ザ・グレート・展開予測ショー

「呪いと恋のペンダント!!」(3)


投稿者名:ししぃ
投稿日時:(05/ 6/15)

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「呪いと恋のペンダント!!」(3)
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「ったく、諸経費は後できっちり取り立てるからね」
 エミの呪いに抗する必要性から、あたしたちも一緒にカオスのいるN潟県Uの浜へ行く
事になった。

 日本の人魚伝説が残るこの地でカオスは泊まり込みの労働を強いられているらしい。
 事件への因縁を感じてしまう。



 カッポーン
 湯煙の奥でシシオドシの音。
 それなりに有名なの温泉地でもあるこの地の泉質は、
 『ナトリウム−塩化物泉(弱アルカリ性高張性低温泉)』
 日本海に臨んだ絶景の露天もあり、軽い肌への刺激が体の芯に染み渡る。

「あのー、美神さん。いいんですか?こんなにゆっくりして」

 そう言いつつも魔理ちゃんも幸せそうに頭にタオルを乗せていた。
 濡れて髪をおろしている彼女は……なんか別のキャラみたい。
 なんか人気出そう。警戒しとこ。

「いーの、いーの、カオスの居場所は判ってるんだし、失敗してもどうせエミが泡になる
 だけでしょ。唐巣先生からろくな報酬もらえるわけないんだから、役得よ」

 ピートがらみだから、また島の秘宝でも持ち出してきてもらえばきちんと儲るかな、
でもエミ相手の戦いは何だかんだ言って、経費かかっちゃうのよね。

 ふと、そんなことを考えていたらカラ、と扉が開いた。
 内湯から、露天に誰かが来たようだった。

 二人きりで広く手足を伸ばして湯船を占拠していたのだけど、さすがに他のお客さん
が来ている中ではそうもいかない。
 魔理ちゃんをつっついて、ちょっと詰める。

「ありがとうって、えぇええっ!!」

 礼を言って湯船に足をつけたその女性はあたしを見て、絶叫していた。
 あたしのファンかしら、美人除霊師美神令子も有名になりすぎたものね、ふふ、と見上げて、

「エミっ!!」

 不本意ながらわたしも絶叫していた。

「なんでアンタがここにいるワケ?」

「それはこっちの台詞よ!!」

 見下ろされたままなのにちょっとムカついたので、立ち上がる。
 肩までお湯につかっていた魔理ちゃんがちょっと波を被ってた。ゴメン。

「ワタシは唐巣神父を追っ掛けて来たワケ、まさかアンタまでいると思ってなかったけど」

 腕を組んで勝ち誇るように胸を強調するエミ。
 ……ムカつく。

「ピートに振られ続けて絶望の縁にいるアンタを拝んでやろうと思ったのよ、色情狂で
 ヘンタイでも長い付き合いですものね、骨ぐらい拾ってあげようかと思って。でも泡に
 なっちゃうんじゃ骨も残らないかしら?」

 エミの胸の谷間に半ば隠れているターコイズブルーのペンダントヘッド。
 美しく妖しい輝きを放っている。

「ドスケベのヘンタイとドロドロ不倫中のアンタにピートとワタシの真実の愛は勿体ないわ!!
 海の底にからでも見物しててほしいワケ!!」

 どこから取り出したのか、いきなり精霊石を投げつけて来るエミ。
 辛うじて避けると、後ろで激しい爆発音。ちょっと……予想以上に本気らしい。

「やる気ね、いーわよ、受けて立ってあげる!!」

 こんな事もあろうかと、一本だけ持ってきた神通棍を湯船の縁に置いていた手ぬぐいの
下から取り出す。

「何でそんなもの持ってきているんですかっ美神さん!」

 突っ込みの細かい娘はおいといて、飛びかかる。
 呪術に長けたエミに距離を取るのは得策じゃない。

「見え見えだわ令子っ!!」

 神通棍を避けて垣根まで飛びのくエミ、狙い通り。

「バーカっ終わりよ!!」

 最大の霊力を受けてムチ状にしなる霊力を横になぎ払う。
 垣根を背にして、もう逃げ場なんかない!!

 しかし、エミはさすがあたしが唯一ライバルと認める女だった。

 閃光と共に精霊石が足下で爆発する。

 直前に自分のダメージ覚悟で発動させたらしい。
 垣根をなぎ倒し爆風と共に後ろに吹き飛んでいた。

 あたしも無傷とはいかなかった。
 爆風で一瞬見失った彼女をなんとかもう一度視界に捕らえて、追撃を!

「みっ美神さんっ!」
 魔理ちゃんは心配性。

「あたしがあんな色ボケ女に負けるわけないでしょっ!」

「違いますっそっち、男湯っ!!」

 我に返る。

 見渡せば、

「エ、エミしゃん」
と、空に向かって血を吹くタイガーと

「きっきみたちはっ!!」
と、必死に目隠ししながら叫んでいる先生と。

 ……あたしとエミは一瞬、目を合わせて。

 暗転。

 爆発と流血が露天風呂を席捲した。
 ま、死者は出なかったからいいわよね。
 ……見せる物見せちゃったんだし。



「ま、まだ準備が出来てないからここは引かせてもらうワケ」
と、湯上がりの浴衣姿で、フラフラのタイガー(貧血)を引っ張って、エミは去っていった。
 魔理ちゃんが心配そうにちょっと手を伸ばす。

「トラッ」
「魔理しゃーん!!」

 ……いや、あなたはともかく奴には似合わないから。
 そのお別れのシーン。

 あたしは正座しつつ、聖書の引用を交えた長い説教を受け続ける事になった。



 結局、カオスを訪ねるのは翌日になってしまった。
 時計を見る気力が残らないほど続いたお説教は、ガミガミという擬音としてあたしの耳に
未だに残っている。

「人魚の首飾り?……おー、作った作った。なんじゃ、お前も欲しいのか?」

「ミス美神・横島さん殺しては・ダメ」

 ヘルメットをつけて海岸線の整備工事に従事していたカオスを見つけるのは、簡単だった。
 ……マリア何気に失礼ね。

「要らないわよ、あんな危険な物」

「いい娘じゃったのー、魔法で喋れなかったがそれも感じさせない明るい娘でのう。海の
 魔女なんぞ頼らず初めからワシの所に来ておればあんな事にならんで良かったろうに」

「マリア・記録にありません」

「お前を作る……ひーふーみーよー……100年ぐらい前じゃよ。いや、200年か」

「おい、じーさん、サボってないでこっちだ!」

 ……ろくに話も出来ないままにカオスが現場監督に連れ去られてしまったので、一旦会話
終了。
 工事の終わる夕方まで、観光地を見回る事にした。



「いや令子君、こんな事をしてる場合では……」

 ズワイガニとあわびといちじく。
 観光名所でもあるこの土地は土産物も充実している。

「美神さん、これどうかな?」

「へえ、人魚の形のペンダントなんかあるんだ。うっわ、出来悪っ!」

「可愛いじゃないですかー、寅とお揃いで揃えようかな。……魔虎は口にいれちゃうから
 大きいのでないと」

「ブッ見て見て、この亀。何で人魚伝説で浦島太郎なのよっ」

 六女の研修旅行で京都に行った時を思い出してしまうような、ありふれた土産物屋。
 日本全国完全に同じフォーマットで作られてて、はじめてきた場所でも懐かしい。
 こーゆーのが楽しくなったのは、おキヌちゃんの影響だと思う。

「令子君!」

「あ、先生っいい所にっ!!これとこれとこれ、お願いしますね」

 買った荷物を差し出すと受取ってしまうのは、弟子時代からのあたしの教育の成果よね?
 そもそも昨日のお説教がもうちょっと短ければ夜のうちにカオスに解呪の方法を聞く
事ができたのだから、いまさら急げ、なんて話を聞く義理もない。

「これはいくらなんでも買いすぎジャとおもうんじゃがノー」

「いやあと、実家と弓の分だけだからさ、そうだ魔虎のおもちゃは木刀でいいよな」

 魔理ちゃんも自分専用ポーターを手配したらしい。

「魔虎はお淑やかに育てたいからノー、そっちのぬいぐるみの方がいいんジャないかノー」

「誰の子だよ。お淑やかは無理じゃねーか?あ、そだ寅、小銭ある?」

 仲良く買い物している若夫婦。アツアツだ。
 ……あれ?
 じゃなくて。えーとタイガーがいるって事は。

 自然体っぷりを見せ付けているバカップルを放置して見渡せば……いた。
 佐渡の金で作られてる、というアクセを見ているエミ。
 ……妙に真剣に選んでいたり。

「アンタ地黒だから金、似合うわよね」

「だーれが地黒よっ、これは焼いてるワケ!」

 声をかけたら、怒りと共に振向いてくる。
 今回は、あたしの方は別に慌てない。

「令子っ!!」

 身構えるエミ。血の気が多くて困るわよね。

「待ったっ!あたしこれ以上先生の説教聞くのヤダから、ちょっと話し合わない?
 お互いの従業員も仲良くやってるみたいだしさ」

 後ろを指さしたら、試供品のお菓子をタイガーの口に放り込んで笑ってる魔理ちゃん。
 ……なにやってるかなー。

「……何の裏があるワケ?」

 少し毒気を抜かれたらしく、口調を柔らげたエミ。それでも不信感はありありと。

「素直じゃないわねー、ちょっと興味あるダケよ。どうせ儲りそうもない仕事だしね
 場所変えましょう、ラブラブ光線きついから」
と、続けた提案にはエミも素直に頷いた。



 浜辺の定食屋、という選択肢は流石にナシだったので、ホテルまで戻ってテラスで
お茶を飲む事にする。
 視界いっぱいに見渡せる海岸で地元の子供達が遊びまわっていた。
 海水浴には早すぎる季節。
 でも日差しだけはきちんと眩しい。

「大体あんた、なんで今になってそんな危ない物つけてまで迫ってるの?」

 エミのピートへの執着は今に始まった事じゃない。
 彼が来日したあの事件からずっと、強引に……時には演技派に追いかけ続けている。
 ある意味、一途だ。
 こんな命を天秤に載せる卑怯な手を使うのは、エミらしくない。

「ああ、これ?」

 あたしの疑問にちょっと笑って、彼女はひょいと、首飾りをはずす。
 ……ちょっと待て。

「それって『真実の愛』を手にいれるか『相手の殺害』を果たさなきゃ外れないんじゃ
 ないの?」

「ワタシを誰だと思ってるワケ?コレは解呪を依頼されて預かってるだけなワケ。もう
 きちんと呪いも解いたし、危険なんかないわ」

 ……コケた。
 まあ冷静に考えればそうかも知れないけどさ。
 世界最高峰の呪い屋であるはずのエミがこの手の呪いを何とか出来ないわけがない。

「でもなんで、先生達を騙してるのよ?」

 呪い、というファクターが無くなっても今までのエミらしからぬ迫り方、であるのは
変わりない。
 まあ、エミのやり方は『何でもアリ』とも言えるから、わかりにくいけど。

「最近さ、ピートが優しいのよ。時々一緒に食事したり。仕事帰りに寄ってくれたり」

「?良いことじゃない?アンタの努力が実ってるんじゃないの?」

 エミはふうっ、と大きく息をはいた。

「そうだったら嬉しいんだけど……全然ちがうワケ。逆に完全にその気が無くなって
 ……ワタシはオトモダチって考えちゃってるワケよ」

「なるほどね」

 こう。
 なんというか。心当たりがある。

 大戦後しばらくの……、おキヌちゃんと結婚する前までの横島クンだ。
 回数は減ったけど、覗きもしてたし。セクハラも続けてた。
 ……でも、どこかで無理してた。……自然体でセクハラされてもたまんないけどね。

 大人になる前、男の子はそんな風に不意に心を閉ざしてしまうのだ。
 社会と自分の折り合いをつけるために、自分の事で手一杯になってしまうのだろう。
 それを乗り越えてはじめて、男になる。

 ピートは700才とか言っているけど、閉鎖された世界だけでずっと生きてきた男の子
だから、ICPOに入って、現代社会に触れる中で変わってきたのだろう。

「最後のチャンスってわけね」

 あたしは、失敗した。
 ええ、失敗しましたとも。
 閉ざされた扉を強引に開いたのはおキヌちゃんで。
 そのつらい時期に一番近くに居続けた彼女が彼の妻となった。

 ……横島君クンが閉めた扉は重すぎて、あのおキヌちゃんの強力な優しさでも完全に
開ける事ができず、あたしの役目も残っていたのだけど。

「笑いたければ笑っていいワケ……こんな手なんて馬鹿らしいけど、アンタが結局あの
 スケベとうまくやってるみたいに……ワタシも……」

 エミはテーブルの上で人魚の首飾りを握り締めていた。
 解呪されたと言っても、深く強い愛の篭ったアンティーク。

「あははっ!バッカじゃない、あんたは本当に」

「本当に笑うワケっ!?」

 ん、おっけおっけ。あたしにしおらしい態度なんか見せても無駄だからね。
 いつも通りの怒りの表情に笑みを返して、ペンダントを指さす。

「そういう事なら協力するわよ。ま、出す物出してくれればだけどさ」

 差し出してみる。指サイン。
 恋に悩む乙女心はそれなりの報酬を約束してくれた。



「令子くんは?」
と、おみやげ物屋で、荷物を持たせたままの先生がラブラブで買い物をする二人に
気づいたのはあたしとエミの同盟が成立した頃。
 キョロキョロと、回りを見渡して。
 あせる先生とタイガー。

 魔理ちゃんは、まあ冷静に
『続きます』
と、画面外に向けて告知していた。



「なに?ワシの出番はもうないのか?」
「イエス・ドクター・カオス、借金完済のため・頑張りましょう」
 おめかしをしてこっちに向かってたカオスは、マリアに連絡して退場してもらう。
 まあ、これは完全に余談。






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第3話です。

 GS美神、漫画がやっぱり面白いんですよね。
 毎週のヒキとか、メタ会話とか。
 自分なりにそういう『らしさ』に挑んでみた作品です。
 だから前回のコメントがものすごくうれしかったり&プレッシャーだったり、
 あははー(笑ってごまかしとけ)

 次号
「美神とエミの共同戦線?!真実の愛はどこにっ」
(例の雑誌の来週のアオリって感じで)
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