ザ・グレート・展開予測ショー

みんな悩んで大きくなった


投稿者名:おやぢ
投稿日時:(05/ 7/ 9)

たまに、自分が嫌になる時がある。
才能はある方かもしれない。
目覚めてから、僅か数年で日本でもトップレベルにランクされた。
しかし、それはあくまで“才能”であって実力ではない。
才能はあっても、それを開花させる事ができるのは一握りしかいないのだ。
自分でもたまに、“俺ってスゲぇ!”と思う事はあるが、それはあくまで“たまに”
なのだ。
GSの仕事はSからEランクまでのランク分けがしてあるが、たまたまあったSクラスが上
手くいったからといって、常にあるようなDやEクラスの仕事をヘマしているようでは1
流どころか3流もいいとこだ。
俺は、雇用主に誉められた記憶があまりない・・・いや無いといった方がいいかもし
れない。
そんな俺が、この世界でやっていけるのだろうか?
そろそろ高校も卒業である。
普通高校に通う俺の周りは、受験を控え大騒ぎしている。
偶然とはいえ、狭き門といわれるGSの資格を取った俺は、クラスメートとは別の世界
にいる。
受験戦争とは無縁の世界・・・羨ましいと言われるが、魔界と戦争するのがそんなに
羨ましいのか?
まぁそんな愚痴は、おいといてだ・・・自分の腕だけで食っていくこの世界で、俺は
これからやっていけるのだろうか?
自分程信用できないものは無いと、俺は胸張って言えるぞ!!
かといってオカルトGメンの様に、機材を湯水の如く使うってのも、どうも性に合わな
い。
というより根本的な問題として、公務員試験に受かる頭を持ち合わせていない。
とある人の推薦・・・というか熱心な勧誘がそれはそれは念入りに行われているが、どうも直属の上司になるであろう人物に俺は良く思われていないし、俺もどうもソイ
ツとだけはソリが合わない・・・っつーか嫌いである。
というワケで、オカルトGメンもダメ。
唯一の才能である霊能方面しか、俺の進むべき道は開けていない・・・・っつーか、
補習に次ぐ補習、追試に次ぐ追試でようやく卒業できそうな俺が進むべき道なんて、
すでに決まっているようなもんだ。
進むべき道はすでにそれしかないというのに、誉められた事無い、怒られてばっ
か・・・本当にこの道でいいのだろうか?
霊能の師匠ともいうべき、竜神様や猿神は“もっと自信を持て”という。
同僚の女の子にも、同じ事を言われる。
自称弟子の人狼の少女には、かなり誉められたりもするが、なんか違う。
俺に足りないものはなんだ?
俺はいったい何を求めているのだろうか。



今日も今日とて、雇用者にミソクソに怒られた。

「アンタ何度いったら判んのよ!!アンタみたいなバカと付き合ってたら命がいくつ
あっても足りゃしないわ!!もう帰れ!!このバカっ!!!」

いくらなんでもそこまで怒らなくてもいいじゃねーか・・・・アンタだって『しまっ
た!!』とかいつもいってるクセに!!!
なんて事は口が裂けても言えはしない。
こんなんでは、いつまで経っても“自信”なんてできゃしない。
まして実力なんて、本当についてるのかどうかなんて判りゃしない。
追い出されるように事務所をでると、小雨が降っていた。
頭冷やして考え事するには、丁度いい。
俺は自分のネグラに雨に打たれる事にした。
雇用者の言葉にかなり頭にきていたが、考えてみりゃ向こうの言っている事は正し
い。
さほど強くもない相手に、ボディアーモ着けてなければ致命傷になる一撃を受けてい
たのだ。
雇用者としては、そんな命がいくつあっても足りない事をする人間を雇うワケにはい
かない。
それにコンビを組む側として考えても、相手がそんな人間だと自分の命が危ない。
ランクが低いからといって、簡単なワケではない。
一つ間違えば、簡単に命を落とす・・・GSの仕事とはそんな仕事なのだ。
頭の熱も取れ、ようやく考えがまとまりかけてきたときに、後ろからクラクションが
鳴った。

「なにしてんの?風邪ひくわよ。」

声の方を振り返る。
雇用者の母親、俺をGメンに熱心に勧誘している人物が車を俺の真横につけた。
彼女は俺の顔を見るなり、何があったかお見通しなのだろう。
ただ優しく笑っただけであった。





「着替え、ここに置いとくわね。」

ガラス戸一枚隔てた場所から声がした。

「は、はい!すいません!!」

見えているワケはないのだが、湯船に浸かっていた俺は妙に慌てた。
ガラス戸の向こうの彼女が、笑っているような気がした。
カッコつけてみたものの、これで風邪なんぞひいた日には雇用者になんて言われたか
想像したくないものだ。
結局、そういうカッコつけが似合わないという事なのだろう。
雨に打たれ冷えた体が温もると、俺は湯船をでた。
脱衣場で、鏡に写った自分の体が見える。
胸に赤い跡が残っていた。
今日の仕事の跡だ。
自分のミスの跡。
明日になったら消えるくらいの跡だが、跡と一緒に“ミス”というものが消えてしま
うワケではないし、記憶から簡単に消えてしまうようでは鳥と同じだ。
三歩歩けば忘れてしまうでは、困る・・・・というか、困るでは済まないことになり
かねない。
赤い跡に指をなぞらせると、溜息がでてきた。



「横島君、ご飯できるまでひのめと遊んでて♪」

用意されていた着替えを着ると、台所から声が聞こえてきた。
リビングへ戻ると、1歳のひのめちゃんが俺の方を見て手を伸ばしてくる。

「に〜に、に〜に。」

姉とは違い、よく俺に懐いてくれる。

“ねーちゃんみたいになるなよ・・・”

思わず口にでそうになる。
ひのめちゃんは、いつもと俺の顔が違う事に気付いたのであろうか、やたらと顔を
触ってくる。
彼女なりに気を使っているのだろうか、“笑え”といっているように感じた。
顔を触るだけでなくエスカレートしてくると、叩く、抓む、引っ張る。
やはり、血は繋がっているようだ・・・・・
俺の顔が、ひのめちゃんの涎のついた手でベトベトになると晩飯ができたようであ
る。

「で、今日はなんで喧嘩したの?」

食事が済んで、リビングに戻ると彼女が話しかけてきた。

「喧嘩じゃないんっスけど・・・」

「判ってるわよ、一方的にあの娘に怒られたんでしょ。」

「はぁ、その通りっス。」

俺は、できるだけ細かく今日の事情を説明した。

「なるほどね・・・そりゃあの娘怒るわよ。」

「当然っスよね・・・俺みたいに頼りにならない男に背中なんか任せられないっスよ
ね・・・」

ソファに座っていた俺は、彼女の顔を見ずに下を向いていた。
急にふわっといい匂いがしたと思ったら、柔らかい感覚とともに視界が暗くなった。

「あーーー!!もぉ!!!この子はかわいいんだからっ!!!!」

まともに呼吸ができない。
乳か??この顔に当たるものは乳なのか??

「ちょっタンマ!!美智恵さん!!ぐるぢぃ!!!」












「なにやってんのよ・・・・ママ・・・・・・・」

聞き覚えのあるとてつもなく怖い声を聞いた。
声が聞こえると、視界は広がり、ようやくまともに呼吸ができるようになった。

「あ・・・おかえり令子。」

「おかえりじゃないわよ!!!なにやってんのって聞いてんの!!」

「あら〜?聞きたい?」

美智恵さんは、そういって再び俺を胸元に引き寄せた。
今現在、俺の視界は何も見えないがおそらく目の前には般若が立っていることだろ
う。
親子喧嘩という名の死闘が繰り広げられる中、巻き添えを食わないように俺はひのめ
ちゃんと安全な場所に避難した。
といっても、隣の部屋で文珠で結界張ってただけだけど・・・・

「当時者がなにやっとんじゃーーーー!!!」

なにか恐ろしい叫び声が聞こえたような気もするが、とりあえず聞かなかった事にし
ておこう・・・後が怖いけど。







まぁそんなこんなで、今日も今日とてドタバタと騒がしい1日が終わった。
ゆっくりと静かにできるのは、布団の中に入った時くらいかなぁ・・・やっぱ。
雨は上がったようで、カーテンの向こうには街の明かりと月が見えた。

“ほんと・・・やっていけんのかなぁ・・・”

そう思いながら、やけに綺麗に見える月を眺めた。









「・・・・起きてたの?」

窓に向けた顔を、声のする方へ向ける。

「うん・・・」

「あのさ・・・・・・」

なにか言い辛いのか、くぐもった声である。

「・・・・・・・・・・・今日は、ありがと・・・・・・・・・・・」

俺は、声の主の頭に手を伸ばした。

「でもね・・・・・・あんな無茶やらないでね・・・・・」

声の主は、赤い跡が残った俺の胸を指でなぞった。
俺の中で、何かが溶けていった。
思わず失笑してしまう。

「ちゃんと聞いてる?」

俺の左腕から離れ体を起こすと、少し拗ねた顔で俺の顔を睨んでいる。
亜麻色の髪が、月の光で透けて見える。

「聞いてますよ。・・・・・・・・・・でも」

「でも?」

「少しくらい無茶させてください。美神さんが傷つくのが俺には一番辛いですか
ら・・・」

俺がそういうと彼女は、月明かりの下でも判るくらいに真っ赤になっていた。
彼女は、起こしていた体を再び倒し、俺に寄りかかった。

「でもね、アンタが傷つくのはアタシが嫌なの!!」

彼女はそういいながら、俺の頬を右手で摘んだ。

「大体、生意気よ。そんな事いうなんて!」

「ガキでスケベで節操無しの俺ですけど、少しくらいはカッコつけさせてください
よ。」

きょとんとした顔になった彼女。
照れたような、嬉しそうな顔をして抱きついてきた。

「ほんと生意気なんだから!!!!・・・・でもダメ〜〜〜〜」

「なんでっスか?」

「それ許しちゃうと、アンタ自分が死んでもアタシの事、守ろうとするから・・・・
アンタ死んだらアタシ一人じゃ生きていけそうにないから・・・それに」

「それに?」

「まだアンタ、アタシの丁稚でしょ?師匠を守ろうなんて10年早いわよ♪」

顔をこちらに向けて、彼女は微笑んでみせた。
雇用主であり師匠である彼女、美神令子。
他の誰でもない、彼女に認めてもらいたいために、俺こんな事やってたんだ
なぁ・・・
彼女の隣に立てる男になってるかどうか?それが不安だったんだ。
この、世にも奇妙な銭ゲバで天邪鬼な彼女・・・そんな彼女についていける男なんて
よっぽどの物好きで、ムチャクチャ苦労して神経キレそうになるだろうけど、他の奴
に譲る気なんてサラサラ無い。
彼女に一人前の男と認めてもらえる日まで、悩んだりするんだろうなぁ。
事務所で怒られて、家に帰って励まされて・・・アメとムチだなコリャ。
それでも、この座だけは譲れねーな。
あの“美神令子”が、こんなかわいい顔見せるなんて、誰も知らない。
俺だけの特権だしね。
いつからだろう・・・彼女の事を“綺麗”ではなく、“可愛い”と思い始めたの
は・・・
その可愛い彼女を抱きしめると、彼女は猫のように目を細めた。












数日後・・・・

「・・・という事があったようだよ。」

「そうらしいね。美智恵から電話があったよ。」

「令子君も、少しは素直になってきたようだね。」

「だといいがね・・・・」

「まぁ美神の女と付き合うには、避けて通れない道だからね。彼はこれからも苦労す
るだろうね・・・」

「おいおい、それはボクに対する当て付けかい?」

「そんな事はないよ・・・やっかみかもしれないけどね。」

「はははは・・・すまないね、神父にはいつも迷惑をかけて。」

「これも“美神”に関わった運命さ。」

「そうかもな。」

「そう簡単に肯定されても困るんだが・・・」

成長した娘を、嬉しく思いつつ少し寂しく思う親父二人の国際電話は、しばらくの間
続いたとさ。





PS・・・・・・

「ところで美智恵さん。」

「ん?なぁに?」

「この前、なんで喧嘩じゃなくて俺が一方的に怒られたって判ったんです?」

リビングで煎餅をかじっていた美智恵に、横島は話しかけた。

「アンタたち、喧嘩するとなんか壊すじゃない。マンションもそれで追い出されたで
しょ?」

「えぇ・・・まぁ・・・・・そりゃそうですが・・・・」

申しわけなさそうに、頭を垂れる横島。

「令子に一方的に怒られると、横島君って捨てられた子犬みたいに、シュ〜〜〜ンと
なってるからすぐに判るわよ・・・今みたいにね♪」

そういいながら美智恵は、横島の頭を自分の胸で抱きしめる。

「美智恵さん!!ぐるぢ!ぐるじぃっで!!!」

どうやら落ち込んでいる横島の姿は、美智恵のツボらしい。

「だからアンタらは・・・昼間っから何やっとんじゃーーーーー!!!!!」

成長したと思われている娘が、爆発していた。





おしまい。

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