生するタイプの魔獣で普段は人間の姿をとっており、女性に集まる男を獲物にする。
・普段は自分の洞窟に結界を張りその中で過ごしているが、捕食の時のみ外界に姿をあらわす。
・能力はそれほど強力ではなく、下級魔族に分類される。
・寄生された宿主を救うには、全ての獣の頭部と足を切り落とし、海に入れてやればスキュラは分離する。


表示されたデータを見た、西条、香上、ピートの三人が目配せしている。
直接遭遇した彼らは昨晩の魔獣と一致しない点がいくつかある事に気がついていた。

「先に申し上げておきますが、このデータと昨晩の魔獣にはいくつかの相違点があります。
先ず第一に、寄生されているのが男性であるという事。第二に昨晩の魔獣は上級魔族クラスの能力だった事。
これらの点に注目し、この魔獣の生息場所であるヨーロッパ支部に問い合わせた所、有力な情報を聞く事が出来ました。」

西条から報告を受けていた美智恵も、データとの相違に気が付いていたのだろう。
会議が開かれる前に既に手を打っていたようだ。

「昨晩の魔獣は一年程前からヨーロッパに出現しているそうです。
人間の裏社会に紛れ込み、魔族にしては珍しく、マフィアから殺しの依頼を引き受けていたそうです。
恐らく寄生したスキュラは特別凶暴性の高い変異種なのだろう、とヨーロッパ支部は言っていました。
最近は影を潜めていたようですがどうやら日本に渡って来ていたようですね。」

美智恵の報告を受けた警視庁の面々が顔を見合わせる。
想像以上に危険な存在が出現した事で会議室がざわめいている。

「ならば一刻も早く居場所を突き止め殲滅せねば―――」
「衛星写真を取り寄せて生息場所の特定を―――」
「いつでも撃てるように精霊石弾頭ミサイルの使用許可を―――」

一刻も早く問題の魔獣を排除せねば、と警視庁の面々が色めき立つ。

「お静かに。」

美智恵の有無を言わさぬ厳しい声にざわめく会議室が静まる。
静かになったことを確認し、続ける。

「よくデータを御覧になってください。スキュラは寄生型の魔獣です。
すなわち、単純に滅ぼすのでは寄生された人間を犠牲にしてしまう事になります。」

「馬鹿な事を。こっちは警官10名以上を殺されているのだ。
そのような危険な犯人に配慮するつもりなど無い。」

先ほどのざわめきの中で不穏な事を呟いていた警視庁の男が、美智恵に食ってかかる。
男の言い草に立ち上がろうとした西条を美智恵が目で制する。

「助ける方法がわからないのなら、それも仕方が無いでしょう。
ですがスキュラを切り離す方法は既に判明しています。
ヨーロッパで実際に何件もこの方法で成功させているにも関わらず、それを無視する事は出来ません。」

男の目を見据えながら、冷静に、しかし断固とした口調で話す。
ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らすと男は目を逸らした。

「……確かに、人命を軽んじる事は出来ん。」

議長である警視庁長官が呟きながら会議室にいる人間に目をやる。
不満そうな顔の警視庁の面々と、頷くオカルトGメンの面々。

「しかし、こちらも身内を殺されている以上、黙って見ている訳にはいかん。
この事件はオカルトGメンの担当とするが、情報はこちらも共有させてもらう。」

「もちろんです、長官。」

美智恵が頷くのを確認し、続ける。

「我々に出来ることがあれば言ってくれ、全力で協力させていただく。
差し当たって、我々は昨晩の魔獣―スキュラが接触していた男達の身元を洗おう。」

「お願いします。」

頷きあう美智恵と警視庁長官。

「それでは、これにて会議は終了とする。
各自、全力で調査に当たってくれ。」

力強い声で閉会を告げる長官。
今後の方針を話し合いながら警視庁の面々は会議室から出て行き、会議室にはオカルトGメンだけが残っていた。




「さっきは……すみませんでした、先生。」

西条が美智恵に頭を下げている。
さきほど人命を軽んじる発言をした男に反論しようとした時の事だろう。
こういった会議では個人の感情を口にする事は御法度だった。

身内を殺された警視庁の人間が、スキュラの即時殲滅を掲げるのは当然といえば当然だった。
美智恵のように理論的に反論するのなら別だが、感情的になっては会議が荒れる原因になりかねない。
そしてあの時の西条は感情的になっており、それを自覚しているだけに止めてくれた師に感謝していた。

「正義感が強いのは良い事だけど、会議の場では冷静にね。」

ニッコリ笑い、西条の肩を軽く叩く。
美智恵は自分の弟子の正義感を好ましく思っていた。
自分には結果を重視する傾向があることを自覚していたので、
過程を重視する正義感の強い弟子は貴重な存在なのだ。

「さてと。」

美智恵の顔が引き締まる。

「わかっている事を整理しましょうか。」

会議室に残った自分の部下たちを見渡し、自分達の行動を決定するべく話し始めた。

























「それじゃ香上さん、相手から読み取ったビジョンを皆に説明してあげて。」

既に美智恵は昨夜の時点で大まかな内容の報告を受けていた。
残念ながら香上の頭の中の映像はディスプレイに映す事が出来ないので、口頭での説明に頼るしかない。

・粉々に噛み砕かれる警官達。
・何やら取引を持ちかけている品の無い服装の男達。
・見た事の無い改造が施された数々の重火器。
・見た事も無い魔法陣が床に描かれた薄暗い洞窟。
・人を串刺しにする赤い槍。

「―――読み取れたのはこれくらいですね。」

香上は皆に説明しながら、要点をホワイトボードに箇条書きにして締めくくった。

「香上さん、本当にこれだけなのかい?。
君の能力ならもっと多くの情報を引き出せると思うのだけど。」

西条が香上に確認する。
普段は呼び捨てだが、会議の場なので『さん』付けで呼んでいる。

聞かれた香上は困ったように頬をかいている。

「それが、ホントにそれだけなのよ。
何て言うか、こー……フィルターがかかっているというか……電話が遠いというか……」

人間相手なら一瞬でその人間の大まかな記憶を読み取る事が出来るのだが、
魔族が相手だったせいか極僅かな情報しか読み取る事が出来なかった。
読み取れなかった理由を説明しようと思っても、同じ能力を持たないため、皆には上手く伝わらない。

「最初の警官たちは昨日の犠牲者だとして、他のは何なんでしょうか。」

ピートが手を挙げ発言する。
別に手を挙げる必要は無いのだが、一応新入りなので遠慮しているのだろう。
香上は日本支部に来て一年程度だが、ヨーロッパ支部で勤務していたので経歴は西条と変わらなかった。

美智恵が口元に手をやり考える。

「二番目の品の無い男達は、警官たちに包囲されたヤクザ達じゃないかしら。」

昨晩、目の前で首を噛み千切られるのを見せ付けられたピートの表情が曇る。

「ですが、美神支部長。私が見た映像は彼らが取引を持ちかけているように見えました。
それならどうして警官達と一緒に殺すような事をしたのでしょうか。」

頭に浮かんだ疑問を口にする香上。
ヨーロッパで殺しの依頼を引き受けるような魔族が、取引相手を意味も無く殺すのは妙だ。

「……それもそうね。ヨーロッパでスキュラが請け負ったという仕事も洗ってみた方がいいわね。
それと殺しを依頼したマフィアが、その後どうなったかも。」

一つの仮説を思いつき、美智恵の形の良い眉が歪む、

「そうですね。もしも相手が人間を何とも思っていないようなら、依頼人だろうと何だろうと
関係なく手にかけているのかもしれません。」

険しい表情で西条が呟く。美智恵と同じ事を考えていたようだ。
もしもあれほどの力を持つ相手が何も考えずに暴れ出したとしたら……
実際に戦った西条達の背中に冷たいものが走る。

「ハッキリしない事は置いておくとして、この改造された銃器というのは現場で押収されたものね」

美智恵が仕切りなおし、三番目の改造された銃器の件に移る。
恐らくヤクザ達が受け取る予定だったのだろうが、受取人たちは取引相手の手によって既に死亡している。
現場で大金が入ったボストンバッグも一緒に押収されたので、やはりヤクザ達は何らかの取引をしようとしたのだろう。

「あ、違います、美神支部長。
現場で押収したのも似たような改造が施されてましたけど、ビジョンではもっと大量でした。」

「なら、他にも改造された銃器があるって事ね。今現在保持しているのか既に売り捌いた後なのか……
それにしても、銃器の密売で資金を稼いでいるとして、魔族が資金を使うあてなんかあるのかしら。」

香上の言葉に美智恵が首をかしげる。
どうやら色々と調べないといけない事があるようだ。

「後は、洞窟の魔法陣と『赤い槍』ね。」

ホワイトボードを見つめながら美智恵が呟く。

「洞窟の魔法陣に関しては、見覚えの無い陣だったことに加え、暗すぎてよくわかりませんでした。
最期の『赤い槍』なんですが……スキュラの反応から考えてもかなり重要なモノのようです。」

香上は昨晩の魔獣の様子を思い出していた。
それまで見下した顔をしていた相手が『赤い槍』と口にした瞬間、表情が一変した。
あれほどの反応を示したのだ。重要なモノに決まっている。

「さてと、今のところ手掛かりと言えそうなのは押収した改造銃器くらいですね。
これからどうしますか、先生。」

「そうね……とりあえず私とピート君で改造銃器を調査してみるわ。
西条君と香上さんは昨日の現場にもう一度行ってみてくれないかしら。
もしかしたら昨日は気付かなかった事に気付くかもしれないから。」

頷き、部屋を出ようとする西条と香上に美智恵が付け加える。

「どうもこの事件は複数の魔族が関わってる気がするわ。
これからは常に二人一組で行動し、決して隙を見せないようにすること。良いわね。」

西条が振り返り、質問する。

「複数の魔族ですか。しかし何故そう思われるのですか。
確認されているのはスキュラだけですが……」

思案顔で美智恵が西条の質問に答える。

「スキュラは恐らく武闘派の魔族と思って間違いないわ……
そんな奴が銃器の改造なんて細々した事をする訳ないのよ。
恐らくもう一体、技術系の魔族か妖怪が関わってる筈よ。」

銃器について一通りの知識をもっている香上が『見た事のない改造』という事は、
人外の技術が使われている可能性が高い。

美智恵の言葉に西条と香上は気を引き締め、会議室を後にした。

























西条が香上と共に昨夜の倉庫街に向かっている頃、一人の男が街中を歩いていた。
既に6月というのにフード付きの上着を着てフードを目深にかぶっている。

(この臭いは昨日の奴らか……どうやら昨日の港に向かっているようだな。
ククク、丁度良い。私の心を覗いた身の程知らずの雑魚を始末してくれる……)

フードの男は口元に邪悪な笑みを浮かべると、人ごみの中に姿を消していた。

























―後書き―

えーと、起承転結で言うと、まだ『起』と『承』の間くらいです。

少々長い話ですが気長にお付き合い頂けるとありがたいです。

あ、ちゃんとジークとワルキューレも出ますので、御安心下さい。

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