ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(18)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 6/ 5)

『・・・あの、今日の夜、S並区の方の住宅地に吸血鬼が出たとかで、被害者が出てるんだそうです。西条さん達が最初に向かったらしいんですけど、霊気が残留してて、それがピートさんのだとかで、美神さんやタマモちゃん達も行ったんです。それで、あの、神父に連絡をって、私、どうしたら良いか・・・!!』

吸血鬼の事件が起きて、犯人がピートかも知れない、と言う事に、かなりショックを受けているのだろう。まくし立てるように喋るキヌをなだめつつ、事件の場所を聞き出した唐巣は、即行で現場に向かった。
現場は、ごく普通の住宅地。
心霊事件であるせいか、普通の警官やパトカーはそれほどいないが、その代わり、唐巣と同じように連絡を受けて集まって来たらしい、エミや令子達のバイクや車が塀の外に見受けられた。
「西条君、美智恵君・・・!」
「あ・・・神父」
小さな庭付き一軒家の、敷地に入ってすぐの所に張られている立ち入り規制の黄色いロープを乗り越えると、家の中を調べている西条と、制服に身を包んで立っている令子の母、美智恵に声をかける。
「おキヌ君から連絡を受けたんだが・・・どういう状況なんだね!?ピート君の霊気があったとか言っていたが−−−」
一番近くにいた西条に詰め寄ると、口早に尋ねる。
そんな唐巣に、美智恵は穏やかな表情で笑いかけると、そっと横から二人の間に入って言った。
「神父、安心して下さい。直接の犯人はピート君じゃないようですから」
「え・・・」
「『ピート君の霊気を体に付けた他の誰か』の仕業らしいです。シロちゃんとタマモちゃんの霊視ですから、間違いありません」
「・・・・・・」
「し、神父!?」
はー、と、安堵と疲労の入り混じった、少し長いため息をついて、手近な壁にもたれこんだ唐巣を見て、西条が心配げに呼びかける。
すると唐巣はすぐに笑い返し、照れ隠しのように眼鏡を直しながら、姿勢をシャンと立ち直らせた。
「いや、安心してね。ちょっと気が抜けただけだよ。・・・えーと、私に何か手伝える事はあるかい?」
「まだ早いんですし、神父は戻って休んでいて下さい」
「そういうわけにはいかないよ。それに、犯人がピート君の霊気を付けていたって事は、ピート君を捜す手がかりになるかも知れない。・・・現場は二階かな?」
天井の方からシロやタマモ達の霊気が漂ってくるのを感じて見上げると、階段に向かおうとする。
「ちょ・・・神父。本当に休んでいて下さい!ピート君がいなくなってからこっち、毎日毎日走り回ってるんですから、せめて睡眠ぐらいちゃんと・・・」
「はは・・・。これも性分だからね。じっとしていると、かえって不安なんだよ」
帰らせようと止める西条の腕を、やんわり払うと階段を上っていく。それでも心配なのか、西条は唐巣と一緒に二階に上がり、入れ違いに下りてきたのか、階段の方で手短に挨拶を交わす声が聞こえたかと思うと、二階に行っていた令子とエミが、一階を調べている美智恵のもとにやってきた。
「令子。他に何かわかった?」
「ううん。まだ霊視は続けてるし、検察官も調べてるけど、やっぱり霊気以外の手がかりはなさそうよ。それよりママ、先生が・・・大丈夫なの?こんな朝っぱらから」
「・・・いいのよ。じっとしてると、かえって不安らしいから」
「・・・ったく、ただでさえ栄養事情の悪い生活してるクセに、無理すんだから・・・」
少し乱暴だが、令子なりに師匠の身を気遣っている言葉だ。
「熱血漢だけど、もーちょっと冷静だと思ってたのに・・・。ピートの事となると動揺しまくってるんだから」
傍目は冷静に振舞っている唐巣だが、それが見抜けないほど勘の鈍い令子ではない。
原始風水盤の騒ぎの折り、唐巣を石にされた時のピートは傍目にも相当なものだったが、唐巣の方も、それほどはっきり表には出さないものの、内心ではかなり不安がっているようだった。
「神父は今年で四十五歳ですもの。ピート君は高校生だし、もう、息子みたいなものでしょうからね」
「・・・隊長。ピートは七百歳なワケ」
「え?あ・・・そ、そうね」
言ってから、静かにエミに指摘されて、半ば以上忘れていた事実を思い出す。
そして、美智恵はエミの方をふと見ると、唐巣に向けていたのと同じ、心配げに見守る目になった。
「・・・どうしたの?貴方も、疲れてない?」
「え?」
「そう言われれば・・・さっきも、いつもなら「ピートの事なんだから、みんな心配して当然なワケ!」とか騒いでそうなのに・・・」
「え?べ、別に、そんな疲れてるワケじゃないわよ!」
「そう?アンタ、三日ぐらい前から妙に暗くない?」
「え」
自分では隠しているつもりでいた事を指摘されて、内心で凍る。
一晩考えた後、エミは、加奈江からの電話を無視するつもりでいたが、あの暗い怨念の篭もったような声で打ち負かされ、自分が気にもしていなかった事を問い掛けられた事を、簡単に払拭できる筈が無い。
特に、加奈江が最後に投げかけた、エミがピートのどこを見ていたのかと言う質問は、今も、エミの頭に深く刻まれて消えていなかった。
「そ、そんな事ないワケ!あたしはいつも、ピートへの熱い想いで燃えてるワケよ!!」
「・・・・・・」
「・・・とにかく、貴方も無理はしないでね。本来なら人捜しは警察がするべき事なんだし・・・」
自分の中に植え付けられた、「弱み」のようなものをごまかそうと、明るくハイテンションを装って見せるが、かえってカラ元気に見えたのだろうか。
胡散臭げに見つめる令子の視線と、心配げな美智恵の視線と言葉とを同時に受けて、エミは、ごまかし笑いをしながら聞き込みをして来る、と外へ逃げ出した。

「・・・あいつも疲れてるのかしらねー。あの、暴走色ボケ女が・・・」
「令子っ」
心配しているのかけなしているのか、傍から聞く分にはけなしているようにしか取れないよーな気もする微妙な口調で言った令子を、美智恵が軽くたしなめる。
そして、ちょっと肩を竦めた令子を横目に見ながら、美智恵は現場の家の中を改めて見回すと、口の中で小さく呟いて言った。
(・・・それにしても、妙な事件ね・・・)
被害者は、この家に住んでいた高齢の男性。
息子夫婦は仕事で地方に、妻も早くに亡くした一人暮らしで、高齢と言う事からも、狙い易いと言えばそうだが、血からエネルギーを得る吸血鬼の獲物としては、老人と言うのはあまり考えにくい。
それにもう一つ、襲われた老人が、血を吸われたにも関わらず吸血鬼化していないと言うのも妙な点だった。首筋の噛み跡など、血を吸う手口は確かに吸血鬼のものなのだが・・・
(それに、犯人に付いていたと思われるピート君の霊気も・・・)
犯人が、ピートを誘拐した犯人なのか、それとも、もしかしてピートが犯人を噛んだのか。まだ、どちらとも断定出来る確証は無いが−−−何にせよ、一筋縄でいける事件ではなさそうだ。
前髪ごとアップにまとめた髪を軽く撫でつけると、美智恵は霊感を研ぎ澄まさせて、現場となった寝室がある二階の方を見やった。

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