ザ・グレート・展開予測ショー

day after day


投稿者名:ししぃ
投稿日時:(05/ 7/ 6)

「ほら、横島クン、起きなさい」

 頭部にヒットする馴染んだ攻撃で目が覚めた。

「ああー、すいません、俺が悪かったですっなんすかっ下着の件ですかっ昨夜の件は
 合意の上でっ!!」

 この上なく幸せな気分からの打撃。
 17の頃から数えきれないほど体験したその状態に反射的に謝ってしまう俺もいかが
なものかと思う。
 思う、が。

「バカ」
と、テレ笑いするにはクリティカル過ぎる攻撃だと思うぞ。

 ……たんこぶが派手に膨らんだ。

 朝。
 美神除霊事務所の朝。
 神父から譲ってもらった教会改め、横島除霊事務所での生活の方が既に長いというのに、
やはりここは『いつもの』という気がする。

「おはよ、令子さん」

 あの夜から。三ヶ月。
 呼び名が変わった。

 表向きは美神さんと呼ぶとヒノメちゃんが反応するようになってしまったから、と
言いわけしている。
 ……多分バレテルけどな。

 令子さんとの仕事が少し増えた。
 スケジュールの問題から、まとめて処理する形にした為、でもある。
 それ以上に「泊まり込み」で処理する事が多くなったから、でもある。

「無理しないでくださいね」
と、キヌに言われた。

 ……多分バレテル。

「魔理ちゃん来たら朝御飯だから、食べていけば?」

 紅を差しながら令子さんが告げる。
 俺の前で化粧をするようになったのもそう言えば変わったことだ。

「いやキヌが作ってるはずなんで」
 ジャケットを羽織りながら言うと

「いいなーおキヌちゃんのごはん」
とかなり本気の視線で振返られた。



「で、魔理ちゃんと令子さんが家で食べたいらしいんだけど」
「あ、いいですよ。ご一緒しましょう」



 急な話だったというのに、事務所に戻ると朝食の準備は完了していた。
 キヌのこういう手際には本当に頭が下がる。

「魔虎ちゃん、連れてきて欲しかったのに」

 元同級生に視線を向けるキヌ。うちにまだ子供が出来ない事もあり、魔理ちゃんの
3歳になる子供に会えるのを楽しみにしていたらしい。

「今日はエミさんのとこなんだ」

「あ、お父さんの当番なのね」

 余談だが、ピートに振られたエミさんは、事もあろうに唐巣神父に迫っている。
 ……意外すぎる組み合わせに関係者一同は愕然としたが、彼女は幸せそうだ。

 しかし、あの頭部の後退した親父の何がいいというのか全くわからん。あの美神さんに
 勝るとも劣らないナイスバディが、人生枯れたジジイのどこに惹かれたというのだ?
 まさか、呪いでもあるまいに……ハッ、テクニックかっ!年季だけが産み出す魔力が
 あの形のいい胸を……」

「先生?なんのてくにっくでゴザルカ?」

 シロの優しい突っ込みよりも一瞬早く、令子さんとキヌの攻撃が俺の後頭部を直撃していた。

 ……宇宙(そら)が見えるよ……

「ママの所に連れて行けば良かったのに、ヒノメもいるんだし。エミの所なんかに預けてたら、
 魔虎ちゃん、性格ゆがむわよ?」

 真顔で言っている令子さん。エミさんとのライバル関係は未だ苛烈を極めている。

「美智恵さんの教育方針でもまあ、性格良く育つかは微妙なわけだが」
「そんな、ほら、ヒノメちゃん、いい子ですよ?」

 俺の台詞に重なるキヌの言葉。
 ……いや、それフォローになってないから。

「ヒノメちゃん、よく事務所に遊びに来ますよね」

 黒いオーラを感じて、魔理ちゃんがフォローしてくれる。
 さすが現役美神除霊事務所の所員。ありがたい、と思ったが

「結婚もしないでフラフラしてるんだから、妹とスキンシップ持ちなさいって、ママが
 送り込んでるのよ、あれは」
という、令子さんの言葉は俺に向かった裏拳と同時だった。

 あんた反射になってるやろ(涙)

 今度はシロと魔理ちゃんにちょっとだけ緊張感。
 ……いまさらな話なので俺もキヌも気にしていないのだけれど、どうもこの二人は美神さんに
対して結婚という単語がNGワードだと思っているようだ。

「いい人いました?」
 お茶のお代わりをいれながら、キヌ。

「全然ダメねー、やっぱ四年前アンタ達の独立認めたの失敗だったわ。おキヌちゃんっ!
 どうしてあたしを捨ててこんな男にっ!」

「美神さん……やり直しましょう♪」
 目を輝かせて、ヒシ、と手を取り合う二人。

 結婚当初から二人が会うとこの調子だから、俺はいい加減なれているのだが魔理ちゃん
はちょっと驚いてる様子だった。

 二人と魔理ちゃんを交互に見渡して、

「じゃあ先生は拙者の物でいいでござるか?」
と、シロが嬉しそうに笑う。

「それは、ダメ(です)!!」

……この手のやり取りは、大体ここまで1セット。



「おキヌちゃんの料理、やっぱ美味しいわ」

「ごちそうさまでした」

「お粗末様、またいつでも来てくださいね」

「じゃ、いってくるでござるー」

 戻る二人と駆けていくワンコロを見送った後、一昨日から貯まったままの書類の整理を
始めた。
 Gメンがらみの金にならない雑務の後始末と、緊急ではない浄化仕事。
 美神さんの所では断っていたような仕事も、神父の後を受けてという形で独立したせいで
断りきれない。
 まあ、安かろうが仕事が続いているのはありがたい事で、事務所開きで作った借金も返済を
終えたし、順調と言っていいのだろう。

「えーと、忠夫さん、新規依頼が3件あるんですけどどうします?」

 キヌは事務処理も巫女の姿でこなす。
 まあ、似合う上可愛いわけだが……書類仕事の邪魔になるからと掛けているタスキが
妙に勇ましい。

「緊急かな?」

「ちょっと急いだ方が良さそうなのが2件、調査に掛かりそうなのが1件ですね」

 雑務と呼んでいい書類仕事と、急ぎの現場。
 ……書類仕事から逃げ出すことにした。

「あー、未処理案件そんなないよな?」

「西条さんから報告書の要求四件もありますよ」

「んなもんほっといていいだろ、依頼書ちと見せてもらえる?」

「はい」

 自分で事務所を抱えて思い知ったのが、令子さんの事務処理能力の高さだった。
 実践・現場主義に思える彼女だが、法務関係の専門者も雇わずにあれだけの量の仕事を
回していた事を考えると自然と尊敬の念が湧く。

 名門六道女学院卒業の我が妻も、俺など及びもつかないほど優秀だが、それでも時 々
泣き言を漏しているのだ。

 報告書……シロにもそろそろ書かせ方教えないとな。

 意外にも高校を好成績を卒業したシロは人狼と人間が平和共存する道を求めて、大学の
法学部に進学した。

 日々『単位が足りないでござるー!!』と叫ぶ学生をこき使うわけにも行かず、最近は
あまり現場に連れて行ってはいないのだが、所内での書類仕事ぐらいは手伝わせてもいい
だろう。

「キヌ、調査がいるやつは伊達に回そう、連絡頼む。あと急ぎは今日中に回って来る」

「はい。報告書の方形式は整えときますから最後の記述はお願いしますね」

「めんどくせーなー、文珠でバッと終わらせましたでいいんじゃねぇの?」

「ダメですよ。こういう記録が次の仕事を楽にするんですから」

 それは確かに真実なのだけれど。……ちと溜め込みすぎた書類の山に吐息。

「わかった。じゃ出るから」

 逃げだそう、と出口に向かった俺に、

「あ、まって下さい」
 カチカチ、と背中で鳴った火打ち石。キヌは時々時代がかる。

「いってらっしゃい、アナタ」
 首に手を回して口づけを交して。

「ひゃんっ」
 尻を触って殴られて。
 いつも通り、事務所を出た。



 独立して、もう一つ痛感したのは、俺が丁稚奉公と言われ続けたのがいかに真実だったか、
という事だった。
 当初、霊力も事務能力もない俺を雇い続けて様々な教育をしてくれたのだ。
 ちょっと霊能力が使えるようになった程度で時給向上を訴えた自分が今思うと恥ずかしい。
あれはこちらから授業料を払うほどの密度だった。

 ……それでもバイトとして時給255円というのはレッキとした法律違反なわけだが。



「結界料としてまず500万。破魔の儀式に300万かかります。いいですね」

 賃金の交渉は除霊前に済ませておく、というのもその授業の成果だった。
 当時は霊に脅えるクライアントをさらに脅しているようで気が引けたのだが、対価に
よって救われるのだという意識は、逆に大概の人々には安心感を与えるものらしい。
 当然これも、悪質な相手から取りっぱぐれるリスクを減らす意味もある。

 その場限りの『退治』する仕事なら文珠を使って経費を浮かせる事もある程度できるのだが、
破損してはいけない現場で結界を張り、必要最小限の浄化を行うという事を考えると規模に
あったオカルトアイテムが必須となる。
 攻撃力も浄化力も強ければ強いほどいいという物ではないのだ。
 結果、規模の小さい依頼であればあるほど経費を使うという悪循環。
 ま、生活費と教育費が出て、ちょっとずつでも貯金出来てるんだから、文句言っちゃ
いけないが。



 案内されたのは、高層の高級マンションだった。
 今の俺では10年かかっても手が届きそうもない値段らしい。

 部屋を囲む結界を完成させて、亡者を具現化させる。

 調査によれば、妹をヤクザに殺されたという少年の霊。
 ここは、そのヤクザの住居だったのだという。

 二人きりの兄妹だったらしい。
 妹の死を知って、彼は自殺したとされている。
 捜査が進み、警察がこの部屋に踏み込んだ時には、そのヤクザ者はとりころされていた。

 ……かわいそうな加害者と同情できない被害者のありふれた事件だった。

 結界で無理やり霊気密度を高められた空間に、元少年が浮かび上がる。
 半ば溶けたような容姿は、悪霊化が進んでいる証拠だった。
 強制的に浄化するしかないか、と舌打ちしたが、微かに双眸に輝きが残って見えた。

「怖がるな、にーちゃん。おまえはもう恨み晴らしたんだよ」

 すぐに語りかける癖がついたのはキヌのせい。
 まあ、あいつみたいに純粋な良心だけでなく、うまくすれば破魔札を使わずに除霊できる
という打算混じりだけれど。

『カ・ジ・キ・ソ・コ・カ』

 既に果たしたはずの復讐に囚われ続けているのだろう。
 ヤクザ者の名前を空間に響かせる。

「おまえは、優しすぎたんだ。人なんか殺せないのにやっちまうから、自らを縛する事になる」

 復讐を果たしても悲しみと後悔によって、その場所に留まってしまう霊は多い。
 自分自身で、自分をくくってしまうから、自縛霊。
 優しく正しく生きた人が最後の最後に恨みを抱えてしまい、自縛霊となる……そんな悲しい
例が多い。

『カ・ジキ・カエセ・マチコ』

 殺意や害意の残照だけで留まる自縛霊もいるには、いる。
 得てしてそのタイプの方が強力だが、彼は違うようだった。心から愛していたであろう
妹の名を忘れていない。
 没年17才。
 ……あの頃の俺の年だ。

「真知子ちゃんは天に在る。罪を犯してしまったお前は……少し時間が必要だろうけど、
 その想いがあれば、必ず、会えるぜ」

 力が弱まる。生来の彼であった部分が強くなる。
 そのまま成仏できれば一番いいのだが、悪霊と化した『悔恨』と『復讐の念』が深く、
……魂を傷付ける程に深く彼を縛っている。

「削ってやるよ。ちっと痛いが、我慢しろ」

 神父やピートなら聖書での詔で、苦痛を与えず彼の念を解放する事が出来るだろう。
 俺や令子さんのような……いわゆる攻撃型の除霊は少し荒っぽい。
 栄光の手を調整して、悪意と化した彼自身を文字通り削り取った。

 叫び。

 悲しみや痛みだけが手を通じて魂に響く。

「くっ」

 いつもより効いてしまったのは、彼の年齢から『あいつ』の事を一瞬思い出してしまった
からだ。

 それでも大したダメージではなく、用意した吸魔札に絡み付く悪意を移して、終了。

「うまいこと極楽にいけるといいな……」

 魂に留められた想いは消えることはない。
 想いは縁となり、縁が絆となり、絆がまた想いを作り出す。

 現世を越えた人との交わりが実際にある事を俺達は知っている。

「今度はやり方間違えるなよ、……正解なんて俺にもわかんないけどな」

 自殺も復讐も、彼を救うことはなかった。
 ……絶望と悪意の果てに道がない事なんか判りきっていることなのだ。

「……少しだけ、羨ましいって考えちまう俺はダメなんだろうな」

 開いた窓から風に魂が融けていく。



 ……経費で650万。破魔札でなく吸魔札でやれた分黒字。
 毎回こうであれば文句無いわけだが……
 クライアントから小切手を受取り、急いで次の現場へと向かった。



 二つ目の除霊を完了して帰宅したのは12時を過ぎてからだった。

 もう寝ている、と思っていたので、
「お帰りなさい」
と、キヌに迎られた時……俺は不覚にも泣いてしまった。

「ど、どうしたんですか?忠夫さん」

 狼狽した調子のキヌの声。
 まあ、当たり前だろう。
 夫がイキナリ不審な涙を見せれば……それも妻に迎えられて微笑んだつもりの表情で、
泣かれたら驚くに決まっている。

「いや、悪い、なんでもねぇ」

 二つ目の現場は、遠慮のいらない極悪人の除霊だった。
 故に。
 たぶん。

 あの少年の悲しみに軽く囚われていたんだと思う。

 キヌへの思い。令子さんへの思い。失った恋人への思い。
 全てに嘘はない。
 けれど。

 俺は彼のように深く強く。愛せているだろうか。
 優しい彼女達を、ただいたずらに傷付けているだけではないのだろうか。
 魂に刻むべき傷から、誤魔化して逃げて出しているのではないか。
 そんな後悔が流させた涙だった。

 さすがにみっともなすぎる、と涙を拭いてネクタイを外す。

「大変だったんですか?除霊」

「ああ、うん、まあな。前半は精神的に。後半は肉体的に」

 いつもなら、笑って誤魔化す内容に素直に応えてしまったのは、涙の余波だと思う。
 最近の仕事は俺一人で出ることが多いことをキヌは気にしている。
 二人で出かけちまうと事務処理が滞るのだから、やむをえないのだけれど。

「無理しないで下さいよ。頑張り過ぎて倒れちゃったりしたら元も子もないんですから」

「んー、まぁなー、これはっお前に癒されないとっ!!」

 飛びかかる俺をゆらり、と躱す妻。

「いーやんかっ夫婦なんだからっ」

「却下ですっもうお風呂抜いちゃったから、今晩はなしです!!」

 くるっ、びしっ、と俺を指さす。
 ……逆らわない方が無難だ。と、本能が告げていた。

「夫が深夜仕事だってぇのに風呂抜いて先に寝ちまう妻、親父ぃ、あんたの気持ちが
 心の底からわかるぜっ」

「血の涙流すほどですかっ……今日は遅いから、美神さんの所かと思ってたんですよ」

 きゅっ、とクッションを抱えてソファーに座るキヌ。
 すねた視線。
 全身からドバーッとイヤな汗が流れた。

「イヤダナァ、ハハハ。シゴトデモナイノニトマラナイヨ」

 ふうん。と、キヌは鼻を鳴らす。

「昨日は八時頃、オカルトGメンに書類届けに行きました。美神さんの車、ありましたね」

「アア、ソレハネ」

「シロちゃんが昨日電話受けたの12時。まだ現場って言ってたらしいですよね」

「イヤイヤ、ナンケンモカサナッタンデスヨ?」

「そうですか。わたし西条さんとこでごちそうになって、10時頃通った時も美神さんの
 車、やっぱりありましたよ?」

 ジト目。
 すいません。降参です。

「かんにんやー、しょうがなかったんやー溢れる愛が止らない金曜日の失楽園なんやー」
 謝る。
 全力で。
 あれだ、暮石柔術で言うところのジャパニーズ・ドゲザ・ポジション。
 かつて親父の命を何度も救ったその位置取りを本能が再現する。

「反省してますか?」

「はいっ!ええっ!そりゃーもうっ!平にー平にお許しをっ!!」

 殺気がっヤバイほどの殺気が。
 ……いきなり消えた。

「もうしません、とは言わないんですね」

 続いたのは、やけに嬉しそうな口調。
 ……なんじゃそりゃ。

 いよいよ呆れられたのか?
 本格的に心臓がバクバクと鳴った。

「キヌ、俺……」

 見上げると、微笑みながら涙を流す……妻。

「あ、えーと。おしおきフルコース、行きますよ?」

 涙を拭ってチョップを振り降ろす。
 一見可愛いその仕種が、恐怖の破壊力を秘めている事を俺は知っているのだが……

「どした?キヌ……」

 栄光の手で、攻撃を受け止めて見つめると、キヌは微笑んだままポロポロと涙を零した。

「浮気に怒る妻なんです」

「それは……そうだろうけど」

「本当に怒っているんですよ?」

「……すまん」

「でも、嬉しいんです。あなたが満たされたのが……わかって」

「……キヌ」

「それで、悔しいんです。あなたの傷をわたしだけで癒してあげられなかったことが」

 何と言うか……言葉も無かった。
 お見通しだ。

「キヌ。なんちゅうか。……俺、お前大好きだ」

 そんな陳腐な台詞しか出ない自分に呆れつつ。
 噛み締める。
 どんな時でも俺を見つめて、俺以上に俺を知ってくれる妻。

「知ってますよ、そんなの……わたしもあなたが大好きなんですよ?」

「そっか」

「でも、まあ。それとこれは別です」

 にっこりと。
 艶やかな程に美しい微笑みは、彼女の秘拳による『おしおきフルコース』の開始を告げていた。
 ……避けるわけにはいかなかった。



「あたし、おキヌちゃんにはちゃんと言ってるわよ?アンタだまってるつもりだったの?」
 翌朝、キヌが令子さんに連絡して始まった朝食。

 いかに命を守るかという命題を持って臨んでその席で彼女は軽やかに言ってのけた。

「事の翌日に話に来るってのも何ですけどね。わたし喧嘩売られてるのかと思いましたよ」
 苦笑して応えているキヌも少し楽しそうで。
 前に令子さんが『隠事なんかない』と言い切ったのを思い知る。

 ……怖ぇ。女たちが怖ぇ。

「結局さ。一番不器用なのが横島クンなのよ。鈍いし」

「美神さんもかなりだと思いますけど?」

 授業は午後からとかで、シロが寝てるのが救いだった。
 あいつにまで聞かれてたら、俺生きていく自信ないです。

「まーね。鈍かったからおキヌちゃんに先こされたんだし。……あたしだって今の状態は
 非常識だと思うわよ。だけどさ、自分の気持ちを大事に生きてみたらこーなっちゃったん
 だもん、……許してね?」

 俺など存在しないかの如く、キヌを見つめる令子さん。

「独占欲より愛情が勝っちゃったから……仕方ないです。節操無く手を出したら、それは
 許せませんけど、美神さんは知ってたし、もともと先客がいたんですし」

 先客……たぶん、ルシオラ。
 キヌは俺の心に未だ彼女の影がある事を承知で結婚してくれた。
 令子さんも全て承知で俺との関係を選んでくれている。

 いいのか?
 仲睦まじい二人を見つめながら、問い掛ける。
 かけがえのない、愛しくて、大切な、けして失いたくない人。
 俺のいい加減な態度で傷付いているだろうに。
 もっと幸せになる道もあったろうに。

 いいのか。
 俺の夢は両手に花だったもんな。
 昨日の少年に羨ましいだろ、と心で話しかけてみる。
 絶望と悲しみを超えて。
 俺は幸せを手にいれた。
 生きるという選択が満たしてくれた今を受け止めていいのだろう。

 二人の間に交される言葉は優しくて暖かくて。……ちっと恐ろしくて。
 やがて二人は、精神的にはミクロサイズまで小さくなっていた俺を見つめて、にっこり
と微笑む。

「愛してますからね?」
「大好きよ」

「拙者もでござるよ?」
と、パジャマのままで目をこすりながら、シロが登場して、俺が悲鳴を上げた所で、
このお話は終えておこう。

 日々は終わらず、ただ少しずつ変わりゆく。







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ちょっと暇をみつけると書きたくなってしまうGSの魔力。
恥ずかしい出戻りです。
書いてなかったSide横島君。
男の子の一人称は難しいね。

追記・新コンテンツも出来てるのでいいわけ
   わたしが書く美神さんの一人称「あたし」は取りあえず、
   書き手の勝手な感覚により意図して変えてます。(他のキャラも多少)
   違和感ありまくったら、ごめんなさい。
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