ザ・グレート・展開予測ショー

紅の味。(紅を引くの連作?)


投稿者名:ししぃ
投稿日時:(05/ 6/ 9)

これは、私の前作「紅を引く」のシチュエーションを使ってるみたいな感じです。
単品での成立はしてないと思うので「紅を引く」の後ご覧下さい。

*あれとは雰囲気違いますので、気に入ってくれていた方は特にご注意ください。










「うぉおー、俺のシロをイヤらしい眼で見るなー!!」

 穏やかな幸福と歓談を破り、男は叫んだ。
 それが惨劇の合図になるとは知らずに。

「先生っ感激でござるっ!!」

 叫びを聞いてテーブルを飛び越え愛する男の元へと少女は駆け寄る。

 それはいつもの行動であったが、彼女の服装はいつもと著しく異なっていた。

 ヒラリ、と舞うスカート。サクラ色の影に隠れていた魅惑の純白が彼女を取り囲んで
いた男達を即死させていく。

「……俺のですって?」

 男の叫びを聞いて、ゆらり、とその日の主役は立ち上がる。

「どういう事ですか?忠夫さん?」

 明るいはずの照明の下で、闇の呪縛を添えてキヌが視線を向けたのは、失言に気付き
大汗を流す男だった。

「拙者は身も心も先生の物でござるっ!」

 ペロペロと愛しい青年にいつもの親愛の情を示し、尻尾を振る少女。

「おちつけっ!!やめろっシロ」

 振り払うつもりだった。
 だが、その日の少女は……違いすぎた。

 普段はボロボロのデニムにTシャツといったボーイッシュな格好を好む彼女が美しく
髪をまとめノースリーブのミニドレス(青年が悩みに悩み買い与えたが、今まで一度しか
袖を通していなかったもの)を着て、潤んだ瞳で擦り寄っているのだ。

「ああ、胸が理性がっ最近すくすく育ちやがって、日焼けしてない肩口がっああっ!」

 迸る情熱に身を委ねかけてしまった彼を責める事ができる者がいるだろうか?
(あのピートでさえ後に『あの日のシロさんは危険でした』と語るほどだったのに)

「そう、そういうことなのね、忠夫さん」

 いや、ただ一人。
 彼を責める正当な権利を今日というこの日に勝ち得たヒロインが、

 いた。

 普段はあまりアルコールを嗜まない彼女が、披露宴とこの二次会の雰囲気の中、
何杯かのシャンパンを空腹に流し込んでいたのも、広がる惨劇の導入であった。

「節操ないのは、許さないっていいましたよね」

 それは緩やかな動きだった。
 ゆっくりと指で額を突いただけ。恋人同士がふざけあう仕種。

 ああ、結婚式直後だもんな。
 あの表情はちょっとお灸を据えてみただけなんだ。

 彼女を見つめていた者、全てがそう思った瞬間。
 横島忠夫と言う名であった柘榴が弾けた。

「あ・べ・しっ」

 叫びつつ、宙を舞う時、あの手の形をしていた芸人魂は、会場の一部の人々の心を揺さぶる。

「せ、先生っ!!」

 今までその腕に在った青年の温もり。今は彼方。(部屋の隅)

「おいで、シロちゃん。今日という日から始まる現実を教えてあげるわ」

 おキヌはそういい放ち、シャンペンタワーの中段のグラスを抜き取って、一気にあおる。
 崩れ落ちるシャンペンタワー、泣き叫ぶ魔鈴。

 刹那におキヌが消えた。

「なっ!!」

 超加速では、ない。
 だが、シロの目はおキヌを捕らえる事が出来なかったのだ。

 パタン、と前のめりに倒れたかと思うとそのまま転がり、視界の外へ。
 それを追えば、いつのまにか体を離れていた幽体が迫る。

「……酔拳?違う……アレは、幽酔拳!?」

「むうっ、知っているのか?小竜姫!!なのね〜」

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 幽体離脱と酔っぱらいを極めた者だけが使いこなすと言われる伝説の拳法
 幽酔拳!
 虚にして実、霊にして巫。
 天国の階段を登りかけながら、酔っぱらい独特の馬鹿力で暴れ、幽体が
 魂魄を破壊するという恐るべき拳。
 この技の使い手は最強の野獣「トラ」と賞される事もある。
 技利子亜(ギリシア)の閥糟(バッカス)を祖とすると言われ、神魔ですら
 極めた者は少ない。
 三十数年前、巫大狗・狂聖堕頭と呼ばれる3人組がその奥義を歌に封じたと
 言われている。
                極楽書房「幽はSHOCK!」より
**************************************

 まさかあの娘が……
 武神の額に汗が広がる。

「たらおさんを誘惑するなんて、10年早いわ、シロひゃん」

 アルコールに呂律の怪しくなったおキヌの言葉に数人の女性が頷いていた。
(日本有数の知名度を誇るフグタ・タラオはまだ4歳に満たぬ幼児、お子様と称される
 事も多いシロとて、誘惑は出来まい)

「お逝きなさい!!」

 長髪ぐらいしか共通点がない!!しかも半端に古いっ!!
 心で皆が突っ込んだ時、キヌの指はシロの額に迫っていた。

「なっ!!」

 少女の惨劇を想像し、あるものは目を閉じ、ある者は銀の狼のため駆け出した。

「ふっ甘いな、おキヌちゃん」
 ……ただ一人、先刻までシロに迫り、魅惑の純白に命を奪われてた横島の同級生の
メガネの男を除いて。(命ってどういうものだろう)

 凄まじい闘気の光の中、響いたのはパキ、という乾いた音だった。
 続く激突の音。

「今宵のあの少女のポテンシャルは、神を凌駕している!!」

 漲る自信と共に彼が指さす先には『偶然にも』ヒールが折れたために転んでしまい、
お尻を押さえているシロと、必殺の一撃を躱されて壁に張り付いているおキヌの姿があった。

 おキヌちゃんも意外とギャグキャラなんだよな。
 夫と同じあの手の形を取り、沈黙している彼女に皆が心で合掌する。

「ううぅー何があったでござるぅ」

 自分の身に起きた出来事を把握できず、目の前に星を飛ばし立ち上がるシロ。

 敢えて繰り返させていただく。
 今宵の少女のポテンシャルは、神を凌駕していた!!

 キュンッ!!
 魔法料理の店、魔鈴は客たちの魂の軋み受けて鳴動した。

 パンパン、と軽くお尻を叩き立ち上がる腰に!!
 先ほどまでの闘っていた相手を探し、キョロキョロする視線に!!!!
「おキヌどの〜?」
 か細い声で呼ぶ、僅かな紅を重ねたその唇に!!!!!

 店の魔力が呼応したのかも知れない。
 少女の霊力の源となる月。
 その化身たる迦具夜がその宴席にいたことも理由の一つだろう。

 シロと同様に星を散らしていた彼女、名を呼ばれた彼女はアルコール混じりの朦朧と
した意識で振り向いて、

 ……その魔力の牲となった。

「シロちゃん、可愛いっ食べちゃいたいっ!!」

 ズッギューン!!!

 衝撃が走る。 

 右手を少女の腰に回し、尻尾を柔らかく握り、左手を胸に沿えて。

 数時間前にヴァージンロードを歩んだ女性は、少女の唇を奪っていた。

「やっやっやっやめるでござるっおキヌ殿っ!!あああぁぁぁあああっぁん」




(しばらくお待ちください)




 トロンとした目で微笑む真の魔性と、幸せそうにその腕に身を委ね目を閉じた少女を
中心に長い沈黙が過ぎた。

 やがて、どこからともなく、拍手が響く。
「ええもんみせてもろたぞー」「……美しい……ママ」「最高ジャー!!」
 戸惑いが喧騒になり、安堵が店を包む。

 先刻まで破れた柘榴だった男もその拍手の渦に参加していた。

 いつのまにか、彼が自分の横に来ていた事に気付いたのは、かつて彼の上司だった女性。
 彼女とて、今までの惨劇を唖然と見守っていたのだが、さすがの恋する心が大事な事を
思い出させた。

「横島クン、幸せになってね」

 どさくさ紛れに軽く照れながら、勇気を振り絞って、心から告げる。
 披露宴での乱暴とも思えた祝辞と違う、しめやかな言葉。

 男は、困惑した。
 様々な可能性を脳内でシミュレートした。
 そして(時間こそ掛かったが)いつもの結論に達した。

「これは、つまり幸せをくれるっちゅーことやなっ!!ついに美神さんがっ!!」

 それでも、パンツいっちょではなく、タキシードを着たままのダイブだったのは、
今日の彼の節度だったのかもしれない。

「忠夫さんのっ!!」
「先生のっ!!」

『バカァー!』

 衆人の注目を背負ったまま、残影を伴うスピードで飛込んで来た二人から、美神直伝で
あろうギャラクティカ・ク○ッシュを食らった横島はそのまま窓から飛び出していった。

 ……下人の行方は、誰も知らない。



























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……(判決待ちの被告気分)

 アクションの練習をしてみようと思った。
 三人称苦手なんだよなーと、思った。
 椎名作品の魅力であるパロディの入れ込みをやってみたかった。

 ギャグ物、苦手だった。

 ……結局、書いてて楽しかったので投稿してみたくなってしまった。

 おキヌちゃんはきっと、百合子さんと闘うために修行したと思います。
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