ザ・グレート・展開予測ショー

『妹』 〜ほたる〜 (14)


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(05/ 7/16)


 砂浜で寝そべる横島の前で、水着姿の美女・美少女たちが波と戯れていた。
 ビキニ姿の美神と、ワンピースの水着を着たおキヌ。

 ここまでは問題ない。今までにも、この二人の水着姿は何度も見たことがある。

 次に、セパレートの水着を身に着けていたシロとタマモ。
 この二人の水着姿も、去年の小間波海岸で目にした。

 だが、今年はそれだけではなかった。

「海が、とーってもきれい」
「都会の近くの海水浴場とは、レベルが違うわね」
「あ、あの、私なんかがついて来て、本当に問題ないんでしょうか?」

 地味な色柄のワンピースの水着をつけた三人の少女──蛍・舞奈・絵梨──が、波打ち際に立っていた。

「ねー、お兄ちゃんも早く海に入ろうよ」

 紺色の水着を着た蛍が、パラソルの影で寝そべっている横島に呼びかけた。

「少し休んでからいくよ」

 女性陣は、いつもの事務所のメンバー四人に加えて、妹とその友達が三人。
 それに引き換え、男は横島だけである。
 全員の荷物を運んだり、大型のパラソルを借りて設置するなど肉体労働に追われ、海に入る前から横島は疲労していた。

「はー疲れたー」

 毎年恒例の海辺のナンパも、既にやる気が失せている。
 もっとも、蛍の目の前でナンパに精を出すつもりも、あまりなかったのだが。




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 『妹』 〜ほたる〜   第十五話 −南の島のひととき(01)−   

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 話は、一週間ほど前にさかのぼる。

「えっ! リゾート地の仕事ですか!?」
「そうよ。それも南の島で、仕事の間はペンションにタダで泊まれるんだけど。
 こんなおいしい仕事、そうそうないわよ。
 それで行くの、行かないの?」

 美神から話があったのは、リゾート地での除霊の仕事だった。
 横島は「行きますっ!」と言いかけたが、ふと蛍のことを思い出した。

「あの、すみません。蛍も連れていっていいですか?」
「あのね、これは慰安旅行じゃないのよ」
「ですが、蛍から目を離すなって、両親から言われてるんで……」

 特に大樹から強く言われていたことだが、横島自身、蛍を一人家に置いて出かけるのは気が進まなかった。

「まあまあ。いいじゃないですか、美神さん。ペンションの部屋もあまっていますし……」

 いつものことであるが、おキヌが二人の間に割って入ってきた。
 今回の仕事の間、ペンションを1軒貸切で使えることになっていたので、部屋数には十分余裕があった。
 美神と交渉のすえ、交通費は自腹で出すことで決着が着いたのだが……

「ねえ、お兄ちゃん。友達も一緒に行っていいかな?」

 蛍のその一言で、横島は美神と再交渉せざるをえなくなった。
 なぜか不機嫌な顔をする美神を何とかなだめ、一向に蛍と舞奈と絵梨の三人が加わることとなった。








「せんせーっ!」

 パラソルの下で寝そべっていた横島を、シロとタマモが起こしにきた。

「ん? 二人とも、どうしたんだ?」
「泳ぎ疲れたので、休憩でござるよ」
「お腹へったー。ヨコシマ、きつねうどんおごって♪」
「しかたないなー」

 横島がシロとタマモを連れて海の家に向かう途中、後ろからおキヌもやってきた。

「横島さーーん!」
「おキヌちゃん!」
「私もお買い物です。美神さんがビール飲みたいって言い出したので」

 海の家でシロはビーフジャーキーを買った。
 横島とおキヌは、美神のビールと残りの人数分の缶ジュースを購入する。
 あいにくきつねうどんはメニューになかったが、お稲荷さんのパックが置いてあったので、タマモは代わりにそれを買うことにした。

「先生、あれは何でござるか」

 シロが、海の家から少し離れた場所にある木製のボートを指差した。

「あれは、貸しボートだな。一時間二千円か。けっこう高いな」
「横島先生。拙者、ぼーとに乗りたいでござる」
「えーっ! ボートかー」
「私も乗ってみようかな。せっかく海に来たんだしね」
「横島さん、私もボートに乗ってみたいです」

 シロだけでなく、タマモやおキヌもボートに乗りたがった。

「みんな集まって、どうしたんですか?」

 そこに蛍と舞奈と絵梨の三人がやってくる。

「私も乗りたい!」

 話を聞いた蛍が、さっそく名乗りをあげた。

「で、でもさ、あのボートどう見ても三人までしか乗れそうにないけど!?」
「そんなの簡単じゃない。途中で交替すればいいのよ」

 おキヌから缶ビールを受け取った美神が、話に割り込んできた。

「私とおキヌちゃん、シロとタマモ、蛍ちゃんと友達二人で、一組十五分ずつね」
「あの、俺はどうなるんです?」
「漕ぎ手はよろしくね、横島クン」
「えーっ!」
「いいじゃない、それくらい。その代わり、ボート代は私が出してあげるわ」




 ボートに乗る順番は、じゃんけんで決まった。
 横島は最初にシロとタマモをボートに乗せてたあと、次のペアと交替するため、横島はボートを砂浜に着けた。

「よろしくお願いします。蛍ちゃんのお兄さん」

 シロとタマモと入れ替わりに、舞奈と絵梨がボートに乗った。

「なんか恥ずかしいから、普通に横島って言ってくれないかな」
「わかりました。横島さんでいいですか」
「ああ、それでいいよ」

 舞奈は丸顔で髪を短く切り揃えている。
 一方の絵梨は髪を肩まで伸ばしていた。普段はメガネをかけているが、さすがに海に入るときはメガネを外していた。

「どうも、先日はお世話になりました」

 雑居ビルの除霊で横島に助けられた絵梨が、横島にお礼の言葉を述べた。

「いいよ、気にしなくて」
「あーっ! そう言えばこの前、街で絵梨とお茶してたんですよね!?」
「たまたま蛍が、街で彼女を見つけてさ……そう言えば、君が星野さん?」
「はい、星野舞奈です。蛍ちゃんの親友してます!」

 舞奈がにっこりと笑いながら、横島に自己紹介をした。

(蛍の友達の子も、けっこう可愛いよな。ま、ちょっと子供っぽい感じがするけど。
 しかし、おキヌちゃんの同級生もそうだけど、六道女学院の女の子ってレベル高いよなー)

 休まずにオールを漕ぎながらも、横島の思いはやや不健全な方向に向かいつつあった。




「えへへっ」

 舞奈と絵梨の次にボートに乗った蛍は、とても上機嫌だった。

「どうしたんだ、蛍?」
「だって、ようやくお兄ちゃんと二人きりになれたから」

 友達を連れてきた蛍だったが、少しは横島にもかまって欲しい気持ちがあった。
 しかし、他の女性たちが横島の周囲にいたため、その機会が今まで無かったのである。
 ようやく兄との時間を作ることができて、蛍は嬉しさを隠せなかった。

「見て見て。お魚さんが泳いでる!」
「ああ、本当だ」

 南ということもあり、海の中には色鮮やかな魚たちが数多く泳いでいた。
 蛍はボートから身を乗り出して、その魚たちが泳ぐ様子を見つめていた。

「ねえ、お兄ちゃん。こういう場所に来ることって、よくあるの?」
「水のある場所には霊や妖怪が集まりやすいから、仕事もけっこう多いんだ。
 ただ、こんなリゾート地での仕事というのは、滅多にないけどね」
「そうなんだ。じゃあ今回来れたのは、けっこう運がよかったんだね」

(こういうのも、けっこういいかもしれないな……)

 横島はオールを動かす手を休めると、無邪気な表情で海の中を覗き込んでいる蛍の横顔を、じっと見つめた。




 最後にボートに乗ったのは、美神とおキヌのペアだった。

「最近、すっかりお兄さんしてますね」
「え?」
「蛍ちゃんのことですよ」

 横島の正面に座っていたおキヌが、横島に話しかけてきた。

「そうね。横島クンのことだから、とっくにあの娘を襲っていたんじゃないかと思ってたわ」

 ボートの舳先に座っていた美神が、すかさず口をはさんだ。

「ハハハ。蛍にそんなことをしたら、俺は親父とお袋に殺されますって」
「でも横島さん、本当に大丈夫なんですか? だって……ルシオラさんじゃないですか」

 おキヌのその言葉を聞いた横島は、一瞬表情を固くさせたが、やがてポツリポツリとした口調で語りはじめた。

「……蛍は昔のことを全然覚えていないんだ。
 俺と会ったときも、ほとんど初対面と変わらなかったはずだけど、それでも俺を兄として慕って
 くれている。
 ときどき、全部の事情を話してしまいたい気持ちになることもあるけど、今の蛍がそれを全部
 受け入れるのは、とても難しいと思う。
 だから俺は、蛍が自分で記憶を取り戻すまで、待っていようと思うんだ」

 美神とおキヌは、真摯な表情で話す横島の言葉に、じっと耳を傾けていた。

「そうですね。それが横島さんにとっても、ルシオラさん──いえ蛍ちゃんにとっても、一番いい
 と思います」
「思っていたより、ずっと真剣に考えていたのね。
 まあ、横島クンの思うとおりにしてみたら、いいんじゃないの?」

 美神の言葉には多少の辛辣さが含まれていたが、事情を知るこの二人の理解を得られたことで、横島は安堵感を覚えた。


(続く)

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