ザ・グレート・展開予測ショー

『妹』 〜ほたる〜 (11)


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(05/ 4/ 8)

★始める前に一言

 始めての皆さん、こんにちは。拙作を覚えている方、お久しぶりです。
 いろんな人にせっつかれていた、『妹〜』をようやく更新できました。
 あらすじを簡単に紹介しますが、詳しい内容は過去ログ等でチェックして下さい。


★あらすじ

 アシュタロス戦での功績を認められた横島は、ルシオラの復活を願い出た。
 神族・魔族の協力により、霊力・記憶ともに失われたが、ルシオラは横島の妹として復活した。
 横島の両親とともに来日した彼女は、新しく借りた部屋で横島と二人きりの同居生活を始めたのだが……


★登場人物

・横島忠夫
 いちおう主役。現在は高校三年生。最強レベルのGSだが、人間止めるほど強くはないです。

・横島蛍(=ルシオラ)
 復活したルシオラは、横島の義理の妹として新しい人生を出発した。
 ただし、霊力があるレベルまで戻れば、元の記憶が復活するようである。
 現在、六道女学院の一年生である。

・星野舞奈
 六道女学院に編入した蛍のクラスメートで、最初の友人。
 実家は、お札の製造元である。
 情報通な彼女は、GS業界のことなどを蛍にいろいろと教えている。

・鬼道政樹
 六道女学院の教師で、蛍の担任と除霊実技の教官を務めている。
 冥子のぷっつんで一緒に横島と入院したのがきっかけで、横島と交友関係となった。




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 『妹』 〜ほたる〜   第十一話 −親友は優等生(01)−     

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 横島と蛍が二人で夕食を食べていたとき、横島が蛍に話しかけてきた。

「蛍。学校の方はどう?」
「勉強の方は問題ないわ。ただ……」
「ただ?」
「除霊実習はちょっと大変。みんな、すごい人たちばかりなんだから」

 将来のGSを養成している六道女学院には、さまざまな霊能力の持ち主が集まっている。
 おキヌの同級生もそうであったが、優秀な生徒は、一年生のうちから様々な能力を発揮していた。

「特に模擬霊的格闘の授業だと、全然ついていけなくて」

 模擬霊的格闘の授業では、弓のように子供の頃から専門的な訓練を受けていたり、また魔理のように霊的格闘のセンスをもった生徒が、クラスで上位を占めていた。
 現在、これといった霊能力を発揮していない蛍にとって、模擬霊的格闘の授業は一番つらい授業であった。

「そうか、霊的格闘か……」

 横島はしばらく考えていたが、やがてポンと手を打った。

「よし、ここは俺に任せなさい!」

 横島は蛍にむかって、対除霊実習の秘策を語り始めた。




 翌日、蛍のクラスの三時限目と四時限は、模擬霊的格闘の時間であった。
 蛍のクラスの担任であり、除霊実技の教官でもある鬼道が授業を担当する。

「全員、集合!」

 ジャージ姿の鬼道が、蛍のクラスの全員を体育館で整列させた。

「今日の授業は、素手での格闘訓練と、道具を使った格闘訓練の両方を行う。
 道具無しの方は生徒同士でペアを組み、道具有りの方は式神が相手になる。
 では、これからペアを言うからな」

 鬼道は、ペアを組む生徒の名前を読み上げた。
 生徒どうしの模擬戦は、一方的な勝負にならないように、実力が近い者どうしでペアが組まれていた。

「よし、それじゃあ始めようか。最初は、横島と星野!」
「「はいっ!」」

 蛍と舞奈は返事をすると、体育館の中央に描かれている格闘訓練用の結界の中に入った。

「それでは、始め!」

 鬼道の合図とともに、二人は半身の姿勢をとりながら、少しずつ近づいていった。

「ふっふっふ。今日こそは、手加減なしでいくわよ〜〜」

 舞奈が蛍の顔を見ながら、ニヤリと笑った。
 もっとも、特定の霊能力をもっていないという点では、舞奈と蛍は同レベルである。
 格闘技の腕前も同様であり、過去のこの二人の戦いは、子供のつかみ合いと大差がなかった。

「舞奈ちゃんも、覚悟してね」

 一方の蛍は、かなり落ち着いた様子であった。
 過去の模擬戦では、おっかなびっくりといった感じで相手と向かい合っていたのだが、今日の蛍は、しっかりとした足取りで、ジリジリと対戦相手の舞奈に近づいている。

「今だわ!」

 舞奈は少し離れた間合いから、跳躍して一気に飛びかかった。
 しかし蛍が右腕を振ると、空中にいた舞奈は失速して床に激突してしまう。

 ビタン!

「いったーーい!」

 舞奈がぶつかった顔をさすっている隙に、蛍は舞奈に近づくと、背中から舞奈を押さえ込んだ。

「勝負あり、それまで!」

 蛍が舞奈に勝ったというより、舞奈が一方的に自爆しただけのように見えたが、鬼道は蛍の勝ちと判定した。




 生徒どうしの対戦が一巡すると、次は道具ありの模擬格闘となった。
 今度は、式神が相手の戦いである。
 数人の生徒が戦ったあと、次は舞奈の出番となった。

「蛍ちゃん、見ててね」

 蛍がコクンとうなづいた。
 舞奈はバッグの中から数枚のお札を取り出すと、結界の中に入っていく。

「う〜ん、今日はどれにしようかなあ」

 舞奈はしばらくお札を眺めていたが、やがて一枚の札を抜き取り右手にもった。

「準備はいいか?」

 舞奈がうなづくと、鬼道が人形(ひとがた)に切り取った式神ケント紙を結界の中に投げ入れた。

「よし、始め!」

 式神ケント紙が結界の中に入ると、仮面をかぶった人の姿の式神に変化した。
 式神は、シャーッという声をあげながら、舞奈へと襲いかかっていく。

「そこよっ!」

 舞奈は迫ってくる式神の足元に、右手にもったお札を投げつける。
 すると、式神の足元から何本ものツタが伸びてきて、式神の足を搦め捕った。

「ギ……ギイ!?」

 式神はその場でもがいたが、足に絡みついたツタを外すことができない。

「残念ねー。このお札は悪霊や妖怪を束縛するためのものよ。もちろん、式神も例外ではないわ」

 舞奈が使ったお札は、敵を捕縛する呪縛ロープのような効果を発揮するものであった。
 このような特殊な用途のお札は、流通量が少ないため一般のGSは入手することが困難であったが、実家でお札を作っている舞奈にはそうではなかった。

「じゃ、さようなら」

 舞奈は、学校指定の破魔札を三枚投げた。
 破魔札は値段が高いほど威力が大きいため、実家の経済力で不平等が発生しないよう、六道女学院では学校指定の破魔札以外は使用禁止となっている。
 舞奈の攻撃を受けた式神は、霊力を使い果たし、元の紙へと戻っていった。




「舞奈ちゃん、すごーーい!」

 自分の位置に戻った舞奈を、蛍が小さな拍手で迎えた。

「でもね、私がしていることって、本当はズルなんだよね。
 皆がなかなか使う機会のないお札を、実家からもってきて使っているだけなんだから」
「そんなことないわ。だって他の人も、いろんな道具を使って戦っているでしょ?
 自分が一番得意な道具を使っているんだから、全然問題ないと思う」

 舞奈と違って、得意な道具をもっていない蛍は、せいぜい破魔札しか使えなかった。
 素手での戦いは互角でも、道具を使うとその差がぐんと開いてしまうのである。

「でも、何だか蛍ちゃんに悪いような気がして」
「大丈夫よ。今日の私は一味違うんだから! 私の番が来たら、しっかり見ててね!」
「うん」

 やがて、蛍の番がまわってきた。

「横島、道具は何も持たないでいいのか?」

 手ぶらのまま結界の中に入った蛍を見て、鬼道が怪訝な表情を見せた。

「はい、大丈夫です」

 先ほどの素手での模擬戦もそうだったが、蛍の表情は自信に満ちていた。

「わかった。では、始め!」

 鬼道が式神ケント紙を投げ入れると、仮面をつけた式神が現れた。
 式神は蛍に接近すると、右手で殴りかかってくる。

「えいっ!」

 だが蛍の行動の方が、一瞬早かった。
 蛍は上半身をかがめて敵のパンチをかわすと、両手で式神を思い切り押した。
 すると式神は、まるで大相撲の力士に突き飛ばされたかのように、後方に弾き飛ばされる。

 ヒュルルル〜〜

 式神は空中に放物線を描き、やがて体育館の壁にぶつかったところで元の紙に戻った。

「場外、それまで!」

 鬼道が蛍の勝ちを宣言したが、同級生たちはポカーンとした表情をしていた。
 いつものパターンでは、投げ飛ばされるのはたいてい蛍の方であったために、完全に意表を突かれたのである。

「えへへ♪」

 いたずらに成功した子供のような表情を見せて、蛍が元の場所に戻ろうとしたとき、鬼道が蛍を呼び止めた。

「横島、ちょっとこっちに来てくれ」

 鬼道は蛍を、皆から離れた場所に連れていった。

「横島、今日はいったいどうしたんだ?」
「あ、あの、偶然だと思います」
「まさかと思うが、兄貴から何か受け取ってないだろうな」

 鬼道のいう兄貴とは、蛍の兄の横島忠夫を指している。

「そ、それは……」

 鬼道ににらまれた蛍は、思わず視線を横に向けてしまった。

「横島、右手を開いて」

 他の服を着ていれば、どこかに隠すことも可能であろうが、今は体操着にブルマ姿であるため、両手以外に物を隠す場所はない。
 蛍は右手を差し出すと、鬼道の前で手のひらを開いた。

「次は左手」

 観念した蛍は、おずおずと左手を前に出した。
 そして手のひらを、ゆっくりと開く。

「やっぱり、そうか」

 蛍の手には、二個の文珠が握られていた。中に込められた字は、『眠』と『爆』である。

「それで、今日使ったのは?」
「はい。『倒』と『投』です」
「まったく、どうしようもない兄貴だな。
 『眠』ならともかく、『爆』でも使われた日には、危なくてしょうがないわ」

 鬼道が、やれやれといった表情を見せた。

「横島、今日は兄貴はどこに行ってる?」
「今日は仕事があるから、事務所に出かけました」
「わかった」

 鬼道はポケットから携帯を取り出すと、横島に電話をかけた。

「横島か。ワイや、鬼道や。今、ちょっとええか?
 おまえな、いったい何考えとんのや!
 え、妹がかわいそう?
 このアホンダラ! そんな理由で、文珠みたいな反則アイテム持たせるな!
 いくら妹が可愛いからって、程度っちゅうもんがあるやろうが!
 実力不相応なアイテムを使うと、それは本人のためにもならんのや。
 ええか。次からは注意せいよ。じゃあな」

 鬼道は電話を切ると、蛍に視線を向けた。

「今も兄貴に文句言ったんだけどな、今の横島には文珠は強すぎるんだ。
 本気で文珠を使えば、同級生はもとより、俺にだって勝てるだろう。
 でもそうなると、道具に全部依存してしまい、自分が今以上に成長しなくなるんだ。
 今の横島には辛いかもしれないが、俺が許可するまで授業で文珠は使うことを禁止する。
 いいか!?」
「はい」

 鬼道に怒られた蛍は、しょぼんとした表情となった。

「大丈夫だ。横島には素質がある。なんといっても、あいつの妹なんだからな。
 それから、次の月影の試合をよく見ておけよ」
「月影って、委員長の月影さんですよね?」

 クラス委員の月影絵梨は、学科・実技ともに優秀な模範的な生徒である。
 神通棍の達人の彼女は、クラスでもトップクラスの強さをもっていた。

「あいつもなあ、入学したときは、今の横島と大差なかった。
 それでも、地道に訓練を重ねて、今の実力を身につけたんだ。
 おまえたちぐらいの歳だと、ちょっとしたきっかけで、実力がグンと伸びる。
 ま、焦らずに頑張れってことだな」
「わかりました」




 ようやく、自分の場所に戻った蛍に、舞奈が話しかけてきた。

「どうしたの? ずいぶん先生と話し込んでいたみたいだけど」
「今日の除霊実習用に、お兄ちゃんからアイテムをもらったんだけど、それを使ったのが先生に
 バレちゃったの」
「でも、どうして道具を使っただけで怒られるの?」
「学校の授業で使うには、強すぎるからだって」
「ふーん。ということは、そのアイテムは文珠ね!」
「わかる?」
「横島さんのお兄さんがもっていて、しかも授業で禁止されるほどの強力アイテムといったら、
 文珠しか考えられないわ」
「正解!」
「ね、ね、ちょっと見せて」
「いいわよ」

 蛍は左手に握っていた文珠を、舞奈に見せた。

「へえー、これが文珠なんだ。あ、中に字が書いてある」
「使う人がイメージを浮かべると、それに応じた字が出てくるんだって。
 これはイメージするところまで、全部お兄ちゃんにやってもらったけど」
「『眠』は相手を眠らせるのね。『爆』って、やっぱり爆発するの!?」
「そうみたい。『爆』の方は危険だから、人には絶対使うなってお兄ちゃんから言われてるわ」

 舞奈は文珠を指でつまんでしげしげと見ていたが、しばらくして蛍に返した。

「ひょっとして、私と戦ったときも、文珠を使ったの?」
「うん。『倒』っていうのを使った」
「あれも文珠の力なんだ。もう、グーの音も出ないわね」

 本当は、素手での戦いに文珠を使えばルール違反になるのだが、勝ち負けにこだわっていない舞奈は、そのことには触れなかった。

「ごめんね、舞奈ちゃん」
「いいよ、気にしてないから。それより、月影さんの戦いが始まるわよ」

 やがてクラス委員の月影が、式神と戦い始めた。
 神通棍の使い手の彼女は、落ち着いた手つきで式神の攻撃を払いのけた。
 そして一歩退きながら、相手の肩に神通棍の一撃を加える。
 勝負はそれで決まってしまった。

「えっ!? もう終わりなの?」
「月影さんって、戦い方までクールなのよね。本当に優等生って感じ」

 鬼道は、入学した頃は月影も今の蛍と同じくらいのレベルだと言っていたが、あまりに鮮やかな戦いを見せつけられ、蛍はかえって落ち込んでしまう。
 地道に頑張れば強くなれると鬼道は言っていたが、蛍にはまったく自信がなかった。


(続く)

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