ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 76〜“退屈”と“無為”〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(05/ 4/ 8)

「我々のような存在にとって一番の大敵は何だと思うかね?」

それは唐突なバアルからの問い掛け。魔神にとっての敵といえば真っ先に思いつくのは
神族であるが、そんな単純な質問ではなさそうだった。他にも何かあるのだろうか。

「う〜ん、普通に考えれば神族だけど…後は魔界内での勢力争いとか?」

多分違うだろうな、と思いつつも何も答えない訳にもいかないので思いつくままに答えてみる。

「そいつぁ違うぜ忠夫、そいつらは“大敵”に較べりゃ歓迎すべきもんだな」

だがアッサリとアスモデウスに退けられてしまう。他には何も思いつかないので素直に
その旨を告げると相手も別に勿体つけるつもりは無いのか答を教えてくれた。

「それはな、“退屈”じゃ。“それ”に較べれば攻め掛かって来る敵など愛しいくらいじゃ」

リリスから聞かされた答はある意味意外なものだった。
だが悠久の時の流れの中で決められた役割を演じ続ける存在にとっては退屈が何よりも
忌むべきものらしい。それを忌むが故に人界にちょっかいを掛けて騒乱や破滅を作り出して来たそうだ。

「だが“退屈”のうちはまだ良い、それを“無為”と感じてしまうと更にタチが悪くなる」

横島にとっては解り易い話ではないのだが誰か特定の存在を言っているような気がした。

「アシュの馬鹿野郎はその辺が真面目過ぎたんだよ。割り切って楽しみゃぁ良いものを」
「そうじゃの、世界総てを舞台と見なして演じ切れば良いのじゃ。劇中更に劇在りじゃな」

彼等はこの世界において魔神という“力在る者”として定義付けされている。だがそれだけだ。
今日は昨日の続きであり、明日は今日の延長に過ぎない。似たような時間を繰り返しているだけ。
例え死んでも同様の存在として復活する事が約束されている。それを“退屈”と捉えれば
その中で新たな楽しみや刺激を求める事が出来る。だが“無為”と捉えてしまったら、
その矛盾に耐えられなくなってしまう。その結果、前提となっている世界そのものを
作り変えようと叛旗を翻したのが、かの哀しき魔神、アシュタロスだったという訳だ。

「与えられた役割であっても、いやだからこそ、演じ切る事にこそ意味がある」
「そうすりゃ思いがけない余禄が見つかる事もあるしな」
「今の余禄は差し詰め“横島忠夫”といった処かの?」

横島こそは歴史上にも滅多にいないようなイレギュラー中のイレギュラー。
文珠使いという事を除いても、異常な程の成長速度、魔族と容易く融合出来る魂、
アシュタロスの意識を膨大な知識や記憶ごとコピーして尚壊れない精神。(実際は思い出せないだけ)

「永く生きてりゃお前みたいな奴も出て来る。それを思えば無粋な今日も又、楽しめる」

どうにも厄介な連中に目を付けられたようだが別段実害を受けた訳でもない。
横島自身は間違い無く目の前の連中よりは早く死ぬ。自ら滅びを求めたくなるような
“退屈”とも“無為”とも縁が無い。だが想像するだけでもゾッとするようだ。

「言いたい事は何となく解ったけど、それと麻雀の関連は?」

素朴な疑問ではあるが、何やら存在の根本に関わるような事を聞かされた気がする。
だがそれと事もあろうに“麻雀”がどう繋がるのかがさっぱり解らない。
だが横島の質問こそ魔王達にとっては意外なものだったようで、彼等にしてみれば
既にその事に関する説明は終わったつもりになっていたのだ。

「理解してもらえたと思っていたのだが?」
「お前もしかして頭悪いのか?」

何やら散々な言われようであるが、自身の事を賢いと思った事も無い。
ひょっとして誰にでも解る事が一人だけ理解出来てないような気がして焦ってしまう。

「要するに妾達の最大の務めは“退屈しない”事という訳じゃ」

どこかブッ飛んだ理屈だが理解する事は出来る。唯“何故”その為の手段が麻雀なのかに
若干の疑問が残る。だが三名以上でやるものが好ましいのは既に呑み込んでいる。
いっそ他に何か気晴らしを見付ければ良いものを、と思わないでもないが、悠久の時を過ごした
存在が選んだ手段ならば本人達にしか解らない妥当性があるのかもしれない。

「別に戯れに人界の一国を滅ぼしても一向に構わないのだがな」
「今更それも飽きたし、近頃はデタント絡みで細々とウルセエからな」
「どれを選んでも大差は無いしのう」

魔王達にとっては一国を滅ぼすのも麻雀で相手を負かすのも同じ次元の話らしい。
到底納得出来るような話ではないのだが、存在自体の次元が違い過ぎる為、一概に否定
するのも憚られるものがある。ならば人界に被害が及ばない事を歓迎すべきだろう。
だが“四人目”の問題がある。その最たる被害者がフレイヤのような美女ではなく、
むさ苦しい男だったら横島も別に気にも留めないのだろうが一旦聞いた以上は放置も出来ない。

「なあ、何か三人で出来るゲームはないのか?」

横島にしてみれば良い案のつもりだった。何を選んでも大差が無いのであれば魔王達の間で
完結すれば余計な被害者は出ない。だが妙案のつもりのそれは相手にとっては浅慮だったらしい。

「そこまで何でも良いという訳ではないのだよ」
「おう、ありゃ良い具合のブレインストーミングになるしな」

いったいあの打ち筋のどこに頭を使っているのか甚だ疑問ではあるが、麻雀が知的ゲーム
なのは間違い無い。自分達の運までを含めて先を読み、頭を使い、勝利を掴む。
強過ぎるが故に、『力』を使わない勝負での勝利を求めるのが面白いらしい。

「大体常に四人目が負けるのはその者の責任じゃ。初めから勝とうとしておらぬ」
「いや、そりゃやっぱ気ぃ使ってんじゃ?」

横島にしてみれば四人目の気持ちも何となく解る。行きずりの横島と違い、その者は
勝負の後も魔王達と顔を付き合わせなければならないのだ。当然保身の事も考えるだろう。

「我等を負かしては後が恐いとでも思っていると言うのかね?」
「そりゃ随分と見縊ってくれたもんだな。勝負の結果を後に引くとでも思ってんのか?」

いきなり皆の視線がフレイヤに集中した為に慌てて彼女が下を向いている。口の中で何やら
モゴモゴと言っているのは言い訳だろうか。負けたからといって根に持つような事はしない
だろうが自分が勝つまで勝負を続行しようとする者は結構いる。アスモデウス辺りはその
気配があるが、そんな事になれば本来の仕事を抱える者にとってはたまったものではない。
その辺りまで考慮して“負けるが勝ち”を選んだのかもしれない。単純に“弱い”という可能性もあるが。

横島としてはフレイヤに助け舟を出したつもりが、途中から強襲揚陸艦に成り代わられた
ようなもので、当初の目論見と逆に彼女が窮地に陥っている。
例え白々しくとも無理にでも話題を変えるべきだろうと思い、話し掛ける。

「アスモ、腹減ったから何か食わしてくれよ」

お世辞にもスマートとは言えないやり方だが空腹なのもまた事実。丁度良いとばかりに
食事を催促するとアスモデウスが指を一つ鳴らすだけで仕度が整えられた食卓が出現した。
横島に気を遣ってか総て人界の料理で統一されている。添えられている酒類も同様だ。
取り敢えず席を移って食事にした。酒も薦められたが先ずは腹ごしらえとばかりに
食べる事に専念する。恐らく食べた事も無いような高級食材を使っているのだろう数々の
料理は、確かに美味い事は美味いのだが高級過ぎてしっくりと来なかった。
これよりもタマモ製の稲荷寿司やおキヌ製のひじきの煮付けや魔鈴製のポトフや、いっそ
百合子製の肉ジャガの方が余程好ましいのだが、流石にそれを口にしないだけの分別はある。

あまり高級過ぎるものを食べ過ぎて胃が驚くといけないので、悪酔い防止程度に食べると
タイミングを見計らったかのように料理が消え失せた。この後は“呑み”のみと言わんばかりだ。
車座になると人界・魔界それぞれの酒が所狭しと並んでいる。給仕係りは先程の脱衣担当が
務めるようで甲斐甲斐しく用意をしている。何故かビキニ・レオタード・バニーガールである。
こちらの反応を窺うようなアスモデウスの顔を見ると彼の発案であろう。
あの男の人界の文化への理解は激しく間違っている、と横島でも断言出来る。
だがそれを指摘するつもりは毛頭無い。何故ならチョッピリときめいたからだ。

そんな事を考えていると自分の後ろでカチャカチャと何やら仕度している物音がしている。
この流れからするとワルキューレのはずだが、どんな格好をしているのか猛烈に興味が湧いた。
先程は勝負中であり集中を失う事がそのまま敗北に直結していた為見れなかった。
だが今なら見ても精々シバキ倒されるぐらいで済みそうな気もする。
思い切って振り返って見るとそこにいたワルキューレの服装は、


















メイド姿だった。
しかも典型的なフレンチメイドスタイルで愛らしい事この上ない。服装は。
フワフワとしたメイドというよりキリリとしたメイド長といった感じだが、それはそれで良し。

普段の格好と較べると凄まじいまでのギャップがあるが、必死に平静を保とうとしている彼女の
頬が微かに紅潮しているのと相俟って、ミスマッチの魅力とでも言うべき物を醸し出している。
そして四人を統率する立場なのかフレイヤがスリットも大胆なチャイナドレスを身に纏い
酒瓶やアイスペールが林立しているワゴンの傍に佇んでいる。

それぞれの最初の給仕を終えてワゴンの処に全員が集まっているのだが一旦見てしまうとそこから
視線を引き剥がすのは至難の業だった。誰を見れば良いのか悩む処だが横島の視線が吸い付けられるのは
意外にもワルキューレだった。一番露出の少ない服装をしているのだがポカンと口を開けたまま
何故か目が離せない。それは周囲にも伝わったようで次々とからかいの言葉が投げ掛けられて来る。

「どうよ忠夫? このサービス体制は?」
「取り敢えず口は閉じた方が良いと思うが?」
「どうやら一番のお気に入りはワルキューレのようじゃな?」

言われた言葉にも反応は鈍く、辛うじて返事をするのが精一杯だった。

「いや、露出が多ければ良いって訳でも無いんやな〜。何か一つ大人になったような気がするわ」

かつての横島の好みはミニスカや水着姿などとにかく露出が多い程良い、という極めて
解り易い方向だったのだが最も布地の面積の多い相手に惹かれたのが我ながら意外だった。
尤も当の相手がワルキューレでなければまた違ったかも知れない。
改めて乾杯をして飲み始めたのだが話題は魔王達の人界に対しての興味の対象だった。

アスモデウスの主な興味は“娯楽”でギャンブルやゲーム等多岐に渡る。
バアルは色々な出版物を読むのが好きらしく、あらゆるジャンルを網羅していた。
リリスは人間同士の愛憎劇に興味があるようで、しかも単に見るだけでなく介入もしているようだった。
よく週刊誌等に“愛憎の果て”とか“痴情の縺れ”とかいう見出しで記事になっているものの
何割かはリリスの眷属が関与しているらしい。

「それじゃリリスの所為で破滅した人間も多いって事か?」
「呼び方が戻っておるぞ? まあ別に直接手を下した例は皆無じゃ。我が眷属は選択肢を
 提示するだけ、最終的に決断するのは常に人間じゃ、現に誘惑を払い除ける者もおるでな」

余計な手出しをされた所為で本来なら回避出来たはずの破滅に直面した人間が多数いるのか、
と思い呈した疑問だったがリリスの尤もらしい反論に封じられてしまった。
だが悪魔の誘惑とは常にそうしたものではないのか。本人が自発的に決断しなければ意味が無い。
だが既にその時点で選択肢は極端に狭められており実際には殆ど選ぶ余地など無くなっている。

「おいおい何難しい顔してやがんだ? 誰が破滅しようがお前には関係無えだろ?」
「妾の眷属達にはお主の周囲には手出しせぬよう申し渡してある故問題無かろう?」
「それとも人界の守護者を気取って総ての眷属を屠るかね?」

そう言われて改めて考えてみると、横島一人で総ての問題を解決するなど出来る訳が無い。
取り敢えず自分の手の届く範囲でやっていくしかない以上はどうしようもない。
また、人界の守護者を気取る程自分の力量に自惚れてもいなかった。

「まあ俺に正義の味方なんて無理だしな。その代わり俺の身内にはちょっかい出すなよ?」

結局釘を刺して身内の安全を図るぐらいしか出来る事は無さそうだった。

「人間は50億以上いんだろ? リリスの眷属もオモチャには不自由しねえさ」
「身内に手出しされた後のお主を見るのも愉しそうじゃがな」
「それはやめておけリリス、退屈の代わりに面倒事が起きるのも鬱陶しい」

一柱だけ何やら聞き捨てならない事を言っているようだったが、横島という存在の特異性が
今回は幸いしたようで不穏な干渉は避けられそうだった。

「何なら直接お主に我が眷属を差し向けようかの? 淫魔なら好きなだけ貸し出すぞえ?」
「ほえ〜、リリスの、いやハニーの眷属って淫魔なんか?」

横島の偏った知識では淫魔とはえっちぃ悪魔という認識しか無い為適当に相槌を打っただけ。
だがこの態度が新たな疑惑を掻き立てたようだった。

「何言ってんだお前は? 夜魔の女王の眷属といえば淫魔・夢魔と決まってるだろうが?」

呆れたようなアスモデウスの問いに、どうやら失言だったらしいと悟り反省する。
リリスとは“夜魔の女王”であり淫魔や夢魔を統べる者というのはどうやら魔界の常識らしい。

「ところで君は“東の王”とは誰か知っているかね?」

さり気無く発せられたバアルの問いに横島は何やらキナ臭い匂いを嗅ぎ取った。
どうやら自分の知識に関してかなりの疑惑を持たれているようだった。
とは言え急に知識が増えるはずも無く、急場凌ぎで何か答えるしか無さそうだ。

「東の王ってのはアレだ、東の方の偉い人だったよな」

出来るだけ後で言い逃れ出来るようにする為にあやふやに答えたつもりだったが相手が悪過ぎた。
何せ問い掛けて来た当の相手が“東の王”そのヒトなのだ。意地の悪い問いだとも言えるが
魔族相手にそれを言うのはナンセンスに過ぎる。そしてこの時点で横島の無知はバレバレだった。
漢字には強いがカタカナには弱い、東洋系は勉強したが西洋系はからっきしである。

「おい忠夫、お前俺達の事全っ然知らなかったろ?」

確信を込めてそう言われるとそれ以上は惚けようも無い。どこでバレたのかは解らないが
こうなった以上は悪足掻きはせずに全面降伏こそが最も傷が軽く済むというのは美神の事務所に
所属していた頃に身に付いた知恵である。当時は全殺しが半殺しぐらいまで軽減されたものだ。

「スマン、実は全く知らんかった」

結局正直に白状するしかなかったのだが、それを聞いて軒並み呆れたような顔をしていた。

「俺たちゃ結構メジャーな存在だと思ってたんだがな」
「このような者もおるのは新鮮じゃのう」
「だがGSという者は免許を取ったら最初に師匠から我々の事に関してレクチャーされると聞いたが?」

バアルの疑問に対する答は既に横島の中にあった。免許を取った時点での師匠といえば美神だが
“あの”美神が一円の得にもならない事をする訳が無い。大方仕事以外の時間でそんな余計な
手間を取る事を嫌ったのだろうし、仕事中は時給が発生する為に時間を余分に割く事を避けたのだろう。
一般的に言うと美神の態度は著しく問題がある訳では無い。大抵のGSは魔族等とは一生関わる事無く
すごすものだし、ましてや魔王と関わる人間など皆無と言い切っても良いくらいだ。普通なら。

第一そんな知識は美神自身は完璧に身につけていたし横島は飽くまで丁稚であり美神の
従属物であると考えていた為、自分が知っていれば問題無いとでも思っていたのだろう。
一方今の上司である冥子はといえば余りにも基本的過ぎる知識な為当然知っているものと思い
わざわざ確認しようともしなかったのだ。冥子自身の美神への信頼の厚さを思えばそれも当然だろう。

結局横島は当の本人達から教えてもらう事になった。即ちアスモデウスが愛欲を司る魔神
であり剣の公爵とも呼ばれる程の使い手であり、キリスト教以前の神々が堕天して魔族に
なったのに較べアスモデウスのみは存在の原初から悪神であった事。
バアルがかつてはカナーンの主神であり、東の王と呼ばれ実質魔界のナンバー2と見なされている事。
リリスが夜魔の女王と呼ばれ、総ての淫魔・夢魔を統べる“あらゆる夜を統べる者”である事。
それらの事を教えられても横島の反応は『へ〜』と言うだけのものだった。

元から相手が“偉いサン”だという事は知っている。今更それに詳しい説明が加わった処で
態度を変えるつもりも無い。というより不可能だ。
そしてそんな横島の態度は余計に相手の興味を掻き立てる。

「つくづく面白い男じゃの、益々興味をそそられる」
「リリスの興味の的になるとは気の毒な…」
「うっわ、俺でも遠慮したくなるな」

何やら地雷を踏んだような気もしたが、下手にツッ込むと薮蛇になりそうだったので違う
方向で話題を変える事にした。

「なあ皆も一緒に飲まないか? 何か至れり尽せりって落ち着かないし」

生来の貧乏性な為、上げ膳据え膳が苦手なのも確か。ならばいっその事全員入り乱れての
宴会の方がリラックス出来る。ついでに誰かにリリスの視線を遮る壁になって貰えれば言う事無しだ。

声を掛けられた者達が問うようにアスモデウスの方を見ると軽く肯いた為全員がこちらに来た。
意外な事に全員が横島へだ。偉いサンの傍は落ち着かないんだろうな、ぐらいにしか横島は
思わなかったが彼は現時点で最も魔族女性の興味を引いている人間だという自覚が無い。
そのまま雑談になり人界の様子や普段の暮らしぶり、後女性の好み等を聞かれたりしながら
横島は妙な違和感を感じていた。本当に聞きたい事は他にありそうな気がしたのだ。

他の四人がワルキューレに対して催促するような眼つきをしていたが彼女は断固として無視していた。
次に視線が集中したのはフレイヤだったが本人も興味がある事なのか意を決したように問い掛けて来る。

「もしも君が嫌でなければルシオラという魔族との話を聞かせてくれないか?」

本当に聞きたかったのはそれか、と苦笑しつつも先程からのワルキューレの周囲を牽制するかのような
態度の理由が腑に落ちた。詳しい事情を知るワルキューレが横島に気を使った事はすぐ解る。
そして他の者達が知りたがるという事は彼女は誰に聞かれても口を噤んでいたのだろう。
生真面目で義理堅い、何ともワルキューレらしかった。

「ありがとなワルキューレ、そういう可愛い格好も似合うけどやっぱお前は最高の戦友だよ」
「余計な事は言わなくて良い。と言うか貴様、私の服装の事を小竜姫達に喋ったら許さんぞ」

凄んではいるものの赤面しながらでは台無しである。彼女の気遣いは嬉しいが今の横島はルシオラの
事を話すのが辛いという事は無い。辛く思うのは彼女に対して失礼だと思えるようになったからだ。
それにルシオラの事を良く知る者が増えるのは単純に嬉しい。短くとも彼女が確かに存在したという証になる。
それが彼女が訪れた事の無い故郷の魔界であれば尚更だ。横島は彼女と出会ってから別れるまでの
短い時間、だが黄金の如き輝きと、儚くとも温もりに満ちた幸せな日々を語った。これから先どれ程の時間を
過ごすのかは解らない。だがルシオラと過ごした時以上の充実感と幸福感を味わう事など無いだろう。

「アイツと出会えた事に関しちゃアシュタロスに感謝したいくらいだよ。あんな最高の女にはもう会えないだろうな」

横島が微笑みながらそう締め括るといつの間にやら魔王達が傍に来ていた。

「会えないと断じるのは早計であろう? 世に“イイ女”は数多いぞえ?」
「いるよな〜、男にとっての“最高の”女ってよ。解るぜぇ忠夫」
「だが最高の女に出会った以上はもう恋愛など出来ないのではないかね?」

反対意見らしいリリス、共感しているアスモデウス、妙な心配をしているバアル、と三者三様だった。
だが横島としても自分の意見を曲げるつもりは毛頭無い。

「恋愛ならもう一生分したよ。それに俺にとっての“最高”はアイツ以外に無い」

横島が力強くそう言いきるとリリスが不満そうに近寄って来た。

「そう言いきられると妾としても思う処があるぞえ?」

側に寄り覗き込むようにしてそう言ってくる。

「はぁ? 何言ってんだ?」

睨みつけるようにしてそう言い返すとリリスの黒瞳が金色に妖しく輝いていた。
その瞳と目が合った瞬間、横島の意識は闇に落ちた。





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(あとがき)
禁煙しました。執筆ペースがガタ落ちしました。イライラが募りまくってピークです。
“言葉”が“文章”に収束しません。困ったなぁ〜(TT)

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