ザ・グレート・展開予測ショー

きっと綺麗な殺し方。


投稿者名:veld
投稿日時:(05/ 4/30)

 




 満点の星空、ってわけにはいかない。
 都会は眩しすぎて、星も輝く事が許されないから。

 月はおぼろげな雲に隠れて、その姿を見せてくれなかった。
 今日は確か、満月なのに。


 寂しい。

 あいつは窓の外を見つめてた。ぼんやりと、熱くなった頭を冷ますように―――。

 私はそんなあいつの背中を眺めながら、グラスにシャンパンを注いだ。透き通った色合いが、夜の闇に紛れる事無く、ガラスの中に浮かぶ。

 そして、呷る私の咽喉を焼いて―――消えた。

 「美神さん、綺麗ですよ」

 無邪気に、笑って、あいつは言う。
 照れくさくて、俯いて、気付く。窓の外の光景の事だろう。顔が、赤くなる。酒の酔いの所為で、きっとそれは紛れるだろうけど。

 顔をあげると、あいつはいやらしい顔をしていた。勘違いした私を嘲るような笑い―――って、言ったらそれは、語弊があるかもしれない。からかうような、笑み。

 でも、何も、言わなかった。

 私は、笑った。
 声が唇の隙間から漏れることさえない、きっと、微笑み。

 乾いた、笑顔。
 では、ないと思いたい。



 前夜ってのは、通夜と同じようなものなのかも。
 らしくない、思い。
 でも、きっと、そうだ。
 大切な人と、離れ離れになる日だから。

 似てる。
 凄く、似てる。




 私はまた、自分のグラスに注ぐ。横島くんもコップを差し出した。私はそのコップにも注ぐ。彼は笑って、軽く、コップを上げた。
 そして、私がグラスを持つと、軽く押し当てた。
 からんっ、と乾いた音が響いて―――。

 私と彼は、ゆっくりと。
 その時を何よりも大事な時間と思って―――。


 啜るように、飲んだ。






 「・・・横島くん、覚えてる?」

 「何すか?」

 「・・・あたし達が初めてあった日のこと」

 「・・・あー」

 「・・・ポスター貼ってたらさ」

 「俺が、美神さんに・・・」





 どうして、思い出すんだろう。
 つまらない、思い出だと思ってた。
 思い出になるとさえ、思わなかった。

 過ぎた時間は意味のないものだと。
 かけがえのない財産になるとなんて、思っても見なかった。



 きっと。
 本当は、気付いていた。






 いつも、一緒に。



 そんな願いは、わがままでしかなくて。




 また、来世に逢える―――そんな諦め方は―――。



 そんなのは、悲しすぎる、話だってことも。




 思い出話は尽きないけれど。
 時間には限りがある。
 一夜明かしても、きっと、適わない。
 悲しいけれど、届かない。




 冷蔵庫の中から取り出した幾つもの缶を無造作に選んで開いて注いで。
 彼はそれを苦々しい顔で飲み干して。

 「・・・ビール、って、不味いっすね」

 「これは、咽喉で飲むのよ」

 笑ったあいつに、私も笑った。 





 ねぇ。



 何で、こんなに素直に。




 「・・・夜、明けますね」

 時計は四時を指してる。
 ―――彼は立ち上がると―――。


 頭を掻いて、笑った。

 「んじゃ。帰ります」

 ―――うん。
 私は、笑おうとして。

 出来なかった。


 起き上がろうとして―――足が崩れた。


 顔も代わりに、膝が笑った。


 全く、笑えない、話だった。


 ほんとに―――。



 彼は慌てて、私を抱き起こして、ソファーに座らせると、そのまま背を向けた。
 散々飲んだ筈なのに、何で私はこんなんで、あいつは、平気なんだろう―――気付いた。

 あいつは、全然、呑んでなかったんだろう。
 今日は大事な日だから。


 「・・・ひきょうもの〜」

 酔っ払いのたわごとと聞き逃して欲しい。

 「はいはい」

 流す言葉は優しくて。


 「・・・ばっかやろ〜」

 だからこそ、きっと、甘えたくなる。

 「馬鹿ですよー」

 ―――ありがとうね。




 「・・・好きだよ・・・」

 ―――ごめんね。


 「・・・」

 きょとんと、あいつは振り向いて。

 そして、私を見つめて。

 そして、一瞬。

 ほんの一瞬、見ている私の息が止まるほど、悲しい顔を見せて―――。


 そして、笑った。

 

 「俺も、好きですよ・・・んじゃ、俺、行きますから」



 ドアが閉じる音が、酷く遠くで響いた。


 「・・・馬鹿」





 

 どうして、好きなのに。
 好き同士なのに。

 結ばれないんだろう。





 遠のく意識の中で、私は、そんなこと、考えてた。



 どうして、こんなに涙が出るんだろう。









 「おめでと、おキヌちゃん」










 言葉は乾いてた。


 みっともない、顔してる、私に、あの子は―――。







 きっと、最高の笑顔を返してくれるに違いない。























 結婚式の日。

 私は綺麗に『殺される』のだ―――。

 きっと。


 

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