ザ・グレート・展開予測ショー

ジーク&ワルキューレ出向大作戦4 『夜の蛾』


投稿者名:丸々
投稿日時:(05/ 7/12)

そろそろ梅雨に入ろうかという、五月も終わりに近付いた頃
ジークとワルキューレはオープンカフェで珈琲を飲んでいた。
二人ともビジネススーツに身を包み周囲のビジネスマン達に溶け込んでいる。

空にはまばらに雲が浮かび、たまに日が翳ったりしている。

「今日も人間界は平和ですねー。」

ジークがぼけーっと空を見つめながら呟く。

「うむ。
少々退屈だが平和なのも悪くないな。」

カップを口元に運びながらワルキューレも頷いている。

二人がのんびりしていると少し離れた席から大声が響いてきた。

「貴方がそういう人だとは思いませんでしたわ!
私よりもあちらの方がよろしいのですね!?
それなら私はもう帰らせていただきます!」

「お、おい、落ち着けって!
だから誤解だって言ってるだろうが!
あいつとは何でも無いんだよ!!」

明らかに痴話喧嘩とわかる内容に周囲が少しざわめくが、皆見て見ぬ振りをしている。
しかし耳だけはしっかりとそちらの方に向けられているのは言うまでも無い。

ジークとワルキューレも迷惑だなと思いつつも特に注意する気は無いようだ。
痴話喧嘩は第三者が口を挟むべきではない事くらいは理解していた。

若い男女はギャーギャーと言い争っていたがとうとう女の方がキレてしまい席を立つ。

「マザコンなのはまだ許せても……浮気するなんて最低ですわ……!」

あまりに直球な内容に思わず周囲の目も二人のほうに向けられた。

「だから違うって!……てめーら何見てやがる!!」

小柄な男が言い訳しつつ、周囲を睨みつける。
慌てて皆目を逸らしている。小柄な見た目の割には妙に迫力があった。

ジーク達は興味が無かったので知らぬ振りで珈琲を口に運んでいる。

「さようなら……雪之丞」

別れの言葉を口にし、女性は店を出て行く。

―ブフゥッッッ!!―

あまりに予想外の名前が飛び出し、二人は同時に珈琲を吹いていた。

























一人取り残された小柄な男に、口元をハンカチで拭いながら一人の女性が近付く。
小柄な男は頭を抱え俯いており、女性に気付いていない。どうやらかなりヘコんでいるようだ。

「あー……久しぶりだな。伊達雪之丞。」

女性が声をかける。

「……あんた誰だ?」

俯いたまま目だけを向けているので、どう見ても睨んでるようにしか見えない。
女性の方は別に気にしていないようだが。

「私だ。ワルキューレだ。
今は人間界での任務を任されていてな……」

正体を明かしながら今回の任務について説明を始める。






「……という訳でな。どうやら困っているみたいだから
私にできる事なら力になるぞ?」

痴話喧嘩の仲裁などやった事が無かったがこの際仕方ない。
目の前の男はいつものふてぶてしさが消え、本気で落ち込んでいるようだ。
となれば出来る事があるなら力にならねばなるまい。

「気持ちはありがてえけどな……
頭に血が昇ったあいつに何言っても無駄だろうしなあ……」

くしゃっと前髪を掴みながら頭を抱える。
喧嘩自体は珍しくないのだろうか。妙に悟った感じがする。

「ん、ところでジークはいねぇのか?
二人で任務についてるんだろ?」

さっきは二人で行動していると言っていたのに
ワルキューレしか目の前にいないので気になったようだ。

「……あー、さっきまで一緒にいたんだが急用を思い出したとかで
出て行ってしまったのだ。まあ、気にするな。」

「なんか隠してねぇか?」

「いや、別に?
それより何か頼むか?私はエスプレッソを頼むが。」

「なら俺はミルクをもらうぜ。
俺の成長期はこれからだからな。」

……貴様一体何歳だ、と突っ込みたかったが我慢する。
せっかく誤魔化せたのだからそのままにしておいた方が良い。









―そのちょっと前―

「よし、ジークお前はあの女から情報を引き出すのだ。
やはりこういう事は双方の言い分を聞かなければならんからな。」

「え!?僕と彼女は初対面ですよ!?
こんな微妙な問題をそう易々と話してくれるとは思えませんが……」

「そこを何とかして上手くやるんだ!
いいからさっさと追いかけろ!見失ったらそこで終わりだぞ!」

「イ、イエス・サー!」

























(しかし、困ったなあ……なんて声を掛けたら良いのだろうか……)

ちょうどお昼時のこの時間帯。
あたりには昼食を取ろうとしているビジネスマン達が大勢歩いている。
同じようにビジネススーツに身を包んでいるジークが目立つ事は無かった。
最も、仮に人通りが少なくても特殊訓練を修めたジークなら尾行ぐらい難しくないが。

先を歩く女性にどう声を掛けるか、ヒャクメの資料を転送した小型情報端末に目を落とし考えていた。

(ふむふむ。伊達雪之丞に関連するデータ……これだな。)

データを開くと膨大な量の情報が展開される。


■伊達雪之丞■
・年齢不詳、以前は住所不定だったが最近小笠原エミの事務所に就職し、現在はアパート住まい。
・己の霊気を物質化して身に纏う『魔装術』の達人。
・『メドーサ』の弟子として『魔装術』を習得するが、それに溺れなかった稀有な人間。
・性格は直情的で単純単細胞。謀が出来るタイプではない。良く言うなら裏表が無い性格。
・『横島忠夫』をライバルと一方的に認定している。GS試験で闘い、引き分けた過去あり。
・『アシュタロス』の事件や原始風水盤の事件など、大きな事件に関わっている。
・二年前のクリスマスパーティーで『弓かおり』と出会う。以後交際を続けている。
・『弓かおり』から両親に挨拶をするよう頼まれているが、自分の前歴を気にしているようだ。
・重度のマザーコンプレックス。とりあえず美人なら誰でもママに似ているらしい。


   以下続く



仕事という事でヒャクメが好奇心爆発でプライバシーゼロの念入りな調査を行ったので
かなり詳細な情報が資料として用意されていた。
相手の名前が『弓かおり』とわかったので次はその項目を開く。


■弓かおり■
・現在六道女学院に通う高校三年生。
・仏教系の除霊師の名家に生まれ、跡取りとして期待された人生を送る。
・二年前『氷室キヌ』『一文字魔里』と出会い、親友となる。
・二年前のクリスマスパーティーで出会った『伊達雪之丞』と交際を続けている。
・両親から紹介するように催促されているが『伊達雪之丞』が尻込みしているようだ。
・性格は意外と直情型。おしとやかな外見とは裏腹に頭に血が昇りやすい。
・現在『小笠原エミ』の事務所で見習いとして働いている。
・尊敬するGSは『美神令子』。にも関わらず『小笠原エミ』の事務所で働くのは『雪之丞』がいるからだろう。
・ちなみに『伊達雪之丞』との進展具合は、付き合いだして一月後に―――



(ヒャクメ……なんて危険なモノを…………)

それ以降ひたすらゴシップネタが続いていたので端末をしまい頭を抱える。
魔界神界の最高指導者が調査を許可したとは言え、これではまるでそこらの写真週刊誌と変わらない。

この調子で全員の分が資料として纏められているとしたら……
正直見るのが怖かった。と言うか、見た後にこの資料の存在が誰かに漏れるのが怖い。
不発核弾頭レベルの危険物を押し付けられていた事を自覚し、キリキリと胃が痛くなる。

(取り敢えず手軽なのは『伊達雪之丞の関係者』として名乗るのが良さそうだな……)

頭をかきながら気の進まない任務に溜め息をつき、女性の先回りをすべく動き出した。








―どんッ!―

「おっと、すみません。」
「いえ、こちらこそよそ見をしていて……」

女性が角を曲がったところで男とぶつかっている。
互いに謝りそのまま擦れ違い行こうとした所で、男が後ろから声をかける。

「あれ?あなたはもしかして弓かおりさんですか?」

名前を呼ばれたので女性が振り返るが相手の顔を見ても面識があるとは思えない。
若干警戒気味に男の方に向き直り、質問する。

「どちらさまでしょうか?以前にお会いした事がありましたかしら?」

人違いではなかった事がわかり、男がニッコリ微笑む。

「あ、いきなり声を掛けて驚かせてしまいましたか。
雪之丞からよく話を聞いていたので、つい声を掛けてしまいました」

恋人の名前が出たので、雰囲気が和らぐ。
少なくともナンパやいかがわしい勧誘などではなさそうだ。
男の珍しい銀髪も霊能関係者という事なら納得できる。

「雪之丞と親しいのですか?」

「ええ、以前一緒に仕事をした事もありますよ。
彼はいつも貴方の事を話していますよ。『俺の自慢の彼女だ』って。
彼に貴方の写真も見せてもらいましたしね。
あ、申し遅れました。僕は『春桐』って言います。」

ニコニコしながら、まるでいつも雪之丞が友人に惚気ているかのように振舞う。
正体はジークなのだが一応警戒して正体がバレないように苗字だけを名乗っていた。
微笑みながら話し掛けるジークとは対照的に、女性は俯いてしまった。

「あれ?どうかしました?
僕、何かマズい事言っちゃいましたか?」

「あ、いえ、何でもないんです。ただ、ちょっと……」

「……雪之丞と上手くいってないとか?」

相手が言葉を濁した先を続けてやる。最初からわかってるのだから何も難しい事ではないが。
だがこれが初対面だと思っている相手からしてみれば、かなりの驚きだったようだ。
ハッと顔を上げ、ジークの顔を見つめている。占いでズバリ当てられたらきっとこんな表情になるのだろう。

「あれ……もしかして正解ですか?
差し出がましい事とは思いますが、もしご両親に挨拶に行かない事が原因なら許してやって下さい。
彼にも今まで色々あったので……どうしても自分の過去が気になっているのでしょう……」

ヒャクメの資料に書いてあったことを適当に並べ立てる。
そんな裏があるとは知らない彼女は、目の前の相手は雪之丞からかなり深い話を聞く事が出来るほど
強い信頼で結ばれた関係だと思い込んだようだ。さっきまでとはジークを見る目が違っている。

信用されたのを確認してからジークが何気なく話を切り出す。

「もし何か悩んでいるのなら、僕で良ければ力になりますよ。
雪之丞も貴方の前では素直になれないのかもしれませんし……」

「……えっと……春桐さん、でしたよね?
もし宜しければ少し話を聞いていただけますか……?」

申し訳無さそうに上目遣いでお願いする相手に笑顔で頷き、近くの喫茶店に入る。
ジークには意外とキャッチセールスの才能があるのかもしれない。ついでにナンパの才能も。

























「うーん。雪之丞は浮気が出来るほど器用ではないと思いますけど……」

最初はポツリポツリといった感じに話していたのだが、途中からは感情が昂ぶったのか
一気に愚痴混じりにぶちまけられた後の、ジークの第一声であった。

弓の個人的な愚痴を除外して内容を要約すると次のようになる。
・雪之丞が昔馴染みといって相手の女性を紹介してきた。
・自分より付き合いが長いようで、雪之丞が自分にも見せないような表情を相手の女性には見せていた。
・相手の女性が雪之丞に好意を抱いているのは明らかで、雪之丞もそれに気がついているようだ。
・どうやらここが最大のポイントのようだが、相手の女性は『玄人さん』との事。

ジークも魔族ということもあり恋愛経験は皆無に等しいが、これは気持ちの擦れ違いで間違い無さそうだ。
雪之丞が裏稼業に手を染めていた時期に水商売の相手と知り合う機会もあっただろう。
相手の女性が素人じゃないからといって勘繰るのはちょっと考えすぎではなかろうか。

弓の方は思い切って話をしてみたが、同意を得る事が出来ずに落ち込んでしまったようだ。
ジークが慰めないと、と考えていると急に弓が何かを思いついたかのようにジークの手をギュッと握る。

「春桐さん……お願いしたい事があるのですが……」

相手の真剣な、というか切羽詰った様子に圧倒され、ジークはちょっと引いている。

「な、何でしょう弓さん?
僕にできることなら力になりますよ。」

―キュピーン!―

ジークのその言葉を聞いた瞬間、弓の瞳が怪しく輝く。

「ありがたいですわ!
お願いというのは、相手の方と直接話をしていただきたいんですの。
春桐さんが直接会って確認した後も私の考え過ぎだと言うのなら、私も納得できますから。」

「え!?僕がその人から直接聞き出すのですか!?」

「もちろんですわ♪
力になって下さるのでしょう?」

さっきまでの俯いた顔はどこへやら。
満面の笑みでジークに話しかけている、というか追い詰めている。
絶句しているジークの掌に相手の女性の名刺と自分の連絡先を押し込んでいる。

「急なお願いで申し訳ないんですけど、宜しくお願いしますね♪」

「は、はあ……」

力無く返事をしながら、ジークはヒャクメの資料に記されていた一節を思い出していた。


■弓かおり■
・尊敬するGSは『美神令子』―――


どうやら尊敬する相手からキッチリ学ぶべきところは学んでいたようだ。
頼み事をするタイミングはまさに芸術的と言えるだろう。頼まれる方はたまったモノではないが。

























「……という訳なんですよ。
姉上、僕はどうすれば良いでしょうか?」

弓かおりとの接触の後、ワルキューレと今後どうするべきか携帯でやり取りしている。
向こうのワルキューレも雪之丞から話を聞き終えたようだが、何だか疲れていた。

「ふう、やはり我らには痴話喧嘩の仲裁は向いていないようだな……
とは言っても一度手をつけたからにはやり遂げねばなるまい……」

「……という事は、やはり?」

「ああ、面倒だろうが、相手と直接コンタクトを取ってくれ。
それで今回の件が片付くなら楽なものだろう?」

「は、はあ……
名刺ですが、本人の物ではなく経営する店の名刺のようなので、実際に行ってみるしかなさそうです……
ところで雪之丞からは何か手がかりになるような話は聞けましたか?」

「ああ、奴の話を聞いたが私も只の誤解だと判断した。
後はお前が相手と直接接触すればこの件は終了という事で良さそうだ。」

「ふう……仕方ないですね。では今晩行ってみますので夕食は外でとる事にします。
神父にも帰りが遅くなる事を伝えておいて下さい。」

「了解した。
……あー、ジーク……」

「なんですか、姉上?」

「その、まあ、なんだ。
気をつけてな……」

「?
は、はあ。では行ってきます。」

―プツッ―






「……これで良いのか?」

ワルキューレが電話を切った後、目の前の男に確認している。
小柄な男は満足気に頷いている。

「ああ、あいつなら適任だ。自分から行ってくれるとはラッキーだったぜ。
ジークはあれで結構腕が立つし、最悪の結果にはならんだろう。
もしジークが捕まらなかったらピートに頼もうかと思ってたんだけどな。」

またしても弟を利用する結果となってしまったワルキューレは不服そうにしている。
流石にここ最近面倒を押し付けすぎたと思っているようだ。

「付き纏われるのが不快なら、何故貴様がハッキリ断らないのだ?
最初からそうしていればジークを危険な目にあわせる必要など無かったというのに。」

雪之丞はワルキューレに詰め寄られ、バツが悪そうに頬をかいている。

「いや、実は俺はあいつに負い目があってな……あまり強く断る事が出来ねーんだ。
それにダチとしてなら問題無いと思ってたしな。」

「それでも、弓かおりの方が大切ということか?」

「ああ、あいつに勘違いされて失うくらいなら死んだ方がマシだ。
あいつがまさかあれほどヤキモチを焼くとは思わなかったんだけどなあ……
ま、俺の身代わりも用意できた事だし、これからは喧嘩せんでもすみそうだしな。」

やれやれと首を振っているが、本心からでは無さそうだ。
どちらかというと惚気に近い。

「ふん。惚気はそれくらいにしてさっさとフォローしに行った方が良いのではないか?
誤解は早めに解いておかないと時間がたてば誤解を解くのは難しくなるぞ。」

「ああ、そうだな。じゃ、俺はもう行くわ。
あ、それとジークに礼言っといてくれ。」

悩みが解決(?)してスッキリした顔で雪之丞は去っていった。

(むう……こればかりは私が代わってやる事はできんしな……
ジーク、お前の無事を祈っているぞ……)

ワルキューレが沈みゆく太陽を眺めながら呟いていた。

























新宿二丁目のとあるビルの前でジークは途方に暮れていた。
現地に到着してわかったのだが、目的の店はいわゆるオカマバーと呼ばれるものだった。

(なんとなく、相手の予想がついてきたなあ……)

眩暈を覚えながらも、渋々エレベーターに乗り込み店がある最上階まで向かう。
雪之丞の昔馴染みでオカマと言えば……

―チンッ―

眩暈に加え頭痛まで感じ始めたところで、エレベーターは到着した。

「あら、いらっしゃい。
雪之丞から話は聞いてるわ。私に話があるんでしょう?」

エレベーターを出るとかなり大柄な男(女?)が待ち構えていた。

(……む、雪之丞から聞いている?……姉上ならともかく雪之丞?
……一体どういうことだ?……まあいい、今は任務を優先しなければ……)

「や、やあ、こんばんわ。僕は春桐といいます。」

愛想良く挨拶をしているが、相手は自分より長身なのでどうにもやりずらい。
そもそも相手は男なのか?女なのか?

そこでハッと思い出す。目の前の男(?)は魔装術に取り込まれ魔族に変化した筈だ。
一部の魔族は性別を自在に変える事が出来る。サッキュバスやインキュバスがそれに当てはまる。
恐らくこの男(?)もそうなのだろう。

顔は男顔だが体つきは女性のものというアンバランスさがそれを証明している。
弓かおりが『相手の女性』と言っていたのは一応間違いではなさそうだ
もともとの性格が性格なので、性別不詳なのは違和感が無いが。

ちなみにジークは直接の面識は無かったが、メドーサ関連の情報の中に
この男の情報も含まれていたので大まかな性格や経歴を知っていたのだ。

一度雪之丞に殺されたが二年前のコスモプロセッサで生き返った男、鎌田勘九郎。
メドーサ達に比べれば小物なので魔界軍の残党狩りリストからも除外されていた。
そのため、いまさらジークが勘九郎を捕まえる必要など無かった。

その勘九郎はと言うとジークの体を舐めるように視線を這わせている。

―ゾワゾワゾワッ―

猛烈な寒気を感じ、ジークがさりげなく間合いを取る。
さらに無意識の内に霊力を解放してしまっている。よっぽど身の危険を感じたのだろう。

勘九郎はメドーサクラスの霊圧を放つ相手に降参するかのように両手を軽く挙げる。
それほど高い霊圧を放つに至った原因は勘九郎自身なのだが。

「やーねー、そんなに警戒しなくてもいいじゃないの。
私も自分より強い相手に手を出すなんて馬鹿なマネはしないわよ。
それより話があるんじゃなかったの?それならここじゃマズイから奥の部屋にどうぞ。」

あっさり引き下がると近くにいた店員に何やら指示を出し、自分はさっさと奥に向かって行った。
どことなく我が身に迫る危険を感じながらジークもついて行く。
店内を見回すと特徴的なお姉さん(お兄さん?)達が働いていた。

(姉上……お家に帰りたい……)

内心涙を流しながら勘九郎についていくジークであった。









店の奥に造られていた勘九郎の自室は、意外と質素だった。
内装は白い壁と、テーブルを挟んで向かい合わせに置かれた革張りの4人用の大型ソファーと
なにやら書類が置かれているデスクだけだった。
テーブルの上にはワインとグラスが用意されている。

「まあ、取り敢えず乾杯しましょ。
ワインは飲めるのかしら?」

返事を待たずに既に両方のグラスに注いでいる。
ジークもワインは好物なので文句は言わなかったが。

「そうそう、先に言っとくけど雪之丞は諦める事にするわ。
久しぶりに会って私より強くなった姿にときめいたんだけどね。
まさかあのコが誰かと付き合ってるなんて思わなかったのよねえ……」

昔を懐かしむように遠い目で勘九郎は語っている。

「下手に手を出してあのコ達が別れるような事になったら
雪之丞にもう一回殺されちゃいそうだしねぇ。
向こうも私を殺しちゃったのを気にしてたみたいだから
上手くやったら落とせると思ったんだけど。」

「そうですか、それが聞ければ満足です。
ではこれで僕は失礼します。」

聞きたい事だけ聞くとマッハで席を立ち、ジークが帰ろうとする。
が、素早く腕を掴まれ引き止められてしまった。

「まあ、待ちなさいよ。失恋したかわいそうな女がここにいるのよ?
せめて今夜は付き合いなさいな。酒は私の奢りだからさ。」

本気で哀しそうな瞳で訴えかけられてしまい、渋々頷く。
本音を言えばさっさと逃亡したかったが、根が優しいので決断できなかった。

「……ただし僕に指一本でも触れれば五体満足でいられると思うなよ。」

かなり本気で釘を刺している。もしも何かあれば本気で殺る気なのだろう。
珍しくジークの体から殺気が迸り、霊気がスパークしている。
露骨に警戒されて勘九郎の顔に冷や汗が浮かんでいた。

―コンコン―

「失礼します」

従業員のお姉さん(お兄さん?)が二人分の酒のツマミを持って入ってきた。
皿を一つずつ二人の前に並べると、何も言わずにさっさと退室していった。

「春桐さん、だったわね?
今夜は私の奢りよ。好きなだけ飲んでいってね?」

妖しい笑みを浮かべながら勘九郎がジークに微笑みかけた。









―店のキッチン―

「ねえ、ママのお客におつまみ持って行ってくれた?」

「ええ、今持って行ってきましたよ。
いつものようにタ〜〜ップリと睡眠薬が入った特製のおつまみですけどね♪」

「クスクス……ママの男遊びにも困ったものねえ。」

「フフフ……まったくね。イイ男はみぃんなママが食べちゃうんだから。」





























――おはようございます。今朝のニュースをお伝えします。
昨夜未明、新宿の雑居ビルの最上階の飲食店が跡形も無く吹き飛ぶという事件がありました。
現場から飲食店オーナーの鎌田勘九郎さん(25)が瀕死の重態でみつかっています。
幸い、被害にあった店は閉店した後だったので他に怪我人は出なかったとの事です。

店が吹き飛ぶ直前の防犯カメラの映像が残されており、
泣きながら暴れる白髪の若い男が映っていたとの事です。

男は上半身裸でいくつもキスマークがついていたため、警察は痴情のもつれを
考慮に入れて捜査を進めているそうです。

なお、爆発物やガス漏れの痕跡が残されていない事から、妖怪の仕業の可能性もあり
オカルトGメンと警察が協力して捜査に当たっているとの事です。

続いてのニュースです。
昨夜未明、GSの伊達雪之丞さん(20)のアパートが突然爆発し、全治一ヶ月の重傷との事です。
原因は未だ不明ですが、雪之丞さんの部屋だけが被害を受けているため、専門家は高出力の
霊波砲で狙撃されたのではないかと推測しています。

雪之丞さんは二年前の核ジャック事件の解決に尽力し、腕の良いGSとして知られ―――

























―後書き―

早めに出来上がると思っていたのに今までで一番難産でした。
原因は雪之丞、弓かおり、鎌田勘九郎と3人も詰め込んだからでしょうか(泣)

無理して一話に詰め込まない方が良かったのか……
次は……どうしようかな。気分を変えてシリアスになるかも……

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