ザ・グレート・展開予測ショー

ミナモト氏物語 (絶対可憐チルドレン)


投稿者名:進
投稿日時:(05/ 6/23)

 いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひけるなかに、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり・・・

 いつごろの話であったでしょうか、帝に仕える女御や更衣と呼ばれる女性達の中に、常ではない御寵愛を受けた方がいらっしゃいました。その方はやがて御子をお生みになるのですが、まわりの嫉妬などから心労で儚くなってしまわれます。残された帝はそれはたいそうお悲しみになられました。
 その帝、桐壺帝は残された子供をとてもとてもかわいがり育て・・・なんやかやあって、御子は成人されました。その名を光源氏と申します。

「皆本クン・・・今日は君の成人の祝いだ。よく大きくなったネ」
 桐壺帝は、大好きだった人の遺児ですから光源氏のことが大のお気に入りだったのですが、帝という立場上、そうそう親しくも出来ません。よそよそしく挨拶したりします。
「はあ、ありがとうございます。」
 なぜかこの時代に眼鏡をかけている皆本・・・いや光源氏、眼鏡はおそらく唐の国から渡ってきたのでしょう。この時代の変わった物は対外、唐からの輸入品なので、そう思うことにします。
 さて、この光源氏、噂に聞くと大層美しく頭もよくスポーツも万能という完璧超人ですが、実際のところ顔立ちやスポーツは並でした。しかし、頭だけは非常によく、ESPについての論文などを発表したりします。
「・・・皆本クン、それはなんの役に立つのかネ?」
「いや・・・さあ・・・」
 まあ、この時代の芸術がなんの役に立つのかといわれても、後世では貴重な文化財にもなるでしょうが、今現在では高貴な方のお遊びです。ESP理論と似たようなものです。とはいえ歌や琴などを重要視する昨今、桐壺帝としては、本人以外よくわからない理論をひねくり回しているわが子の行く末が気になります。実は光源氏は妾の子供であったので、だれも後ろ盾がいないのです。
 と、その場に居た左大臣とその妻・大宮。光源氏に将来性を見出したのか、はたまた道楽なのか、光源氏を自分の娘の婿にしたいと言い出します。婿にするということは、自分が面倒見てやるということになります。
「ウチの娘は、それは気立てのいい子やし・・・まさかイヤとは言いませんわなあ?!」
 大宮が熱心に結婚を勧めます。光源氏としては大宮の京都弁――いや、確かにここは京の都なのですが――が気になりまして、というか京都弁で話すこの方の子供に予想が付くので断ろうとしますが、大宮の怖いメンチについ頷いてしまいました。
「よっしゃ、ほな今晩にでも祝言や」
「えええっ、今日?!」
 大宮さん、気の早い方です。隣で聞いていた桐壺も急な話に驚きましたが、口を挟む前に光源氏を家に連れ帰ってしまいます。残された左大臣が非常に気まずそうでした。


「おいでやすー、皆本はん」
 祝言の場に出てきたのは想像通りの方でした。光源氏、がっくりと項垂れます。
 肩までの黒髪に、やや釣りあがった目、そこに光源氏と同じような眼鏡をかけた10歳ぐらいの童女――いや、女性です。名前を葵の上と申します。
「葵の上は、光源氏より年上のはずだが・・・?」
 初めて会った割には、二人とも気安く話します。本当は和歌などを読んで相手の気持ちを確かめ合うのですが、いままで研究一筋であった光源氏、そんな洒落たことはできません。源氏物語の本物の源氏が聞いたら泣きそうですが。しかし葵の上も気にした様子もありませんので、ここではこれで良いことになっています。
「いややわ、皆本はん、そんなこと言うたら、光源氏は超美男子のはずやで」
 噂とは怖いものです。そんなことを言いながらも祝言は無事終わり、晴れて光源氏と葵の上は夫婦となりました。

 さて次の日、自宅に帰ってきた光源氏は新婚ほやほやに関わらず、部屋で研究を進めます。というか結婚したことにあまり触れたく無いようです。ちなみに、同時は通い婚と言いまして・・意味はインターネットででも調べてください。とにかく夫婦は別居しています。
 この調子で行けば、残る二人も出てくることが間違いない・・・そう思った光源氏は、必死でESPの研究を続けます。早くESPリミッターを開発する必要があります。
「あの二人のことだ、葵と結婚したことがバレれば、からかわれる程度ならまだ良いが・・・」
 最悪殺されそうです。いくら自分は無理に結婚させられたのだといっても、通用しそうにありません。
 そんなわけで、妻である葵の上のところにも行かずに自宅に引きこもっているため、夫婦不仲説が都に流れました。そうすると一応、帝の子供である光源氏に言い寄ろうという人も出てきます。その中でもひときわの大物が、六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)様です。なぜこの人だけ様付けかというと、非常に怖い女性だからです。恋敵を呪い殺すなど朝飯前なお方です。役に当てはまる人員がいないので適当に人選しましょう。
「光源氏殿、私の部屋に参られぬか、ふしゅるるるー」
 ・・・見た目も怖くなりました。誰とは言いませんがあの方です。本当の六条御息所様は美しい方ですので恨まないでください。
 さて、役所――光源氏は公務員です――でターミネーターっぽいものに迫られる光源氏、ビビッてしまって逃げることも出来ません。あうあう言ってるうちに六条御息所様の魔の手が伸びます。
 しかし、ひゅうん、という音とともに、六条御息所様が消えました。そこに現れたのは葵の上、彼女が持つ“てれぽーと”能力なるもので、六条御息所様をどこかに飛ばしたのでした。
「危なかったなー、皆本はん。」
「いや、まったく・・・ありがとう。」
 光源氏は噂どおりの超美形ではなかったものの、葵の上、意外と光源氏を気に入っておりました。襲われかけたため、やつれた感じの光源氏に礼を言われ、やや顔を赤らめたりします。そのまま光源氏を自宅に連れ帰ってしまいました。
 さて、収まらないのは六条御息所様、気が付くと庭の池にはまっており、恥をかくことこの上ありません。野生的なカンで葵の上の仕業と気付き、復讐を誓いました。
「おのれ小娘が・・・目に物見せてくれようぞ・・・そしてその後は光源氏殿と・・・ふしゅるるるるる」
 左大臣邸(葵の上の家)で葵の上と食事などしていた光源氏は、急な悪寒を感じて倒れこみます。
「どうしたん、皆本はん。」
「い・・・いや、寒気が」
「そりゃようないわ、今寝床を用意するさかい、休んでき」
 心配そうな言葉とはウラハラに、葵の上の眼鏡がキラリと光ります。逃げようとする光源氏ですが、彼女の“てれぽーと”で寝床に押し込まれました。部屋に飾られていた牡丹の花が落ちたかどうかは不明です。


 数日後、どうにも悪寒が治らない光源氏は、「北山」という山にある寺に腕の良い医者が居ると聞き、一人で行ってみることにしました。薬を貰ったり、祈祷してもらったりとしていると気分も晴れてきます。どうやらここまでは六条御息所様の怨念も届かないようです。
 一息ついていた光源氏の前に、一人の童女が進み出てきました。と、手に持っていた小雀を離してしまいました。小雀は空に飛び去ってしまいます。
「ああ、すずめが逃げてしまったわ、どうしましょう」
 童女がえらく落ち着いた口調でそんなことを言います。しかもこの場に居るのは光源氏のみで、どうも彼に向って言っているようです。
「どうしましょう。」
 光源氏に近づいてきて、再び言いました。確定です。
「どうしましょうって言われても・・・」
 捕まえるにしても、雀はもう見えません。居たとしても、光源氏に野鳥が捕まえられるとは思われません。
「それもそうね。」
 と童女は光源氏の隣に座ります。よく見ると大変美しい子供です。紫色のふわふわした髪に、すこし下がり気味の目、立ち居振る舞いも気品を感じさせます。紫と名乗りました。
「紫穂・・・あまりにもワザとらしくないか?」
「・・・そうかしら」
 初めてなのに気安く話すのは、葵の上と同じような感じです。紫・・・子供なので若紫と呼びましょう。若紫は大貴族の娘でしたが、妾の子供であったため正妻に虐められ、ここに逃げてきていました。
「でもやっぱり都に帰りたいわ、山の中じゃ退屈だし、誰か都で面倒見てくれる人が居れば・・・だーれーかー」
「早く帰れると良いね。」
 光源氏としましても、若紫が遠まわしに「自分を都に連れて行け」と言っている事に気が付きましたが、彼にも正妻・葵の上がおり、しかも見た目、葵の上と若紫は同い年ぐらいに見えます。いろいろマズすぎます。
「ふーん・・・」
 と若紫、光源氏の袖に触れてみます。きらきらとした光が若紫の手から発せられます。
「奥さんが怖いのね。」
 光源氏はビクっと震えます。意外と葵の上は結構嫉妬深いのです。六条御息所様はもちろん、以前にも光源氏に言い寄ろうとした女性は何人か居たのですが、それらの女性にちょっとでも気を向けようものなら、“寸止めすかいふぉーる”なる技で仕置きされるのです。
「でも大丈夫、葵ちゃんとは友達だし。家に匿って黙っていれば判らないわ。」
 そりゃまあ匿えば判りませんが、光源氏は、なぜ自分がそこまでしなくてはならないのか、と思ったりします。
「連れて行ってくれないなら、それでもいいのよ。でも、後でどんな噂が広まるかしらー」
 何気なく若紫は言ってますが、聞いている光源氏の方は顔色悪く、冷や汗まで出ています。彼女が「光源氏が自分を狙っている」とか「手を出された」などと言いふらすのが目に見えるようです。しかもこの若紫、 “さいこめとりー”という力で人の思惑を言い当てることができました。そのせいで、彼女の言う言葉を真実と思うものも少なくないのです。
「それに・・・私、こんなところで義母を避けて暮らすのはイヤ・・・」
 目に涙を浮かべながら、うつむく若紫に光源氏はハッとします。彼も妾の子でしたから、そういった苦労もしてきました。同じ苦労を若紫にさせるのは忍びない・・・
 光源氏、はっきり断ることが出来なくなってしまいました。ので若紫が勝手についてきました。しかし他人から見れば光源氏が連れてきたことになるでしょう。はっきり言って誘拐です。
「あああ・・・これからどうしたら良いんだ・・・」
「なるようになるわよ。よろしくね、皆本さん。」


 北山から帰ってきた光源氏、葵の上に若紫のことがばれないか心配です。そのほかにも、六条御息所様にばったり会ったりしては怖いし、もう二人目まで出てきてしまったため、早くESPリミッターを作り上げねばと研究にも熱が入ります。そんなわけで以前にも増して引きこもります。ますます本当の源氏とはイメージがズレていきます。

――皆本はん、今日こそ来てや今日こそは、もし来んかったら“すかいふぉーる”  葵の上――

 しかしこのような歌が届いてしまいました。さすがに無視するわけにもいきません。光源氏、若紫に見送られながら左大臣邸に向います。
「浮気しちゃダメよー」
 どっちかというと若紫のほうが浮気相手なのですが、とにかく光源氏は葵の部屋までやってきました。そこで見たものは・・・
「久しぶりやな、皆本はん。フツー、正妻をこんなほっとくか?」
 久しぶりといっても2,3日毎には呼び出されています。しかし彼女としては、毎日来て欲しいのです。
「まあ、それはええわ、ところで皆本はん、ウチ、子供出来たみたいやねん。」
 がらがらがらがら・・・光源氏の足元が崩れ落ちます。もちろん内面的な描写ですが。震えながら葵の上を見る光源氏、確かにお腹が少し膨らんでいます。
「もちろん、皆本はんの子やで。」
 息も絶え絶えにあえぐ光源氏に、葵は詰め寄りました。医療費、出産準備金、養育費などを出してもらわねばなりません。もちろん、自分――の実家――のほうが金持ちなのですが、それはそれです。
 詰め寄った拍子に、葵の上の着物のすそから何か転がり落ちました。枕です。枕を落とした葵の上は、いつもどおりのスタイルです。ぺったんなどとは申せません。
「「・・・」」
 しばらくの間、言葉もなく見詰め合う二人。しかし愛情を確かめ合っているわけではありません。先に我に帰った葵の上が、枕を拾い、抱き上げました。
「もう生まれたわ、皆本はん。」
「そんなわけあるかーーーーっ!」


 しかしなぜか葵の上が光源氏の子供を生んだということにされてしまいました。源氏物語がそうなっているので仕方ありません。桐壺帝や左大臣、大宮に祝福されたりします。
「皆本クン・・・キミってやつは・・・キミってやつは・・・」
「家の娘によくも・・・」
「まあまあ、めでたいことどす。これからも葵をよろしゅうおねがいしますえ」
 喜んでいるのは大宮だけのような気もしますが一応祝福されました。しかしこうなると面白くない人が一人います。そう、六条御息所様です。以前にも葵の上に恥をかかされて、その後も光源氏にモーションをかけるものの、すっかり怯えてしまって――最初からですが――乗ってこない。
「その上に、子供まで生まれようとは!」
 そうとなったら即実行です。六条御息所様は寝所にこもり、祈祷を始めました。するとどうでしょう、彼女の体から黒いもやが沸き立ち、人の形を取ります。これが都中・・・主に光源氏とその愛人たちを悩ませた六条御息所様の生霊です。ちなみに彼女は死んだ後もこれをやりますので、その場合は怨霊となります。

 生霊となってやってきた先は、当然葵の上の部屋です。彼女は生まれた御子――代わりの人形を――大事そうに抱いて、本など読んでいます。さすがに枕をのままではマズイとおもったのでしょうが、それが人形に代わっても大差ありません。光源氏はバカバカしいと思いながらも、彼女についていなくてはなりませんでした。だって、一応パパになったわけだし。
「なってないっ!」
「なんや急に皆本はん。」
 光源氏、「なんでもない」と言いながらも、つい愚痴ってしまいます。
「その人形は何とかならないのか」
 かわいい人形ですが、それを子供として育てろといわれても困ってしまいます。
「ううっ・・・冷たいお父はんやね・・・大丈夫、ウチがちゃんと育てて・・・」
 芝居がかった葵の上の言葉に、光源氏はため息を付くばかりです。さすがに気の毒になったのか、葵の上が光源氏を慰めます。
「お話上、ここで子供が生まれることになっとるんやからしゃあないやん。それに・・・」
 つつつ、と光源氏に寄る葵の上。
「ホントの子供ができるまでの辛抱やて。ウチ、皆本はんの子供やったら・・・」
 頬を染める葵の上。しかし、そんなラブラブな雰囲気がなおさら六条御息所様の生霊に力を与えます。
「ふしゅしゅしゅしゅるるるるーーーーー!」
 部屋に飛び込んでき生霊、原典では葵の上はこの霊に取り殺されてしまいます。危うし、葵の上!
「ほいっと。」
 しかし、葵の上は掛け声一つで生霊を消してしまいました。何のことは無い、“てれぽーと”で他所へやったのです。霊の類にも“てれぽーと”が効くのかどうかは疑問ですが、とりあえず生霊は飛ばされてしまいました。飛ばされた先は帝の屋敷です。
「な、なんだネ、アレは?!」
「霊!、霊のようですな!」
「なんや、六条御息所様によう似てますな。」
 打ち合わせをしていました桐壺帝と左大臣、大宮は生霊を見て驚きます。似ているというより本人ですので、知ってる人には、すぐに誰かばれてしまいました。そんなわけで、六条御息所様は化けて出るぞ、という噂――というか事実――が都に流れます。六条御息所様もさすがに都に居づらくなり、伊勢へと落ちて行かれました。しかし、六条御息所様もただでは済ませません。こうなれば毒皿よと、伊勢へ行く前に生霊を各地に出現させ、光源氏の悪口を言って回りました。これまた噂になり都中に広まります。
――光源氏は、桐壺帝を廃して自分が取って代わるつもりである。
――光源氏は、都中の娘を次々とたぶらかしている。
――光源氏は、年端も行かない少女と、口に出せないようなことをしている。
 噂は桐壺帝の耳にも入りました。桐壺帝は光源氏の父なのですから、噂など、どうということはありませんでしたが、しかし外面的なものもあります。しかも、最後の噂だけは本当のような気がしてしかたありません。
「皆本クン・・・まさか本当にヤってないだろうネ・・・?」
「そっ、そんなわけありません、してません!」
「しかしキミ、最近は紫穂クンも引き取ったそうじゃないかね?しかも誘拐気味とか」
「いや、あれは紫穂が勝手に!」
 日に日に桐壺の追及が厳しくなります。このままではやってないのにやった、と言ってしまいそうです・・・本当にやってないのか?

「・・・というわけで、しばらく須磨で蟄居することにした。」
 光源氏は、家に居る若紫・・・今は成長したので――そんなに時間は経過していないような気もしますが――紫の上に、そう伝えます。紫の上はよよよ、と泣き崩れ、その場に伏せてしまいました。
 この子も、自分が居なくなると身寄りがなくなるんだよなあ、と光源氏は考えます。しかし蟄居するのに女性を連れて行っては、「お前ほんとに反省してるのか?」と言われてしまいます。まあ、屋敷や使用人はそのままなので、彼女が生活するには問題ないはずです。
「・・・だから、心配することは無いんだ。」
 と光源氏は言いますが、紫の上は寝床に臥せったまま何も言いません。さすがに心配になった光源氏、様子を見に来ました。
「紫穂、大丈夫か? 紫穂? うわっ!」
 臥せる紫の上の様子を見ようとしたとき、御簾の中から手が伸びて光源氏を捕まえます。そして彼が驚いている間に、中に引っ張り込みました。
「あれー、皆本さんが、おたわむれをー」
 当時、高貴な女性の御簾の中に入るということは、そういうことになります。しかし光源氏としてもいきなり引っ張り込まれて、おたわむれと言われる筋合いはありません。
「な、なんだ、紫穂。元気じゃないか!」
「心配した?」
 イタズラそうに笑う紫の上。顔色も良く、その寝所にはポッチーやらNENNEやらが置いてあり、とても病気のようには見えません。彼女は光源氏が寝所まで来るのを待っていたのですね。
「だって、葵ちゃんは先に子供作っちゃうし、私も遅れちゃいられないかなって思って。」
 光源氏は、引きつった顔で下がろうとします。しかし紫の上は離そうとしません。
「ここで逃げたら、どんな噂がー」
「逃げなくても噂が立ちそうだよ!」
「どうせ噂が立つなら、逃げないほうが得じゃない?」
 損得の問題ではありません。
「それとも・・・私がキライなの? 皆本さんも私を疎んで捨てるの・・・?」
 光源氏も紫の上も、同じく妾の子だったので・・・略。とにかく、光源氏は紫の上にあまり強くいえません。そうこうしている内に・・・朝になりました。その間の詳細は不明です。ただ、部屋に飾ってあった牡丹の花が・・・


 さて葵の上にも別れの挨拶をして――また一晩かかりました――都を出発してきた光源氏。須磨に行く前からやつれた感じがします。しかし彼にも希望がありました。須磨は何も無い田舎であり、都の風情など全くありませんが、光源氏にとっては彼の研究を妨げるものの無い安息の地です。妻とか愛人とかも居ませんし。やがて須磨に到着した彼は、その思いを強くします。いっそ、ここで一生暮らそうか・・・そんなことも考えたりします。
 須磨に移り住んで1年・・・・・・・・・いや、一週間。これ以上待たすなと、ある方に叱られました。なにしろここまで延々と待たされているのですから、彼女のイラつきも相当です。ある日、須磨での光源氏邸が吹き飛びました。ええ、それはもうあっさりと。後日の噂では、赤い髪の雷様が稲妻を飛ばして光源氏邸を破壊したとも言われます。呆然とする光源氏。なんとか研究資料などは回収できたものの、家はどうしようもありません。これからどうしたものかと途方にくれます。
 と、そこへ現れたのが現地の役人の“明石の入道”です。彼はそれなりに有名な人間でしたので、光源氏も名前ぐらいは知っていました。明石の入道は困っている光源氏に、住む場所を世話してあげるから、明石に来なさいと言います。行く宛てもない光源氏は、恐縮しながらもお世話になることになりました。

「どうもすみません、お世話になります。」
 部屋に案内されて、光源氏は頭を下げます。本当は高貴な人はそうそう頭を下げてはいけません。しかしそういったツンケンしたところがないのは光源氏の良いところでもあります。明石の入道は光源氏を気に入り、ぜひ娘に会ってくれと言い出しました。
「ええっ・・・いや、しかし自分はもう妻のある身でして。」
 光源氏は断ろうとしますが、当時、妻が居るからというのは断る理由になりません。なにしろ光源氏だって正妻(葵の上)のほかに妻(紫の上)をもっています。まあ、そう言わずに、と無理やり娘の部屋の前まで連れてこられ、あとは若い者同士で、と投げ込まれました。
 部屋の中には御簾がかけてあり、その奥には当然、明石の入道の娘、明石の君がいるはずです。無理やりとはいえ女性の部屋に入った光源氏、失礼があってはならないと威儀を正します・・・が、もう中に入っているのが誰なのか予想が付いています。
「近くによるぞ」
 紫の上のことがありますので、御簾に引き込まれない程度に近づきます。彼女には天下無敵の“さいこきねしす”がありますので、たとえ部屋の外からでも引きずり込まれるのですが、そこはそれ、光源氏にはようやく完成したESPリミッターがあります。つい先日完成しました。これさえあれば明石の君の“さいこきねしす”も怖くありません。
「あー、僕はなあ、君のことが嫌いじゃないんだけど・・・」
 これ以上妻を増やせば、自分自身の身が持ちそうにありません。ここは断ろうと思って声をかけました。当然、ESPリミッターのスイッチに手をかけたままです。
 しかし・・・御簾の中に居たのは明石の君ではありませんでした。
「ふしゅしゅしゅしゅるるーーー! やはり、やはり光源氏殿はわらわのことをーー!」
 なぜか明石に来ていた六条御息所様。彼女が御簾の中から飛び出してきました。
「うわーー!、うわーー!」
 光源氏、逃げようとしますが、完全に虚をつかれたので腰が抜けました。後ずさりますが、逃げられそうにありません。
「まっ、光源氏殿、わらわの顔をそんなにお見つめになるとは・・・」
 当時、高貴な女性の顔を見ることは大変な失礼にあたりました。顔を見て良いのは夫か父か、のみとなっています。つまり、六条御息所様は自分の顔を見た光源氏はもう夫も同然だと言っているのです。そのわりには都で散々、他の人にも顔を見せていたような気がします。特に生霊として噂をばら撒いていたときなど。
「今、ここで結ばれましょうぞ!」
 迫る六条御息所様、逃げる光源氏、しかしここに助けの手が入りました。
「こらぁーーーっ! オバハン、人のモンに手を出すんじゃねえーー!!」
 六条御息所様は不思議な力でむんずと掴まれ、ぽいっと海に捨てられました。十二単を着ているので、海に沈んでは命に関わりそうです。しかし六条御息所様ですから大丈夫でしょう。
「まったく、人が準備で遅れてる間に、勝手に入り込みやがって!」
 そこでやっと登場したこの姫様、名前を明石の君と言いました。赤い髪に勝気そうな瞳、都には居そうに無いタイプですが、結構美人です。“さいこきねしす”を使うのは先ほど申し上げた通り。
「助かった・・・薫。」
「よ、よう皆本。ようやくあたしの番だよな。」
 そう言って、明石の君は顔を赤らめます。彼女はずいぶんと待たされたので、さっきまでお冠だったのですが、今は着物で着飾っているせいもあり、いつもよりおしとやかに見えます。いつもといっても会うのは今日が初めてのはずですが。
「ああ、その、な、実は・・・」
 はっきり言わない光源氏ですが、その口ぶりから明石の君は察します。くりくりっとした瞳に涙がにじんできました。唇を震わせながら、それでも気丈に言葉を返そうとします。
「そう・・・か、そうだよな・・・あたしなんかじゃ、さ・・・」
 どうあっても断ろう、と思っていた光源氏でしたが決意が緩んできました。さきほど言った通り、彼女のことが嫌いだというわけではないのです。しかも相手は泣くほど自分のことを好いてくれています。
 そこへ先ほどの騒ぎを聞きつけてきた明石の入道、娘の部屋に入って二人を見るなり、ぱん、と手を打ちます。娘の顔を見た光源氏殿こそ、娘が嫁ぐお方である、と。
「「あ」」
 そういえば御簾は六条御息所様が飛び出てきたときに破れてしまっていたし、明石の君の力で部屋はぼろぼろ、彼女の顔を隠すものは何もありません。その上、先ほどから普通に顔を合わしていたことに気が付きました。明石の入道、それ、とばかりに別室の寝所に二人を放り込みます。そしてあとは若いもの同士で、とまた去っていきました。
 気まずいのは残された二人です。背を向けて座ったままでしたが、明石の君がポツリと言いました。
「あたしから、オヤジに言って断ってもらうよ。大丈夫、追い出されたりしないように頼むから・・・」
 いつも元気で傍若無人な明石の君が、ここまで言うとは・・・と光源氏は心を打たれます。だから、“いつも”っていつ会ってたんだ?というつっこみは無しです。
「いや、薫・・・その・・・」
 光源氏は言いよどみますが、ここでモタモタしていては明石の君の心をさらに傷付けることになります。覚悟を決めて言いました。
「・・・僕が都に帰れる日が着たら、いっしょに都に行こう、いっしょに暮らそう」
 言ってしまいました。葵の上や紫の上に仕置きされること確実です。しかし、明石の君を悲しませるよりはこれで良かったんだな、と光源氏はむしろ晴れ晴れと思いました。
「み・・・皆本?」
 彼女の目は驚きに、そして喜びに潤み、次いでいつものイタズラっぽい目になりました。
「へっ、へへへ・・・まあ、皆本がどうしてもっていうなら、一緒になってやるよ。しかたねーしな。」
 結構意地っ張りですが、これでこそ明石の君という気もします。
「そうと決まれば!」
 明石の君の“さいこきねしす”が光源氏を捕まえ、寝所に横たえます。首を振ってもがく光源氏ですが、びくともしません。
「かっ、薫、何を?!」
「結婚するとなれば、ヤルことは決まってんじゃん。」
「いやまだ早い、僕は清らかな関係をだな!」
「都にゃ子供まで居るくせに、いまさら何を。」
 あれは人形だろうが!、と言おうとして光源氏はESPリミッターの存在を思い出しました。懐に手を伸ばします。しかし、ありません。無いのです。六条御息所様の騒動で落としてしまったようです。今までの研究は何のためだったのかと凹みます。
「あたしに恥かかせんなよ・・・」
そんなわけで、またもや何故か部屋に飾ってある牡丹の花が落ちたかどうかは・・・
「えいっ」
 明石の君の“さいこきねしす”で落とされました。


 桐壺帝から「もう問い詰めないから早く帰ってきなさい」という手紙が届き、いよいよ光源氏が都に帰る日がやってきました。ちなみに、光源氏が明石にやってきてからさらに1週間後ぐらいです。都合2週間で許される光源氏、原典でもこれぐらいであれば、源氏も苦労せずに済んだでしょう。
「もう少しこっちにいたかったかな・・・」
 明石でのゆっくりした暮らしが身にあったのか、光源氏、少々残念そうです。しかし、あまり明石が良いと言うと明石の君が「やっぱり私が良いんだな!」と暴走するかもしれませんし、葵の上や紫の上をほったらかしにして置いては、後々仕置きされそうです。もう明石の君を妻に迎えたことで、すでに半死ぐらいは覚悟している光源氏ですが、これ以上機嫌を悪くしては本当に殺されてしまうかもしれません。
「そんなわけで、僕は都に戻るよ。薫も・・・」
「ああ、それは行くけどさ、実は、子供ができちゃったんだけど。」
 といって、大きくなったお腹をさする明石の君。
「イヤちょっと待て!」
「なんだよ?嬉しくないのか?」
「僕が明石に来てからまだ一週間だぞ! 早すぎるだろう!」
 確かにその通りです。しかし明石の君はニヤリと笑って見せます。
「と言うことは、だ。時期さえ来れば、あたしに子供が出来る心当たりがあるってことだな?」
「ないっ!」
 光源氏、顔を赤くして否定します。そういうことにしておきましょう。

 ごちゃごちゃ話しながら、光源氏は都に戻ってまいりました。当然、明石の君も一緒です。身重の体では・・・と心配するものも居ましたが、どうせお腹に入っているのは枕か人形です。気にしたものじゃありません。明石の君、本人も時々入れ忘れたりしてますし。
 久々に戻ってきた京の都・・・なのですが、実質一ヶ月も離れていません。ここでは往復の日程は考えないことにします。とくに感慨深い思いも沸きません。それでも帰ってきたわけですし、色々な方に挨拶して回る必要がありました。
 まずは桐壺帝、そして左大臣・大宮夫婦のところに。挨拶に行きました。無事に帰ってきて何より、というねぎらいの言葉の後に、新しい妻、明石の君について嫌味を言われました。
 次には、正妻である葵の上のところに顔を出さねばなりません。原典では、この段階でもう葵の上は死んでましたので、このような苦労はなかったでしょうが、こちらの光源氏は正妻に妾を紹介するという難事をやらなくてはなりません。実際、紫の上についても葵の上に説明したことはありません。こちらも紹介しなくてはいけないのですが、なにしろ明石の君には子供(人形)が生まれそうです。難易度UPです。
「あー、葵・・・葵さん、ただいま帰りました。」
 光源氏、腰が引けています。当然でしょう。以前は女性に色目を使われただけで“寸止めふりーふぉーる”だったのです。実際に浮気して子供まで作っては、何をされるか判ったものではありません。
「・・・・・・・・・」
 返事が無いので近くに居た女御に聞いてみたところ、葵の上は出かけていると言います。問題が後回しになっただけなのですが、光源氏は安堵の息をつきました。しかし、話の続きを聞いてみると雲行きがどうも怪しい。葵の上は帰ってくる夫を迎えるために、光源氏の家に行ったのだということでした。
「マズイ!」
 先ほども申しましたとおり、紫の上について葵の上に説明したことはなく、かつ紫の上は光源氏の自宅に居ます。かち合うこと必至です。牛車を大急ぎで走らせ――あまり早くなりませんでした――、光源氏は自宅に帰ってきました。出迎えの人影が見えます。二人居ました。誰でしょう?判ってますね?
「おかえりやすー。」
「おかえりなさい。」
 葵の上と紫の上が並んで待っていました。特に怒っている様子も無いですが、光源氏にはそれが逆に恐ろしく思われます。
「・・・その、ただいま。」
 その上、今から明石の君を紹介しなくてはならないのです。あまり追い詰められると人間、自棄になるものです。もうどうにでもしてくれって感じで、明石の君を牛車から降ろしました。
「彼女は、その明石でね・・・」
 それでも冷や汗をかきかき説明しようとするところ、彼の小心さの表れでもあります。
「よー、久しぶり、葵、紫穂。」
「ひっさしぶりやねえ、前会ったんいつやっけ?」
「2ヶ月ぐらいじゃない?」
 和気あいあいと話す彼の妻たち。なぜか知り合いのようです。明石の君さえも。
「は?」
 状況が飲み込めない光源氏、声をかけるのもためらいます。
「ああそうそう、これ、紫穂に頼まれてたやつ。」
 ふところから人形を取り出し、紫の上に渡す明石の君。それって子供じゃなかったのか?といいたいところですが、光源氏、もう既に声も出ません。
「うわあ、ありがとう、薫ちゃん!」
「ウチも、前に薫に贈ってもらった人形、気に入ってるで」
「でも、薫ちゃんはいらないの?」
「あたし? あたしはいいよ。人形遊びなんでガラじゃないし、欲しくなったら皆本を人形代わりにするさ・・・って、皆本、さっさと入って来いよ、自分の家だろ?」
 妻たち3人は、家の玄関に入ってから、ようやく呆然としている光源氏に気が付きました。明石の君が“さいこきねしす”で光源氏をまるで人形のように持ち上げ、玄関に引っ張り込みます。
「説明してあげたら?」
「そうやね。」


 そのまま居間まで運ばれた光源氏、そしてその前3人の妻たちが座りました。
「実はウチら、前から知り合いやってん。」
 葵の上と紫の上はまだ顔を合わす可能性もあるでしょうが、明石の君も何故か友達でした。どこで知り合ったのかは不明ですが。
「最初に葵ちゃんから結婚したって聞いて、私たちも誰か見つけないとって話しをしてたんだけど。」
「これというヤツもいないしさ。」

 そんなわけでも婿探しをしていた紫の上(当時、若紫)と明石の君、しかし自分たちの理想にあった婿が見つかりません。お二方とも理想が高すぎるのです。葵の上も、本当はもっと立派で高貴な人と結婚する予定だったのですが、急に両親から結婚するよう言いつけられたので、仕方無しに光源氏と結婚したのでした。しかし、結婚してしまえば、何とはなしに愛着の沸くもの。意外と悪くない夫に、葵の上は満足します。そして紫の上と明石の君に自慢したりしました。
「まだ結婚せえへんの? ウチのダンナは、まあまあエエ人やで。あんたらもはよ探しや。」
 親に押し付けられた結婚ということも忘れているようです。しかし光源氏、源氏物語と違い、あまりぱっとしない男ですが、何が良かったのでしょう?
「まあ、優しいひとやし、面倒見は良いし。」
 貴族の男たちは、往々にして妻とは出世の手段であり、ステータスでしかありませんでした。そんな社会において、妻の我侭にアレコレ付き合う夫は珍しい存在です。
「まあ、何?フィーリングが会うってやつ?」
 などと葵の上の“のろけ”を聞くにつれ、明石の君と紫の上は焦ります。なぜ自分たちには良い相手が居ないのか・・・その内、そんな良い人ならこっちに寄こせよ、という方向に話が進んできました。葵の上はさすがに嫌がりますが、そこで策士・紫の上が葵の上に耳打ちします。
「皆本さんも、そのうち他のお嫁さんを貰うと思うのよねー、そのとき、すっごいイヤな人だったらどうする?」
 当時、妻を大勢娶るのもステータスでした。曲がりなりにも帝の子供である光源氏、イヤでも何人かは娶らなければ、世間の目があります。何か問題があるんじゃないか、などと思われては、その正妻である葵の上も面白くありません。
「どうせ他の嫁さんと付き合うならさ、あたしらの方が気心も知れてるし、良いんじゃね?」
 などと明石の君も説得に加わり、やがて葵の上が折れます。丁度、六条御息所様が光源氏にアタックをかけて来ていましたので、あんな人と一緒に妻をやるぐらいなら、というわけです。六条御息所様に、明石の君と紫の上がそれとなく光源氏の噂を流したことは、葵の上には内緒にされています。

 光源氏、そう言えば、紫の上と最初に会ったときに、葵の上とは友達だと言っていたっけ・・・などと今更思い出します。本当に友達だったのですね。ちなみに、3人が最初っから光源氏と面識があるように話していたのは・・・気のせいです。
「まあ、嫁さんは3人も居れば十分やし、これからはガッチリブロックするで。」
「ってか、他の女に手を出したら、絶対ゆるさねーからな」
「大事にしてね、皆本さん。」
 がっくり疲れたそぶりの光源氏、3人の妻はその姿を見て、いたずらっぽく笑います。
「皆本さん、、長旅で疲れたようね。」
 疲れたのは旅のせいではありません。
「ほな、さっと風呂と食事を済ませてもろて。」
 言うが早いか、光源氏、“てれぽーと”で湯殿に飛ばされます。
「早く寝よーかー!」
 今日の光源氏邸の夜は早そうです。では、語り部もこの辺で失礼を・・・


 そうして、光源氏は3人の妻を迎えました。“超”個性的な妻たちでありましたが、光源氏は妻子の面倒をよく見、よき夫よ、よき父よと褒め称えられるほどでありました。また妻達の力を借りた光源氏は出世して家は栄えました。そして家族は、いつまでもいつまでも、幸せに暮らしたということです。



*****
祝、絶対可憐チルドレン 連載決定!

というわけで以前から投稿させてもらっている本編をアップしたかったのですが、どうにもうまく話がまとまらないため、このような話を書いてみました。こういうのも書いてみたかったのです。
大筋はそのまま源氏物語ですが、詳細はずいぶん変えてしまっています。登場人物もずいぶん端折ってます。しかし本当の源氏物語は結構どろどろした部分もありますので、絶チルの彼らには合わないと思い、もっとライトな話にしてみました。

それでは、良ければ御感想などお願いします。
*****

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa