ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(19)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 6/ 7)

−−−永遠
どんなに時間が流れても、ずーっと変わらない不変のもの
たとえば、吸血鬼の不老不死とか?

『貴方は永遠を持っているの』

・・・僕は、そんなの持ってません
吸血鬼にだって、時間は流れてるんです。見た目の時が停まっていても、ちゃんと、時間の流れの中で生きている存在なんだから。皆、成長するし、僕達なりに年もとります。中身もどんどん変わっていくし・・・
だから、変わらないものなんて、無いんですよ

『あるわ。貴方は永遠を持っているのよ・・・なのに何故、貴方はそれを否定するの?』

だから、最初からそんなの持ってないんですってば

『貴方はきっと、本当の永遠を持ってるのよ・・・それを、証明して見せて・・・』

え?

不可解な加奈江の言動を聞き返した自分の声が、自分の耳に届くか届かないかの際(きわ)。
頭の中を何かの衝撃が走り抜けた感触に、ピートの意識は、強引に途切れた。


「!」
ほんの一瞬、全身を大きくビクンと震わせて、ピートはハッと目を見開いた。
全身を振るわせたせいで目が覚めたのか、目が覚めたせいで全身が震えたのか、それはわからないが、とにかく、眠っていたらしい。
「夢か・・・」
夢の中での加奈江との問答が、あまりにリアルだったせいか、目を覚ました今も、眠っていたと言う実感がまるで無い。覚醒間際に何か強い衝撃を感じた頭を撫でながら、ベッドの上に身を起こしたピートは、ふと、頭や指先に感じる妙な違和感に気付いた。
「?・・・えっ!?」
何だろうと、自分の手を見ようとしたその時、指に絡まって後頭部から流れてきた長い髪を目にし、再び目を見開く。驚いてもう一度頭に触れてみると、肩の上辺りで揃えていた筈の髪が、腰より下まで伸びているのが、はっきりとわかった。爪も若干伸びているようで、こちらは髪ほどはっきりした変化は見えないが、それでも多少長くなっている。
一晩で、一体何があったのか。
「えっと・・・確か、夜中に、加奈江さんが怪我をしてやって来て・・・」
とにかく、ピートはひとまず、昨夜の記憶を整理する事に決めた。
確認のために声に出して言いながら、昨日の事を一つ一つ思い返していく。
「・・・怪我の手当てをして、ベッドに寝かせて・・・」
(・・・そう言えば、確か床で寝た筈なんだけど・・・)
そう思い出して時計を見ると、時計の針は、四時を指していた。天窓から射し込む光の具合から見て、午前である筈はないから、夕方の四時だろう。
(あ・・・運んでくれたのかな・・・)
毛布代わりに適当に取り出した外套も片付けてくれたのか、手近には見当たらない。
怪我をしているのに面倒をかけてしまったと、ピートは、加奈江に少し悪い事をしたと思った。決して快く思っている相手ではないのに、そういう気遣いや遠慮をしてしまうところが、彼らしいと言えば彼らしい。
「・・・少し話をして・・・えーと、それで・・・」
ピートがはっきり思い出せるのは、そこまでだった。
その後、一度起こされるか何かして目を覚ましたような気もするが、はっきり思い出せない。
最初の一発を頭に食らったので、撃たれた事を自覚する前に意識が途絶えたため、加奈江に撃たれたと言う事を全く認識していないのだ。加奈江が撃つ寸前に言った言葉などは多少覚えているが、それも、前後の記憶が混乱しているために、「以前言われた事」として漠然と覚えているだけで、いつどこで言われた、などのはっきりした状況は覚えていなかった。
(・・・そもそも、どうしてこんなに髪が・・・?)
今の髪の長さは、大体、腰の下辺りで、下手をすると、西条やキヌよりも長い。半年以上放っておいてもここまで伸びるかどうか、と言う長さだ。
意識の無い死人に、「死んでる時の事を自覚しろ」と言っても、それは無理な話。
一旦死んで、『超回復』で蘇生したと言う事など全く認識していないピートにとって、この変化は不気味以外の何ものでもなかった。
(ナンセンスだけど・・・何かがあって、何ヶ月も寝てたとか・・・?)
我ながら突拍子も無い発想を、とは思うが、この際それぐらいしか思いつかない。
(いや、でも、それはさすがに・・・そういえば、加奈江さんは・・・)
「・・・あ。目が覚めたのね、ピエトロ君・・・」
「!」
加奈江はどうしたのだろう、と考えた時に、ドアが開いて加奈江の声が聞こえたので、少し驚く。自分の体の変化に対し、予想外に考え込んでいたのか、階段を下りてくる足音に気づかなかったらしい。
そして、ドアの向こうから現れた加奈江を見て、ピートはまた驚かされた。
「え!?」
「どうかしたの・・・?」
何が驚かれたのかわからないらしい加奈江の、その顔を凝視して驚く。女性の顔を見て驚くなど、普段の彼なら失礼な事だとすぐに反省しただろうが、今回ばかりは驚きのあまり、そんな考えは出てこなかった。
ピートの記憶では、昨夜包帯を巻いたばかりである筈の傷が全く見当たらず、跡形も無いのだ。
「か、加奈江さん。怪我は・・・」
「・・・ああ。心配してくれたの?・・・大丈夫よ。もう治ったもの」
怪我をしていた筈の顔の右側を撫でて、にっこり微笑む。
「治ったって・・・一晩でですか!?あの、それとも僕が、何日か長いこと寝てたんでしょうか?この髪とか・・・」
「長いのも良いと思うわよ。似合ってて素敵だもの」
「いえ。そうでなくて・・・」
ベッドの側に近寄って来て、長く伸びた金色の髪に触りながら、微笑んで言ってくる加奈江に、首を横に振ると、再度尋ねようとする。
しかし、加奈江はそんなピートににっこり笑いかけて問いを受け流すと、髪を触っていた手を、そのままピートの顔に滑らせた。
顎から頬へ、整った輪郭をなぞるように指先を這わせると、白い額に触れる。
「加奈江・・・さん?」
触られている方にとっては、妙な−−−相手が相手なので、今のピートにとっては嫌悪感すら感じられるおかしな触れ方をされ、ピートがわずかに眉を顰める。
そんなピートの額を撫でながら、加奈江は−−−三日前の晩、彼の額に開いていた風穴の事を思い返していた。
今はもうきれいに塞がっており、どこに銃創があったかさえもわからない。

これが、彼の持つ生命力。
彼が持つ『永遠』の力の賜物(たまもの)。

そう思って彼の額を撫でながら、加奈江はにっこり笑った。
「貴方は永遠を持ってるのよ・・・本当に、素晴らしいわ・・・」
スッと額から手をのけると、ピートの手をとる。そして、それを自分の頬に押し付けながら、加奈江はピートを見て言った。
「・・・ずっと一緒にいてね・・・私も、同じものを手に入れたから・・・・・・だから、貴方を守ってあげるの・・・」
「?」
聞いただけでは不可解な加奈江の言葉に、今度は嫌悪感ではなく、疑問から眉を顰める。
そのピートの手を自分の頬に、摺り寄せるように押し付けながら、加奈江は、掴み所が無いいつもの微笑を浮かべていた。

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