ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い 番外編 present for you (後編)


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 4/ 8)

繁華街のデパート内のレストラン。その店の四人がけのテーブルに案内された横島達は、店員に料理を注文した。
「いやー、銀一のおかげで弓のプレゼントは何とかなりそうだぜ!!」
「お役に立てて嬉しいわ。俺も楽しかったで」
喜色満面の雪之丞に銀一も満足げな笑顔で答える。人気アイドルとして、多忙な日々を送る銀一にとっても適度な気分転換になったようだ。

「しかし、君と近畿君が幼馴染とはね・・・・・・」
「ああ、意外だったろ?」
西条の言うことはもっともであり、横島はそんな彼の言葉に苦笑する。

「近畿君やなくて、銀一と呼んでほしいわ。俺としては」
「ふむ、呼び捨てにするのは抵抗があるから、近畿君でいいかな?」

西条の言葉に、銀一は晴れやかな笑みと共に頷いた。

「さてと、次はどうする。すぐにあの宝石店に行くか?」
「いや、何だか眠くなって来た。この頃、慌しかったし、宝石店に行くなんて初めての経験だったからな・・・・・ちょっと疲れた」
昼食を終え、会計を済ませた後、これからの針路を尋ねる雪之丞に、横島はあくびをかみ殺しながら答えた。

「じゃあ、仮眠室で寝てくるといい・・・・このデパートには君のように疲れた者が睡眠をとれる場所があるからな」
西条の指差した先には、「仮眠室」と書かれた案内板がぶら下がり、その場所を示していた。
「じゃあ、そうするわ・・・・・」
横島は、そう言うと「仮眠室」のほうへ向かった。
「さて、俺達はどうするか・・・・・」
「せっかくやし、ゲームコーナーで遊ぶのはどうやろ?」
「僕は仕事があるから、失礼するよ」
こうして、雪之丞と銀一はゲームコーナーに向かい、西条は仕事に戻っていった。


仮眠室コーナー。
「えーと、32号室はここか・・・・」
横島は32と刻まれたドアの前に立っていた。仮眠室受付での説明によれば、仮眠室は全部で50室あり、横島に割り当てられたのは32号室というわけだった。
「さてと・・・・・それでは入るとするか・・・・」
部屋の番号を確認した横島は受付で渡された鍵を使って、室内に入った。
部屋に入った後、彼はは再び鍵をかけ、荷物を床に置き、コートを壁にかけるとベッドに潜り込んだ。



その頃の雪之丞と銀一。
ブオオオオン!!
「うおりゃー!! ここで逆転だぜ!!」
「そうははさせへんで!!」
ゲームコーナーでレーシングゲームに嵌り、新たな伝説を創ろうとしていた。


吹きすさぶ風が頬に当たり、ここがかなりの上空なのだと嫌でもわかる。
「まだか、ネビロス?」
「ちょっと待て、あそこだ!!智天使ザフキエルの一隊だ!!・・・・・」
『私』の問いに隣を飛んでいる『死霊公爵』ネビロスが声を張り上げた。
黒い魔鳥に乗った彼が指差した先に視線を向けると、指揮官らしい二対四枚の翼を持った智天使が、長い鳶色の髪をした女公爵に剣を振り下ろそうとしているのが見えた。

「おい、不味いぞ!!」
「わかっている!!」
ネビロスに指摘されずとも、状況が一刻を争うのがわかる。
『私』は左手に雷の力を結集させた槍を創り、智天使に狙いを定め、全力で投擲した。
雷の槍は寸分違わず、智天使に命中した。だが、向こうも流石にしぶとい。流石は天使階級第二位、それに『私』は先の龍神に送り込まれた竜気が体の中にかなり残っている。やはり、力の収束が上手くいかない。


「戦えそうか?」
「ああ、万全とは行かないまでも何とかいけそうだ」
確認といったネビロスの声にハッキリと答える。


「じゃあ、行こう。君は座天使の連中を頼む」
ネビロスの「了解」という声を背に受けながら、『私』は自分が乗っている魔龍に敵の陣中に突っ込むように命じた。


これが『彼女』との始めての出会いだった。






智天使と『彼女』の間にどうにか割り込むことが出来た。
助けが来たことで、気が抜けたのか『彼女』は魔龍の背で安らかな寝息を立て始めている。

そんな彼女の寝息を背中越しに聞きながら『私』は魔剣を水平に構え、目の前の智天使を見据えた。

「貴様さえ来なければ・・・・・」
智天使が憎憎しげに言い放つ。
「だが、そんなことはお互い様だ。仲間を葬られて、腹立たしいのはこちらも同じだ」

智天使の憎悪を風と流して、『私』は斬りかかった。
智天使がそれを受け、鋭く斬撃を返す。
それで、肩が切り裂かれるが浅い。相手を威圧するかのように上段から斬りつける。
だが、それは誘い。
両断する手前で、剣を止め、瞬時に軌道を変えて横薙ぎ。
智天使がたたらを踏み、後ずさる。その隙を逃さず、追撃する。
相手の剣が唸り、『私』の左肩を切り裂き、右腕を貫いた。
動きが鈍い体に舌打ちしながらも、自分の間合いに入った。

「く・・・貴様・・・・」
敵の忌々しい声を聞きながら、『私』はその敵の顔面に斬撃を浴びせ、さらに敵の脇腹を突いた。

「ガハッ!!・・・・・ゴフッ・・・」
智天使は顔と脇腹を押さえ、悲鳴を上げた。剣を取り落とし、血反吐をぶちまける。

「貴様は許さん、この屈辱は忘れんぞ!!」
ありたきりな捨て台詞を残し、智天使ザフキエルは飛び去っていった。


「個性の欠片も無い捨て台詞だな・・・・・」
『私』は申し訳程度のヒーリングを自分の体にかけて、出血を止めると魔龍の背の上の『彼女』に駆け寄り、「大丈夫か?」と声をかけた。
彼女は寝ぼけているらしかったが小さく頷いた。





「う・・・・ん、目が覚めたのか」
横島は自分の目が覚めたことを確認し、ベッドから上半身を起こした。夢の内容は『彼女』との出会いだった。今になって思うと、何とも気恥ずかしい。だが、忘れられない思い出だ。

「よし、ゴモリーに贈る宝石はあれにして、デザインも」
先程見た夢、否、遥かな過去の思い出をヒントにし、横島は自分の側を占める相棒への贈り物を決め、その後自分を迎えに来た雪之丞達と共に、宝石店『シリウス』に向かった。




その後横島達から贈り物を貰うことを聞いた女性達は大いに喜んだ。
そっぽを向いて、頬を染める者。
戸惑いながらも嬉しさを表現する者。
顔を真っ赤にし、はにかみながら喜ぶ者。
いつもの落ち着いた調子ながらも、頬が赤い者。

このように反応は四者四様だったが。


それから十日間が経過し、宝石店から品物が出来たという連絡が来た。



品物を取りに行く前日に横島は夢を見ることになる。最強の『宿敵』との戦いの夢を。
≪七十二柱最強≫

「私と組まないかな?」
銀髪赤眼の「少年」が自分に問いかける。
「私と組めば、三界の秩序を覆すことも出来る。上手い話だろう?」
だが、『私』の答えは拒絶だった。
「少年」の気配が変わるのがハッキリと見て取れた。

「残念だよ・・・・君は私と最も似ていて、私よりも『闇』に近い男だと思っていたが・・・・」
「少年」から溢れ出てくるのは怒りと不愉快さ。
放つ重圧はこれまで戦った誰よりも強く、どす黒い。

『私』が変わったことが、この「少年」には[裏切り]に思えたのかもしれない。
確かに自分は変わったのだろう。気障だが温和な『恐怖公』アシュタロス、喧嘩速いが面倒見のいい『西の王』ペイモン、そして・・・・・・・
『彼女』に出会ったからだ。


「私と組まない以上、君は邪魔者だ。消えてもらうしかないよ」
その言葉と同時に「少年」は黒衣の懐から[赤い本]を取り出した。

「аеуолгениргшекрлджэзщгпауйцуенгш・・・・・・!!!」
「少年」の口から紡がれるのは失われた筈の古き言葉。その詠唱が終わると同時に、水と氷で創られた巨龍の群れが空気そのものを揺るがす程の咆哮と共に出現した。

さらに「少年」の[本]を持っていない左の掌から、凄まじい雷撃が迸る。
「さあ、行くがいい!! 我が僕達よ!!」
雷撃と氷の龍の群れが襲って来る。
前者は防御結界で防ぎ、後者は魔剣の炎で焼き払う。
雷撃と衝突したことで、結界の媒介であったモノリスから火花が飛び、氷龍の群れだった水蒸気が辺りに立ち込める。
水蒸気が晴れると、再びお互いの姿がハッキリと見えるようになった。

「ふむ・・・・防いだのは流石だけど、君でも私には勝てないさ」
確かに「少年」の言う通りだ。守りに入っているだけでは負ける。
目の前に居るのは生半可な実力の相手ではないのだから。

『私』は防御結界を解除し、「少年」に向けて、突進する。
敵の凄まじい雷撃は魔剣が上げる黒炎である程度は遮ることができた。
そして、剣の間合いまで入った『私』が正面から振り下ろした魔剣は「少年」の左肩を深々と抉った。
「ちい!!」
だが『私』も敵の放った雷撃を直に喰らい、遥か後方へ吹き飛ばされた。



そこで意識は途切れ、何処か深い場所へ落ちていく感覚だけが残っていた。





「夢か・・・・・どんな夢だったかな」
横島はそこでベッドから飛び起きた。夢の内容は余り覚えていなかった。
ただ、魔神だった頃の自分がとてつもない相手と戦っていたことだけは思い出せた。

(あれは誰だったんだ・・・・まさか・・・・)
頭の中に思い浮かぶのは七十二柱最強と謳われる者。魔界の東方を治め、悪魔六十六軍団を率いる王。謀略と変身術に長けた魔神。



(恐らく、間違いないだろうな・・・・・)
前々からそうではないかと思い、ペイモンにそのことを伝えておいたが・・・・・・彼も「うかつには踏み込めない」と言っていた。
下手をすれば魔界を二つに割る内乱の切っ掛けになり得るのだから無理もない。


胸の奥が霧でもかかったかの不快感が沸き起こる。

そんな彼の胸中を代弁するかのように黒い雲が夜空の星や月を覆い隠していった。




そういった横島の心境にお構いなくやって来た翌日。それぞれ、四人の男達は注文した宝石を受け取った。


その後、宝石を贈られた女性陣の反応。
Case1 美神令子
高級フランス料理店の席。
「ありがとう。西条さん、こんなに趣味のいい胸飾りを・・・・」
「喜んでくれて嬉しいよ。令子ちゃん」
「でも、ロマノフ王朝の紋章なんて、意味深よね・・・・・他にも意味があったりして・・・・・」
ちなみにロマノフ王朝は重税を課したことで民衆の恨みを買い、革命が起こって滅亡した。何処か美神に通じる物があるような、ないような・・・・・・・

(ギクッ!!)
当たらずとも遠からじといった美神の声に一瞬、動揺する西条。
「まさか、趣味がいいから選んだだけだよ」
幸いなことに表情にまで、動揺は出なかったらしい。裏の意味に美神が気付いたら、『ろくな事にならない』と西条の霊能者としての勘が告げていた。
ほんの冗談のつもりだったのだが・・・・・

「まあ、ありがたく貰っておくけどね・・・・似合うかしら?」
「ああ、とても似合うよ。令子ちゃん」
何はともあれ、西条が神通鞭の餌食となることは避けられたようである。


Case 2 弓かおり
ある公園のベンチ。
「弓、これが俺がお前に贈る誕生日プレゼントだ!!」
「これが・・・・付けてみてもいいんですの?」
雪之丞は箱から耳飾りを取り出し、弓に手渡した。
「ああ、勿論だ!! 一番最初にこの耳飾りをつけたお前の姿が見たい・・・・」
気恥ずかしい台詞を巣で言う雪之丞。どうやら、舞い上がったことで尻込みする気持ちも銀河の彼方に飛んでいったらしい。

「どうですの? 雪之丞・・・・」
「とても似合ってる・・・・最高だ。お前の苗字の弓というのからデザインのヒントを得て、作って貰った」
戸惑いがちに言う弓とそんな彼女の姿に見惚れる雪之丞。
どうやら、こちらも無事に終わったらしい。


Case3  花戸小鳩
横島の屋敷
「よ、横島さん・・・・・・こ、この腕輪を私に・・・・・?」
自分の左腕の腕輪と横島の顔を見比べながら、小鳩は戸惑いがちに口を開いた。
「ああ、気に入らなかったかな?」
「い、いえ、そんなこと無いです!! とっても嬉しくて・・・・・大事にします!!」
小鳩は心底嬉しそうに横島に言った。それこそ、感動の涙交じりで。

横島も「プレゼントしてよかった」と満足げに頷いた。


Case4 砂川志保こと『吟詠公爵』ゴモリー
横島の屋敷の三階から張り出したバルコニー。
「こんな所に呼び出して、渡すとは・・・・・・中々風流だな」
ゴモリーは一足先にやって来て星空を眺めていた横島の背中に声をかけた。
「そう言うなって、星空が綺麗だろ?」
「まあ、そうだな。確かに綺麗だ」
彼の側に並んで、空を見上げる。
満点の星空が彼らを見下ろしていた。昨日のどんよりした天気が嘘のようだ。
「さてと・・・これがお前に贈る宝石だ」
そう言って、横島が彼女に手渡したのは神秘的な紅い輝きを持つスタールビーつきの髪飾りだった。さらにルビーの周りには月夜の砂漠を飛ぶ龍に乗った男女が描かれており、まさにその装飾は彼らの出会いを表していた。

「その・・・・付けてみてもいいか?」
横島が無言で頷くのを確認した後、ゴモリーは髪飾りを恐る恐る付けてみた。

「ど・・・どうだ?」
「よく似合っている。本当に」
戸惑いがちのゴモリーに横島は心からの感想を送る。実際に彼女は綺麗だった。
満天の星空を背景にした彼女は美しかった。横島の心にこの頃、わだかまっていた暗い影を吹飛ばすほどに・・・・・・・・

「そうか・・・・・お前がこの頃、元気が無さそうだったので心配していた・・・・だが、今のお前は大丈夫そうだな」
長い鳶色の髪を靡かせ、薄く頬を染めながら彼女は微笑んだ。その笑顔の理由は贈り物のためか。横島が元気を取り戻したからか。
またはその両方か。

そして一秒とも永遠ともとれる静寂の後、彼らの影が一つに重なりあう。


そんな彼らを見ていたのは夜空を彩る星達と満月だけであった。


後書き  やっと、横島とゴモリーの仲が進展。自分で描いといて何ですがこの二人の恋愛の遅いこと、まるでカタツムリ並みです。そして、「少年」の正体(わかる方にはバレバレ)に横島が確信を持ちました。といっても迂闊には言えないんですが・・・・・・・番外編での平和の影で進行していく謀略。少しずつ、だが確実に三界は「少年」の影響下に置かれていきます。まるでス○○・ウォーズのエピソードT〜Vのように・・・・・・
「少年」のモデルの一つが、銀河皇帝なので当然とも言えますが。
ついでに現時点での人物紹介
黒幕の「少年」
子供の残忍さと老人の狡猾さ、王者の非情さと鋼の精神力をも兼ね備えた七十二柱最強の悪魔。横島にとっては数千年来の宿敵。ハッキリ言って、実力最強、性格極悪といういろんな意味で嫌なキャラ。今回出てきた銀髪赤眼の少年が本性。
アシュタロスを知略家とするなら、こいつは謀略家といったところ。

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