ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(21)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 6/ 9)

・・・ケエエエエ、ケエエエエ、ケエエエエ・・・

「・・・・・・」
どこかから聞こえた、カラスか何かの鳴き声を耳にして、ピートはふと、目を覚ました。

・・・ケエエエエ、ケエエエエ、ケエエエエ・・・・

(カラス・・・?)
鳴き声は、天井の方から聞こえてきている。
おそらく、天窓の上かその近くで騒いでいるのだろう。
視界に被さる長く伸びた前髪を払いながら、ベッドの上に起き上がる。真夜中なのか、部屋は真っ暗で、相変わらず天窓から射し込む青い月光だけが唯一の光源となっていたが、人間とは感覚器の能力が根本から異なるピートには、それだけの明かりで充分だった。
(三時・・・か)
丸くなって眠るクセがあるため、少し強張って感じる背中を軽く伸ばしながら時計を見る。確か、夕方の四時頃に目を覚まして加奈江と喋った記憶があるから、それからまた眠っていたらしい。
夕食を取った記憶は無く、いきなり髪が伸びている事やら何やらで加奈江と喋った時の会話も少し朧気なので、多分、夕方に目を覚まして、それからまた間も無く寝てしまったのだろうが・・・。
(・・・・・・)
何故か、妙なだるさを感じて、何となく額に手をやる。
気持ちが悪いのではない。病気と言う感じではないのだが、何か妙に体がだるい。
運動のし過ぎなどでひどく疲れて寝た翌朝に時々感じる、妙にすっきりしない眠気が、頭だけでなく体全体に沈殿して留まっているような感触。
筋肉痛とまでは言わないが、全身が妙に疲労しており、今でさえも、ふと気を抜くとまた眠ってしまいそうになる。
夕方、目を覚ました時は自分の体の変化や、加奈江の傷が消えている事に驚いたせいで、一時的にそういう感覚が吹き飛んでいたため、眠気も何も無いように思われたのだが、今はとにかく妙にだるい。
足に付けられている精霊石の鎖のせいかとも思うが、これまで何とも無かったのに、いきなりこういう症状が出てくるのは少し不自然だ。
(どうしたんだろう・・・)
額に手を当てたまま考えてみるが、自分が一度死んで、この数日間、冗談でなく死んだように眠っていた事など覚えていないピートに、『超回復』で急激に魔力を消費したせいで疲れているのだ、と言う考えが浮かんでくる筈が無い。
そうこう考えている間にも、体に残る疲労は、ピートの意識を再び眠気と言う形で奪おうとしており、抗い難いその力の波に、ピートの意識は再び沈もうとしていた。

・・・クエエエエ、クエエエエ、クエエエエ・・・

(どうしたんだろう・・・やけに、騒い・・・で・・・)
睡魔に覆い尽くされる寸前の感覚に飛び込んできたカラスの鳴き声を聞きながら、どうしてあんなに騒いでいるのかと思う。
そういえば、ここに連れて来られてから、加奈江の足音と鍵を外す音以外の、外部からの物音を聞いたのはこれが初めてだ。カラスのけたたましい鳴き声と言うのは決して感じの良いものではないが、そう考えると、聞こえた事が何か嬉しい。
ぼんやりとした思考の中でそう考えたのを最後に、ピートの意識は再び睡魔の闇に覆われ、微かな寝息が、カラスの鳴き声に重なった。

・・・クエエエエ、クエエエエ、クエエエエ・・・

同時刻。
地下で眠っているピートの事など全く知らぬげに、カラス達は、甲高くさえある鋭い鳴き声を夜空に向けて上げながら、ある一点を中心にして、ぐるぐると夜の低空を旋回していた。
ギャアギャア、クエエ、と喚く黒い鳥の群れの中には、蝙蝠らしき影も、少なからず混じっている。
手入れをする者がいなくなって、木も下草もその本来の成長に任せたまま、荒れ放題の林と化した広い庭の中。
自分の頭上で、自分の意のままに群れ飛ぶ黒い鳥達の姿に、加奈江は満足げな笑みを向けていた。
「ふふふ・・・」
夜空に向かって手を差し伸べた加奈江の手に、魔力によって、彼女の従順なしもべと化したカラス達が何羽か降りてくる。そして、かつての西洋の騎士達が自分の大切な女性達に捧げた敬愛と忠誠のキスをするように、彼らもその黒いくちばしで、加奈江の白い手をそっとつついた。
「・・・これなら・・・これならいけるわ・・・エミさん・・・待ってらっしゃい!!」
彼らの従順な仕草に目を細めると、夜空に浮かぶ月を見上げて、そう哄笑する。
満月に向かいつつある、軽く膨らんだような半月がぽっかりと虚空に浮かび、黒いワンピースを身にまとった、夜の権化のような加奈江の姿を冷たい光で照らしていた。

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