ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネと羽根と混沌と』 エピローグ1 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(05/ 7/14)



〜apendx.33 『ダイアリー』


――――――Gメン中枢を機能停止へと追い込み、神界までもを揺るがしたあの事件から、今日で2日が過ぎようとしています。


…シャープペンの芯がサラサラ動く。病室のベッド。窓際から吹き込む暖かい風。一週間ぶりに開く日記帳からは、未だかすかな硝煙と炎の匂いがただよっている。
何かを考えるようなしぐさをつくり……
少女は一度だけため息をつくと、そのまま、さらに次の文面を書き込んでゆく。


――――――そう、あれから2日が経ちました。一度は全焼に近い形で炎上した街並みは、ようやく修築が開始され、
ここに住む人たちも、じょじょにではありますが、普段の生活を取り戻しつつあるようです。
事件の終焉…。都市の上空を覆いつくしたあの高位神の正体が一体なんだったのか……。今となっては、それを確かめる術なんてドコにも無いけれど…

すべてが片付き、横島が再び目を覚ました時……ユミールさんの姿は、すでに何処にも見当たらなかったそうです。

―――――――――…。

「…はっ!この馬鹿ロン毛が!なんだその膨大な数のギブスは。見ろよ、オレなんて6つしかないぜ?やっぱ弱ぇなてめーはよ!」
「両腕、松葉杖の君にだけは言われたくないな…。そもそもこれは男の勲章さ。名誉の負傷というヤツだ」
「うわ…こいつ、無理して髪なんかかき上げやがった。自分ではカッコいいとか思ってるんだろーね。あ〜やだやだ」


―――――――病室のベッドが隣同士ということもあり、この2人はもう朝からずっとこんな調子なわけで……。
でも西条は、みんなが思っているよりも遥かに、横島のことを心配しているんだ思います。
光の神を撃退し、なんとか一命は取り留めたものの、すでに動ける力もなく……そうやって炎に飲まれかけた横島を救い出してくれたのは、他でもない西条だったから。
彼は一人で炎の渦に飛び込んで、横島を私たちのもとに連れて帰ってくれました。あの時、横島にちょっとでも意識があったら、きっともう少しぐらいは感謝を言葉で表しているの思うのだけれど……


「――――上等だっ!?今、ここで決着をつけてヤルぁっ!?待ってろ、すぐにギブス外してグーで殴ってやるからなぁっ!?」
「……面白い。やってみたまえっ!横島くん!」

ズゴァシャァァアアアアアアアアアアアッ!! ゴキュッ♪ ポキッ♪

「「ぐぎゃああああああああああああああああああっ!?」」

…あ。なんだか今、無理矢理ギブスを外して殴り合ったら、2人とも変な方向に腕が曲がってしまったみたいです。
それと2人は、見た目なんかよりは本当はとても仲良しのはずです………多分。

「す、スズノ……日記なんて書いてないで、看護婦さん……看護婦さん呼んできて」「だめだ横島君。スズノちゃんは一時的に耳が…。フェンリルと戦った後遺症らしい」

…話がそれてしまいました。頭をはっきりさせるために、少しだけ状況を整理してみたいと思います。

あの後、パピリオと一緒に帰還した私は、ケガが比較的軽かったということもあり、そのままGメン施設内での救助を任され…

事後、人々が錯綜する廊下の中で、さまざまな会話を耳にしました。施設内や都心一帯を襲撃した灰色の蟲たちは、すでに何者かの手により一匹残らず破壊されており…
そして、西条と闘ったという喰らう者(イーター)の消息も依然として掴めないまま。タマモねーさまも、シロも…その後どうにか意識を取り戻し、今では横島よりもずっと元気なくらいです。
………病院に運ばれた直後、横島の容態は、本当にすごく危なくて…タマモねーさまは横島のそばに寄り添って、ずっとずっと泣いてばかりいました。

「…305号室……ここね。3人とも、美神さんたちがご飯買ってきてくれるって。何が良い……?一体どうしたの?」

「た、タマモ!?助かった!早く、早く看護婦さんを!ヤバい!?なんか腕の色がサツマイモ色になってきちゃってる!?もうすでにもうすで痛いかどうかすら分からねぇえええっ!」
「…や、やめろ横島君。声を出すとお互い傷に響くぞ……ぐっ…まずい…目の前がかすんで……」

「先生ー!調子はどうでござ……っわわっ!何事でござるか?」
「知らないわよ…。とにかくナースコールを押さないと………あ。なんかいろんな所がぴくぴくしてる…」

「「…お願いだから人を呼んで……」」


―――――――…そしてもう一つ。

私たちの中で、一番その命が心配された人………神薙美冬さん。彼女は今も、昏睡状態のまま集中治療室のベッドの上で眠っています。
事件後、雨の中に一人倒れていた神薙さんは、発見されたその足で、すぐさま病院へと搬送され……

…これはカルテを見て後から分かったことなのですが、彼女はもともと、心臓に重度の疾患をわずらっており、生まれつき長時間の激しい運動には耐えられない体なのだそうです。
今回の件で特に容態に異変は生じないと、とりあえずの診断はなされたものの……事情を聞いたみんな―――特に横島は、相当なショックを受けている見えました。

時折、感じることですが、横島が神薙さんを見る時の視線は、私たち対して向けられるソレとは少しだけ意味合いが違ったもののような気がするのです。
タマモねーさまに尋ねてみても、ねーさまは何かをためらうように俯くばかりで…。美智恵もただ苦笑するぐらいで、何も教えてはくれませんでした。
それは単に私が子供だから、何かを掴めないだけかもしれないけれど……

―――――でも、もしかしたら横島は………


「……ノ!…ズノ!スズノ!!」

「?」

「あ…やっとこっち向いた。ホントに耳が遠くなってるんでちね…」
「……パピリオ。どーかしたのか…?」
「パピリオはこれからご飯を食べにいくでち。ヨコシマたちはいま色々取り込んでるみたいだから、スズノだけでもついてくるでち」

「そういえば私も少しお腹がへった………うん、行こう」


…ちょうど日記も一段落だ。
ぱたん。ひとまず記帳を閉じた後、スズノがベッドを飛び降りる。後ろの方から聞こえてくる、横島たちの喧騒は…相変わらずにぎやかで、楽しくて…。
ようやく自分も元通りの日常に帰ってきたことを実感する。
差し込む陽射しが少しまぶしい………今日もいい一日になりそうだ――――――――――。



                                   ◇




―――――スズムシが闇夜に唄うのは、一人で死ぬのが怖いからだ。
たった独りで夜露のように消え逝くことが、寂しくて、悲しくて、嫌だから…。だからこそ、その音色には生そのものの輝きが宿る。

薄れゆく意識の中。ふと、そんな歌があったことを…彼女は思い出していた――――――…



〜appendix.34  『farewell...』



「………。」

無言のまま、ファイルのページがめくれてゆく。

ほの暗い明かりが灯る場所。人の気配を感じさせない、奇妙な沈黙がただよう場所…。闇と光が内交ぜになったそのスペースを、小柄な影が行き来する。
「これも違う…」ため息を吐きながら、声の主は手にした資料を床へとほうった。
無機質な文字でただ『病状録』とだけ記された、たくさんの書棚。足元に散らばるプリントの山は、もはや捨て置けないほどその量とカサを増し始めている。

そろそろ片付けのことも考えないと……そう小さく一人ごち、影は、手元のファイルを棚へと収めた。
現在の資料から、次の資料へ…。白い指先が目的の段へと触れようとした……その一瞬の空隙―――――――――――


「…タマモちゃん?」

「!?」

突然背後から肩をたたかれ、人影の全身が硬直する。
穏やかな……こういった非番時のみに限定すれば、どこかのほほんとした女性の声。
恐る恐ると振り返ってみれば、そこにはいつの間にか、美神美智恵がニコニコ顔でたたずんでいて……

「た、隊長…………………さん」
「係の職員に《聞いてみたら》ここだって言うから。何調べてたのかなぁって…」

「………。」

ぬけぬけとよく言う。サラリと流しはしたものの、外でちょっとしたトラブルが起こったことは想像に難くないというのに…
この場所は施設内でも、病室からは大分離れた空間………過去Gメンが抱えた案件・情報の保管を一手に引き受ける、膨大な資料の眠った記録閲覧室。
当然ながら、一般開放などはされていない。
職員でもないタマモが書棚へと侵入するにあたり、彼女はちょっとしたトリック――――つまりは得意の変化術を駆使し、知り合いの『顔』を少々拝借したわけなのだが…
まさか露見するとは思ってもみなかったのだろう。目の前に立つ『顔』の持ち主本人とのご対面に、彼女は瞳を白黒させた。

「…西条さんの方に、しておけば良かったかも……」
思案げな口調でそうこぼすと、美智恵は何故か吹き出してしまう。目じりの涙を拭きながら、彼女はすぐに首を振った。

「ううん…タマモちゃんの判断は正しいわ。西条くんの権限だと、検閲が掛かって読めない資料も一部出てくるだろうから。
 ここの書棚すべてに目を通すことができるのは…まぁ基本的に私だけ」

「…。」

こちらの考えるぐらいのことは、とうにお見通しというわけである。
感嘆したように息を吐くと、タマモは素直に白旗を揚げた。どの道、現場を押さえられては言い逃れすることもできないのだから…。
こんなことなら、はじめから協力を仰いだ方が賢明だった………軽い頭痛を感じながら、少しだけ相手の顔をのぞき込む。

「……もしかしたら横島くんのことを調べてたのかな、って思ってたんだけど………なんだか違うみたいね」

散在する資料……それは過去にGメンが拘束した神魔の霊体カルテ…と、その病状履歴が記された保存リストだった。言うまでもなくアシュタロスとの関連性はゼロに等しい。
肝心なところで、どうやら予想が一つ外れてしまったことに、美智恵ガックリと肩を落とした。

「……でも、そんなもの調べてどうするの?そんなに重要な資料でもないと思うけど…」

「え?あ…そ、その、これは…えーと…そ、そう。私、以前から神魔の病気とか疾患なんかに興味があって…。だから、ここなら色々と数や種類が揃ってるんじゃないかって」

「??そ、そうなの…」

言っていて、自分でも恐ろしくなるほど白々しい。美智恵の顔にも何やら疑問符が浮かんでいる。しかしここは無理にでも押し通さなければ…
でなければ、あの人の素性が自分のせいで知られてしまう。興味本位で首を突っ込み、他人を巻き込んで自爆するなど……ただの間抜けがすることだ。

「…勝手に入って、悪かったとは思ってる。私、すぐに出て行くから」
「え?ちょ…ちょっと、タマモちゃん?」

そそくさと、その場を後にしようとするタマモを、とっさに美智恵は呼び止めていた。
自分が同伴しさえすれば、別に部屋を貸してもかまわない……そんな好意的な提案にも、彼女は小さくかぶりを振る。

「本当に…もういいの。それによく考えたら、私が調べてくらいでどうにか出来る問題でもなさそうだし…」

顔をうつむけ、タマモは出口に歩み寄った。ギィィィ…と、立て付けの悪い鉄製の扉が、錆びついた部屋に音を立て……
通路の闇へと手をかけながら、タマモはポツリとつぶやいた。

思惑に沈んだ、暗い影を落とす一言を告げる。

「何時間もここに居て……私、結局よくわからなかった」

「?」

「差し支えなければ、教えて欲しい…。例えば…例えばの話だけど……
 魔神や主神みたいな…私たちには手の届かない、そんな限りなく万能に近い生き物にも、『死』というものは存在するの?
 跳ね除けることは、出来ないの?自分の命を蝕む、死に至る病を……」

少女の声にはどこかすがるような響きが宿っていた。事実、彼女は言下で、自分の疑問を否定してほしいと訴えていた。
この…自分よりもずっと聡明で、長い時を人生という名の舞台で過ごしてきた女性に対して。自分の不安を彼女が一笑に付してくれたらと…。

そして少女の不幸は……その時ばかりは、目の前の女性をしても問いかけの真意を汲み取ることが出来なかったこと。
もしくは、世界そのものが抱える酷薄性――――――――――。

「?魔神や主神にも、不治の病があるか……ということ?そうね…少なくとも、私は聞いたことがないけど…。
 でも、もし、そんなものがあるとしたら…それは神さま達にとってすごく残酷なことなんじゃないかしら?」

「残…酷…?」

不吉な予兆に、タマモの全身が身震いする。聞いてしまったら2度と引き返せない…きっと自分は、『あの人』を他人と思うことが出来なくなる……そうなるであろう予感があった。
流れ込んでくる美智恵の声。まるで意味を成さない記号のように……

「貴方が口にした最初の疑問。それに答えるなら、彼らは限りなく『死』の恐怖から開放された存在よ。高位神に厳密な意味での絶命はない……。
 神魔両界のパワーバランスを保つために、魔神や主神の霊体は、滅びと同時にすぐさま新たな器を再構築されるはずだから。
 …だけど。だからこそ、彼らは時として『死』そのもの以上の恐怖を味わうことになる……。」

耳を塞ぎたくなる……音楽のような声。

「死に至る病……病巣に蝕まれたその神の体は、苦痛に耐え切れずいつかは崩壊すると思うわ。
 崩壊して…またすぐに再生する。もとの、病に侵された体………どころか、時間を置くことで病状はさらに悪化しているかもしれない。
 消滅しては復活し、復活しては、また消滅する。死と再生と苦痛を永久に繰り返して……きっとその間隔は、少しずつ短くなっていく。 
 ……地獄ね。最後には多分、体中がボロボロになって…………?タマモちゃん?どうかしたの?なんだか顔色が……」

「―――――――…。」


……。

タマモはぼんやりと、2日前のあの雨の日の会話を思い浮かべていた。
『ただ、伝えておきたかっただけなんです。…もしもの時、横島くんを止められるのは……きっとタマモさんだけだから…』
あの言葉をつぶやいた時、彼女は一体、何を想っていたのだろう。

解らなかった。
それはきっと、自分が横島に抱く気持ちと、まったく同じものである筈なのに……。考えても、考えても、想像することさえ、出来なかった。





―――――――…。

ミントクリーム色の天井。

うっすらと神薙が目蓋を開けた時、目に入ってきたものはそれだけだった。
半開きの窓から夕日が差し込む。世界のすべてが朱一色に包まれたような……綺麗で悲しい夕焼けだった。

立ち昇る雲と、ポプラの街路樹……道を歩く人々の喧騒に耳を澄ませて、神薙は静かに息を吐く。体を蝕む耐えがたい痛みをこらえながら…しかし、彼女は幸せだった。
ずっと夢だった。こんな風に、人々の笑い声やささやかな幸せを、自身の肌で感じることが。
その最後の望みを叶えるために、自分はこの街の降り立ったのだから…。

(ここは……)

かすかに瞳だけを動かして、神薙は周囲を見渡した。…知らない部屋だ。どうやら自分は個室のベッドに寝かされているらしい。
真白なシーツに触れながら、彼女はぼんやりとそれだけを考える。ところどころで、記憶が途切れあいまいになっていた。
なんで自分は、こんな所で一人眠っているのだろう?そもそも、あれから命を取り留めることが出来たのか……。

何も分からなかったし、悩んだところで分かりそうもない。
あきらめて、もう一度瞳を閉じようとした時、近くからドアをノックする音が聞こえてくる。

「……はい……」

かすれた声でそう返事をすると、ドアノブの回転が一瞬止まった。と、それも束の間、今度は蹴破りそうな勢いで人影が部屋へと飛び込んできて…

「か、神薙先輩…!?気が付いたんですか……っちょっ待った!ギブスが隙間に引っかかって……えっ!?あれ?うあ…ヤバ…って!グギャアアアアアアアアアッ!?」

スガガガガガッ!!!!
…と、床を削るように転倒しながら、横島が部屋の入り口で悲鳴を上げた。神薙が目を丸くしたのもわずかな時間。
彼はすぐさま立ち上がる。文字通り、となりのベッドへと地を這って進み、そして心底こちらを心配している表情で……

「…具合、どうっすか?どっか痛いとことかあります?」

そんなことを尋ねる。
マンガのように頭血をピューピューふき出し出しながら、ついでに松葉杖まで振り回して…。
悪いとは思ったが、なんだか可笑しい。ここで横島がそんなことを言うのは、どうしてかひどく場違いな気がしたのだ。

「………。」 「………。」

しばしの間の後、神薙はくすくすと笑い始める。それにつられて、横島もなんとなく照れ笑いを浮かべて頬をかいた。
…どうして、この人はいつも私をこんなに暖かい気持ちにさせてくれるんだろう?彼と話していると、神薙は時々、何もかもを忘れて、投げ出してしまいたくなる。
つらいことや悲しいことを全部捨て去って――――――この人といつまでも一緒に居られたら、それはどんなに幸せなことか……。

そこまで考え…彼女はいつも気づくのだ。


―――――「うお……桜すげーな。今年はオレらがこんなんだから間に合いそうもないけど。来年あたり、先輩も一緒に花見やりません?
      毎年恒例なんですよ、事務所のみんなとか、除霊のヤツらを誘って、全員で……」
 

満開の桜の木々。横島が窓からを身を乗り出し、不意にそんなことを言ってきた。
シーツに体を横たえながら、神薙は小さく微笑みかける。風が彼女の栗色の長髪を揺らし……一枚の花びらが頬をくすぐる。茜色に染まった、桜の花びら。

「…そうですね。今年は少し、慌しく散ってしまうそうですから……次は、出来るだけ早くに見に行きましょう」

柔らかくそう返してくれる神薙に、横島はゆっくりと頷いた。その言葉を紡いだとき、彼女はやはり嬉しそうに、幸せそうに微笑んでいて………。
だから気づかなかった。その日、その時のその言葉が……本当は何を意味するものだったのか…。



「…出来るだけ……早く……」



彼女の笑顔が押し隠したもの……それが一体なんだったのか。横島には気づくことさえ出来なかったのだ。


          

                                ◇




「…っつーわけで、先輩もようやく目を覚ましたってことで、みんなで楽しく祝勝会ーーーー!!!」

『おーーーーーーーーーっ!』

その夜。
久しぶりに顔を合わせた一同の前で、横島が乾杯の音頭を取る。
そんな、パーティー開始直後の一幕だというのに、すでに床にはグデングデンに酔っ払った屍の群れ。
305号室……本来なら横島・西条・スズノに割り当てられたはずのその病室に、今夜は美神たちも含む、事件関係者ほぼ全員が押しかけていて…
部屋の各所に、各人が持ち込んだツマミ・飲食品の類が乱散する。突然、目の前でビールのラッパ飲みを始める横島に、神薙が顔を青くした。

「よ、横島くん……その怪我でアルコールを多量に摂取するのは控えたほうが…。そもそも私たちは学生で…」
「ウッヒョッヒョッヒョッヒョッヒョッヒョ!!」
「……。」
「…無駄よ、神薙さん。こいつ、こうなるともう絶対止まらないの。泡吹くまで飲み続けるんだから…」
「………(汗)」

その傍ではタマモが頭を抱え、セクハラを続ける横島のアゴに美神のヒジが突き刺さる。
一連の騒動を横目にしながら、西条は小さく苦笑していた。

「…やっぱり気になる?ユミールさんのことが…」

美智恵の声が耳元に届いた。もしかしたら彼は、今の状況の苛立っているのかもしれない……そんな彼女の不安をよそに、西条は肩をすくめてみせる。

「さすがに、何度もすれ違っていたというのは、聞かされてから驚きましたけどね…。でも、それを言うなら横島くんだって同じだと思いますよ。
 きっとあれから、ずっとユミールのことを気にしている…。口にこそ出さないようですが…」

「……。」

そう言って眉を跳ねさせる西条に、今度は美智恵が沈黙する番だった。返事の代わりに、一つ息を吐く。深く、かすかに…そしてどこか微笑するように。
部屋を飛び交う仲間たちの声が、どこか嘘寒い背景となって響いてくる。

「…もう、僕はあの輪の中に入ることは出来そうもない。一度夢から醒めた人間は、二度とそこには戻れない…。
 それでも、手伝ってやることぐらいは出来ると思うんですよ。まだ夢を見ている連中の――――その幻想(ゆめ)を真実にするために。
 それが…大人たちの役目ってものじゃないですか?」

「―――――――?急にどうしたの…?西条くん」

「多分、僕はこれから先生に多大な迷惑をかけることになる……だから、先に謝罪させてください」

…深々と頭を下げる西条に、美智恵は言葉をつまらせた。何か無茶なことをしようとでも言うのか…。
反応が遅れる美智恵からは目を逸らし、西条は楽しげに横島へと声をかける。

「?なんだ?隊長と何話してたんだ?お前」

「さて、ね…。ところで、せっかく部屋に備え付けてあるんだ…テレビでもつけてみないか?酒の肴ぐらいにはなるだろう?」
「お〜。てめーも、たまには良いこと言うじゃねえか…。今、10時だろ…?なんかエロい番組でもやってねーかなぁ…」

「ちょっと、横島。スズノも居るんだから少しは考えて。教育に悪いじゃない。西条さんも妙なこと言うのはやめて」
「い、いや…タマモ君。僕は別にそういうつもりでは……」

ギャーギャーとそんなことを言い合っていると、いつの間にかテレビの電源がついてしまう。
横島が目玉を血走らせ、タマモがリモコンを取り上げようとして…西条が困惑気味な表情を浮かべるその先で…そこに映った映像は―――――――


――――――――白昼の惨劇!!民家を襲う謎の飛来物…。

なんて見出しが表示された、ニュース番組の報道コーナーだったりして…。別にそれはいい。
この飛来物というのはおそらく、2日前の事件で舞い上がったガレキか何かの落下片だろう。それらが不幸にも民家を直撃したというわけである。
そのことについては納得できる。問題は、画面に映し出さたその建物があまりにも見覚えのある………というかありすぎる外観だということで……
用意がいいことに、なんと中継が現場につながっているらしい。

――――――…。

『……なお、今のところ、アパート内に死傷者は確認されておらず、被害としてはわずか一部屋。天井ごと叩き潰された、横島忠夫さん(17)の部屋のみが……』
『ど、どどどどうしよう……横島さんが部屋に生き埋めに…。横島さん!横島さぁあああああああん!!』
『泣いたらあかんっ!!泣いたらあかんぞ、小鳩!!』
『な、なんなんですか、アンタらは!?中継の邪魔しな………ちょ、ちょっと!!落ち着いて!落ち着いてぇええええええええ!?』

…。

………。
……………。

部屋の空気が凍りついた。ワナワナと震え始める横島に対して、周囲の人間は口々に……

「…………さ、さて。僕はちょっと外へタバコを買いに…。み、みんな後は任せた」

「だ、大丈夫よ、横島くん。ちょっとぐらい野宿したって別に死にやしないってば!」「み、美神さん…。あ、ええと、その、きっと星が綺麗だと思います横島さん」
「せ、拙者、野宿は経験あるでござるが…存外、悪くはなかった…ような気がするでござる」

「……ご愁傷様。」 「横島、新聞紙を頭からかぶるとあったかいから……」 

なんて調子で、色々と好き勝手なことをわめき始めて……。
それにもう横島は、幸せいっぱいといった感じの素晴らしい笑顔を浮かべながら…………



「――――――お、オレの家がぁああああああああぁああああああああああああああああぁっ!!!!?」


「よ、横島!?暴れたってどうにもならないでしょ!?お、落ち着いて!」
「…あの、思ったのですが、横島くんはこれからしばらく入院生活が続くわけですし……新しい住居のことを考えるのはゆっくりでも良いのでは…?」
「だ、だめでち!まったく聞いてないでち!止まるでち、横島!!」

…そんなこんなで、夜のしじまに横島の絶叫が鳴り響いたのだった。


『あとがき』

ここまでお読みくださり、どうもありがとうございました〜。かぜあめです。今、タマモ or 神薙先輩の分岐シナリオのプロットを立てています。
なんだか凄いことになりそうです。比較的、違いが少ない次シリーズでも10話以上書き下ろさなきゃ…。
ところで5、6話ぶりの神薙先輩でした。最近、タマモが押しまくりでしたのでこれでようやくバランスがとれたのかなぁという気がします。
次回から新展開!横島君の路上生活、スタート!(うそです、ごめんなさい(汗))
次回は正真正銘、第4シリーズの最終話です。今回スルーされた(笑)フェンリルさんのその後も…。それでは〜また近いうちにお会いしましょう。

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