ザ・グレート・展開予測ショー

Birth with LOVE


投稿者名:ししぃ
投稿日時:(05/ 6/20)

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Birth with LOVE
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 ……横島の本質は、父性愛だ、と言っていたのはタマモだっけ。
 全てに優しくあろうとする見返りを求めない愛。
 すれ違っても、拒絶されても与え続けられる優しさは確かに父性愛と言えると思う。

「じゃ娘をエロい目で見てるとでも言うわけ?」

「そうよ、男親なんて多少はそんな物じゃない?恋人と父親の違いなんて、ほんの少し
 しかないもの」

 康則君、タマモが選んだ相手にもそういう愛を感じるのだという。

「はいはいごちそうさま」

 タマモの言葉は真実だと思う。
 うちの親は特別な事情であたしを放置していたけれど、それでも最近は鉄仮面の裏に
ある愛情を感じる事がある。

「バランス悪いのよ、あのバカ。子供だったって事なのかもしれないけど。愛情が大き
 すぎて表現方法がわからなくて、オトコノコ独特のスケベな事で発散してたんでしょ」

「言うようになったわね」

「離れてみてわかったの。たぶん、わたしもあいつの事が好きだったからわからなかった。
 女の業かな。独占したいもの……だから、今は幸せ」

「はいはいごちそうさま」



 彼の本質が父性愛ならば、ルシオラはその究極を得るのかも知れない。
 そうだといい、と思う。
 きっとそうなのだ、と信じることができる。



 ルシオラについては大戦の直後に何度か話した。
 彼は、転生の可能性を心から喜び、再生の可能性の消滅を心から嘆いた。

「再生させるいくつかの手段はあると思います。美神さんにもわかりますよね?」

「ええ。魔の侵食……たとえば魔装術のような手段で魔族化するとか、あなたがドグラや
 記録からコスモプロセッサを再び作り出すとか」

 神を裏切り、人である事を捨てればルシオラはルシオラとして蘇る。
 神族を前に告げることはできなかったいくつかの可能性。
 問題もあるだろう。宇宙意思がそれを許すのかもわからない。
 しかし……あの戦いほど不可能とは思えない。

「でもダメなんです。俺は弱くて、欲望が強すぎる。彼女を救い、可能ならば全てを
 救いたいと思う。あの戦いで死んだ多くの人々を……いや、それ以前の理不尽な死を
 迎えた全ての人を」

「横島クン……」

「だから、こんなに欲深いから……ルシオラを選べない。彼女だけを救う道を選べない」

 告げるべき言葉なんか無かった。
 彼は知っているのだ。
 その気になれば天すら欺けるワイルドカードを持つ彼だからこそ、世界を律するルール
の意味を。

「形は違っても、幸せにしてやれるって美神さん言ったじゃないすか。だから俺……
 何かを捨てて彼女だけを選ぶより、何もなくさないで同じ魂を幸せにしてあげたいと
 思えたんです。その方がたぶんルシオラも、彼女も喜ぶんじゃないかって」

 色々な言葉を飲み込み。
 静かに彼はあたしに問いかける。

「美神さん幸せですか?」

 真摯な瞳だった。裏切らないように真剣に考えて、答を返す。

「そうね、全部が全部ってわけじゃないけど幸せよ」

「ありがとう。俺はバカでスケベですけど、あの選択は正しかったって思ってます。
 恋を超える愛情を持てるって自信があるから……ルシオラとの別れは、絶望じゃない
 んです。悲しいけど、きっと未来には、この悲しみも喜びに変えられるから。
 ……その未来が来るように一刻も早く子作りをっ!!」

 あの時は全力でシバいた。

「なんでじゃー!!さっきの慈しむ目は愛情じゃなかったんかー!!愛を知った寂しい男
 にほだされとったんやないのかー!!」

 天井に吠える高校2年生を取りあえずボロ雑巾状に仕立てあげてしまう、頑なだった
心を思い出す。

 優しい優しい男の子。
 彼の言葉は、その時はただの強がりで、
 でも、未来への自信を持った強い意志で。



 未来は、そして来たのだった。



「わぁ、やった、ついにですね♪」
 ヒャクメからの診断結果を伝えたとき、飛びはねそうな勢いで喜んでくれたのは、
おキヌちゃん。

「えっ、だっ、で、うぉ……マジ?」
 ちょっと情けなく狼狽するのは横島クン。

「なによ、嬉しくないの?」
 ちょっと怒って見せたけれど、彼の態度にも同情の余地はある。
 愛人が正妻の居る席で、妊娠宣言をかましたのだから。

「そうですよ、忠夫さんの赤ちゃんでルシオラさんの転生なんですよ?」
 立ち上がって、ギューっと横島クンを 抱きしめて、明るく振る舞う彼女は本当に強くて、
優しい。

「次はわたしの番ですからねっ」
 キラン、と目が光るあたり、ツワモノの証し……

 そういう姿を見ると、ルシオラは『結婚』という形では結ばれなかったあたしの所を
わざわざ選んで来てくれたのかな、とも思える。
 そんな事できるのか判らないけどね。

「とりあえず、認知はして欲しいの。まあ一人で育てられるけど、ちゃんとパパだよって
 会わせてあげたいからさ。記憶はどうなるかはわからなんだけど、ルシオラの転生だから
 ……このままだと生まれて来れないし」

 あたしのお腹の胎児は、今は体だけが形作られ、魂は薄明のままに在る。
 彼が持つルシオラの霊破片を魂として与えなければいけない。
 仰々しく語っていたヒャクメの言葉を伝える間、ずっと言葉を失っていた横島クン。
 色々な事を考えて、脳内がショートしてるのが手に取るように判った。

 ……相変わらず『自分自身』に関しては些か情けないのよね。この男。

「頼むわよ、お父さん」

 バン、と背中を叩いたら、やっと、あの日の決意の視線で頷いた。



 愛すること。
 それについて想うとき、あたしは一人の男の名前を思い出す。
 高島。
 それは横島クンの前世であり、あたしの魂が愛した男。

 横島クンと関係を持った後、少しずつバラバラのパズルのように記憶が流れ込んできた。

 約束を果たしたから、無意識のプロテクトがハズレたのだろうとヒャクメは言う。
 あたしが繋がる絆を認めたから、あの二人でもあった魂が再会を喜んでいるのだろう、と。

 彼についてを思い出しても狂おしい恋の衝動は無い。
 それ故にこれがただの記憶であり想いとは異なる物なのだと理解できる。

 人となり、輪廻の和に加わったメフィストは全てを知る官吏と結ばれて子を成した。
 高島を愛した想いを忘れること無く。夫を愛し子を愛した。
『俺にホレろ!!』
 傲慢な彼の願いを叶えたメフィスト。
 彼女が言葉の裏にある、ホレたら絶対に愛し抜いてやるという意味合いを知ったのはその後、
何日かを共に過ごしてからだ。
 愛についてを理解したから、メフィストはその後に愛を与えることができた。

 想いと記憶は違う。
 だから、わたしは高島を愛しているわけじゃない。
 でも彼から受けた愛の記憶はそれがどんなに大切な物か教えてくれる。

 むずがゆいケドネ。



『ハッピーエンドって事にしない?』

 かつて慰めるつもりであたしが言ってしまった、残酷な言葉。
 考えなしで、あまりに自分勝手だった言葉。

 それが魂すら壊しかけた彼の傷をどれほど抉ってしまったか。
 今のあたしは理解できる。

 終わってはいけなかったのに。
 立ち向かわなければいけなかったのに。
 あたしは逃げてしまったのだ。

 なのに。
 今、その傷を乗り越えて……あたしを愛してくれる彼がいる。

「……ハッピーエンドって事にしていいよね?」

 そう呟いてお腹に手を当てると、優しい優しいお父さんに出会える日を待ちきれない
ように、与えられたばかりの魂が強く輝いた。

 やがて、次の物語が幕を開ける。

















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きっと、物語は永遠にこの後も続くのですが、
わたしが予想する『その後のGS美神』は、時系列的にはここで終わります。
(時系列的にこれ以前のお話はまだ色々書いてみたいです)

大事な物を忘れてしまった横島君。
彼と距離をおくようになって、寂しそうな美神さん。

アシュ編から連載終了までを読み返した時に感じるそんな違和感を
どうやって拭っていくのかな、という「予想」です。
(色々脱線してますけれどね)

自分的には何とか満足。色々な力不足に泣けますけどね。

少しでも気に入っていただけるとうれしいです。
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