ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い45


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 4/10)

上海。地元の住民に霊山と崇められる山中。そこで、人外の者達による死闘が展開されていた

その戦いの参加者の一人であるメドーサは必死で周辺の気配を探っていた。ここに居る敵戦力の中で最も注意すべき存在であるアンドラスの気配を。


そんな彼女の後ろに音、気配、殺気さえも感じさせず、忍び寄る影。その影の持つ黒い刃が閃いた。
「は・・・・しま・・・・!?」
振り向いた時にはもう遅く、黒い刃がメドーサの喉を掻き切ろうとしていた。

だが、その直前でメドーサと円月刀に何者かが割って入る。
次の瞬間には漆黒の円月刀と白銀の大鎌がぶつかり合い、金属音を奏でていた。

「久し振りだな。アンドラス」
「ふん・・・・こちらは別に会いたくも無かったぞ」
一方は初老の男、もう一方は長い黒髪の若い男。
七十二柱に名を連ねる二人は、武器越しに、交わした何気ない言葉に殺気を添えて、お互いの姿を見据えた。

「まあ、そう言うなよ・・・・こっちには、聞きたい事は山ほどあるからな」
「嫌だと言ったら?」
軽口を叩きながらも、お互いの様子を探りあう。
「月並みだが力づくになるな・・・・」
「じゃあ、お断りだ」
その瞬間、アンドラスが闇へ溶け込もうとする。

「逃がすか!!」
言うが早いかネビロスの大鎌が、銀色の軌跡を描きながら、闇に逃げ込もうとする敵を鋭く薙いだ。

だが、アンドラスが闇に溶け込む方が一瞬、早かった。
手応えはあったが、ダメージとは程遠い。
先程まで微かにあった筈の「殺し屋」の気配は微塵も感じ取れない。

『ふん・・・・・部下を庇うとは随分、丸くなったもんだな? いや、貴様だけじゃない。ゴモリーやペイモン、アスモデウスも、極めつけはアシュタロスだ・・・・眷属を造るのは結構だが・・・・・「家族ごっこ」とは笑わせてくれる』
闇の中から、その「殺し屋」の吐き捨てるかのような調子の声が響く。少なくとも、アンドラスにとっては、ルシオラ達三姉妹は家族ごっこの役割を演じる「人形」にしか見えなかったらしい。



「ふん・・・・余計なお世話だ。それに、お前らに比べれば、アシュの方が百倍マシだ」
(ちい・・・・・この人間達が壁になってますますやり難い)
ネビロスは自分達の置かれた状況と『旧友達』を侮辱されたことに内心で憤りながらも、敵の位置を見極めようと神経を研ぎ澄ませる。だが、周辺を徘徊する薬の中毒者達が壁となり、ますます敵の姿の発見を困難にしていた。

「ちょっと!! ネビロス、奴は何処に気配が・・・・・・!?」
「これが奴の一番の強み・・・・・能力と技術を複合しての『業』・・・・・気配や殺気を消しての奇襲攻撃。無音殺人術だ・・・・」
戸惑うメドーサにネビロスは、何処か淡々とした調子で答えた。
だが、メドーサの耳にはネビロスの歯軋りしているのがハッキリと感じ取れた。

『そういえば、メドーサ、お前には見せた事が無かったな・・・・私は自分の周辺に発生する音を完全に消すことが出来る・・・・これが私の能力―『無音支配』だ』

闇の中からネビロスの言葉を補足するかのように、感情の薄い声が飛んでくる。恐らくはネビロスが自分の能力を知っているために、隠す必要が無いと判断したのだろう。
おまけにメドーサ達には、その位置を掴む事が出来ない。これでは余計な焦りを生むだけだ。その辺のことも計算に入れているのだろう。

本業が殺し屋であるアンドラスにとって、気配と殺気を消す事は動作も無い。恐らく、彼は他のどんな魔族よりもそれに長けているはずだ。
後は自分やその周りから発生する音を完全に消すことが出来れば、本当の意味での『無音』殺人術が可能となる・・・・・・

もっとも、多くの神魔族にとって、こういった力を持つ者は大して珍しくは無い。
魔眼、瞬間移動、防御結界・・・・・・さらに人間にも発火能力を持つ者は居るし、ましてや、メドーサ自身にも超加速、ネビロスには死霊操作が備わっている。
だが『暗闇での戦闘』や『暗殺』という状況下ではアンドラスの『無音支配』程、恐ろしい能力は無い。そういった場合での最大の手掛かり−『音』が無いのだから。

そして、今は「そういった場合」なのだ。

「ちょっと・・・・・気が付いたら殺されていましたなんて、洒落にならないよ!!」
「解っている!! 気合と根性で何とかするぞ!!」
メドーサが自分達の置かれた状況を的確に表現した言葉を叫ぶ。
さらにネビロスは自分の言葉の馬鹿らしさを十二分に承知しながらも、自分とメドーサを叱咤するかように、声を張り上げていた。


『くくく・・・・・・気でも違ったか? ネビロス、この状況下では貴様でもどうにもなるまい?』

アンドラスの言うとおりだ。先程の攻撃は半ば勘で防げただけだ。いつまでも、あんな幸運が続くと思うほどネビロスは楽観的では無い。

『貴様とて、百も承知だったはずだ・・・・・この状況下での戦いは貴様が不利になると・・・・だが、守りに入っただけでは証拠が掴めない。だから、敢えて、不利を承知で此処に来た、といったところか?』

「それもあるが、じっとしているのは性に合わなくてね・・・・部下を顎で使って、自分はデスクワークってだけじゃ気が滅入るのさ・・・」


『ふん・・・・・』

今までの会話からだけでも、相手の位置は解らない。
アンドラスの当面の標的は戦闘力が高く、この場で一番邪魔になる自分とメドーサらしい。雪之丞達は自分達を片付けた後、始末する気か。あるいは人間の部下である砕破に手を下させるのか・・・・・・・・



(いずれにしても・・・・・・有利なのは向こう側だね・・・・)
闇に潜む敵と言葉の応酬を繰り広げる上司を横目で見ながら、メドーサは彼我の置かれた状況を確認した。

アンドラス達は自分達を足止めするだけでいい。殺すのはあくまで、ついでだ。不利になるか「その時」が来たら即刻逃げに入るだろう。

だが、こちらはそうはいかないのだ。敵の狙いを探り、それを見極め、防がなければならない。


そんなメドーサの心中を知ってか、知らずか・・・・・・・・・

『さて、そろそろ行かせて貰うか・・・・・』
言葉と同時に、再び音や気配、殺気すらも掻き消した影が迫って来た。





「ふん、どうした? 伊達雪之丞、貴様の実力はこんな程度だったか?」
嘲るような言葉と共に繰り出される回し蹴り。
「く・・・・」
魔装術で強化された足と腕がぶつかり合う。
さらに砕破の攻撃を防いだ直後に魔獣が襲い掛かる。

「ちい!!」
魔獣の角を掴んで投げ飛ばす。
だが、魔獣はそんなことはお構い無く、雪之丞に単純な突進を繰り返す。

『砕破が攻撃する→雪之丞が応戦する→魔獣が割ってはいる→魔獣が雪之丞に吹っ飛ばされる→再び、魔獣が襲い掛かる。この図式が先程から延々と続いていた』


砕破と雪之丞に実力はほぼ互角。だが、たとえ魔獣一匹でも間に入れば、この均衡は崩れてしまう。加えて、この魔獣は雪之丞にとっては元同門だった男。無意識のうちに攻撃が甘くなってしまう。手加減された攻撃では魔獣は倒れない、かといって、全力で攻撃すれば、殺しかねない。
敵と判断して同門だった者を殺せる程、彼は無情では無かった。



「くく・・・・この陰念だった魔獣が気になって、集中できまい? 甘さを抱えたまま、あの世に逝くがいい・・・・・」
「うるせえ!!」
ひとまず砕破を引き離そうと、左手の鞭と剣の特性を合わせ持つ武器―「連接剣」が唸りを上げて、砕破に迫る。

だが・・・・・・・
「リズムが単調になっているぞ」
連接剣の軌道を完全に読み切った砕破は安々と雪之丞の懐に入り込んでいた。
陰念のことで雪之丞に生じた隙はほんの僅かな物。だが、砕破はそれを見逃さなかった。

「く・・・・しまっ・・・・・・!!」
「もう遅い!!」
連接剣のせいで、雪之丞は接近戦での反応が遅れてしまう。

とっさにした防御も意味を為さず、そして・・・・・・・

ゴガン!! 

楔を地面に打ち込むような音と共に、砕破の左掌底が雪之丞の顎を寸分の狂いも無く、打ち抜いた。



後書き ユッキー大ピンチ。ただでさえ、強敵なのにほんの僅かな精神的動揺をつかれ、クリーンヒットを許してしまった彼の命運は? 加えて、刻々と迫る火角結界のタイムリミット。次回で上海編決着です。

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