ザ・グレート・展開予測ショー

GS新時代 【鉄】 其の五 3


投稿者名:ヤタ烏
投稿日時:(05/ 7/ 7)


一体どれ程上れば、そこに辿り着けるのだろうか?

どれ程手を伸ばせば届くのか?

本当に俺は上っているのだろうか?

本当は上ってすらいないのか?









この場所から空を見上げれば、自分の遥か高いところを雲が流れている
見上げればすぐそこにあるのに、掴もうと手を伸ばしてもただ空を掴むのみ。
何と無く見上げた空は、相も変わらず何処までも晴れている。
ここを吹き抜ける風は清清しいものではない。
都会の真ん中にあるこの学校で、清清しい空気などは有り付けないが、やはり晴れていれば気分は良いものだ。

今は丁度昼休み・・・・のんびりと昼食を食べている者もいれば、すでに食べ終わりグラウンドや教室で遊ぶ者もいる。
他とは違う六道学園も、昼休みの過ごし方は何処とも変わらない。

旧校舎裏・・・十年程前までは生徒達の学び舎として使用されていたが
男女共学となった今では設備面などの点から現在では資材置き場や資料室として使われていた。
用が無ければは近づかない、まさにそんな場所であった。

そうして往々にしてそんな場所は不良の溜り場になったり、バカップルが乳繰り合ったりしている場所となり
少々人目を憚る行為に及ぶ所ともなっていたが。
今そこにいる者はおおよそ、それのどれとも無縁の者だった。

それはタバコ吸ってるわけでも無く、無為に屯してるわけでもない。(煙草は百害有って一理無し)
かと言って愛を語らい、愛を深めてるわけでもない。       (愛なぞ要らぬわッ!)  

聞こえるのは無骨な音。

間断なく響く空気を切り裂く音。
規則正しい踏み込みの音
時折聞こえる気合の声

重く響く打撃音

十本前後の太い丸太をランダムに配置した。丸太の森の中で汰壱は一人トレーニングに汗を流していた。

「ずぅあっああ!!」

ドゴゴゴオゴゴオオ!

拳 掌 手刀 肘 膝 脛 足 足刀 踵

振りぬき 打ち込み 蹴り抜き 抱え込み膝 限りないゼロ距離にから肘 垂直に近く足を挙げ叩き割るように踵を叩き込む
連突きから続けて、前方を貫かんばかりに前蹴りを入れる。

「りやあぁあっああっああああ!!」


遠心力を利用して巻き込む様に裏拳、下段中段上段 瞬時に打ち込む。
左右を入れ替え前後に動き、一つ一つ丁寧に丹念に打ち込んでいく。

重心 正中線 体重移動 回転 霊力

常に気を配り意識する。
一息の間に、いかに疾く重く鋭く打てるか
如何に無駄な動きを省いて最小限の動きが出来るか
相手との距離を一気に詰め反撃させずに連打で押し切る。
一撃の大振りでなく小さく鋭く細かく

止むこと無いその動きには鍛錬のなせる実力が見て伺える。
繰り出すたびに汗の飛沫が飛ぶ。

そして一つの区切りを付けるかのように、一本の丸太に狙いを定め、一定の距離をとった。
距離を必要としない肘や膝、前蹴りなどと違い、汰壱の最も得意とする連突きは
最大の威力を出すには踏み込みの距離が必要となる。

「ふっうううう」
ゆっくりと肺の中の空気を全て吐き出しながら構え直した。
纏った汗が蒸気のように立ち昇る。

左足を少し前に出し身体を半身開き、左手を軽く握り込み、身体から少し離した胸元の高さに置く、
右手は左より少し力を込め握りこむ、右足・左足6対4に体重配分し若干腰を落とし重心を低くする。
いつも忘れぬ基本を確認する。
何年も続けた汰壱の最も得意な構え、修練の時も実戦の時も常にこの構えである。

「はっああああ」
体に酸素を取り込むと同時に自然界に存在する氣を同時に体内に取り込んでゆく
霊的中枢回路、すなわちチャクラを廻し、血液の流れと同じ様に体内を氣を循環させてゆく。

他の生徒とくらべ圧倒的に少ない汰壱本来の霊気の絶対量。
呼吸ともに体内に氣を取り込み、霊気を変換して行く【真呼吸】で足りない絶対量に上乗せをする。
これでようやく総量は並より若干少ない程度にはなった。


「フンッ!」
気合の声と共に真呼吸によって練り上げた霊気を両の手に集中させる。
極点集中とは違い体中の全霊気を集めるのでなく、全体量の何割かを量の拳に集中させる。


滑るように一歩めを踏み出すと同時に、左の拳を人の丁度顎と喉の間に見立てた場所に上段付きを放つ。
一撃目を放つとほぼ同時に、踏み出した左足に右足を引き付ける。
その動きで十分に体重の乗った右の拳を人体正中線中段に炸裂させる。
最初の一撃目を引き戻す動作、二撃目を繰り出す動作それによって生み出される回転の力
踏み込みと体重移動によって生み出された力
自分自身の正中線は一瞬たりとも乱さず重心を安定させる。

その全ては瞬きするより疾く行われた。
ドン!

放ったのは二発の打撃であるが聞えた音は一つ限りなくの音であった。

汰壱がまだ小さかったころに、この技を通りすがりのある老人に教えてもらった。
技と言うには、あまりに初歩であり基本的すぎた。

しかしその老人が放ったその突きは大気を震わせ、目標を抉り貫く凄まじい威力を見せた。
その老人が教えてくれた二つの技。

【真呼吸】

【円心流・連突き】

手解きを受けたのは期間は僅かに数日間に過なかったが、七年たった今でもその老人のことは鮮明に覚えている。


あの・・・・・・・・・・・サルに良く似た老人の事を


「・・・・・・・・」
無言のままに連突きの当てた丸太を調べる。

丸太には拳の跡が・・・・・・・・・残ってはいなかった。


「―――――――糞がっ」
口汚く罵るのは、自分の力の無さ

霊的攻撃以外を受け付けないように、霊術を施された丸太に何の傷も跡も残っていない。
その答えは、自分の力の無さをそのまま浮き彫りにしていた。

シロに霊撃訓練として与えられた課題
極点集中を行わず通常集中のみで一定の霊撃ダメージを与える。

霊撃訓練の基本であるが、通常集中での全力の打ち込みがこの程度の威力では
実際のダメージなど高が知れている。

極点集中での攻撃になれば効果は認められるだろうが、それでも必殺の一撃とは程遠い
第一に極点集中には多大なリスクが生じる。
当たり前のことだが全身に張り巡らしてる霊気の一切合切を局所に集中させるのだ。
当然集中しているところ以外の部位は紙のような防御力しかもたない。
下手に急所に当たれば一撃ノックアウトものであるし、それ以外のところでもかなりのダメージが予想される。

まあ、そこらへんのリスクを背負ったなりの威力があるのだが・・・・・普通は。
問題なのは汰壱が格闘接近戦しか出来ない点である。

もし極点集中してサイキック・ソーサーなどが出来るのであれば
遠距離からの攻撃ができ、そのまま強力な武器となりえる。
素の身体能力が高いので、並の速度の霊破法ならば十分に回避・防御可能であるが
実際には作るのは、ほぼ無理であるためそれも、絵に描いた餅でしかない。

そもそも格闘戦に必要なのはゴリ押し出来るだけの攻撃力、ある程度の攻撃を無視する防御力
そして攻防を可能にするスピードである。
霊的素養はかなり低い汰壱であったが、素の力に【真呼吸】を併用すれば相当な身体能力を得ることができ
そしてそれこそが汰壱の最大の強みとなっていた。


しかし汰壱が将来目指すGS試験や学校で行われる模擬戦・試合の全ては、汰壱が最も不利な条件で戦う事に他ならない。

すなわち霊撃以外の一切の物理攻撃が利かない特殊方陣のリング内での戦いである。
霊気を伴わない攻撃は一切が無効化されてしまうこのリング内では
霊力の低い汰壱は自然と攻撃・防御においてかなりのハンデを背負ってしまう。
敏捷性についてはそれほどスポイルされることはないが、真呼吸を全て霊力生成に回しているため
コレもまた全力の早さも出せない状態だった。

「ああっ!畜生めっ!!」
八方塞がりな状況にイラつきを隠そうともせずに声を荒げ、丸太に蹴りを入れた。
しかし丸太はドンと鎮座したままビクともしない。
自分の身長より高い丸太になぜか見下されている気がして余計にイラついた。


地面に座り込み、恨めしそうに丸太を睨み付けた。
元より判っている事だけに、どうイラついても、問題が解決しない事ぐらい分かってはいたが。
顔は老けて厳つくても、所詮は十五歳の小僧っ子には判っていてもイラつきを押さえられるほど
達者な精神をまだ持っていなかった。







イラつきの理由は先程の授業のことだ。
丁度その時間は生徒同士の模擬戦闘の授業だった。
実際のGS試験と同じルールで行われ、五戦してその戦いぶりを見てクラス対抗戦の選手を選出するため
誰しもが真剣に取り組んでいた。

もちろん朝っぱら全裸マッスルショーを展開していた汰壱も真剣に取り組んでいた。
この授業に限らずこう見えても、汰壱は全ての授業を真面目に受けている。

本来は養子でありながらも、こうして超有名私立校に行かせてもらっている事を考えれば、
とても不真面目に受ける気になどならなかった。


そうして本来の訓練オタクの顔も出し、潜り抜けた二回の死線とタマモとシロとの訓練の成果を試す意味でも
いつもより三倍程気合入れて模擬戦に挑んだのだが・・・・・・

結果は
五戦全敗・・・・

一勝も挙げられなかった。
負けも負けの負けまくり。

相手が強かった?
んにゃ白蛇や獅子猿に比べりゃどうってことないレベルだ。

手も足も出なかった?
そんなことない。自分攻撃はかなり当たってたし、相手の攻撃も見えていた。

だが攻撃は利いていたか?
・・・・・NOだ

防御しきれたか?
・・・・・NOだ

俺は強いか?
・・・・・・・・・・・・NOだ

俺は強くなったか?
・・・・・・・・・・・NOだ

強くなった気がしていただけだった。
それはこの結果が雄弁に多弁に饒舌に真実を語ってくれた。
入学してより二ヶ月が過ぎていた。
誰よりも真剣に授業を受けていたし、誰よりも死に物狂いで強くなろうとした。
無茶もやった。
悪霊との戦闘をやらかそうと出向いた先で魔獣に襲われたり、
助手で言った先の護衛の任務で殺し屋のGSと戦ったりもした。
死に掻けるような目にもあったが、此処一ヶ月はいつもの数倍の密度があった。
それゆえ確実に自分の血肉になっていると思った。
自分は強くなっていると思った。
いや・・・・・・・・・思いたかった。


ギチイイイ
己の不甲斐なさに、歯が軋む音がした。

無言のままに立ちあがり、近くに置いていたスポーツタオルで汗をぬぐった。
もう直ぐ昼休みが終わる時間だった。


誰かに聞きたかった。
答えてほしかった。

上っているのか?
何も変わっていないのか?


ふと手を見る
力の無い不甲斐ない手がそこにあった。


この手は最後に何を掴むのだろう?
天に輝く星を掴むのか?
それともただ一握の砂を掴むのか。



目の光は失われない。
心の鉄は折れてはいない。


それでも何か自分の足取りを重く感じた。





教室に戻る途中にひのめと蛍花を見つけた。
男女に関係無く人気のある二人の周りには、いつも人が集まっている。
人の輪の中で楽しそうに聞える笑い声、まるでそこだけ花が咲いたような明るさがある。
いくつも向けられる羨望の眼差し、もはや学園のアイドルといっても良い二人。

先程の時間五戦全勝を上げて、ほぼ間違いなくクラス対抗の代表に選ばれている蛍花。
誰しもが引き付けられ容姿と性格、それは一種のカリスマ性とも言えた。

成績・実力bPのひのめ、クラス対抗戦でひのめが率いるチームはほぼ負け無し。
二年の初めから生徒会長を務め、教師から絶大な評価を得ている。
GS試験の首席合格も夢ではないと囁かれ新世代を担う相応しい実力を持っている。


「なんか知らない奴みてぇだ」
それがこの学校でみる二人の姿。

二人の姉は汰壱は良く知ってる人間のようでもあったが
会ったことも無いようにも思えた。

十メートルと離れていない距離が、どこまでも遠く感じた。
















「・・・・・・・・・遠い・・・・・・・・・」

搾り出すような声は喧騒の中に消えた。





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