ザ・グレート・展開予測ショー

横島幽霊物語  第3話    〜邂逅編〜


投稿者名:とらいある
投稿日時:(05/ 6/23)




「昼と夜の一瞬の隙間・・・か。――――――儚いな」



無意識に、ポツリと呟いた。
いつごろから夕陽が儚く見えてしまうようになったのか。
そして、最後に夕陽を見たのはいつだったか。


ルシオラの死を割り切ろうとしても割り切れきれなかった日々。
何の解決もしていないのだから、割り切れるわけもない。 
夕陽が儚く散っていったルシオラと被って見えてしまう。
いつしか夕陽を避けていた。


周囲のみならず、自らをも欺きながら過ごす日々。
心の闇を悟られぬよう、過去の自分を演じていた。   
でも、そこに残るのは虚しさ。
 

皆が平和で愉しそうな様を見るたび、自分の居場所が此処ではないような―――――自分だけが世界の一部から切り取られ取り残されたような
そんな疎外感を感じた。



「ふふっ、なんだ・・・何も変わってないじゃないか」



自嘲的な笑いが込み上げる。
死してなお、現世を彷徨う俺に居場所など何処にあるというのか。
昔も今も、この場所も俺も、何も変わっていなかった。







横島幽霊物語  第3話    〜邂逅編〜

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クイッと袖を引かれるのを感じる。
袖の先に視線を向けると、自分の袖をしっかと握った小さな手が。
視線を下に落とすと、膝の上に座らせていた少女がこちらを覘きこんでいる。


泣きじゃくっていた少女を宥めたのだが、俺から離れたがらなかった。
そのまま自分の膝の上に乗せ、一緒に沈み行く夕陽を見つめていた。


少女はすっと立ち上がり、俺を優しげな瞳で見下ろす。
俺はいつの間にかその吸い込まれる様な漆黒の瞳に目を奪われていた。
だから少女がすっ、と伸ばしてきた手をどこか遠くのものを見るような目で見ていた。


少女の両手が俺の両頬に添えられ、そのままギュッと両脇から強く挟まれる。
ニュウムチュと縦に潰れる俺の顔。
アッチョンブリケな顔で呆然としていたものの、すぐ我に返り



「いっふぁいふぉふひゅるふほりふぁ?」



『一体どういうつもりだ?』と言ったつもりだったが、俺の抗議は果たしてどこまで通じたのやら。
少女は屈みこみ、顔を俺と同じ高さに合わせて正面に向き合う。



「なーに黄昏ちゃってるのよ。やり慣れないことはしないほうが良いわよ?似合ってないんだから」



笑うのを堪えているような、嬉しくてたまらないというような、そんな表情だった。
俺は俺で、少女の口からでた言葉に半ば呆然として声も出なかった。



「私の知っているヨコシマはどんなことにもめげず、どんな困難にも立ち向かって行けた筈よ?だから」



そう言って俺の頭を引き寄せ、そっと胸に抱かれる。
少女の早鐘のような鼓動が直に聞こえた。



「だから自分を追い詰めないで。居場所が無いだなんて悲しいこと考えないで。ヨコシマはヨコシマらしく、ね?」



胸に抱かれ、直接感じた少女の温もりとは違う、何か暖かいモノに包まれたような抱擁感。
それは先程まで暗く沈みきっていた俺の心に光を照らし、癒してくれた。



「ルシオラ・・・・・なのか?」



自分でも分かるくらい恐る恐るといった感じで問いかける。
少女の鼓動が早くなったように聞こえたのは気のせいだろうか。
胸の中に頭を抱かれているため少女の表情を窺い知る事はできなかった。



「また、一緒に夕陽を見れてよかった」



そう言って少女は、俺の頭を抱く腕に更に力を込めた。
そして俺も、少女の背中に腕を回し抱き寄せた。
そのままお互い身じろぎもしないまま抱きあう。
少女の涙は俺の首筋を濡らし、俺の涙は少女の胸元を濡らす。
隙間から洩れて見えた夕陽の残光が、瞼の裏に強く焼き付いた。



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どのくらいそうしていただろうか。
少女が俺の腕の中で身じろぐ。



「ん・・・パパ痛い」



その言葉に慌てて少女を抱いていた腕を解いた。
再びジッと見詰め合う二人。
やがて少女の瞳の中に浮かんでいた涙は堰を切って溢れ出し、頬を伝って地面を濡らす。
少女は今度は俺の懐に飛び込んできた。
涙が今度は俺の胸を濡らす。



「また、また会えるなんて・・・思わなかった」



嗚咽混じりのくもぐった声で言葉を紡ぐ。
そして俺の懐に顔を埋める。
俺はと言うと身動き一つ取れないでいた。


一体俺にどうしろと言うのか。
ここで優しく言葉を掛け、抱擁してあげればこの少女はどんなに安心することだろう。



「ねぇパパ」



だが俺にそんな資格があるのだろうか。
少女との記憶は今の俺には無い。覚えているのは名前だけ。


自らを偽ってきた日々が頭の中で思い起こされる。
皆を心配させまいと、平和な日常を壊したくないが為にと、皆が持っている『横島 忠夫』というイメージをそのまま演じた。
疎外感を感じたものの、あれが最善だったと今でも思える。



「パパったら、どうしたの?」



でもこの少女に対しては、なぜか俺の中で制動が掛かる。
それが何が原因なのか分からない。
胸を去来する不思議な感覚。



「パパ?」



何の反応も無いことに不安に駆られたのか恐る恐るといった感じで尋ねてくる。
俺の心の葛藤を知る由も無い少女にとって、俺はひどく不安定に映ったのだろう。
こちらを伺う様な瞳も涙が溜めたまま不安げに揺れている。


信じている者を裏切るようなことなど俺にはできない。
だが、悲しみに暮れる少女を見たくなかったし、不安にもさせたくなかった。
だから――――



「大丈夫、俺はちゃんとここに居るよ。蛍花に会いに来たんだから当然だろう?」



真意を隠した偽りの笑顔を顔に貼り付け、心にも無いことを吐き少女の頭を撫でる。
それでも少女は安心と心地よさから目を細め擦り寄ってきた。
だが俺の胸に満足感等といったものなど何も無かった。


ただ――――心が痛かった。


自らを偽ることで感じる罪悪感など、疾うの昔に慣れたつもりだった。
正当化と自己完結を繰り返し、いつしか日常の中に埋もれていった感覚。
だけど、その場しのぎの行動と言葉に安心する少女を見てひどく胸が痛む自分がいた。
罪悪感から蛍花の瞳をまともに見れない。


それでも、改めて少女―――蛍花を見つめる。
先程まで鮮烈に感じられたルシオラの雰囲気は、今やなりを潜めている。
というより蛍花からは、遮断されているかのようになにも感じられない。
視覚と聴覚を封じられたなら、そこに少女がいないと言われたとしても何ら疑問を抱かぬくらいに。


何か作為的なものを感じ取れなくもない。
それが誰かが守る為なのか、それともこの子自身が行っているものなのか判断はできない。
でも一つだけ言える事は、その力が悪意を持ったものでは無いということだった。



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「ママも喜ぶから。早くお家に帰ろう?」



そして蛍花の言葉が、俺に思考する行為を止めさせた。
ルシオラの言うとおり、俺にはまだ還れる場所があるのだろうか?
でも少しだけ希望を見出すことはできた。


俺は蛍花に腕を引っ張られながら展望台の屋根の淵に向かった。
眼下には夜の帳がすっかり降りた都市がネオンや生活の灯火により星空の如く煌いていた。



「そういえばどうやってここまで登って来たんだ?」



ふと湧いて出た疑問。
ここは地上から250mの高さだ。
展望台から点検用の通路を通らない限りここには来れない。
その通路も一般人が通れる筈がない。



「これだよ」



蛍花は首元からペンダントを取り出して見せてくれた。
ネックレスの飾りの部分に相当する部位には文珠が埋め込まれていた。だがそれは唯の文珠ではなかった。
俺がルシオラと融合したときに一時的に使えた双文珠だった。
文珠には『浮遊』という文字が浮かんでいた。


このネックレスに見覚えは無かったが、文珠からは確かに俺と同じ霊波が感じ取れた。
だが双文珠はあの戦いの後、数日もしない内に造れなくなってしまった筈だった。



「先に行っててくれないか?すぐ追いかけるから」



ペンダントを仕舞い込み、俺の腕を引っ張って急かす蛍花にそう言葉を掛ける。



「?うん、わかった」



小首を傾げながらも了承した蛍花は、展望台の淵に立ち躊躇いもなく飛び降りる。
文珠の放つ淡い光を伴いながら、ゆっくりと降下していった。
徐々に小さくなっていく蛍花を眺めながら小さく嘆息する。



「蛍花、いや――――ルシオラには二度も救われちまったな」



一度目は霊基構造を与えられた時。
そして二度目は、先程夕陽を見ていた時。


行く当てのない俺をこの場所に訪れさせたのは未練。
心の奥底にしまっていた暗い思いは、魂だけの存在となってしまったせいか箍が外れ抑えが効かなくなっていた。
未練と言うより、最早怨念や執念に近かったかもしれない。
だけど、蛍花―ルシオラの言葉が俺に正気を留めさせた。
今の俺になら自縛霊の気持ちが少し分かる気がする。



「我ながら・・・らしくないね」



思わず苦笑してしまう。
楽天家の俺があんな暗い考えに走るというのがらしくなかった。



「でも死んでもなお、こうも悩み事が多いとは」



はぁ〜と盛大に溜息をつく。
思考するのに没頭するというのも全くらしくない。


既に蛍花の姿は見えなくなっている。
余り遅くなると不安がらせてしまう。
でも正直不安なのは俺自身だったりする。
自縛しかかったから余計強く感じるのだろうが、心の拠り所とも言えるこの場所から離れるのが正直、怖い。
ここは、俺を無条件で受け入れてくれる思い出の場所でもあるのだから。
ここを離れても、俺の存在が否定されるだけかもしれない。

でも、ここで燻っていても何も変わらないし、変われない。



「覚悟、決めますか!」



自らを奮い立たせるように声に出し、立ち上がり展望台の淵に立つ。
眼下に広がる闇と、その中で煌く都市のネオンや生活の灯火。
チラッと後ろを振り返り見る。
視界に映るのはルシオラとの最後の別れと再会を果たした所。
でも見たのは一瞬だけ。視線を戻し、蛍花に続いてタワーから飛び降りた。



――――――なるようになってくれよ・・・頼むから。



これから起こるであろう一波乱の予感に一抹の不安を抱えながら、地表に向かって降下していった。




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前回の更新日を見て愕然。三ヶ月前でした。
幾ら忙しかったとはいえ、たいした内容じゃないのに時間かけすぎ。
時間は自分で作るものだと言いますが、全くもってその通り。
次回は・・・なるべく早く出せれるように頑張りたいところです。



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