ザ・グレート・展開予測ショー

キツネと狼と紙袋


投稿者名:犬雀
投稿日時:(05/ 5/29)



「キツネと狼と紙袋」



その日の除霊はそれほど難しいものではなかった。
確かに悪霊の数は多いがそのどれもが大した力を持っているでもなく、あるものはタマモの放つ火炎に焼かれ、あるものはシロの霊波刀に斬られ、そしておキヌの笛で動きを止めたところを美神の神通棍で倒されていく。

油断大敵とは言え、それでも余裕のある戦いというのもあるわけで。
一通りの悪霊を除霊し終わり師匠の援護へとはせ参じたシロが見たのは横島の繰り出す不思議な技だった。

世の中にはとことん運の悪い奴もいる。
シロが師匠と仰ぐ少年は紛れも無くこういう局面では貧乏くじを引くタイプである。
それが証拠に横島の前にはボスとも言える大きな悪霊が立ちはだかり、その霊の拳を振り上げ、その巨体に似合わぬ素早さで横島を追い詰めていく。

「先生!」

叫んで駆け出そうとしたシロの前で横島が奇妙な動きを見せた。

それに見とれて立ち止まったシロの眼前であれほど素早さを見せていた悪霊の動きがピタリと止まり、それは横島の霊波刀で一刀両断されて宙に消えた。

何が起こったかわからず呆然と見ていたシロに気がついた横島が笑いかける。
だがシロは横島の見せた技に見とれていてそれに気がつかなかった。




翌日、今日は特に仕事も無く事務所でのんべんだらりと過ごしていた横島にシロが真剣な顔で話しかけた。

「先生!」

「なんだ?」

おキヌの煎れてくれた茶を飲みながら答える横島にシロはずずいと詰め寄った。

「昨日の除霊で使った技はなんでござるか?」

「え?」

「拙者見ていたでござるよ!あの素早い悪霊を瞬く間に切り捨てたあの技でござる!」

「あー。あれかぁ。アレはな…」

卓上の茶菓子をハムハムと頬張りながら横島は腕組みして目を閉じる。
そして期待に目を輝かせるシロに向かって重々しく言った。

「秘密だ。」

ドッとずっこけるシロ。

「先生〜。弟子の拙者にも秘密とは水臭いでござる!」

「でもなぁ…お前にあの技が出来るとは思えんし…」

「そんなぁ…」と項垂れるシロ。師匠にまだ未熟と言われたような気がして口惜しいのか瞳に涙が滲む。

「教えてやればいいでしょ。別に減るもんじゃないし。」

それまで我関せずとばかりにせんべいを齧っていたタマモが見かねたのか話に加わってきた。

「うーん…でもシロには出来んと思うが…」

それでも渋る横島にタマモもカチンと来た。

「どうせ大した技でもないから勿体つけているんでしょ。」

「そんなことないでござる!」

師匠を馬鹿にされたと思ったのかシロがタマモに食って掛かり後はいつもの口喧嘩。
その騒々しさに書類仕事をしていた美神の額に血管が浮き上がり始めるのを敏感に察知した横島が仲裁に入った。

「わかった!わかったから!教えてやるからとりあえず外に行くぞ!」

「本当でござるか!」

途端に機嫌が直ったか尻尾をパタパタと振りだすシロに苦笑しながら横島は美神に「ちょっと出てきます」と告げ近くの公園へと向かった。






「で…公園に居るわけだが…なんでお前までいるんだ…」

「いいじゃない。ご飯まで暇だからあんたの下らない技を見学に来たのよ。」

「下らなくないでござる!タマモは見ていないからそんなことを言うんでござるよ!」

またまた言い争いを始めようとするシロをまあまあと宥めて横島は公園の中央に立った。

「シロ、勝負だ…一回しかやらないからな。よく見ておけ。」

「技を盗めということでござるな。わかったでござる!!」

背中に炎を背負って熱血モードに入ったシロは霊波刀を正眼に構える。
対する横島も右手の霊波刀を中段に構えた。
その体から発せられる闘気は普段オチャラケている煩悩少年のそれではない。
思わず目をみはるタマモ。

しばしの間、誰も動くことも言葉を発することの出来ない時が過ぎるが、一枚のビニール袋が風に運ばれシロと横島の間を通り過ぎた瞬間、唐突に横島が動いた。

「行くぞシロ!蝶のように舞い!」

軽快なフットワークで左右に動きながら近寄ってくる横島に身構えるシロ。
人狼の反射速度の前では決して速い動きとは言えないが、常人に比べるとその動きは抜きん出ている。

そして横島は霊波刀を大きく振りかぶると凄まじい速度でダッシュした。

「そしてゴキブリのように逃げるっ!!」

後方にだけど…

気合をすかされズッコケるシロが顔を上げた時、横島の姿はどこにも無い。
慌てて周囲の気配を探ろうとした瞬間、近くの草叢から横島が飛び出してきた。

「さらにカマドウマのように驚かすっ!!」

「なんでござるかソレはっ!!」

とシロが突っ込んだ瞬間、ポペンと軽い音を立てて横島の霊波刀がシロの頭を叩いた。

「な?…」

頭を押さえて呆然とするシロに横島はニヒルな笑いを向ける。

「ふふふ…例えどれほど早い相手でも「突っ込み」の瞬間は動きが止まるし隙も出来る…そこを目掛けて攻撃する技…名づけて「横島流突っ込み倒し」」

「おおっ!なるほどっ!!理にかなっているでこざる!!」

感激するシロに得意満面といった顔でうんうんと頷く横島。
しかし得意の絶頂はタマモの冷静な一言であっさり霧散した。

「バッカじゃない…そんなの効く相手がいるわけないでしょうが…」

「そんなことないでござる!現に昨日の悪霊は先生に斬られたでござる!!」

「それはソイツがマヌケなだけよ!」

「くっ…」と歯噛みするシロだったが彼女の師匠はと言えば「わかっちゃいねーな」と言わんばかりの目でタマモを見て笑うだけ。
その笑みに紛れも無い嘲りと憐憫を感じたタマモの髪の毛が怒りで逆立った。

「何よその目は!」

タマモの抗議に横島はヤレヤレと肩をすくめるだけ。
それがまた彼女のプライドを刺激する。
「殴ったろうか」と拳を握るタマモに横島は薄く笑ったまま口を開いた。

「タマモ…お前はわかっていない…」

「何をよ?!」

「突っ込みの深さをだ…」

遠くを見ながらしみじみとした口調の横島に一瞬怯むが馬鹿にされ続けるのは彼女のプライドが許さない。

「ふん!あんな技が私に効くわけないじゃない!!」

だが横島は未だに余裕を崩そうとはしない。
それどころか口調に明らかな侮蔑を乗せてタマモを挑発する。

「くくく…愚かな…ならば俺と闘って見るか…まあお前に勝ち目はないが…」

「やったろーじゃないの!!」


かくして第二戦が始まった。


先ほどのシロ戦と同様にタマモの前から消える横島。
だがタマモは次の展開を見ている。

(ふん!この後でボケるのよね。甘いわヨコシマ…ゴールド・キツネには一度見せたネタは通用しないということを知るがいいわ!!)

そして再び草叢から飛び出して来た横島。

(かかった!突っ込みと同時に技を放てばかわせない!!)

「カマドウマのように!」

「なんでやねん!」

突っ込みと同時にタマモが放った火炎が横島を包んだと思った瞬間、彼女の前から横島がフッと掻き消える。

「アホッ!死んでまうわっ!!」

横島の突っ込みが一瞬呆然としたタマモの頭をスパーンと快音を立てて直撃した。

「あきゃっ!」

頭を押さえて蹲るタマモに横島は勝ち誇った様子で語りかけた。

「ふん!愚かなりタマモ…その程度の突っ込みで笑いがとれるか…」

「ずるいじゃない!今のは私が突っ込みでしょ?!!」

「馬鹿者!今の技こそ横島流「突っ込み返し」、自分が突っ込みだと油断するから敗北するのだ!笑いの道に慢心はないっ!!」

「そんな………深い…なんて深いの…突っ込み道…」

がっくりと膝をつくタマモの肩を優しく叩くと横島は彼らしくも無い真剣な様子で語りかけた。

「だが…お前もなかなか筋がいい。どうだ共にこの道を歩んでみぬか?」

「え…私に突っ込みの才能が…」

カバッと顔を上げるタマモの目にはすでに涙は無い。
あるのは希望の光だけ。
その光は真っ直ぐに横島を射抜き彼の心を揺さぶる。
だから彼も真っ直ぐに返した。

「うむ…いつの日かきっと俺を超えることが出来るだろう。」

その言葉に真実を感じ取りタマモはゆっくりと立ち上がると拳を握り締め、暮れなずむ空に浮かんだ一番星をシパッと指差す。

「やるわ!私はきっと突っ込みの道を極めて見せるわ!!」

「拙者もでござる!!」

師匠とタマモが勝手に盛り上がっていくのをオロオロとうろたえながらも口を挟めずに居たシロも加わって、ここに修羅の道を歩む三人の英雄の誓いが為された。




それからと言うもの暇さえあれば屋根裏で修行する三人。
やはり同じ道を目指すとなれば息もだんだんと合ってくる。
それに比例して親密度も増していくのをやきもきしながら見ているのはおキヌと美神である。

おキヌが遠慮がちに「横島さんたち何をしているんですか?」と聞いても、「すまん。まだ言えないんだ」と返され、美神が拳に物を言わせてでも聞き出そうとすれば三人声を合わせて「修行です」と返答されるだけ。
人口幽霊に聞いてもタマモの霊力と文珠で屋根裏の様子は見えないと答えられれば完全に手詰まりだった。

止むに止まれず、こっそりとドアに張り付いて中から漏れる声を聞けば

「馬鹿っ!まだ早い!!」とか「タイミングがずれている!」

などと滅多に聞くことの無い横島の真剣な声が聞こえてくるばかり。

修行しているのは間違いないとは思いつつも、何やら疎外感だけが強まって悶々としていた二人に対しついに横島たちが動き出す日がやってきた。




「はあ?修行の成果を試したい?」

「そうです!」

内心ではここまで秘密にされて面白いはずは無いが、横島たちの真剣な眼差しに対して駄目と言うことも出来ず美神は「無茶だけはしないでよ」と一言だけ言い添えて承諾する。

「で、妙神山にはいつ行くの?何なら私が送ってあげるわよ。」

修行といえば妙神山。
しかし横島たちはキョトンとした顔でこっちを見ていた。
美神の頭に疑問符が踊る。

「え?違うの?」

「はい。修行先は…テレビ局です!」

「へ?」

どういうことよ?と聞き返そうとした時、シロタマがそれぞれ横島の手を取ってにっこりと笑う。

「先生!早くしないと間に合わないでござる!!」

「急ぐわよ!ヨコシマ!!」

「おおっ!!行くぞ!!」

その息のあった張り切りぶりに呆気に取られた美神は横島たちが出て行くのを呆然と見送るしかなかった。






それから数日後…

某テレビ局の新人お笑い番組に、安っぽい紙袋の覆面をかぶって両手に持ったやたらリアルなキツネと犬のぬいぐるみを使ってショートコントを披露する芸人が登場し一躍大人気となったが、ある日の番組の収録中に霊の大群と共に現れた亜麻色の髪の美女にシバキ倒され拉致されてから後、彼らの姿がブラウン管に登場することは無かったという。


「どうも〜。タマッチョ・シロッチョで〜す!!」



                               おしまい

後書き
ども。犬雀です。
えー。お誕生日のお祝いがこんなんですんませんorz…(逃走)

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