ザ・グレート・展開予測ショー

ジーク&ワルキューレ出向大作戦! 『二人は今日からランプの精』


投稿者名:丸々
投稿日時:(05/ 6/20)

眩い光に包まれた玉座。三界を震撼させたニ年前の大事件の事後処理について、
神界と魔界の最高指導者が話し合っていた。

「ようやく後始末も片付いてきた感じやな」

「そうですね。あれだけの事件の後始末が二年程で落ち着いて来たのですから上出来でしょう」

「ホンマ、その通りやで。現場の連中をよう労ったらなな」

「労うといえば今回の事件で一番力を尽くしてくれたのは人間達だった筈ですが、
彼らにも何か報いてあげるべきでしょうね。」

「んー、その件なんやけどな。」

「何か不都合でも?。」

魔界の指導者の言い難そうな様子に、神界の指導者が尋ねる。

「それがなー、一番ええのはアシュタロスの娘、ルシオラいうたかな?
あの娘を生き返らせたるのがええと思うんやけどなあ。
ウチの連中に研究させてるんやけど、まだええ案が出とらへんのや。
そっちの研究の進展はどないなん?」

「残念ながらこちらも具体的な案は出ていませんね。
一度失われた魂を造り出すなど前例が無いのですから。」

「そうやろな、ウチの連中も同じ事言うとったわ。んで何か別の褒美を考えたんやけどな、
デタントを潰さんように気ィ使っとったらなかなか難しくてなあ。
便利な魔具でも渡そうかと思ったんやけど、強力な魔具は使いようによっては魔界のゲートに
なりかねんからな、悪用されたら三界のバランスを狂わしかねん。」

「確かに、もしそんな事になればデタント反対派の神族が騒ぎ出すでしょうね。」

「他にも色々考えたんやけど、どれもパッとせんのや。
キーやんは何かデタントを潰さんようなええアイデアないやろか?」

「ルシオラという娘の復活については今後も研究を進めるのは当然ですが、
やはりそれ以外にも何か彼らに報いてあげる必要があるでしょうね。
彼女が復活したのは良いが、既に当事者の寿命が尽きていたのでは
結局何もしてあげていないのと同じですからね」

「そうなんや。人間の寿命なんか100歳そこらやろ?。
ルシオラちゃんの復活もいずれ出来るやろうけど、いつになるかがわからん。」

「そうですね。
ならばすぐに実行できる案としてこういうのはどうですか?。
少々古典的なやり方ですが……。」

神界の指導者の言葉にふむふむと頷く魔界の指導者。

「ウチの方はそれでええけど、そっちの連中は納得するんか?。
わざわざ行かせるんやから、それなりに強い奴を選ばなあかんからな
三界のパワーバランスにちっとばかり影響するかも知らんで?。」

デタントを守るためにも今の均衡状態を歪める可能性があるなら
それは非情に危険な手段だと言わざるをえない。
神界の指導者の提案に、慎重な構えを見せる魔界の指導者。

「ええ、もちろんです。
そこで人選はこちらに決めさせて頂きたいのです。」

「そりゃ構わんけど。
誰か目星はついてんのか?」

「はい。……ならこちらも文句は出ないはずです。」

「……か、なるほど。確かにあいつらなら適任やな。」

頷きあう二人。話はまとまったようだ。
魔界の指導者が通信係を呼び出し何やら命令書を渡す。
指示を受けた通信係は急いで命令を実行するべく『彼ら』の所属部署に指令書を届けた。


























「これでやっと再建も一段落つきましたね。」

大きく『妙神山』と書かれた看板を、巨大な門に立て掛けながら、
銀髪の青年が角の生えた少女に話しかけた。

「ええ、本当にご苦労様でした。
ジークがいてくれなかったら、もっと時間が掛かっていたでしょうね。」

にこりと微笑み少女が青年を労う。
何故か二人とも足首が締まったズボンを履き、白いティーシャツを肩まで捲り上げている。
そして頭には『安全+第一』と書かれた黄色いヘルメットを被っていた。

「ところで小竜姫、今更聞くのもアレですけど、この格好に意味があったのですか?。」

黄色いヘルメットを脱ぎながら青年が少女に尋ねる。
魔族の彼にとって、工事の作業をしたからといって怪我をするとは思えなかったのだ。

「うーん、実は私も良くわからないんですけど、以前にここで働いていた作業員の方が
皆この格好をしていたので。こういう作業をする時はこれが制服なんだと思ったのですが……。」

首をかしげながら、困った顔をする少女。
どうやらこの格好に特に意味はなかったらしい。

「ああ、なるほど、制服だったのですか。
ならこれが正しい作業員の姿なんですね。」

納得したのか青年は黄色いヘルメットを被りなおし、しきりに頷いている。
実際は納得できるような答えは返ってきていないのだが軍隊所属の彼にとって
『制服』という言葉はそれだけで全てを解決してくれたのだろう。

土方(どかた)の格好に身を包んだ竜神と魔族が、重機も使わずに吹き飛ばされた建物を修復するという
何ともいえない光景がここ妙神山で繰り広げられていたのだが、それも今日で終わりのようだ。

「とりあえず、外観はこれで問題無いと思いますけど、内部は完成したのでしょうか。
居住区はもう出来ていましたけど、修行場の魔方陣や異空間のゲートを作り直すのは
かなり時間が掛かるはずですが……。」

青年が不安気に少女に問い掛ける。
内部の修理は、少女の師匠である老師と魔族の幼女が担当していた。
老師はともかく幼女の方は無駄にパワーがあるだけに細かい作業は苦手だった筈だ。

「そうですねぇ……パピリオがさぼってなければ、そろそろ完成していると思うのですけど。
こっちはこれでほぼ完成なので二人の様子を見に行きましょうか。」

二年前の大事件の、ある意味実行犯とも言える幼女を思い出し、ため息をつく。
魔神アシュタロスが自分直属の眷属として生み出した三姉妹。長女ルシオラ、次女べスパ、三女パピリオ。
彼女達三姉妹とそれを取り仕切るドグラによって、妙神山は吹き飛ばされてしまったのだ。
最も、吹き飛ばしたのは彼女達の乗っていた兵鬼なので、彼女達が直接吹き飛ばした訳ではないのだが。
結局、事件が終わってみると、長女のルシオラだけが犠牲になってしまい、べスパとパピリオは
罪には問われず、それぞれ魔界軍と妙神山に引き取られる事になったのだ。

魔界軍に入隊したべスパが成人女性にしか見えないのに、パピリオはどう見ても小学生にしか見えなかった。
産み落とされた時間は殆ど変わらない筈なのに、この違いはいったい何なのだろうか?。
しかも困った事に、頭の中も小学生レベルなので今までにも色々と騒動を巻き起こしていたのだ。

なんとも困った娘なのだが、ここ妙神山の最高責任者である老師が面倒を見てくれるので
ジークと小竜姫も、パピリオの騒動をいつも苦笑いを浮かべながら見守っていたのだ。

邪魔をしないように静かに修行場の中に入る。もしも、魔法陣を作成中なら集中を乱したくなかったのだ。
中に入ってみると身長1メートルくらいの、服を着た猿が何十匹と地面に這いつくばり魔法陣を書いていた。

「な!?師匠どのが増えている!?」

ジークが目を見開く。少し見ない間にわらわら増殖していたので、呆然としている。
それを見た小竜姫がクスクス笑いながら説明する。

「あれは老師の分身の術ですよ♪。
分身といっても残像ではなく、全て実体ですけどね。」

「ん、二人とも外は完成したのかのう?」

二人に気づいた一匹の猿が話し掛ける。他の猿と全く見分けがつかないが、恐らくこの猿が本体なのだろう。

「はい、老師。外はほとんど完成しました。
でも珍しいですね、魔法陣の作成はパピリオの修行も兼ねていたのではなかったのですか?。」

小竜姫が老師に尋ねる。最初から老師が分身して作業に当たっていれば、一ヶ月もしない内に
完成していたはずなのだが、あえてそれをせずに今までパピリオに手作業でさせていたのだ。
ちなみに建物の修理も人間に任せた方が早く完成していたはずだったのだが、二年前の事件で
散々人間達に働かせてしまったので、後始末くらいは自分達でしようと決めていたのだ。

「パピリオならホレ、そこで疲れきって寝とるわい。
あやつも充分頑張ったしのう。少し事情が変わったのでワシが仕上げをしとるんじゃよ。」

老師に言われてみてみると、修行場の隅でパピリオがいつもかぶっている帽子を枕にして
スヤスヤと寝息を立てていた。かなり深く眠っているようなので、余程疲れていたのだろう。
それを見た小竜姫が苦笑しつつ毛布を掛けてやる。こうしていると只の子どもにしか見えなかった。

「師匠どの、先ほど事情が変わったと言われましたが、何かあったのですか?。」

「ん、そうそう、ホレお前さん宛てじゃよ。
さっき届いたんじゃが、差出人を見て驚くなよ。」

ニヤリと笑いながら老師がジークに封筒を手渡す。
何気なく差出人の名前を見たジークだったが、次の瞬間凍りつく。

「魔界の最高指導者から直接呼び出しがかかるとは、お主いったい何をやらかしたんじゃ?。」

からかうように声を掛ける老師だったが、当の本人にしてみれば笑い事ではない。
後ろめたい事など全く無かったが、呼び出しを受けたという事は何か失敗していたのだろうか。
緊張のあまり真っ青になってよろめくジーク。

「取りあえず中を見てみたらどうじゃ?。
懲罰を受けると決まった訳じゃなかろうに。」

流石に気の毒になってきたので、内容を確認するように促す。
冷静に考えれば、懲罰ならわざわざ最高指導者が直々に手紙を出す必要は無いのだが
パニック寸前のジークにはそこまで気が回らないようだ。
まるで時限爆弾を解体するかのように、恐る恐る封を開け、内容を確認する。

「…………」

「どうした、内容はなんと書いておる?。」

「ジーク、どうかしたんですか?。」

パピリオの寝顔を眺めていた小竜姫もジークの様子がおかしい事に気付き、戻ってきていた。
当のジークはというと、首をかしげている。

「うーん、ただの呼び出し状ですね。」

特に機密事項が書いてある訳でもないし、そもそもただの封筒に入れて送ってきたのだ。
同じ妙神山所属の二人になら見せても問題は無いのだろう。

『妙神山留学生情報仕官ジーク・フリード少尉
24時間以内に一時帰国を命じる。帰還方法は異界転送装置の使用を許可する。』

これと後一枚、異界転送装置使用許可証が入っているだけだった

「ふぅむ、これだけか。これはまた随分と大雑把な内容じゃわい。
呼び出しの理由も書かれておらんし、魔界の最高指導者が差出人とは思えんのう。」

「でも具体的な内容が書いてませんからね。
もしかしたら帰ったら軍法会議に引っ張って行かれるのかも知れませんよ?。」

神族の二人も首をかしげている。確かにこの内容では良いようにも悪いようにも、どちらとも取れる。

「お、おどかさないで下さいよ、小竜姫。
どういう理由かはわかりませんけど、一度魔界に帰るしかないみたいですね。」

小竜姫の言葉に内心冷や汗をたらしながら、何でも無いように振舞う。
まるで悪戯のような内容だが、差出人が差出人なので無視する事など出来る訳が無い。

「ふむ、そうじゃのう。
妙神山の修復もほぼ終わった所じゃし、一度魔界に帰るのも良いかも知れんのう。
異界転送装置の許可証も有るみたいじゃし、早速使ってみるか?。
修理してから使うのは初めてじゃが座標も指定されておるし、すぐにでも使えるぞ。」

「そ、そうですね。相手が相手ですからすぐにでも帰った方が良さそうですし。」

そうと決まれば急がなければ、とばかりに装置の方に向かうジーク。
ちなみにいまだに土方の服装でヘルメットも被りっぱなしである。
見送りをしようとジークについて歩く小竜姫も同じ服装だった。

「あ、そう言えばジーク、着替えなくて良いんですか?」

ようやく小竜姫も自分達の格好に気がついたようだ。
ハッと立ち止まるジークだったが、少し考え込んだ後すぐにまた歩き出す。

「恐らく魔界のターミナルに転送されるはずなので、向こうに着いてから着替えます。
そもそもどこに行けばいいのかもわからないので一度魔界軍本部に顔を出すつもりですし。」

「そう言えば出頭場所も書いてませんでしたねえ。」

「とにかく急いで戻らなければ!。」

根が真面目なのでお偉方からの呼び出しに慌てふためいている。
相変わらず魔族らしくない青年の様子に小竜姫の顔に笑みが浮かぶ。

「そんなに慌てなくてもきっと大丈夫ですよ♪。
この二年間貴方はずっと真面目に働いていたじゃないですか。」

「それは、まあ……後ろめたい事は無いのですが。」

小竜姫の言葉でようやく落ち着いてきたようで、さっきよりは随分ましになっている。
転送用の魔方陣に上がる頃にはほとんど落ち着きを取り戻していた。

「それでは、送るからのう。
きっとすぐに戻ってくるんじゃろうが、気をつけるんじゃぞ」

「はい、では行って参ります!。」

姿勢を正し老師に敬礼する。老師はというと魔方陣と繋がった機械に座標を入力している。
座標を打ち終えると魔方陣が光を放ち始める。
光の輝きはどんどん強くなり、空間が白い閃光に包まれる。

しばらくして光が消えた頃には魔法陣の上にジークの姿は無かった。

「はて、小竜姫や。
魔界のターミナルの座標を覚えておるか?。」

ふと何かを思ったのか老師が呟く。

「えーと、確かワルキューレに聞いた覚えがあるのですが……。
行く機会も無かったのでもう忘れちゃいました。」

少しバツが悪そうに小竜姫が答える。

(ふーむ、ワシも詳しい座標は覚えておらんのだが、さっき打ち込んだ座標とは違うかったような……。
じゃが魔界なのは確かじゃろうし、きっと問題ないじゃろうな。うん。)

「ま、いいわい。そろそろパピリオが起きる頃じゃろうし戻るとするか」

それ以上考える事も無く老師と小竜姫は修行場に戻っていった。

























光が収まり、目が見えるようになった僕を出迎えたのは二人の最高指導者の笑顔だった。

「お、早かったなあ、ジーク。
時間の指定もしてなかったからもうちょいかかるかと思ってたんやけどな。」

「サンキュー、サー!」

反射的に答えたけど、あれ、サタン様?。
えーと、これはいったいどういう事だろう?
さっき確か僕はターミナルに転送された筈なのになんでこんな所に居るのだろうか。

「おや、いつもの軍服姿ではないのですね?。」

「イエス、サー!。
この服は現在の作戦に必要な服装なのであります!!」

イエス様、これは今の仕事の制服なのです。
郷に入らば郷に従えということでこの格好をしているのですが。

「あー、もうちょいしたらワルキューレも来るはずやから、それまで楽にしといてええで」

「イエス、サー!!」

ら、楽にして良いと言われても、この威圧感の中じゃ無理ですって!
あれ、そう言えば『ワルキューレ』と今おっしゃったような……。
姉上も呼び出されていたのだろうか。となると新しい任務につく事になるのだろうな。
困ったなあ、僕は荒っぽい軍の仕事より妙神山で暮らす方が性にあってるのに……。

ま、こんな事考えてる事が姉上にばれたら『教育的指導』が待ってるから言えないけどね。

待っている間この二年間の報告をしたけど、随分楽しそうに聞いてくれていた。
とはいえ、お二方にとって特に興味がある内容とも思えないんだけどなあ。

しばらくすると姉上が僕の隣に転送されてきた。

「魔界第二軍所属特殊部隊ワルキューレ少佐!只今参りました!!」

うんうん、相変わらず姉上の敬礼は凛々しいなあ。
あれ?大尉から少佐に出世されたんですか、おめでとうございます!。

あ、僕に気がついたみたいですね。サタン様たちの前だから挨拶できないけど
お久しぶりです姉上!。元気そうで良かった。

姉上?なんで僕をそんな変な目で見るんですか?。
ああ、僕が居ると思ってなかったんですね?僕もいきなり呼び出されて驚いてるんですよ。

「さてと二人とも揃った事やし、本題に入ろうかな。」

おっと、ついに本題のようだ。気を引き締めないと。






――その少し前――


最近はあまり大きな任務が無くて暇を持て余していたが、サタン様からの直々の呼び出しだ。
恐らくかなり重要な任務を任されるのだろう。ふふ、腕が鳴るというものだ。

「よし、転送しろ!」

部下に転送を命じる。さて直接あの方の前に出る事になるからな。
気を引き締めておかないと下手をしたら威圧感に飲み込まれかねない。

転送の光が収まりサタン様の姿が目に映る。相変わらず凄まじい威圧感だ……!。
む、しかもイエス・キリストまで居るではないか!く、これはかなり重要な任務になりそうだな。

「魔界第二軍所属特殊部隊ワルキューレ少佐!只今参りました!!」

む?となりに誰か居るが……何者だこいつ!?
土方の格好で最高指導者に謁見するなど、正気か!?
黄色いヘルメットまでしっかり被っているとは……どっかの現場帰りか?
まったく、親兄弟の顔が見てみた――――――――

って、ジークじゃないか!!

何をしているんだ!?その格好は何なんだ!?

私はお前をそんな子に育てた覚えは無いぞ!?

この二年間にいったい何があったんだ!?

……おのれ、小竜姫!お前にならジークを預けても大丈夫だと思っていたのに
いったい何を仕込んだんだ!!。『安全+第一』って、ある意味かなり危険だぞ!!

しかもジーク、なんでお前はそんなに誇らしげなんだ!!

「さてと二人とも揃った事やし、本題に入ろうかな。」

く、いかん、今は気にしている場合ではない。
サタン様のお言葉に集中しなければ……!

「二人に来てもろた理由はな、ちょっとの間人間界に出向してもらおうと思ったんや。」

どういうことだ?次の任務は人間界ということなのか?
だがアシュタロスの事件以来、神魔共に人間界に干渉する事は無かった筈だ。
あの妙神山でさえ再建を建前にして修行者を受け入れていなかったと聞くが。

「次の任務は人間界で行うと理解して宜しいでしょうか!?」

「まー、そういうこっちゃな。」

だが、人間界でいったい何をしろというのだ?
我々魔界軍の力が必要な事態など起こっていない筈なのだが……。

「今回の任務をわかり易く説明するとや。
いわゆる『ランプの精』ってやつを考えると一番わかり易いんちゃうかな?」

「そうですね。イメージとしては一番それが近いでしょうね。
二人とも『ランプの精』は知っていますか?」

「イエス・サー!!」
「イエス・サー!!」

知っているかと聞かれればもちろん知っているが……それが今回の任務にどう関わってくるのだ?
悪さをしているジンを我らに捕らえて来い、とでもいう事なのか?そんなもの人間達にでも可能だ。
わざわざ我らが出向くまでも無い。

「簡潔に言うとや、二人に『ランプの精』をやってもらおうと思ってな」

な!?馬鹿な!
誇りある魔族に何という事を命じるのだ!

「ソーリー・サー!
質問しても宜しいでしょうか!!」

「ん、どうしたワルキューレ?言ってみ。」

「そもそも『ランプの精』は罪を犯したジンが、罰として人間達の願いを叶えていたはずです!
ということは我らに何か落ち度があったということでしょうか!?」

ジークの普段の生活はわからないので何とも言えないが、私は違う!!
何も落ち度などありはしないし、そのような屈辱的な仕打ちをされる理由はない!

「んー、そりゃ考え方が逆やな。お前さんらの『罰』ではなく人間達への『褒美』ってやつや。
この間のアシュタロスの事件で人間達に面倒を押し付けてもたのに、まだ何にも報いてやってないんや」

う、確かにそう言われると何も言えない。
あの時、私もジークも人間界に居たにも関わらず、まったく役に立たなかった。
結局アシュタロスを倒したのも傷ついたのも全て人間達だった。

彼らに報いてやるのは私も異存はない。
だが……なぜ我らなのだ?

「なんで自分らが、って思うんはしゃーないけどな。正直なところお前さん達しかおらんのや。
そもそもこの出向計画はあの事件で最前線で戦ってくれたGS達に借りを返すんが目的なんやけどな。
困ってる事は人それぞれやろうし、相手に応じて柔軟に対応する必要があるんや。
あまり格下の連中を送っても力不足で役には立たへん。かといってあんまり力のある奴を送ったら
下手したらデタントを潰しかねんのや。ここまではわかるな?」

「イエス・サー!!」
「イエス・サー!!」

「そこでや、お前さん達なら能力も充分やし神界の連中もそう強くは反発せん。
二人ともあの事件に一応直接関わってるからな、人間に借りを返すためやと言えば文句は言えん。
それに二人とも昔は神族側やったからな。他の奴らよりよっぽど反発されんのや。」

くぅ、聞けば聞くほど我らが適任なのはわかる。
だが何と言われても魔族としてのプライドが納得出来んのだ!。
いっそ神界側が反対してくれれば――――――

「ちなみに、神界は君達が行くのなら反対しないということで納得しています。
一応危険な真似をしないように、こちらから監視は付けさせていただきますがね。」

チッ神界側も既に納得済み、か。
これで、打つ手なしだな……。

ジークの反応を見てみると……く、やっぱりこいつは嬉しそうだ。
魔族の本能が薄いからだろうな、この任務にもあまり抵抗感が無いのだろう。
弟がやる気なのに姉の私が文句を言うのも情けない。覚悟を決めるか……。

しかし、ジークよ……その格好は何とかならんのか?緊張感が台無しだ……。



「ま、話は大体こんなもんや。
二人とも文句は無いな?」

「イエス・サー!!」
「イエス・サー!!」

「では神界の監視員と会ってもらうために妙神山まで行ってもらいましょう。
すでに彼女は妙神山に到着している筈なので、すぐに会えますよ。
任務の詳しい内容は彼女から聞いてください。」

「ほな、二人とも頑張るんやで」

サタン様が指を鳴らすと辺りが光に包まれた。
恐らく妙神山に転送してくれるのだろう。

次に私達が魔界に帰ってくるのは一体いつになるのだろうか……。
























「ジークにワルキューレ、久しぶりねー♪
って、ジーク面白い格好なのね。いつもの軍服はどうしたの?」

「なんとなく、そんな気はしてたが……。
神界の監視員はお前かヒャクメ?」

「久しぶりだなヒャクメ。
今はこれが私の制服だ。」

ジークとワルキューレは妙神山の入り口に転送されていた。
転送された先にいた神族を見て、ワルキューレが不満そうにしている。
ジークは知り合いとの久しぶりの再会を喜んでいた。

「二人とも人間界に降りられるんだから羨ましいのねー。」

好奇心に手足が生えたような性格をしているためか、ヒャクメは人間界に行くのが好きなのだ。
神界に居る時も、暇な時間が有れば人界の様子を眺めるのが趣味だったりする。

「フン!代われるものなら代わってやりたいわ!」

軍人らしからぬ任務を押し付けられたのでワルキューレは不機嫌だ。

「残念だけど代わってあげられないのねー。魔神が起こした事件の後始末を
神族がやっちゃったら色々と角が立つのねー。」

「そんな事はわかっている!」

別にヒャクメは嫌味で言った訳ではなかったが、ワルキューレは荒れっぱなしだった。

「まあまあ、姉上落ち着いてください。
彼らに世話になってしまったのは確かなんですから、丁度良い機会じゃないですか。
今度は僕達が彼らの役に立ってあげましょうよ。」

最初に予想していたような荒っぽい仕事ではなかったのでジークはワルキューレと対照的に上機嫌だ。
ジークはあまり妙神山以外の人界に降りた事が無いので、内心ワクワクしていた。

「ふう、わかっているさジーク。
与えられた任務に私情を挟むほど、私は愚かではない。」

軽くため息をついているが、もう迷いは無いようだ。瞳に理性が戻っている。

「で、ヒャクメ。我々はどうすればいいのだ?」

「とりあえず妙神山の中で話しましょうか。
せっかくジーク達が建て直したんだから中を見てみたいのねー。」

「うむ、それもそうだな。私もジークの件で小竜姫に問い質す事があるのだった。」

「姉上、何の話ですか?」

ジークの質問の答えは返って来ず、三人は道場に入っていった。




老師が完成させた修行場に入るとパピリオが突っ込んできた。

「ジーク、お帰りでちゅー!!魔界に行ったそうでちゅけどお土産は何でちゅか!?」

ジークの腰にしがみつくと全力で締め付ける。
以前より少しパワーダウンしたとはいえ、魔神アシュタロスの直属の眷属。そのパワーは侮れない。
ジークの体が軋み始めていたが、残念ながらパピリオは気が付いていないようだ。

「よ……よせ……パピ……リ……オ……」

既に息も絶え絶えなジークが弱弱しく抵抗するが、はしゃぐパピリオは気が付かない。
さすがに見かねたのかワルキューレが助け舟を出す。

「あー、パピリオそれくらいにしてやってくれ。
我々はこれから任務なのでな。動けなくなったらマズい。」

「え、ジーク仕事なんでちゅか?
土木工事が終わったから次の仕事に行くって事でちゅか?。」

聞きなれない言葉が出たのでワルキューレが不思議そうな顔をする。
魔界軍の士官は普通土木工事などしない。

「ジークは土木工事をしていたのか?」

「ええ、そうですよ。彼と私でこの道場を建て直したのですから。」

ジーク達が来た事に気が付いたので修行場に来た小竜姫が、ワルキューレの問いに答える。
ちなみに小竜姫もまだ土方の格好だ。頭に乗った黄色いヘルメットが輝いている。

その小竜姫の姿を見て、ジークのおかしな格好の理由がわかった。
なんのことはない、ジークはジークで職務を忠実にこなしていただけなのだ。

(……やれやれ、おかしな事を仕込まれた訳ではなかったのだな。)

内心安心しつつ、自分達に与えられた任務についてヒャクメと話し始める。
別に隠すような話ではないので、小竜姫たちも一緒に聞いていた。

その頃老師は修理が完了した自分の異空間に閉じこもってゲームに熱中しているのだが
いつもの事なので誰も気にしていなかった。



「うー、ずるいでちゅ!パピリオも一緒に行きたいでちゅ!」

話を聞き終わった第一声がこれである。
ジークが頭を抱えるが、そこに意外な言葉がかけられた。

「今回のワルキューレ達の任務はかなり特殊なので、パピリオの力が必要と判断した場合は
一時的になら人間界に行く事が許されるのねー。」

「ホントでちゅか!?
ジーク!パピリオの力が必要ならすぐに呼ぶでちゅよ!マッハで飛んでいくでちゅ!」

もしかしたら人間界に行けるかもしれないのでパピリオが大喜びしている。

「まあ、それは置いといてだ。具体的には誰の力になればいいのだ?。
それがわからないことには動けないぞ。」

ワルキューレがヒャクメに任務の確認をする。

「具体的にはねー……最終決戦の時にいた人たちなんだけど。
資料を用意しておいたのでこれを持って行くといいのねー。」

ヒャクメが事前に用意しておいた資料をワルキューレに手渡す。
ざっと見ても20人近くある気がする。

「この中で特に困っている者はいるのか?」

全員一流のGSなのでそうそう困る事など無さそうだ。
もし誰も困ってないのであれば、さっさと魔界に帰って報告を終えて次の任務に入る事もできる。

「うーん、この中だと特に唐巣神父が危ないのねー。
ここ最近まともな食事を取ってないみたいだから、このままじゃ本気で餓死しちゃうのねー。」

「よし、ならば唐巣神父のところに行くとするか。
行くぞ、ジーク!!」

「ハイ姉上!!」

ヘルメットを被りなおすジーク。飛んで行く途中で落とさないようにするためだろう。
颯爽と飛び立とうとするワルキューレだったが、何故か動きがピタリと止まる。

「どうしました姉上?」

「ジーク……私と行動する時はせめて軍服にしてくれ……」

着替えを終えたジークとワルキューレが唐巣神父の教会に向けて飛び立っていった。
ワルキューレに着替えろと言われた時のジークが、名残惜しそうだったのは多分気のせいではないだろう。
























―後書き―

ジークとワルキューレが原作終了後の世界で

困っているGS達を手助けしてあげる話になる予定です。

シリアスからギャグまで幅広く扱ってみようと思うので、楽しんで頂けると嬉しいです。

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