永遠のあなたへ(23)
投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 6/12)
梅雨の頃とは打って変わった鮮やかな紺碧の空に、真夏を控えて少し強い日差し。
オゾン層破壊で紫外線がどーのこーのとうるさい昨今だが、まだ夏真っ盛りには少し間があるせいか、帽子なしで外出している人の姿も結構見かける住宅街の一角。
ピートの写真と尋ね人のビラを入れたクリアファイルを小脇に抱え、唐巣は、今日も地道なビラ貼りと聞き込みに回っていた。
ピートが失踪して、すでに十日以上。
警察も、捜査範囲を教会近辺を中心にしてかなり広げているが、ピートの捜査は、はっきり言って手詰まりだった。
本人の霊気は現場で途絶え、誘拐犯のような不信人物も、本人が自主的に姿を消す理由も見当たらない。例の吸血事件も、何か関わりがあるのでは、と並行して調査が進んでいるが、そちらも不可解な点が多く、このままでは迷宮入りになりそうだと言う気配が漂っていた。
(何でも良い・・・本当に、何でも良いんだ)
手前に見つけた公園の入り口に、掲示板があるのを見つけ、小走りに駆け寄りながら心の中で呟く。
そして、掲示板の前に立って、まだビラが貼られていないのを確認すると、唐巣は小脇に抱えていたファイルから、ビラと画鋲を取り出した。
「おっとと・・・」
汗で滑ったのか、気が焦っていたのか。
画鋲をケースから取り出そうとした弾みに、箱ごと落としてしまい、熱を持ったアスファルトの路面に、ザラッと金色の画鋲が広がる。
公園の前と言う事で、子供もたくさん出入りする場所だ。
慌ててその場に屈み込み、急いで拾い始めたその時、唐巣の視界に、フッと影がさした。
「?」
不意に影がさしたため、瞬間的に涼しくなったのを感じながら、顔を上げる。
すると、白い日傘を差した長い黒髪の女性が、静かな微笑をたたえて、唐巣の方に日傘を差しかけていた。
「・・・手伝います」
「あ・・・ど、どうも」
スッと屈み込んで、画鋲を拾い始めてくれたのを見て恐縮し、頭を下げる。
どこかの山の手の、良いところのお嬢様だろうか。
肌色にちょっと桃色を加えたような、落ち着いたピンク色のルージュに、青いスカートと白いブラウスと言うすっきりしたいでたちで、世間ずれしてなさそうな−−−悪く言えば世間知らずな感じの、どこか浮世離れした品の良さが雰囲気に滲み出ている。
女性は画鋲を拾い上げると、そのまま立ち去らずに、唐巣がビラを貼り終わるのを、日傘を差しかけながら見守っていてくれた。
「・・・すみません。手伝って頂いて」
「良いんです。・・・あの。どなたかお捜しなのですか?」
ビラを貼り終わった後、丁寧にお辞儀をしてきた唐巣に、そう尋ねる。
頭を上げて、尋ねてきた女性が見ている方に目線をやると、そこには先ほど貼ったビラがあった。
「ええ。十日ぐらい前から行方不明なんです。何でも結構ですから、どこかで見かけたら教えて頂けませんか?」
「まあ・・・わかりました。見かけたらお伝えします」
「はい。よろしくお願いします。・・・それでは、私はこれで。ありがとうございました」
「ええ」
もう一度軽く頭を下げると、小走りに立ち去って行った唐巣を、笑顔で見送る。
そして、唐巣の姿が前方の曲がり角に消えた直後、日傘の女は−−−加奈江は、先ほどまでのにこやかで明るい感じとはまるで違う、陰の篭もった低い声で呟いた。
「・・・チッ。やっぱり、隙が無いわね・・・」
接触して、隙あらば自分の血を飲ませようと思って尾行していたのだが、さすがはGS業界屈指の一流GS。
おっとりした外見とは裏腹に、動きに隙が少なく、まだ魔物の力を手に入れたばかりの加奈江に、付け入る隙は無かった。
(あの人に永遠を与えれば、ピエトロ君も喜んでくれると思ったのに・・・)
小さくため息をついて、日傘の柄をくるくると回す。
(やっぱり、永遠を与えるのは難しいわね・・・)
まあ、よく考えれば、血を吸うよりも飲ませる方が面倒かつ困難な事である。
加奈江は、もう一度小さなため息をつくと、軽やかな仕草で身を翻し、ある一点の方向を見つめて呟いた。
「・・・やっぱり、先にあっちをやった方が良いわね・・・」
唐巣の教会や令子の事務所、オカルトGメンの日本支部などがある方角。
−−−そして、その中にはもちろん、小笠原エミの除霊事務所もあった。
「エミさん。お疲れ様ですケエ」
「・・・ん。ありがと」
深夜。もうそろそろ日付が変わろうかという時刻。
小笠原エミゴーストスイーパーオフィスの事務室で、書斎机とセットで買った椅子に深く腰掛けたエミは、助手のタイガーからアイスコーヒーの入ったグラスを受け取ると、少し長いため息をついた。
「・・・今日は終わりよ。もう休みなさい」
「ハ、ハイ。・・・あの、エミさんも無理はせんと・・・」
「わかってるワケ・・・!」
「・・・・・・」
『わかってる』と言いながらも、まだ机のパソコンに向かおうとしているエミの姿がちらりと目に入るが、何も言わずに−−−言えずに部屋を出る。
これから、パソコンのネット上でピートの情報が何かないか調べるつもりだろう。
タイガーは自分の部屋に戻ると、アーミー仕様のジャケットを脱ぎ、ベッドに腰掛けた。
以前、エミがタイガーを呼び寄せた時、彼が大柄だと聞いて、下宿用にと取り寄せてくれたビッグサイズのベッドで、通常のシングルベッドの一・五倍の大きさと強さがあるが、タイガーの予想以上の体格の良さに、彼が乗ると、そのベッドはいつも、キシキシ、と小さな音を立てた。
いつもなら聞き慣れている筈のその音が近頃何故か、耳に痛い。
(・・・ワッシは大柄なばかりで、こういう時には役に立てんのかノー・・・)
ピートがいなくなってからずっと、彼を捜しに走り回っているエミの事を考えながら、そう心の中で呟く。
その巨体から有り余るように溢れるパワーは、タイガーの重要な力の一つだ。
しかし、人捜しにはあまり役立つ力ではない。精神感応力も、その場にいる見えない霊体を燻り出すには効果的だが、霊波の残留物を追う−−−霊視には、それほど役に立たなかった。
(エミさんが本当に困っている時に、ワシは・・・)
人捜しのような作業には、あまり向いていない自分の力と性格を考えて、ため息をつく。
「・・・?」
その直後。
事務所の全体が、何か奇妙な気配に包まれたのを感じて、タイガーは、ふと天井を見上げた。
今までの
コメント:
- 前にも言いましたが、一番好きなのはピートですが、全部のキャラに愛着持ってます。
だから、出来るだけみんな出したい!(欲張るなっての)・・・と言うわけで、今回
はタイガー出してみました(笑) (馬酔木)
- 次回こそ、二人の本当の決闘が見られそうですね。
タイガーがどう絡んでくるのか、楽しみです。 (NEWTYPE[改])
- そういや加奈江さん、一応黒以外の服も持ってたんですねぇ(失礼)。
さりげなく描かれているタイガー寅吉の悲哀がまた、何とも。 (Iholi)
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