ザ・グレート・展開予測ショー

あめのうた。


投稿者名:龍鬼
投稿日時:(05/ 7/ 7)


 星が、見えない。

 きらきら光る大きな川も、それを渡る恋人も――――何も、見えない。

 夜空には分厚い雲。

 強い夕立を連れてきて、いつまでも居座ったまま。



 夜道には光が無くて。

 歩き出したが最後、進む方向すらわからなくなりそうだった。





     『あめのうた。』





 しとしと、ざぁざぁ。

 あれだけの夕立でも空の雨粒を払い落としきるには足りなかったらしい。

 降ったり、止んだり。

 お陰で、折角用意した笹飾りも台無し。








 窓を閉める、その音にも元気がないみたい。

 ティッシュを丁度切らしていたから、降り込んだ雨をエプロンの端でぬぐって――――ふと、気付いた。

 タオル、とってくれば良かったのに。

 ぼおっとしているにも程がある。

 自嘲の意味も込めて、一人で少しだけ笑った。

 とても、とても乾いていた。








 宿題、やらなきゃいけない。

 夕飯の買出しにも行きたかった。

 壁ひとつ隔てたそこには、また水の壁。

 とてもそうする気になれなくて、雨のせいにすることにした。

 …………この前買った新品の浴衣、着たかったのに。








 思い切り手足を投げ出して、ベッドに寝そべった。

 こんなになまけものじゃいけないなぁ、なんて思いつつも。

 でも、そんな天使の声もかき消してしまうくらいに、その場所は気持ちよすぎた。

 だめ、だめ。

 口をふさぐみたいに、睡魔がまぶたにふたをする。

 ゆっくり、ゆっくり。

 夢が私を引っ張っていく。








 真っ暗だった。

 冷たかった。

 身体が動こうともしてくれない。

 まるで、氷の中に閉じ込められたみたいな――――――――氷?

 そうかぁ。

 私、戻っちゃったのかぁ。





 ………………………嫌だ。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。





 …………あそこは、嫌だ。





 ……もう、嫌なの。




















 ねぇ、知ってた?

 今日、笹にお願い事を書いて吊るすと願いが叶うんだって。

 あそこ、あんな高いところにいる織姫さまと彦星さまが、自分たちをお祝いしてくれるお礼に願いを叶えてくれるんだって。

 え?本当だってば。東からいらした偉いお方に聞いたんだから。

 ……うん、叶うといいね。

 きっと、叶うよ。





    あれは、私?

    死ぬ前の、私?

    きっと、私。





 白が見えた。

 真白な――――何だろう?

 あぁ、そうだ。

 見慣れたものだ。

 私の部屋の、天井。

 ちょっとだけ、泣きそうになった。


 「おキヌちゃん?」


 えっ、あっ。


 あわてた。

 囁く声に、心は跳ねた。


 「嫌な夢でも見たの?」


 ううん、違う。

 そう言いたかったのに、のどはびくびく怯えるばかりだった。




 白い長めの指が、目元を拭う。


 「――――また明日、やろっか。」


 …………ふぇ?


 「今電話来たんだけどね、あのバカ補習で来れないみたい。だから、さぁ……」


 雲の隙間に、星が流れた気がした。


 「だから、明日。神様の二人ぐらい、明日まで待たせとけばいいでしょ?」


 月はまだ出てこない。でも明るい。



 ねぇ、美神さん。

 大好きです。

 わたし、美神さんのこと大好きです。

 みんなみんな、大好きです。



 知ってますってば。

 そっちの気はないわよ、って背けた顔が、少し紅かったこと。


 欲張っちゃいます。

 今の気持ち、全部短冊に書いてやる。



    それくらいいいでしょう?神様。


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