ザ・グレート・展開予測ショー

嘘つき魔王


投稿者名:犬雀
投稿日時:(05/ 5/22)

「嘘つき魔王」


「くけけけけけけ」

「ちぃ!ちょこまかと!!」

今はすっかり廃墟と化した廃工場の中で美神たちは苦戦していた。
相手はどういう因果で人界に現れたか判明してないがソロモン72柱と言われる魔王の中の一人ベリトである。
子供のような体に老人の顔を持つベリトは魔王の中では格下ではあるが、それでも魔王は魔王、油断できる相手ではない。
実際、美神たちがベリトと戦うのは二度目だった。
最初の戦いで横島が病院送りになり戦力的にはかなりきついがそれでも事務所のプライドを賭けて再戦を挑んだのである。
だが状況はよくなかった。

タマモの狐火もシロの霊波刀も動きの早いベリトにはかすりもしないのだ。

「くけけけ」と人を小ばかにした笑い声を上げながら廃工場の中を縦横無尽に飛び回り、美神やタマモの攻撃をかわしまくるベリト。

そしてこちらの疲れを見透かしたかのように口を開くとベリトはその能力を使うのだ。

「くけけけ!そこの人狼はタマネギが大好きだ!」

「嫌いでござる!」

ベリトの能力は嘘である。
彼は本当のことを言わない。嘘をつき相手をかく乱するのが彼のやり方だった。
歴史上、ベリトに嘘を吹き込まれ破滅して行った人間は数多い。

たかが嘘と侮るなかれ、実は昨日の横島の負傷もベリトの嘘が引き金だったのだ。

…………

「美神さんコイツ早いっすよ!」

「余所見をするな!」

攻撃をぬらくらとかわすベリトに自分の攻撃をかわされて焦る横島。
なんというかその動きが自分に似ているというのもあるだろう。
ただ「蝶のように」と言うよりは「蛾のように」ヒラヒラと情けなく飛び回り、こっちが隙を見せるとゴキブリのようにカサカサと逃げそして口を開けば嘘ばかりつく。

「くけけけけ。次は火炎攻撃だ!」

「何っ!」

「嘘だってば!」

もう何度目かの空振りに苛立つ美神であるがそれは横島たちも同じだ。
焦りは心の隙を生む。
そしてベリトはそれを突くのが得意な魔王なのだ。

「何とか動きを止めないと!」とおキヌが笛を吹こうとした瞬間、悪夢は訪れた。

「くけけ。美神令子はシリコン胸!」

「なんだとっ!マジっすか美神さん!!」

「悪質なデマに惑わされるなぁぁぁ!!」

怒りのあまり振るわれた神通鞭は狙い違わず横島を直撃し彼は血反吐を吐いて壁まで吹っ飛ぶと大穴を開けて消えていった。

「くけけけけけ」とその穴から外に逃げるベリト。

「ちいっ!あの馬鹿のせいで結界に穴が!」

歯噛みする美神だったがふと気がつけばシロとタマモがジト目で睨んでいる。

「な、何よ…」

「今のは美神殿のせいだと思うでござるが?」

「うっ…でもあの馬鹿があんなデマに…」

「それにしたって結界を破るまでしばくことは無いんじゃない?」

「な、何よ…私が悪いって言うの?!」

額に汗をかきながら強がる美神におキヌが恐る恐ると言った様子で告げた。

「あの…美神さんとりあえず横島さん…」

「そうね。あの馬鹿帰ったらお仕置きよ。」

だが美神のお仕置きはなされなかった。
さすがの美神も外に吹き飛ばされたはずみで通りすがりのトラックに踏まれ、通行人の通報で駆けつけた救急車に搬送される横島をしばくわけにはいかなかったのである。


その晩、横島の担ぎ込まれ病院から事務所に帰ってきた一同。
誰もが疲れた顔をしているが、まだ目は死んでいない。
シロは「先生の仇は拙者が討つ」と闘志を燃やし、タマモは「金毛九尾がデマごときに…」と唇を噛み締め、おキヌはおキヌで横島に怪我を負わせた ―間接的にではあるが― ベリトに対して彼女なりに静かな怒りを燃やし、そして事務所の主はプライドを傷つけられて雪辱をはらすことを誓っていた。


「ねえ。耳栓して戦うのはどう?」

おキヌの入れたコーヒーを飲みながらの反省会でタマモが提案するが美神はあっさりと首を横に振る。

「駄目ね。アイツの言葉は直接心に響くわ。耳栓しても無駄よ。」

「でも…たかがデマになんであんなに惑わされるのでござろうか?」

シロの疑問は最もである。最初からデマとわかっているのに引っかかるはずは無いのだが、それでも過去ベリトと戦ったGSはことごとく奴を取り逃がしていた。

「それはね。アイツは時々、いいえ…100万回に一回は本当のことを言うのよ。それも人の心の核心をつくようなことをね。」

「でもそんな程度なら気にしなくてもいいんじゃ…」

「そうなんだけどね。でもどんなにわずかな可能性でも「間違いなく本当のことかも」って考えるだけで嘘の威力は何倍にもなるわ。狼少年の話知っているでしょ?」

「あ、あの「狼が来るぞ〜」って嘘ついてて最後に本当に狼が来たってお話ですね。」

「羊を食べちゃうんだっけ?」

「む、拙者はそんなことはしないでござる!」

「はいはい。そんなことはどうでもいいの。問題なのはそこなのよ。例えばさ除霊の最中に「お前の足元は崩れる」とか言われ続けてさ、でもデマだと無視してたらいつの間にかそんな場所に誘い込まれて一チーム全滅なんてこともあったそうよ。」

「うーむ。それは難儀でござるなぁ。」

「じゃあどうするのよ。」

「正直わからないわ。でも何とか奴の動きを止めれれば…」

結局、解決策は思い浮かばなかった。

……………

そして今、彼女たちは魔王ベリトと再び対峙している。

「くけけ〜。そこの狐の上に金だらいが降ってくる〜。」

「嘘付け!」

言葉とともにタマモが口から放った炎はまたまたアッサリかわされる。

「くけけけけ。そこの犬の足元には俺の作った罠がある!」

「デマでござるな!」とシロが踏み出した瞬間、足元からロープが跳ね上がりシロの足首を捉えて宙吊りにした。
咄嗟に霊波刀でロープを切って着地するシロだが顔色は悪い。

「まさか。本当だったでござるか?!!」

「違うわよ!あいつは「犬」って言ったでしょ!」

「しまったぁぁぁ!」

おキヌが笛の音で動きを止めようとすれば…

「くけけけけ。お前の胸はCカップ〜。」

「で、デマです……ぐっすん…」

血を吐くような声で否定するおキヌ。ついつい口から笛を離しちゃう。

相変わらずぬらくらと逃げまわるベリトに美神令子除霊事務所のメンバーの疲れがたまる。

そのようすを嘲笑とともに見ていたベリトはまだ闘志を失わない美神目掛けて襲い掛かった。

「くけけけけけ。お前は横島忠夫が大好き!」

「嘘よ!!」

「くけっ?」

間髪入れず一言の元に否定されベリトは驚きの表情とともにピタリと空中で制止する。
そしてそれは美神にとって充分な隙だった。

すかさずなぎ払われた神通棍に切り裂かれ、ベリトは「ぐぎゃぁぁぁぁぁ。なぜだぁぁぁぁ」と断末魔を残して消えていった。

「ふー」と溜め息を吐く美神に駆け寄ってくるシロたち。

「やったでござるな!美神殿。」

「ふん!この美神令子を舐めるからよ。」

「恐ろしいんだか弱いんだか解らない相手だったわね。」

「そうね。さあ、兎に角仕事は終わったわ。早く帰って祝杯あげましょ!」

「そうでござるな!拙者は肉がいいでござる!」

「私は油揚げ!」

「はいはい。今日は奮発するわよ〜。」

楽しげに会話しながら戦いの場を後にする美神たちにトテトテとついて行きながらおキヌは考えた。

「なんで最後にあの魔王さんは止まっちゃたのかな?」

彼女の問いに答えるべき魔王はすでに魔界へと送還されていた。
もっともベリトが残っていたとしておキヌの質問に本当のことを答えるかどうかは誰にもわからないのである。




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