ザ・グレート・展開予測ショー

チルドレンとの1年-04_前


投稿者名:進
投稿日時:(05/ 6/14)

BABEL社宅マンション 皆本の部屋  ―冬/元旦―

 新年を迎え、今日は元旦。
 テレビでは正月番組が流れ、コタツの上にはミカンが置かれ、そのコタツに入って分厚い新聞を読む。一人暮らしの皆本ではあったが、台所には――デパートで買ってきた――お節料理もある。やはり日本人としてそのあたりは欠かせない。
 BABELも正月は、一部を除いて休みである。チルドレンの担当官である皆本にも短いながらも冬期休暇があり、珍しく自宅でゆっくり新聞などを読むことができた。まあ、彼はすぐに新聞ではなく、未読の論文などを読み始めるのだが、好きなことができる時間と言うのは最近では貴重だ。彼は満足していた。
――満足なんだが・・・
 扉を開けて薫と紫穂が居間に入ってくる。二人とも艶やかな着物を着ており、いかにも正月らしい。ちなみに帯はマジックテープになっており、その他も簡略化されて子供でも着れるようになっている着物だ。桐壺が買い与えたものである。
「おめでとー、皆本。」
「あけましておめでとうございます。」
 新年の挨拶を口にする二人に、皆本は返事しつつも、“なんで君らは僕の家にいるんだろうな”と心の中で思った。

 ザ・チルドレンには、普通の小学生のように2週間の冬期休暇――というか冬休みを与えられており、それなりに年末を楽しんでいたが、安全面の問題から、ほとんど外出できない彼女達は、やはり退屈していたようだ。皆本の冬期休暇が始まると同時に彼の家に入り浸り、我が物顔でお菓子などを勝手に食べ、自分たちの気に入るように模様替えし、皆本が自宅での研究室にしようと空けていた部屋に私物を持ち込んだ。
 さすがに休みの間ずっと居られるのも困るので、“大掃除をするから”といって宿舎に一旦は帰したのだが、再び――着物を持って――やって来たのは昨日、大晦日の昼のことだ。忙しいところに着物に付いての感想を聞かれ、適当に答えたら危うく病院送りにされそうになった。その後、皆本家で年越しパーティを夜通しでするというので――お泊まりセットを持ってきていた――なんとか追い返そうとしたが、ごねられ脅され泣かれ、仕方なく夜中まで付き合った後、自分のベッドに寝かした。桐壺局長に誤解されるとシベリア送りになるので言っておくと、彼自身はコタツで寝た。
 いつもは3人でいる事が多いチルドレンだが、今日は葵が居ない。彼女は昨日の夕方まで皆本宅にいたのだが、今は京都の実家に帰っている。
 年末は訓練や検査が続いたため、葵はあまり実家に帰れなかった。そのためだろう、しきりに正月の帰省を楽しみにしていた。子供ゆえの残酷さ、というほどでもないが、無邪気に話す葵を、薫と紫穂が少し寂しそうに聞いていた。彼女達には帰る家が無い、だから皆本は彼女達を本気で追い出せなかった。
「おなかへったー、おせちくわせろー」
「・・・お雑煮は小丸もちを2つ」
 人の家で当然のように食事を要求する二人に腹が立たなくも無かったが、彼女達にも――不本意な――事情があるのだ、と思い、皆本は食事の支度を始めた。



 お節とお雑煮の食事が終わり、三人はそれぞれにくつろいでいる。
 薫は手にテレビのガイドブックを持っており、それだけなら普通の少女に見えるのだが、赤鉛筆をもって眉間にしわを寄せながら番組表にチェックを入れている姿など、今にも馬券を買いそうに見える。
 紫穂はファッション雑誌を読んでいる――いや、どうもティーン向けの情報誌らしい。君はまだティーンじゃないだろう?と突っ込みたくなるのを堪える。
 そして、皆本は読みかけの論文を読んでいた。難解な部分に当たり、つい頭を掻くと、いつもより髪が短いことにいまさらながら気付いた。以前に紫穂に散髪されて以来、定期的に切られているのだ。年末にも一度切ってもらっていた。散髪は好きじゃないし、床屋へは行きたくない。しかしまあこれなら良いか、などとも思う。

 その後、トランプなどを始めて1時間ほどたったころ、皆本家のドアベルが鳴った。元旦から尋ねてくる人など居ないはず――いや、チルドレンは来たが――なのだが、不思議に思いつつ玄関へ行き、のぞき窓をのぞく。すると、桐壺局長が立っていた。皆本はBABELのトップが自宅へと新年の挨拶に来たことに驚く。
「あっ、あけましておめでとうございます。」
「やあ皆本クン、おめでとう。お邪魔するヨ」
 客間・・・などは無かったので、桐壺を居間に案内し、お茶を出した。局長は薫と紫穂の着物姿を見て目じりを下げて喜び、まるっきり孫好きなおじいちゃんのようだ。そして皆本の耳に口を寄せ「担当官にあるまじきコトはしてないだろうネ」と釘を刺された。冗談だろう・・・と皆本は思いたい。
「さて、今日来たのには理由があってネ」
 お茶を一口飲んで、桐壺が切り出した。
「これから皆本クンにはボクと一緒に京都に行って貰いたい。」
 桐壺が言うには、京都のある財閥に新年の挨拶に行くのだが、それに同席して欲しい、ということだった。何でもその財閥はBABELを含む各省庁にかかわりが深く、寄付金も膨大なものになっているため、桐壺も頭が上がらないのだという。
「しかし、そんな席になぜ自分が?」
 皆本は若輩で、自分で言うのもなんだが下っ端である。とてもそんな席に出る立場に無い。しかし桐壺は首を横に振った。皆本を連れて行くことは、先方の急な希望――いっそ命令に近い――であるという。納得しない皆本に、桐壺は言葉を付け加えた。
「その財閥は、野上グループといってだネ・・・」
 野上グループ・・・世事に疎い皆本でもしばしば聞く、結構広範囲に手を広げているグループだ。
「・・・葵クンの実家だ」



 直ぐに出張の支度をし、局長が乗って来ていた車に乗り込み東京駅へ。そこから新幹線に乗って京都へ。薫と紫穂も付いてきた。彼女たちはもともと“お泊りセット”を持っていたので準備は要らない。
「局長、お聞きしたいのですが・・・」
 急げといわれるままに大急ぎでここまでやってきた皆本は、新幹線の席に着いてようやく一息ついた。彼としては、桐壺に聞いておきたいことがある。
「なぜ、先方は僕などを?」
「会いたいとおっしゃられているのは葵君のご母堂でネ・・・」
 今朝、野上邸の新年会に出席するため準備していた桐壺に、葵の母親から電話がかかってきた、彼女は、娘がお世話になっている新しい担当官に挨拶がしたいのだと言うことだった。
「君にも都合があるだろうから断ろうと思ったのだが、どうしてもといわれると、強く出れなくてネ」
 しかし話を聞いてみると、葵の――ザ・チルドレンの――担当官だからといって、そのような場所に呼ばれたことはなく、今回が異例なのだという。皆本は不安を覚えた。
「まあ、家庭訪問みたいなものだと思って諦めるんだネ。そう悪いことにはならないと思うヨ。」
 家庭訪問、そんなものだろうか、と皆本は少し気が楽になった。
「・・・もし君をどうにかするつもりなら、すでに君はどこかに左遷されているハズだからネ」
 皆本の気分は、より重くなった。

「ところで・・・」
 皆本はもう一つの疑問を桐壺に尋ねた。
「このような場所に、明石と三宮をつれてきてもよろしいのですか?
 不特定多数の人間が居る場所には、普段は極力ザ・チルドレンは連れて来られない。駅や電車内などなおさらである。しかし今日に限っては局長自らの許可があり、薫と葵は目の前に座っていた。危険という面では桐壺も狙われる可能性がある。だから、この場には私服の護衛が居り、安全は確保されているのだとは思っていた。しかし今回、薫と紫穂を京都へ連れて行く理由は無い。可能性が低いにせよ、必要ない危険に晒すこともないのではないか、とも思う。
 桐壺は対面に座っている薫と紫穂をチラリと見た。二人はこちらの会話には興味が無いようで、窓外の景色を眺めたり、ポッチーを食べたりしている。桐壺は小声で話した。
「京都の葵君を狙って、以前のテロリストが動いているという話がある。」
 前回の事件以降、その背後関係について警察や政府では調査が進められていたが、桐壺は独自の情報網を持っていた。それは基本的にBABEL内の組織なのだが、その他にも各組織に所属しているBABELの息がかかった超能力者達が、桐壺のために情報を集めていた。集まった情報はBABEL上層部で検討されたが、未だ事件の全容は掴めていない。しかしいくつか判った事があり、その一つが今回の“葵誘拐計画”なのだった。
「もともとボクは、京都へ特別にチャーターした飛行機で行く予定だった。」
 だから、桐壺が新幹線で向かっていること、そこに薫と紫穂が一緒に居ることはテロリストは知りえないはずだ。そしてもし葵が襲われるような事態になるのなら、その防御や救出に薫と紫穂の力は非常に役立つ。だから連れてきたのだ、と桐壺は言った。薫と紫穂の二人は私服を着ており、普通の少女にしか見えない。しかも彼女たちは今、ここに居ないことになっている。1,2日連れ歩く分には危険は無いかもしれないが・・・
「それなら、葵を直ぐに保護したほうが良いのでは?」
「ボクもそう思ったんだがネ・・・」
 その旨を野上家に伝えたところ、「当家は絶対のセキュリティを誇っておりますので、ご心配には及びません」という返事だった。

 やがて新幹線は京都駅に到着した。「皆本、あれ買ってくれよ」「あれ何かしら、皆本さん」などと修学旅行に来た小学生とその引率教師のような――いや、小学生は教師にお菓子をねだらないだろうが――感じで駅内を歩く。そしてタクシー乗り場から野上邸に向った。



 野上邸は、長い歴史と豪華、重厚を併せ持っていた。巨大な洋館は、まるで明治や大正に作られたナントカ館の様でもある。その中にある客間にBABEL一行は通されていた。客間は非常に豪華な調度品で飾られており、しかもここは――通された時に見えた――数多くの客間の内の一室であるのだから、皆本はただ驚くことしか出来なかった。
「ようこそおこしやす」
 客間に入って15分もしたころ、ドアがノックされ、落ち着いた着物を着た一人の女性が入ってきた。
「桐壺はん以外は、初めましてどすな。葵の母、野上大宮(おおみや)どす」
 大宮と名乗った女性は、なるほど確かに葵に良く似ていた。歳は25ぐらいに見えるが、葵の母親なのだから実際はもう少し上だろう。やや釣りあがった目に結い上げた黒い髪。美人だが、それ以上に気品のある顔をしている。
 桐壺の挨拶が終わり、大宮は桐壺の後ろで立っていた皆本を見た。
「そちらさんが皆本はんやね?いつも葵がお世話になってもうて」
「い、いえ、葵君はとても良い子で、僕、いや自分は非常に助かっております。あ、自分は、皆本光一と言います。」
 大宮はとても優しげな笑顔を向けてくれるのだが、視線鋭く監察されているようでもあり、皆本はどうしようもなく緊張させられる。
 薫と紫穂も挨拶を済ませたころ、客間のドアが再びノックされた。部屋に居た大宮の付き人がドアを開けると、そこには葵が立っていた。美しい着物とかんざしを身に付けており、伏し目がちにしずしずと部屋に入ってくるその姿は、いつもの葵とは別人のように見える。彼女は大宮の隣に立ち、お辞儀をした。
「桐壺局長、皆本はん、薫と紫穂も、あけましておめでとうございます」
 いつもと違う姿の葵を、桐壺はベタ褒めにし、紫穂は羨ましがった。皆本も驚きつつも挨拶を返して、いやみにならない程度に褒めておく。驚いたのは薫も同じだった様だ。薫は震える手で葵を指差して、言った。
「・・・お前、ニセモノだなっ!」
 何を・・・、と言う皆本を抑え、薫は言葉を続けた。
「葵がそんな金のかかりそうな服、着てるわけねーもん!」
 だあっ、とすっころぶ葵。すぐに起き上がって薫の胸元を掴み上げる。
「正月に会うなりパチモン扱いかいっ! ウチをいつもどんな目で見とるんや!」
「うるせー、ナイチチのくせにオジョウサマぶりやがって」
「ウルサイ! 関係ないやろ!」
 髪を引っ張ったり、服を引っ張ったり、取っ組み合いのケンカ――まではいかないのだが――を始めた二人に、一同は呆然としていたのだが、いち早く我に返った皆本が、薫と葵を引き離した。
「止めるんだ、二人とも。イテっ、引っかくな、蹴るな、痛いって・・・止めろと言ってるだろう!!」
 大声で叱られた薫と葵はピタリと止まった。桐壺は顔を手で覆い、紫穂は“しーらない”とばかりにそっぽを向いている。そして大宮は目を丸くして皆本を見た。

――間――

「葵、準備もありますし、そろそろ失礼して戻りまひょか。」
 エヘン、と咳払いをした後、大宮はそう言い、一礼して付き人の開けたドアから出て行く。
「ほな後で!」
 葵も、パタパタとそれを追いかけていった。その姿はいつもの葵に見える、皆本は少し安心した。

 廊下を歩きながら大宮が葵に話しかける。
「仲のエエ友達やね。」
「んー、まあケンカもするんやけど、それなりにやってる。薫も、紫穂もエエヤツやし」
 葵の子供らしい返事に大宮はうなずく。
「皆本はん、ってお人も、気に入ってるみたいやね。」
 少し前の葵は、気に入らない使用人を屋外に放り出すなど、しょっちゅうだった。特に説教されるのが嫌いで、口うるさい家庭教師などは何度も庭の池に飛ばされている。その頃のことを考えると、先ほどの葵はケンカしていた薫を飛ばしたりはしなかったし、特に、皆本の言うことを聞いて――しばらく抵抗していたが――大人しくなった。
 葵はしばらく返事に困っていたが、やがてバツが悪そうに答える。
「・・・まあ、皆本はんも一応、友達やし・・・」
 大宮はそれを見て微笑んだ。



 陽が落ち、野上邸での新年パーティが開催された。会場では小規模なオーケストラが様々な音楽を奏で、テーブルには多国籍の豊富な料理が並び、そこには各界の重鎮や著名人、芸能人や俳優が居並んでいる。それら厳選された出席者は全部で100を越えるだろうか。これが野上財閥の力なのだな、と皆本は感じた。
 薫と紫穂は――ちなみに、桐壺に貰った着物を着ている――他にも子供連れの出席者はいるので、彼女達は特に目立たない。桐壺は、BABELの局長として出席するのに問題は無い。しかし皆本は周りから明らかに浮いていた。社会的な格としても他の参加者に全く及ばなかったし、彼は余所行きなど持っていなかったので、いつものだぶついたスーツ姿なのである。さらに洒落っ気の無いグルグルメガネに、ボサボサ頭・・・は紫穂が散髪しているので、そこだけは問題ない。当然話しかけてくる様な相手も居ないので居心地が悪そうに壁際に設えてあるテーブルセットに座っていた。桐壺は挨拶に回っており、薫は珍しい料理を食べるのに、紫穂は出席者のドレスなどをチェックするのに、それぞれ忙しそうだ。
――まあ、もう数時間の辛抱だ。
 周りの客も特に皆本に注意を払ったり、陰口を叩いたりするわけでもなく、まったく気にしていない。皆本としては、そのほうがありがたい。彼は薫と紫穂が無茶をしないかどうか監視しながら、昼間読んだ論文などを思い出し反芻して、時間をつぶしていた。

「皆本はん。」
「はっ?」
 急に声をかけられたため、皆本はビクっとして声を上げた。
「皆本はん、暇そうやな。」
 いつの間にか葵が隣に座っていた。先ほど薫に引っ張られた着物や髪はキチンと直されており、この場に相応しいお嬢様に見える。
「ああ、いや・・・その、こんな場所に来た事が無いから。」
 何をどうすればいいのか分からない、と皆本は続ける。葵はいつもの顔で「皆本はんらしいわ」笑って見せた。
「そっちはどうだい?疲れたんじゃないか?」
 先ほどからチラ、チラと人影の中に葵が見えていたが、大宮について来客に挨拶して回っていたようだった。挨拶とはいえこれだけの人数だと大変だろう。
「ホンマ大変やわ。もー、エライ疲れた。」
 それから少しの間、二人はたわいも無い話をした。そうしているうちに薫と紫穂も寄ってきてテーブルを囲む。二人もパーティに飽きてきたらしい。
「・・・そんなんで、なんかダンナさん候補とかゆうて、何人も会わされたんやけど、なんか30歳ぐらいの人とかおるし、オマエなにもんやっ!って突っ込みかけたわ!」
「でもフィアンセっていうのよね。憧れなくもないかな・・・同い年ぐらいの人も居たんでしょ?」
「そらいたけど、同い年の男なんてガキやでガキ、鼻たれボーズや。」
「じゃあ、その30歳のオッサンと結婚すりゃ良いじゃん。」
「年上にも限度ってもんがあるわ!」
 3人は仲良く話し込んでいる、皆本はジュースを取ってくる、と言って席をたった。「コーラ」「カルピス」「赤マムシドリンク」などと声がかかる。さすがに最後のは無いだろう。

 ドリンク・バーにやってきた皆本はウェイターに飲み物を貰い――赤マムシもあった――席に戻ろうとする――と、後ろから声がかかった。
「皆本はん。」
「ああ、ありがとう。取りに来てくれたのか?」
 グラスを差し出しながら振り向いた皆本が見たのは、目を丸くしている大宮と、付き人や取り巻きの客たちだった。
「あっ、いや、失礼しました。てっきり葵君だとばかり!」
 確かに声が似ていたし、音楽や他の客の声や聞き取りにくかったので、つい葵と大宮を間違えてしまった。大宮はクスクス笑い、そして慌てる皆本にエエからエエから、とグラスを受け取る。
「皆本はんは、うちを驚かすのがうまいどすなあ」
 大宮の声に、皆本は冷や汗を掻く。何しろ相手は自分を左遷するぐらいは一声で出来る立場に居るのだ。
「葵を探してたんやけど、皆本はん、案内してくれますかいな?」
 皆本はカクカクと頷きながら、壁際のテーブルに案内する。
「葵はBABELではええ子にしてますか?」
「・・・はい、とても」
 挨拶代わりにテレポートで飛ばされたりしますが、と言いそうになったため、返事にちょっと間を空けてしまったが、大宮は気にしなかったようだ。
「BABELに行かせてから、葵はホンマええ子になりました。」
 絶対的な力――超度7の超能力と野上グループの娘としての身分――を持つ葵は、小さいころから腫れ物扱いされていた。対等に付き合おうとする人間はおらず、上か下かしかなかった。両親や親族の前では大人しくしていたが、使用人に威張ったり、イタズラしたりと手がつけられない時期があった。
「それは、明石や三宮という友達ができたからでしょう。3人はとても仲が良いですし。」
 BABELに来るとそこには薫や紫穂という、自分に劣らない超能力者が居た。しかも彼女達には――特に薫には――野上財閥の娘という立場など全く通用しない。葵はBABELに来て、生まれて初めて対等な相手に出会ったのだ。3人はすぐに友達になった。
「でしょうなあ。うちはホンマ、薫ちゃんや紫穂ちゃん、桐壺はんに感謝してるんどす。」
 皆本はうなずく。
「葵は家に帰ってくるたびにBABELでのことを話してくれるんやけど、夏ぐらいから皆本はんのことを聞きました。」
 皆本が着任したのが初夏だから、そんなものだろう。
「最初はなんや“変な兄ちゃん”が来たって言うてたのが、すぐに“気の良い兄ちゃん”に格上げされましたわ。」
 皆本と大宮は話しながらテーブル席へ歩く。付き人や取り巻き客たちは大宮の穏やかな“お願い”で付いては来なかった。
「秋には“友達”になってましたし、昨日帰ってからも、皆本はんのことはよう聞かされました。あの子はきっと、皆本はんのことを兄のように思てるんやと思います。」
 大宮は立ち止まると、はい、といって手にしていたグラスを皆本に返す。
「そやから、一度会うてみたい思いましてな、急に来てもらったんどすわ。葵の言うとおり、エエ人みたいで安心しました。」
それで両手の開いた大宮は、深々と皆本に頭を下げた。
「葵のこと、これからもよろしゅうお願いします。」



 皆本が大宮を連れてテーブル席に戻ってくると、丁度チルドレンが座っていた席を中心に人だかりが出来ていた。“アイツら、またなにかやったのか?“と顔をしかめる皆本。他の客のざわめきで聞き取りにくいが、どうやら薫や葵が、誰かと言い争っているようだ。
「そんな言い方ないやろ!」
「待て、葵!」
 人だかりを押しのけてやってきた皆本と大宮が見たのは――泣いている――葵が、テレポートで消える姿だった。



*****
第4話前編を投稿します。
文章をうまくまとめることが出来ないため、前回の投稿より少し間が空きました。
また、指摘や突込みなどよろしくお願いします。

葵の性格に付いて、自分なりの想像してみたところ
@お金が好き。
・ページ3万円(でしたっけ)で作文の書き直しをしても良いと言う。
・テレポーターの暴力団員に、金で見逃してくれといわれ反応する。
・それっぽいHowTo本を読んでいた。(記憶あやふや)
A当然イタズラ好き。
・皆本を風呂桶に放り込んだり、海上に飛ばしたり。
B3人の中では発育が悪く、気にしている。
・うるさい、黙れ、殺すぞ。
Cその他
・京都人(関西人)のわりには納豆を食べている。(いや自分も京都人で、納豆食べますが)
・無人島で、皆本を薫と葵で拘束し、紫穂が心を読もうとしたときのこと・・・薫や紫穂はノリノリのやる気なのに、なぜか葵だけなんとも言えない顔をしている。(笑ってるが、汗をかいて、顔を赤くして)・・・これが、どういう意味なのか未だにに判らないのです。

 今回は葵が主役です。といってもなかなか本人が登場しないのがアレですが。集中連載でも今一、前面に出てこないので、ある意味合ってるような気もしないでもありません。
 さて、葵の実家に付いての設定は、勿論自分勝手に考えたものです。こういった自分設定は恥をかくことが多いので、できるだけやらないでおこうと思ってはいたのですが(既に皆本さんの過去設定とか作ってしまってますが)、集中連載での葵のエピソードが少ないので、作ってしまいました。
 葵がお金好きなのは周知のとおりですが、本当にお金が好きなのは貧乏人ではなく金持ちだ、という自分勝手な解釈から、葵の実家は大金持ちにしています。
 後編は、でき次第投稿したいと思っています。またその時にはぜひ読んでもらえれば幸いです。
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