ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 79〜免許皆伝〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(05/ 4/17)

賭けの結果が出るまでと言われてワルキューレは迷惑上司とその朋輩の魔神に酒に付き合わされていた。
かれこれ2時間程は飲んでいただろうか。加速時空間内での時の流れなど外部からは判断しようが無い為
どれ程の時が過ぎているのかは解らないが、二人きりでこもっているのでその効果はかなり高いはずだった。
彼女としては過去に目の前の二柱が挑んだ時の話等を聞きたかったのだが、それに関しては貝の如く口を
閉ざす為に聞き出す事は不可能だった。そんな時、不意にバアルが顔を上げて何かを探るような顔になる。

「おや? どうやら終わったようだね」
「ん? ああ本当だな、どれ忠夫の奴の気配は…おいおい生きてんぞアイツ」

どうやらこの場所からでもリリスの加速時空間が解除されたのが解るらしい。
ワルキューレには解らなかったが、改めて探査の為に魔力を飛ばすと明確に感じ取れる。
通常リリスのような存在に対しては、そこに“居る”という事しか解らないのだが、今は
側にいるであろう横島の気配まで明確に感じ取れる。それが意味する事は唯一つ、リリスが意識を失っている。
目を覚ましていれば、その意識圧だけで探ろうとする力など弾き飛ばされてしまう。

「しかもどうやら試練を突破したようだね」
「…だな。アイツ本来の魂の器がデカくなってやがる」

“ルシオラ”の部分が弱まるのではなく、“横島”の部分が強くなっている。

「成る程ね…先ずは強靭な外郭を作っておいて…」
「後から中の密度を濃くしていくって訳だ、流石はリリス、良い仕事しやがる」
「どうやら賭けは私の勝ちのようですね、新しい“弟”の誕生おめでとうございます。約束の方もお忘れなく」

ワルキューレの勝ち誇ったような声にアスモデウスが心底嫌そうな顔をしているが契約を
違える事など魔族には許されない、まして魔王ともなれば尚更だ。

「解ったよ、そん代わりジークの方がリリスの惚れた時は知らねえぞ?」
(リリスに“魅了”されても“惚れた”のに変わり無ぇからな)

「当然魅了眼も防いでいただけるんですよね?」
(クッ! お見通しかよ、侮れねぇなワルキューレ)

見ればバアルも、お前の考えなど読めている、と言わんばかりの顔をしている。
これ以上惚ければバアルも敵に回るだろう、ここは退き時だった。

「解ったっての! “魅了”に対する護符もジークに渡しとく、そんで良いか?」
「流石は誇り高き魔王アスモデウス閣下、その潔い態度は正に敬服に値します」

ワルキューレの心にも無い台詞に余計に苦虫を噛み潰したような顔になるアスモデウス
だったがこれでは悪巧みをしていたと認めるようなものなのだ。白々しさは承知の上で
平然と話題を変えるぐらいの事はしなければ魔王とも呼べないだろう。

「それよりも忠夫の奴だ、いったい何をやりやがった?」
「俄には信じ難いが、魔神の性戯をたかが人間が上回ったという事だね」
「“たかが”人間かも知れませんが“ただの”人間ではありませんよ」

只者でないからこそ三界の注目を集め、わざわざ今回招いたというのに自分達に
出来なかった事を人間にやられたのが余程意外だったのかピントのずれた事を言っている。
だがこんな事で一々驚いていてはあの男の友人など務まらない。
付き合いがこの場の誰よりも長い分ワルキューレの理解が深いのは当然だろう。

「…何やったんだか聞き出さねぇとな」
「何か裏技のようなものでもあるのかな?」

今迄よりも更に横島への興味が募っている様子の二柱だが当分は起き出して来る事は無いだろう。
リリスはともかく横島は限界ギリギリのはずだ。しばらくは通常の空間で休む必要がある。

「アイツが来るまでヒマだな〜、何か無ぇかな?」

「ワルキューレ、体内に淫気が残っているようだね? 訓練で発散したらどうだね、私が相手をするが?」

暇を持て余したようなアスモデウスをアッサリと見捨て自分の時間の潰し方を思いつくバアル。
ワルキューレは真面目な軍人なので自己を鍛える機会を逃そうとしない。
ましてや魔王の一柱たるバアルに相手をしてもらえるとなれば断るはずが無い。
性格はフザけているが、その強さは間違い無いものなのだ。

「バアル様が私の相手を? よろしいのですか?」
「徒手格闘で良かったかね?」

ワルキューレが願っても無い、とばかりにバアルの提案に食いつくと、そのまま彼女を
連れて部屋から出て行く。不満たらたらのアスモデウスの方は敢えて見ないようにしてだ。

「何だよ、言えば俺だって訓練の相手ぐらい…」

一人残されてブツクサ言っているのはもちろんバアルではなくワルキューレへの愚痴だ。
上司である自分を差し置いて朋輩と訓練しなくても良いではないか、と誘った側ではなく
受けた側を逆恨みしている。ならば普段訓練の相手などを頼まれて引き受けるかというと
決してそんな事は無いのだが。

最高司令官殿が退屈を持て余して不機嫌になり始めている時に、運悪く入室してきた男がいた。
情報部将校たるジークフリード中尉である。両手に重たげな紙袋を下げている。

「おうジーク、俺ぁ今暇してんだ。剣の相手してやるから付き合え」
「剣ですか? …それは光栄なのですが私如きでは到底閣下の相手は務まりませんが?」


唐突に言い出されて戸惑うジークだったが、根が真面目な為正直に答えている。
普段部下の訓練の相手など絶対にしない軍最強の男と闘えるのは嬉しいし、自分の力量にも
ある程度の自負はある。だが剣を取っては魔界最強とまで言われる魔神相手では残念ながら
力量差が有り過ぎてまともな勝負にならない。恐らく三合と剣を合わせられないだろう。

「はぁ? グラム使えばそこそこ良い勝負になんだろうが?」
「グラム…ですか? あれは軍上層部の許可が無ければ武器庫からの持ち出しすら許されないのでは?」

魔剣グラム、嘗て英雄ジークフリードが魔竜ファフニールを屠った際に用いた剣であり、
ジークフリードはグラムを持つ限り、不死身であるとされている。
余りに反則気味のこの組み合わせはジーク単独で戦局を覆す可能性もある為その使用は
上層部の許可が無い限り許されない。単なる訓練で使用するなど断じて許されないはずだ。

「お前の目の前にいんのは誰だと思ってんだアホ、俺が良いって言や何でも良いんだよ」
「失礼致しました、ではただちに」

普段ろくに仕事をしている姿など見た事も無い為つい失念しがちてあるが、確かに目の前の
男こそが軍における最高権力者、彼が“白”だと言えば鴉も白いのである。そうなるとこの機会を
逃すのは如何にも惜しい。グラムを使っての訓練が出来るなど本来在り得ないのだ。
珍しく心が浮き立ちいそいそと部屋から出て行こうとしたジークに更に上司から声が掛かる。

「あ〜ちょっと待てジーク、さっき持って来た手提げ袋の中身は何だ?」
「はっ! 閣下が定期購読しておられる物の新刊の数々と主にアキハバラで仕入れた同人誌その他であります」

一刻も早くグラムを持ち出して訓練を始めたたかったが、聞かれた事には律儀に答えるジーク。
だがその返事を聞いた途端にアスモデウスの態度は一変した。

「何? それを早く言えよ、新刊が出てたのか?」

そう言うや否や、袋の中身をブチ撒ける。
そのままブツを物色しながら目当ての物を見つけると一心不乱に読みふけりだした。
そのまま没頭してしまったのでジークはおずおずと問い掛ける。

「あの…閣下?」
「ん? おおジーク、今夜の忠夫の持成しに関して色々とあるから準備を怠るんじゃ無ぇぞ」

既に資料の世界に没入しているらしいアスモデウスの答が返って来る。

「いえ、そうではなくて、グラムを使っての訓練はどうなったのでしょうか?」
「はぁ? 何言ってんだお前は? あんなモン訓練にそうそう使えるモンじゃ無ぇだろうが?」

先程迄とは真逆の事を言って来る上司を見据えながらジークの胸中を支配するのは諦念であった。
このような勝手気侭は慣れたもの、あらゆる時において唯自分の欲する事のみを為す、
それでこそアスモデウス。ジークは胸中でこの場にいない者に対して問い掛ける。

(このままグラムを持ち出してこの男を斬り殺したいと思うのは“軍人”として
 間違っているのでしょうか? それとも“魔族”としては正しいのでしょうか…姉上?)

いっそバアルとの訓練を受けれたワルキューレは幸運なのだろう、ジークの悩みはまだまだ尽きそうに無い。














リリスが目覚めた時、予想外に爽やかな目覚めをする事が出来た自分に一瞬戸惑ってしまった。
散々汗をかいたはずの身体は綺麗に清められている。体液でグチャグチャになったはずの
シーツは清潔な物に取り替えられている。はだけたはずの毛布はしっかりと自分に掛けられている。
自分にそれを為した記憶が無い以上は“もう一人”がそれをしたとしか考えられない。
あそこ迄の絶頂を感じた事など何時以来か。相手が何度かイッた後に訪れる絶頂なら感じた事もある。
横島も幾度となく果てた後ではあったが、試練に挑むにあたり一旦感覚をリセットし、それ迄の快楽を
引き摺らぬよう仕切り直した。そんな状態で自分が先に“一回目”に達した事など生まれ出でて初めての事だ。
豪奢な寝台を見渡すと自分にその初の体験をくれた男がいない。周囲を見ると床に崩れ落ちていた。

「ベッド迄辿り着く事も出来ぬ状態でここ迄気遣うか。経験上とは言い難い故こ奴生来の気配りであろうな」

こういう“後朝”の気配りが極自然に出るというのはなかなかにポイントが高い。
男連中の中には根拠も無く男の方が女より上と思い込む愚か者がいる。例えば嘗ての夫アダムのように。
だが横島にそのような弊害も度し難い悪癖も無い。周囲の環境か、母親の教育が良かったのか、
はたまた両親間の力関係が解り易く女性上位なのか。と言うよりその総てなのだが。

ベッドから降り立つと横島を抱え上げその身を優しく寝台の上に横たえる。
自らも隣に添い寝すると愛しげに男を見詰めながら、その豊かな胸に相手の顔を抱き寄せた。
満たされたような表情で眠る男が夢見るのは、先程迄の睦事か、それとも幼き日に母に抱かれた思い出か。



柔らかな感触に包まれて微睡みから覚めかけると、更に芳しい香りに包み込まれているのが解った。
目を開くと二つのマシュマロがあった。白さといい柔らかさといいそれ以外に考えられない程なのだが
奇怪な事に頂上部分にサクランボが付着している。少し離れてから改めて見ようとすると
優しく背中の辺りで体をホールドされている。大した力でもなく容易く振り解けそうなのだが
そんな気になれない柔らかさがある。今の自分の状態が解らずに視線のみを動かすと、
優しげに微笑みながら自分を見詰めているリリスと目が合った。芳しい香りの正体は
どうやら彼女の体臭だったらしい。下手な香水よりも心地良く鼻腔をくすぐっている。

「目が覚めたかえ?」

そう声を掛けて来る様子には豊かな母性が満ち溢れており、先程迄の妖艶な気配は影を潜めている。
まるで別人を見るような心地で咄嗟に言葉が出て来ない。リリスの持つ奥深さと多面性だろうか。
横島の脳裏に何やら場違いな思い出が甦る、幼少の頃恐い夢を見て、泣きながら母のもとを訪れ
百合子が苦笑しつつも布団の中に入れてくれた。その温もりに包まれてようやく安心出来た幼い日の記憶。
どう考えても裸の女性に抱きしめられた状態で思い出すのに相応しい記憶ではない。
これでは単なる変態だ、慌てて目の前の相手の“母性”ではなく“女性”の部分に集中しようとした。
すると現金なもので若い体の雄の部分がたちまち反応してしまう。

「どうやら完全に覚めたようじゃな」

コロコロと鈴を振るような声で笑いながらリリスがからかいの言葉を掛けて来る。
一瞬全身がカッと熱くなるが、受けた指導を思い出しただちにクールダウンする。
神経の一筋、細胞の一個一個に到る迄を制御下に置き、己の五感、快感までを自在にする。

「妾の教えはきちんとその身に残っておるようじゃの、それでこそ我が弟子よ」
「ありがとうございますリリス様」

褒められて素直に嬉しく思える自分がいる、どうやら目の前の魔王にすっかり心服してしまったようだ。
“アノ”経験からさほどの時間が経った訳でもないはずなのだが随分昔の事のような気もする。
自分の魂が随分大きくなったような気がするが、まだまだ中身を詰め込めそうな気もする。
これから魂の糧を得る毎に少しづつ密度を濃くしていくのだろう。

「困ったものよな、お主の事が何やら愛しくてならぬ。妾には娘しかおらぬが
 息子がいればこのような心地になったのであろうな」

愛しく思ってもらえるのは素直に嬉しいのだが“息子”云々の件は聞き流してはいけないような気がした。

「いや、あの、息子と母親は普通こういう事しないんじゃ…?」
「ここは魔界じゃぞ? 人界の常識などに縛られるでない、スケールの大きな男になれ」

そんな大きさはどうかと思うがどうやら魔界ではその辺りは大した問題にならないらしい。
所変われば品も変わり、郷に入っては郷に従わねばならない。魔界にいる間は常識の
ファールラインの角度を修正した方が良さそうだ。あくまで魔界滞在中限定だが。

「我が弟子が性魔術の奥義を修得した祝いをやらねばならんの」
「いやそんな、祝いなんてこっちがお礼言わなきゃならないのに」

唐突な師匠の物言いに慌てて横島が辞退しようとする。奥義を教えて貰えた上に更に祝い
を貰うなどいくらなんでも図々し過ぎるような気がしたのだ。

「遠慮するでないぞ、祝いの品は妾の躯じゃ、思うさま愉しむが良い」
「あの…それって修行の続きですよね?」

目覚めるや否や直ちに修行の再開か、と思わず身を正す。
瞬時に集中を高め再び全身の感覚を制御下に置いていく。

「勘違いするな、本物の褒美じゃ。魂の接続も遮断しておるし魔術も解除しておる。お主はこれから先
 自分の快楽ではなく相手の快楽をこそ優先させ続ける事になる。その前に最高の愉悦を味わうが良い」

この先横島は性魔術の行使による魂の強化を余儀無くされる。その為には相手より先に果てる事など
許されず、両者の間で限界まで高めた淫気を相手が果てた時点で生気ごと取り込み総て魂の糧とする。

今だけはそれを気にせず単なる“男”と“女”として愉しめと、恐らくはこれが“最後”だろうからと。
確かにそれは“褒美”であり、“餞別”であり、ある種の“決別”なのかも知れない。

「解ったようじゃの? 何お主の方が早く果てようと責めはせぬ、存分に愉しむが良い」

そう言われて一切の戸惑いが横島の内から拭い去られた、躊躇いを捨て挑み掛かる。
それでも既に身に着いた技巧は自然と出る。リリスは嬉しそうにそれを受けるとたちまちのうちに
反応する。それは寝台上で繰り広げられる別種のキャッチ・アズ・キャッチ・キャン。
無意識に相手の急所を極めツボを責める。カール・イスタス辺りが聞いたら激怒しそうな例えだが。

かなりの時間二人はくんずほずれつ絡み合い、淫靡な空気が流れはするがそれに場が支配される事も無い。
一種のスポーツのように互いに競うように愉しみ、悦び、高めあう。“スポーツ”が聞いたら怒るかも知れない。




もう少し、後ほんの僅かで絶頂に達する事が出来る。その状況で男が先に果ててしまった。
全くのフリーの状況でコトを始めてしまった以上は、ある意味当然の事の帰結なのだが
それで納得しない者など幾らでもいる。そして彼の相手はそれを実践して恥じる事の無い存在だった。

「ああっ♪? 後ほんの僅かで同時フィニッシュだったものを? 何故後少し我慢せぬ?」
「ええっ? さっき怒らないって言ったやないですか〜?」

合格点が80点のテストがあった場合に赤点を取れば怒るよりも寧ろ呆れる事も多いだろう。
だが79点だった場合、何故後たった1点が取れないのか、頑張らないのか、と怒り方にも熱が入る。

ようするに今リリスが怒っているのはそういう事だ。さっさと果てていれば二回目で共に
イケたであろうがなまじ横島が頑張ってしまった為最も焦らされた感じでイカれてしまった。
横島にとっては謂れの無い叱責なのだが相手の立場が圧倒的に上な為どうにもならない。

「先にイッても責めないって言うたのに〜理不尽や〜」
「喧しい、“師匠”と書いて“りふじん”と読むと心得よ! 
 後ほんの二往復半で妾もイケたものを、こぉ〜のぉ〜馬鹿弟子がぁ〜!」

ある意味冷静に、必要だった残りストローク数まで把握している処がそこはかとなく腰が
退けてしまう。そうでなくとも逃げ出したくなるような怒りのオーラをリリスが醸し出している。

「ああっ、マスターリリスお許しを。ああ怒りのオーラが炎のように赤く、紅く燃〜え〜て〜い〜る〜」
「言う事はそれだけか?」

仁王立ちする師匠を相手にどこぞの格闘バカ師弟ネタで誤魔化そうにも相手が元ネタを
知らない為効果が無い。だが幸いと言うべきか、我儘・自分勝手・理不尽な女王様属性の
キャラクターに対する耐性と免疫を哀しくなる程大量に持ち合わせているのが横島だ。
ネタ振りがスベった場合は行動あるのみ。

「言葉の次は行動ッスよ、レッツリトライ。火照りが冷めない内に」
「ほう…新たなる契りをお主から望むか?」

リリスが面白そうにそう言うと、自らの唇を軽く噛んだ。そこから見る見るうちに血の珠が浮かび上がる。
その血を口に含むと唾液と混ぜて横島の咥内に流し込む。するとたちまちの内に横島の“男”が回復した。
そのまま挑みかかり師匠の要望通りに満足させて差し上げる。さらに調子に乗り、再度失神させるべく
励むが文珠の助けも無しにそんな事が出来る訳も無く、逆襲された挙句に散々搾り取られてしまった。
無論一方的な搾取という訳ではなく、代価である“快楽”を必要充分以上に受け取っていた。

「ふ〜堪能したぞ横島、お主の躯は余程妾と相性が良いようじゃ。美味ご馳走様という奴じゃな」
「あ、今更聞くのもアレなんスけど妊娠の心配とかは?」

散々胎内に放った後で聞くのも間抜けな話なのだが、流れが急過ぎてようやく思い至った次第だ。
だが一旦気付くと人間の男としては当然の心配が頭を擡げて来る。

「戯け、人間の精如きで妾を孕ませる事など出来る訳が無かろう。夜魔の女王を何だと心得る?
 お主の精など放った瞬間に吸収されて程好い栄養になっておるわ。見よこの肌の艶を」

どうやら横島の精は子種ではなくサプリメント扱いのようである。
存在の次元が違い過ぎるので当然なのかも知れない、本来人間は魔族の捕食対象ですらあるのだ。

「ふむ、メインディッシュを食した後はデザートが欲しくなるのう」

なにやらリリスが不穏な呟きを漏らすと目を瞑り何かの気配を探ろうとしている。

「チッ、あやつ雲隠れしおったな……ん? この気配は…丁度良い、こやつにするか」

お目当ての誰かは見つからなかったらしいが代わりの者が見つかったらしい。
なにやら念話らしきもので会話しているようだったがいったい誰が相手なのか。
程無く当の本人が地響きを立てて走って来、ブチ破るような勢いでドアが開けられた。

「リリス様! 本当ですか? 横島君が?」

凄まじい勢いで入って来たのは第2軍司令官フレイヤ中将、眼光爛々たる様子である。
魔族にとって快楽の追求に貪欲なのは別段悪徳ではなく、どちらかと言えば美徳らしい。
ワルキューレのような物堅いタイプはかなりの少数派だそうである。
中でもフレイヤは筋金入りのエピキュリアンで快楽の追求に余念が無い。

「何言ったんです?」
「妾をイカせた横島と寝たければ直ぐに来いと言うただけじゃ」

不審そうな問いに対して何でも無いと言わんばかりの軽い調子でリリスが答える。

「…餌ッスか俺は?」
「より正確に言うなら撒餌じゃ、まだ食わせるつもりはない」

そう言うと息も荒く近寄って来ているフレイヤの腕を掴み寝台へと誘っている。

「あの、リリス様?」
「我が弟子に用があるなら先ず師たる妾を通すべきであろう?」

艶やかな笑みでそう答えるリリスを見て、フレイヤの顔から血の気が引いていく。
遅まきながら企みに気付いたのか逃れようとするが、この期に及んでリリスが逃がすはずもない。
助けを求めるような目で横島の方を見やるが生憎と助けられるような立場に彼はいない。
と言うよりそもそもリリスは横島を狙って来たのだ。この場合、力関係を示すと
リリスが鮫、フレイヤが中型魚、横島が小魚という食物連鎖のような図式になる。

横島がそんな事を考えていると既に寝台の上に移った二人が桃色レスリングを始めている。
精神的な不意打ちを喰らったような状態のフレイヤは敢え無く陥落し派手に嬌声をあげている。
リリスはその上で実に愉しそうにフレイヤの躯を蹂躙し嬲り尽くし快楽を掘り起こしている。
余りの事に横島は目を逸らす事も出来ず、馬鹿のようになって黙って凝視していた。
それでも無意識の内に目はリリスの動きを追い、脳内イメージでトレースしていく。
フレイヤの上げる嬌声の間隔が徐々に短くなって行き、絶頂間近な事を教えて来る。
いよいよというその刹那、リリスがフレイヤから身を離した。

「リリス様? ここまで来たならいっそ…」

先程迄の嫌がりようは何処へやら、一度火を点けられた躯で切なそうにフレイヤが訴えている。

「まあそう急くな、おぬしの望みを叶えてやろうフレイヤ。ここへ来い横島、仕上げは任せる」
「そんな…ここまでなれば誰が相手でも同じです。どうせなら最初から…」

リリスの提案を聞いてさも勿体無いとばかりに言い募るが淫魔の決定に変更は無い。
そして師匠に忠実な弟子はその指示に逆らうつもりなど無い、と言うよりノリノリだった。

「これは言わばボーナスじゃ、フレイヤの力を吸収するが良い」
「いただきま〜っす!」

華麗なるルパンダイブで飛びつくとただちに没入していく。かなり師匠の流儀に染まってきたらしい。
そして襲い掛かられた当の相手はと言うと、不平そうな様子は消し飛び大悦びだった。

「全くこやつは好き者のくせに軍務中は無理矢理強靭な意思力で抑え込んでおる分反動は凄まじいの」

呆れたようなリリスの呟きも聞こえぬげに、既に限界ギリギリ迄高められていた女体は
絶頂感覚の限界を軽々と突き破り、フレイヤは泡を吹いて失神していた。
その瞬間リリスには遠く及ばないもののそれでも充分に強大な力が横島の中に流れ込んで来た。

「うわっ、俺殆ど何もしてないのに凄い力が流れ込んで来ましたよ」
「ボーナスじゃと言うたであろう? それに新たな課題はこれからじゃ」

最後の部分だけ良い処獲りしたような気がして思わず口をついて出た言葉だったのだが
リリスの思惑にはまだ続きがあるようだった。

「失神したフレイヤのあられも無い姿を見てお主どう思う?」
「いや白目は剥いてるわ泡吹いてるわ体液まみれだわなんスけど壮絶に綺麗ですね」

師匠の問いに横島は至極素直に答えた。清潔感の対極にあるような姿なのだがその程度で
萎えるような性根など持ち合わせていない。清潔な無機物よりも汚わいに満ちた美人である。

「ならばその状態のフレイヤを責め立てて意識を取り戻させ、しかる後再び昇り詰めさせよ」

新たに出された課題はかなりの難問だった。意識の無い相手を感じさせる方法など横島は知らない。

「案ずるな、その為に必要な力は既にお主の内に在る。“眼”に霊力を集中させよ」

指示に従うと目の前の女体の霊絡の流れが見て取れた。試しに各所を触って刺激を与えると
それを伝える神経パルスの伝達状況迄がはっきりと感じ取れる。これならば、と師の教えに
忠実に従い目の前の女体攻略に専念する。とは言え目隠し無しでスイカ割りをするようなものだ。

瞬く間に蓄積された快感によって現実に引き戻されたフレイヤは最初こそ戸惑っていたが
自分に圧し掛かっているのが横島だと解ると嬉しそうにしがみついてきた。
そのまま貪欲に快楽を貪り尽くそうとしていたが途中から言葉が意味を為さないようになる。
怯えたような声音や命乞いの如き内容も洩れ聞こえたが、躯はそれに反して両足を
交差させて目の前の獲物を断じて逃すまいとするかの如く力強く捕まえている。
この状況下で遠慮するつもりなど横島には更々無く、更なる高みに押し上げて逝く。
やがて意味不明な悲鳴を甲高く叫ぶと鋭い爪を横島の背中に食い込ませ体中から体液を溢れさせ
先程を上回るような激しさで失神した。そして先程の時よりも大きな力が流れ込んで来る。

「今度は俺だけの力でやれたよな…けど二回もこんなに力を吸い取って大丈夫なんかな?」

基本的に何処迄も女性には優しい彼の事、その言葉の端々に相手への気遣いが窺える。
自分の魂を強化するのは望む処だがその為に誰かに過度の負担を強いるつもりなど無い。

「心配するな、こ奴はこの程度ではビクともせぬ。それに充分過ぎる代価を得ておる、“至上の快楽”をな」

心配そうな弟子を安心させるように師匠が嗜める。

「見事じゃ、これでお主は不感症の女でも絶頂に導くだけの技巧を手にした」

リリスの言葉が優しく横島の中に流れ込んで来る。

「これでお主は人界では卓絶した技巧の持ち主であり、尚且つ女心をまるで知らぬ存在になったという訳じゃ」

続けて掛けられた言葉は褒めてるんだか貶してるんだか良く解らない言葉だった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(あとがき)
なんとか今回で魔界編を終わらせたく頑張ったのですが次回に持ち越しです。
既に23000バイト近い、送信可能か今からドキドキです。
今回横島に一段階上に昇ってもらいました、良いのかなぁ〜こんな内容で…

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