ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(15)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 6/ 2)

西洋において、銀は、ただ美しいからと言うだけではなく、魔物を退ける金属としても重宝される傾向がある。
有名なのは狼男など、獣の変化の類だろう。通常の鉛弾などものともしない彼らだが、銀に関しては弱く、生命力に富んだ彼らも銀の銃弾を撃ち込まれると致命傷を負うし、銀食器に触れるだけで火傷を負うと言う話もある。
それは、吸血鬼においてもまた然りだ。
食器や普通の細工物に触れただけで火傷を負う程の拒否反応は無いが、苦手な事に変わりは無い。あのブラドーもかつて、カオスによって、銀の散弾銃で致命傷を負わされる寸前まで追い込まれたのだ。
その、銀の弾丸を、ピートに向けて頭と心臓に計六発撃ち込んだ後。
加奈江は、血が止まるのを待ってピートの傷口を拭い、寝間着を着せ替えると、最初に誘拐してきた時のように、彼をベッドに寝かせてその目覚めを待った。
「・・・・・・」
床に座り、ベッドの端に軽く肘をかけて、時が過ぎるのを待つ。
心臓は停まり、瞳孔は開き、ピートの体は完全に生物としての機能を停止していたが、吸血鬼が死ぬとそうなると言われているような、灰になる気配は無い。血を拭った傷口も、ひどい火傷を負ったように一円玉ぐらいの小さな円状に皮膚が赤く爛れているだけで、その中央には弾が貫通した跡のような深い傷口がほんの一点だけついているものの、それ以上血が流れてきたりという事はなかった。体は完全に脱力しているが、硬直が始まる気配も無い。
寝顔を見ている時と異なるのは、彼が息をしていないと言う事だけだ。
「・・・・・・」
半日−−−もしくは、もっと長い時間、そうしてピートの体に『変化』が起こるのを待っていただろうか。
加奈江はふと、生理現象の要求から腰を上げると、浴室や御手洗を造りつけてある隣室に向かった。通り過ぎざまにちらりと部屋の振り子時計を見ると、時刻は午後の四時をさしている。ピートをベッドに寝かせ、部屋を片付け終わったのが早朝だったから、ほぼ丸一日ピートのそばについていたのだ。
そのわりに、空腹などの欲求は無い。別に、血を見た事などにショックを受けている自覚は無いが、昨夜舐めたピートの血の味が妙に口の中に残っているせいか、他に何かを食べたいと言う気持ちや欲求は湧いてこなかった。ピートに変化が起こるのを期待して待っているので、興奮していてそういう欲求が感じられなくなっているのかも知れない。
用を足し、洗面所に戻ると、加奈江は手を洗いながら、ふと正面の鏡に映る自分の顔を見た。
半分が包帯に覆われた、白い顔。
焼け付くような痛みはもう感じないが、そのかわり、包帯の下で、何か蒸れているような、傷口が濡れているような奇妙な感触があった。
(そうだ・・・包帯を外すように言ってたんだわ・・・)
昨夜、手当てをしてもらった時、ピートに言われた言葉を思い出す。
擦り傷は、それ自体は大した怪我ではないが、下手に包帯などを巻いておくと傷口が膿む事があり、何もせずに放っておいた方が、かえって、早くきれいに治る事がよくあった。
(どうしよう・・・膿んできたのかしら)
湿気と共に、じくじくとした痛みがあるのを感じて顔をしかめる。
別に自分の顔そのものにこだわりはないので、傷が残ろうと構わないが、実質的な不快感があるのは少し困る。
そして、今から外して消毒しようかと包帯を解きかけた時、加奈江は顔と脇腹の傷口に、突如として猛烈な痛みを感じ、その場にガクリと膝をついた。

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