幸せの光景
投稿者名:ししぃ
投稿日時:(05/ 6/ 5)
五年、遅く生まれていたら、彼の横にいる事ができただろうか。
シンプルなマーメイドラインのウェディングドレスを見つめながら、ふとそんな事を考えてしまった。
そして苦笑する。
ありえない。
彼の横に座る彼女は300年以上も前に生まれ、そして今あの場所にいるのだから。
運命の恋人、なのよね。
出会いと別れとすれ違い。
その果てに結ばれた二人。
「令子ちゃん?」
微かな声に気付いて、視線を向けると隣席の冥子が不思議そうに私をみていた。
「ないても、いいとおもうの、れーこちゃんは」
……は?
「何であたしが泣くのよっ!!」
あたしの叫びに、友人代表として泣きながらスピーチするタイガーの声が止まる。
ヤバイヤバイ。
「美神さんっそんなに俺をっしかし俺はキヌを愛し生きていくと決めた身、だがっあの、チチ、シリ、フトモモはいいものだっ捨てることなどできないっ、そうだっじゃあ愛人として、週に一度……」
ガシャンとビール瓶の割れる音がして、横島クンの頭の上にヒヨコが舞った。
「口にでてます!!」
割れたビール瓶の口を持ってにっこりと微笑む彼女は、それでもきれいで。
「泣かないわよ、大切な人が幸せになる時に泣くのは、野暮でしょ」
彼の同級生として出席している大男の嗚咽のBGMは聞かなかった事にして、花嫁衣装に身を包んだ彼女にお詫びの視線を。
鮮やかな笑み。
勝てないなって思い知る。
「令子ちゃん、だ〜いすき」
突然の冥子の言葉はいつもの甘えた調子でなく、優しすぎる視線と一緒にあたしを包んでくれた。
「バカ」
目の前のシャンパンを口にする。
甘い甘い香り。
少しだけ、苦かった。
「二次会へはまだ行かないのかい?」
式が終った教会であたしに声をかけたのは唐巣先生だった。
「あ、はい。冥子と一緒に行く予定なので待ってます」
幾つかの思い出を巡らせていたわたしは、レストルームに行ったはずの冥子を探したけれど、まだ戻っていないようだった。
新郎のクラスメイト達が後片付けを始めている。
「アッという間だったね。君の所を出てからこうなるまで」
隣席の背もたれに手をかけ、思い出すように先生は告げた。
なにか言い返そうとしたけれど、言葉は先生の視線に止められてしまう。
「君が出席してくれて、二人も本当に喜んだと思う、私からも礼を言わせて欲しい」
「……先生はご存じでしたっけ」
私たちの間の表向きにならない幾つかの事情。
どんなに言葉を繕っても、わたしは彼を深く傷付けて……彼はそれを許してくれたけれど、わたしは自分を許せなかった。
「他人の事を本当に知る事なんか出来ないよ。僕が知っているのはみんなが精一杯やったという事と君が本当はとても優しい子だということだけだ」
冥子といい先生といい。
……理解者の多さに情けなくなる。
たぶん、あたしはそんなにも弱っていたのだろう。
「口説かれてるみたい」
悔しかったので、少しだけ睨めつける。
「24年前ならね」
慣れた調子で先生は視線をそらす。
「先生がパパなら、あたしもっと素直だったかな」
「あり得ない仮定だね。君は美智恵クンと公彦クンの二人にとても良く似ているよ」
「主にママに、でしょ」
「どうだろう。心は多分公彦クン似だよ。頑固で思い込みが激しい上に人の言うことを聞かない」
「ひどい言われ様ね」
「ただの事実だよ。……けれど大切な物を知っている。そして痛みを知っている」
「先生。そんなにクサイ言葉ポンポン出せて、なんでママを口説けなかったのよ」
「ホットケ」
ずれたメガネを直して、耳を赤くして先生は少し言葉を荒げる。
やはり機能不全の実のオヤジ以上に、この人はわたしの父なのだ。
「みんな優しすぎて残酷だわ。ヤケもおこせない」
「君がヤケをおこしたら、世界が壊滅してしまうだろ?」
「まあ、そうね」
「令子ちゃ〜ん、お〜ま〜た〜せ〜」
やけに長かったトイレから冥子が戻ってきたので、親子の会話はそこで終りだった。
「本当にね。あたし祝福出来るから。…アリガト、先生」
聞こえない事を願って呟いたのだけれど、願いは叶わなかった。
「横島クン、幸せになってね」
二次会で暴れまくっているシロと、それを正面から受けて立っているおキヌちゃんを
尻目に、あたしはそう告げることが出来た。
戸惑いつつ。困惑しつつ。少しだけいつもより時間をかけて、彼は”いつもの言葉”
であたしの肩に手を回し。
……あたしではなく、彼女(と弟子)のキツイ突っ込みを受けていた。
それは多分、これから続いていく幸せの光景。
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あとがき みたいにちょっと。
投稿する順、逆だったかなぁ。
天下の不器用女の成長予想。二つ目は「始まりの夜」から遡って4年前、
連載から3年後の一幕になりました。
三人称で描写すると美味しいところが多そうな結婚式と二次会ですが、
何度か推敲してる間に美神さんに乗っ取られてました。
「ポニーテールにAラインのドレスで結婚式に出席するシロ」
というイメージから始めたはずなのに、跡形もありません。
「兄としての西条さんの格好良いところが見てみたい」
と思ったのに出番すらありません。(好きなキャラなのですけどね)
今後の精進を心に誓いつつ。
ご評価をいただけると幸いです。
今までの
コメント:
- えっと・・・おキヌちゃんが結婚したから賛成(爆。
おっとっと、はじめましてですね。こんにちは〜ししぃさん。皆さんからおキヌスタと呼んでもらってます、ねばぐりです(笑。
すごくいい話だと思います。美神の心中がうまく書けていました。
しかし、私的にはもっと心理描写や情景描写を書いて文をもっと増やしてほしかったです。けど人のこと言えないので言いません(ぇ?
では三次か・・・(マテ)次回作を待ってま〜す。 (never green)
- 唐巣神父が格好いいので文句無しの賛成!
という訳で、『おキヌスタ』ことねばぐりさんのある意味ゴッドファーザー(笑)……『おキニスタ(本当は、言語学的に言うとおキヌィスタだそーです……勉強、勉強)』すがたけです。
>ガシャンとビール瓶の割れる音がして、横島クンの頭の上にヒヨコが舞った
成長したなぁ、おキヌちゃん。とある友人とその奥さんを見てるようです(ぉぃ)。
酔えない酒を飲み続ける美神さん……いい話ですが……順番としては『始まりの夜』の前の方がやはり良かったかと。
次は、弟子サイドからの作品、お待ちしてます。 (すがたけ)
- 冥子ちゃんが出てるだけで賛成ッ! ……では駄目なのでしょうから、もう少しだけ(笑
成長、というか素直になっていろいろなものを認められるようになった美神さんが可愛いのです。ええ、可愛いのです!そう、可愛いのです!!(くどい
>「ポニーテールにAラインのドレスで結婚式に出席するシロ」
見たかったのは私だけだろーか(笑) (Arih)
- never greenさま
>えっと・・・おキヌちゃんが結婚したから賛成(爆
よしっ次もこの手で……(いけません)
>しかし、私的にはもっと心理描写や情景描写を書いて文をもっと増やしてほしかったです。
頑張りますっ、どうもわたし、二次創作は原作の絵を思い浮かべるきっかけと考えちゃうため、いわゆる描写系を省きすぎるみたいです。
描写力ほしいー
すがたけさま
>唐巣神父が格好いいので文句無しの賛成!
神父スキスキー。
'78以前からメロメロでしたが'78以降(出番無いけど)もう夢中です。
>次は、弟子サイドからの作品、お待ちしてます
えーと。がんばってみました。……微妙にダメでした。
推敲してまたUPしてみます。
Arih様
>見たかったのは私だけだろーか
……うえーん、ゴメンナサイ、上に書いたようにやっぱり微妙にダメでした。
シロスキーsの中に投げ込むのには未熟と承知の上ですが、推敲してUPしてみます。
コメントいただけるのがとっても嬉しいので、わたしも皆様の作品にコメントをしなくてはっ!!
と思いつつ。
勇気の出ない日々。いただいたコメント噛み締めて努力目標とさせていただきます。 (ししぃ)
- 神父ゥゥゥゥーーーーーーーーーーー!!!!!!
一回目に読ませて頂いた時はあまり惹かれなかったのですが
もう一度読んでみると・・・・・。
神父が最高です・・・・他に言える事はありません・・・・・。 (丸々)
- >「兄としての西条さんの格好良いところが見てみたい」
あそれイッキ、イッキ、イッキ……(煽るなワシ)。
ぼくはこの発表順で良かったと想っています。なぜなら、これを読んだ後にあの結末を読むのはちょいと心臓に(←あらゆり意味でギャップに弱い事が veld さんに看破された小心者)。
最後の令子の祝辞が案外月並みな文面に収まっているのが意外でしたね。あ、「だけどわたしより幸せになったら承知しないわよ!」式の挨拶はちょっぴりヴァイオレントな披露宴で散々かましたか(タイガー、ワレは善い奴ジャノー(笑))。
あと中盤で神父が随分と株を上げてしまったので、最初の冥子が相対的に弱くなっちゃってるのがちょっと惜しいですね。
初登場の時みたく、もーちょい語らせてあげても宜かったかなー、と。
とまあ、色々文句つけましたが(失礼)、何より難しい綱渡りを自分なりに成し遂げたこの不器用な笑顔の道化に賞賛の拍手を。
> 「どうだろう。心は多分公彦クン似だよ。頑固で思い込みが激しい上に人の言うことを聞かない」
美智恵にも該当するよーな(笑)。……ま、結局は似た者夫婦なのかも。 (Iholi)
- Iholiさま
Iholiさまより、カナタ様的でない賛成をうけちゃるーというのは、
結構真剣に目標にございます。(別の作品でなんとか行けましたがっ)
輝彦さんの格好良さは……ちょっと練習重ねてからという事でお許し下さい。
ギャップ、と。よし(邪悪笑い)
>美智恵にも該当するよーな(笑)
しますねー、でも美智恵さんはブラをつけたので、神父的には令子より
聞きわけがいいと思っている……とか?
冥子の件など、なるほど納得でございます。
シーンのバリュー配分は大事だなー
(学習する幼児モード) (ししぃ)
- 丸々さま
コメント返しで、飛ばしてしまったっ!!
ひええんっゴメンナサイっ。
今度は一回目から、あなたの心を奪う作品が書きたいわっ(ハンカチ噛み噛み) (ししぃ)
- 時系列を順当に辿らずさかのぼったりする様な続編って、結構好きです。伝えたいエピソードの順番があり、その流れに沿ってる感じがするので。
美神さんと横島君の不倫(?)が第一弾で、結婚式の情景が第二弾と言うのは、そんな流れを感じますね・・・その中にも更に、まだ語られてないエピソードの影が色々含まれていたりして、ワクワクしてきます。
二つの時に相反する想い―彼への想いそのものと、彼らの幸せを願う想い―の中でしっかりと立つ彼女の姿。それが優しい人達の存在に支えられている様子が鮮やかに浮き出て見えました。 (フル・サークル)
- フル・サークルさま
>伝えたいエピソードの順番があり、その流れに沿ってる感じがするので。
書いた順です。書いた順。
といっても、美神さんと横島君ではじめるべきだ、という確信もあったので、
読み取っていただけた様子に説得力が出ていたら、本当に嬉しいですね。 (ししぃ)
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