ザ・グレート・展開予測ショー

扉を開けて


投稿者名:ししぃ
投稿日時:(05/ 7/11)

「連載も終わったことですし」
と、いささか微妙な切り出方で事務所の留守番をしていた俺の前に現れた小竜姫さまは、
コホン、とひとつ咳払いして後ろの扉を開いた。

「じゃじゃーん」

 扉の向うは……もぬけの空。

「えーと」

 コケルべきか?
 突っ込むべきか?
 ……変なリアクションをかまして仏罰が下されても困るわけだが。

 途方に暮れてる俺を尻目に大きくコケタ小竜姫さまは

「やー、なにやってるんですかっ!!」
と、ドアの向うに声をかけた。

「だって……恥ずかしいですよ……いまさら」

 声は聞き覚えのある……つーか。

「ルシオラっ!!」

 廊下へと駆け出す。
 勢いがつきすぎてそのまま壁に。

「ヨコシマ、久し振り。……元気にしてた?」

「お、おう、ちょっと全身が痛いけどな」

 視線を左に向ければ、彼女がいた。

 魔族の服装で、ちょっと照れた視線で、軽く首を傾げて。
 薄紅の頬。穏やかな瞳、はにかむ唇。
 心臓が早鐘を打つ。

「ルシオラー、何が何だがわからんがとりあえず再会のベーゼを!!ぶちゅっとっ」

「落ち着きなさいっ」

 あと数センチを阻害したのは小竜姫さまだった。

「なんで邪魔するんやっキスぐらいさせろー!」

「いきなり服を脱いで飛びかかったら誰だって止めますよっ」

 ……どうも猛る情熱の回路が伝説の大泥棒の飛び込みを実現させていたらしい。
 さすがに美少女二人の前でランニングとパンツ一丁のままというのは悪いので、脱ぎ捨てた
デニムとシャツを身につける。

「ふふ、相変わらずね。横島」

「おう。俺らしくないと……お前に悪いと思ってな」

 ジッパーを上げながら話すとどっかのジーサンみたいだ、と思いつつ。
 少し落ち着いてもう一度ルシオラを見つめる。

 切り揃えた黒髪、落ち着き無く、胸元に置かれた指。
 露出度の高い服装から覗く太股。

「ルシオラー、もー我慢できんのやっ煩悩充填120%なんやっ」

「落ち着きなさいっ」

 思わずさっきと同じ展開をやってしまった俺をさっきの3倍の強さでハタキ落す小竜姫さま。

「次は仏罰を落しますよ?」

「……これ仏罰やないんですか?」

「手加減しましたから」

 血がピュー、と吹き出しているのはいったん無視して。

「ああっルシオラやっ、本物やっやーらかいなっあったかいなっさいこーやー」

「やん、ヨコシマ、服ぐらい着て、恥ずかしいんだから」

 叶わぬと思った恋人との抱擁を邪魔したのは頭部に疾る衝撃だった。
 思わず幽体離脱した俺。
 目下に見えるのは慌てて俺を揺り起こそうとするルシオラとこっちを見上げてにっこりと
微笑む小竜姫さま。

「仏罰です」

『仏の顔も三度までっていうやないかー』

「三度目の正直です」

『さよか』

 いくらなんでもこれにて完。は遠慮したかったので体に戻る。
 膝枕された俺の視界には、ルシオラの小ぶりなしかし感度と柔らかさを備えた二つの丘。
 ……迫る死の気配に気付いてさすがに手を伸ばすのはやめた。



「で、真面目な話をしましょう」

 私の名前は横島忠夫。
 栄光とスリルを求め、日夜戦うゴーストスイーパーである。
 今日は温泉旅行という安寧を求めた仲間たちと別れ、一人、悪霊たちから市民を守る城
であるこの事務所の留守を守っていたのだ。

『ありていに言って置いてかれたんですけどね』 

「じゃかましいわ、建物っ!!」

 そこに現れたのは数多もの死線を共に駆けてきた天界の美少女、小竜姫だった。

「わたし一応、人間界に派遣されてる身なんですけどね」

「ヨコシマ?わたしより小竜姫さんの方が気になるの?」

 ……真面目にいうたから頑張ったのだが、お気に召さない様子だった。

「つーか、なんでルシオラがっ、小竜姫さまがっ!!」

 騒ぎだした俺に微笑みを向ける蛍の輝き。
 ……ああ、もうどうでもいいや。

「ルシオラ……る、し」

 堪えきれず、涙が落ちた。
 失ったはずの光。
 ジワリと拡がっていく『あたたかいもの』の前に理屈は吹っ飛んでいた。

「生きてるんだな……」

「そうよ」

「いいや、そんだけで。……おかえり、ルシオラ」

「……ただいま、ヨコシマ」

 小竜姫さまの吐息が聞こえた。
 それで俺達はやっと口づけを交すことができた。

 ……その先に行こうとした後、綺麗なお花畑に移動しかけたけどな。



「つまり、ルシオラは助かっていたんですか?」

 小竜姫さまの説明は敢えて省こう。
 ヘンシュー・ウチアワセ。
 微かにそんな単語が飛び交っていたが、宇宙意思が俺の理解を妨げているから。

「ええ、正確には助けられていたんです」

「……誰に?」

「*******にです」

「んな、……なんで、それを俺に言ってくれなかったんですか?」

「守るため……という答では不十分でしょうか」

「ひどいっすよ。俺が……どんなに……」

 ドン底の心を思い出す。
 狂気にすら足を踏み入れかけた。
 絶望という感情に支配された日々は仲間たちが支えてくれたけれど、それでも喪失感に
泣き続けた夜もあった。

「でも、信じてました」

 見つめる瞳の力強さに吐息する。
 この人はなんで俺ごときにこんな信頼をくれるのか。

「貴方なら、乗り越えてくれるって。進んでくれるって。だから私も出番を犠牲にして、
 秘密を守る役を買ってでたんです」

 怒鳴るべきか、泣くべきか。
 言われようもない感情が込み上げる。

「ったく、とんだ茶番劇じゃないですか」

 俺は、笑う事にした。
 というか、それしか出来なかった。
 怒ろうにも嘆こうにも、ルシオラが目の前にいるという喜びの前には小さすぎる感情
だったから。

「知っているのは小竜姫さまだけなんですか?」

「いえ……実は大体、バレてます」

 ……あの後。
 ルシオラの復活に関して手を尽くして調べてくれた美神さん達はいち早く真実に辿り着い
たのだという。
 妙神山で生活を続けたという事だから、パピリオやベスパも知っている。
 知らないのは隠事の出来ないジークぐらいではないか、と、小竜姫さまは言葉を続けた。

「ピートやタイガーも?」

「ピートさんはご存知の筈です。……タイガーさんってどちらの方でしたっけ?」

 ……悪気はないのだろう。心の中で合掌。まあ奴の事ごときに突っ込む暇はない。

「なんちゅーか、ひでーっすよ」

「ヨコシマ、あまり小竜姫さんを責めないで。私も納得していたから」

 バツが悪そうに告げるルシオラ。
 グルになって俺を騙した小悪魔を抱きしめる。

「いいんだよ。色々あったんだろ?」

 触れてはいけない単語を避けて、待ち望んだ体温を感じ取る。

「くすぐったいよ、ヨコシマ……」

「我慢しろよ、俺がどんな我慢したと思ってんだ」

「私だって……ヨコシマ」

 連載は終わったのだっ!!
 つまり、この場で×××の▲▲▲が○○○しても、PTAもアンケートも女性読者も
関係ないんやっ!!
 スピードを上げていくナンカのメーターを横に表示しつつ。
 手の動きは止らない。

「待ちなさいっ!!」

 ……いえ、止りました。
 条件反射で。

「み、み゛か゛み゛さ゛ん゛?」

 視線を向ければ息を切らした恐怖の上司。
 後ろに並ぶ巫女装束と狐と犬っころ。(狼でござるっ!!)

「ちょっと小竜姫!あんたが止めるっていうから特別に留守にしてたのに何やってるのよ!」

 文句を言いつつ既に俺をシバキ倒す速度たるや、超加速すら生温く感じる。

「そうですよっ、ルシオラさんはずっと我慢してたからキスぐらいは仕方ないかなって
 思ったけど、それ以上はだめですっ」

「なっ、今止めようと思ってたんですよっ大体今日は旅行じゃなかったんですかっ」

 怒りの神様。

「パーティの準備もあるから、早めたのよ。……正解だったわ」

 ニヤリと受けて立つ俺の雇い主。
 飛び交う火花と気圧される程の圧力が展開される。

「なんであんたらは、こんな時まで来て邪魔をするんやっ」

 血の涙が止めどなく流れた。
 連載終わったゆーたやんっ、これからは(ピピー)で(ブブー)な俺の童貞喪失物語
をはじめちゃいかんのか?
 多くの戦いを乗り越えた勇者に与えられた褒美やなかったんかっ。
 悲しみが足下に血の池を作り出す。

 ……しかし、続く美神さんの言葉は俺の思考を奪うのに充分な言葉だった。

「だっ、だってっあたしもアンタが好きなんだから、しょうがないでしょっ」

 で、おキヌちゃんから追い討ち。

「わたしだって、苦しかったんですよ。こんなに好きなのに……ルシオラさんの事隠した
 まま告白なんか出来ないし」

「拙者はいつだって先生が一番でござるっ、先生も拙者を一番に見てもらいたいのでござるっ」

「横島がいい目見てるのって悔しくない?」

 ……最後の狐の理屈は理不尽この上ないわけだが、……頬を赤らめて言いやがるし。

 しばしの沈黙の中、竜の神様の視線に気付いて目を向けると、彼女まで耳まで朱に染めて、
目をそらす。

「あんたもかっ!」

 何人分かの声が揃ったつっこみに

「だって、ルシオラさんが悪いんですよ、毎晩ノロケるから……」
と、イジイジしはじめる竜の神様。

「ヨコシマは、私が好きなのよっ」

 きゅっ、と胸に俺を抱えるのはルシオラ。
 気持ちいいけど強すぎ。

「ふふふ、勝負はこれからよ」

 美神さんに強引に引き剥がされる。
 ゴギッと首が嫌な音を立てた。

「わ、わたしだって、もう奪っちゃう覚悟ができてますっ」

 真白な衣装に視界が埋められて、柔らかな感触。
 サイズはルシオラと同程度?

「拙者も拙者もっ」

「なに?ひっぱるの?」

 獣どもが股を裂く。……なにやっとるかっ。

「やーめーれっ」

 首を元に戻しつつ。
 叫んだ後には、六対の瞳。

「ヨコシマが決めればいいのよ?」

「そうね、本人の意見も一応聞いて置かないと」

「横島さん、巫女ですよっ巫女っ」

「プリチーな拙者を前に悩むこともなかろう?」

「傾国の意味、教えて上げるわよ?」

「神の魅力の前には無力ですよね?」

「小鳩っ負けませんっ」

「恋愛は青春だわっ」

 増えてるっなんか増えてるっ

「連載終了パーティやるってきいたんジャが、まだですカイノー?」

「お、ついに修羅場なワケ?」

「冥子は〜〜令子ちゃんを応援するの〜〜」

「ルッルシオラさん?生きていられたのですかっ」

「あらあら、私も参加していいのかしら?」

「魔鈴くんっ!!」

 増え続けるメンバーに。
 厳しさを増す視線の痛みに。

「のっ!」

『『『のっ?』』』

「のっぴょっぴょーん!!」

 壊れるしかなかった弱い僕をお許し下さい。神様。

『わ、わたしですか?』

 彼岸にかすむ光輝く人に、あんたやないから、と突っ込みながら。
 俺の意識は薄れていった。












 了。















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別時系列シリーズ。
登場人物がメタファーを読み取っちゃう椎名世界ですから
こういうのもありかなーと。

えーと、逃げます。
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