ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い 番外編 present for you (中編)


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 4/ 6)

人々や車などが慌しく行き交う繁華街。時刻は大体午前十時といったところか。
そんな普通の光景の一角に、様々な意味で普通ではない三人組が居た。
言わずと知れた横島、雪之丞、銀一の面々である。

「はあ・・・・冬は過ぎつつあるといっても今日は寒いな・・・・」
「ああ、ところで何だか視線を感じるのは気のせいか?」
雪之丞の言葉に相槌を打ちながら、横島は疑問を口にする。彼らは雪之丞の恋人である弓かおりの誕生日プレゼントを求めて、デパートが立ち並ぶ街の中心部までやって来たのだ。

「まあ、そうやろうな。俺ら、何だかんだいっても目立つんやから」
銀一が苦笑気味に横島に言う。
「まあ・・・・そうだな。銀ちゃんは目立つし・・・・」
納得すると同時に、横島は辺りに視線を走らせる。そんな彼の視線に射すくめられたかのように何人かが慌てて眼を逸らす。視線を向けられた女性達の何人かは頬を染めていたが。

確かに、彼ら三人は目立っていた。
簡単な変装―メガネをかけ、髪形を変える程度だが―をしているとはいえ、銀一はアイドルなのだ。「もしかしたら・・・・彼が」などと思う連中が居てもおかしくは無い。
横島はそう考えていた。
確かに、その通りなのだが、それだけでは無かった。
彼らの半分(主に女性)は横島を見ていた。横島は落ち着いていれば、顔立ちは整ったほうである。その横島が黒いコートを着込み、佇んでいる。
その様子は一言で言えば「絵になる」のだ。
加えて、雪之丞も顔は悪くないので注目を集めるのに一役買っているといえよう。
ピートが居れば、さらに際立っただろう。

これが、某虎男とかだったら別の意味で注目されただろうが。

ちなみにその虎男は、ようやく出来た彼女とデートにこぎつけたそうである。もしかしたら、この繁華街の何処かに居るかもしれない。

「ま、魔理さん!? この荷物はちょっと・・・・・」
「何言ってんだよ。タイガー、男だろ? しっかり持てよ♪」
横島達とは大分離れた場所ではあるが、本当に居た。両手に荷物を抱えた虎に似た大男とトサカ頭の美少女。
ある意味、こちらも目立っていた。

余談だが、虎男の図体と人相にびびった店員が110番通報しかけたのはここだけの話である。


閑話休題。




「それで、銀ちゃん。お勧めの店ってのは何処なんだ?」
「予算は百万円くらいなんだが・・・・」
何の気に無しに訊ねた横島に続き、雪之丞がやや心細げに言う。彼は「女性へのプレゼント」といった類のことには慣れていない、というか初めてなのだ。
初めて戦場に赴く新米兵士同然といってよい。

「心配無用やて!! 値段の融通も利く上に品質は本物の宝石店や。その位の予算なら良いのが買えるで!!」
ウインクしながら銀一は言う。
「ほ、本当か!?」
そんな銀一の言葉に雪之丞は何やら天啓を受けたかのような表情になる。

「じゃあ、そこに行こうか」
横島の言葉に二人は頷き、その宝石店へ向かった。





高級宝石店『シリウス』
「うーむ、ここはやはり・・・・令子ちゃんのイメージに合うように・・・エメラルドか、もしくは・・・・ルビー」
デパート内にその店舗を構えるこの宝石店に飾られている数々の宝石を眺めながら、頭を捻る長髪の男。無論、道楽公務員こと西条である。
今日、この店を訪れた目的は他ならぬ意中の女性である美神に宝石を贈るためである。だが、どの宝石を贈ればいいか決めかねているというわけだった。
「いらっしゃいませ」

(おや、誰か来たのかな?)
ふと気になって、新しく入ってきた客のほうへ視線を向ける。足音や声の数からして、一人では無いらしい。

「ありゃ、西条」
「君達は・・・・」
そして、入ってきた者達の顔ぶれに少し驚きを誘われる。
横島と雪之丞、それにあれは人気アイドルの近畿銀一では無かっただろうか。

「君達も宝石を買いに来たのか?」
「ああ、弓さんの誕生日プレゼントにな」
西条の問いに答えながら、横島は傍らの雪之丞を親指で指差した。
「お、おう・・・・・」
当の雪之丞は店の雰囲気に圧倒されたのか、声は小さくなっている。戦いには滅法強いが、色恋沙汰には弱い男。伊達雪之丞(年齢不詳)であった。

「そっちは何でこの店に? まあ、聞くまでも無いか・・・・」
「まあね、お察しの通り令子ちゃんに宝石でも贈ろうかなと・・・・・」
横島の言葉に西条はやや照れながら答えた。


「それで、どの宝石にするんだ?」
「迷ったんだが、やはり令子ちゃんにはエメラルドがいいかなと・・・・」
横島は店員から渡された宝石とそれらが持つ言葉を記した表を見ながら、西条の言葉に頷いた。
その宝石―深い森の緑を思わせるエメラルドが示す言葉は幸運と幸福、ついでに夫婦愛。
成程GSとして成功し、これからも突き進んで行くであろう彼女にはピッタリかもしれない。最後の言葉はまあ別として。

「それでいいんじゃないか? あと周りを飾るデザインはこうして・・・・」
横島はそう言いながら、紙に双頭の鷲とその胸の中央を件の宝石が飾る胸飾りを大まかに描いた。
「ロマノフ王朝の紋章にも使われた双頭の鷲か、なかなか良いね・・・・このデザインは令子ちゃんの不屈の意思と気高さも表しているのかな?」
「そうだけど、もう一つ、意味はあるぞ。七大魔王の一人マンモンだ」
「強欲の魔王か・・・・・痛烈な皮肉だね」

双頭の鳥の姿を持つ『強欲』を司る魔王。ある意味、がめつい美神に相応しい悪魔かもしれない。
プレゼントするとは言っても、全員そんなに急ぐわけでは無いので、意匠には凝りたいところだ。

自分と同じく悪戯小僧の笑みを見せる西条に、横島は笑う。美神という共通の想い人が居なくなった以上、横島と西条の関係は良好だった。元々、この二人は性格が上手く噛み合う部分があったのかもしれない。

裏の意味に気づくかは彼女次第。ちょっとした皮肉も込めて贈ろう。


『踊れ踊れ、黄金の亡者共。我が名はマンモン、永劫の闇より来たりし、全ての富と財宝の君主。汝らは強欲に生きた罪で有罪とする』
詩を吟ずるかのように小声で呟く横島。同じ七つの大罪―『色欲』を背負う彼が言うと独特の説得力があった。

不屈の意思、気高さと強欲さ。それらの「仮面」に隠された脆さと弱さ。横島が美神に対して抱くイメージはそんなところであり、西条もほぼ同じ印象を美神に対して抱いていた。



「おーい、横島!! 西条の旦那とばっかり話してないで、こっちも見てくれよ!!」
「やれやれ、俺に相談するのが間違いだってのに・・・・・」
口調とは裏腹に、横島は足早に声の主―雪之丞達のほうへ足を向け、彼らのほうへ駆け寄っていく。


「なんだかんだ言っても楽しそうじゃないか・・・・・」
例の横島が提案したデザインを店員に注文し、彼らを遠目に見ながら西条は何故か愉快げな口調で呟いた。




一方、横島の屋敷。
「そういえば、ゴモリーさんってご家族の方は居ないんですか?」
「うん?」
なんとなくといった感じの小鳩の問いにゴモリーの朝食のスパゲティを口に運ぶ手が止まる。

「そういえば・・・・姉が一人居たな・・・・」
「お姉さんですか?」
疑問符を浮かべる小鳩にゴモリーは頷いた。

「お前さんの姉というと、『夜魔の女王』リリスのことかの?」
ショックから立ち直ったらしいカオスが、マリアが食後のデザートとしてテーブルの上に置いた果物篭の中から林檎を取り出しながら聞いた。

「ああ、見かけは絶世の美女だが、中身は最悪だぞ。といっても千五百年以上前、喧嘩別れして以来会っていないが」ゴモリーは一息ついた後、ハーブティーを口に含んだ。
「喧嘩別れですか?」
ゴモリーがかなり美人なので、その姉も美人というのは想像できるが性格はかなり違うらしい。
「ああ最後は、結界で創った砂漠の流砂の中に生き埋めにしてやった」
「い、生き埋め・・・・・」
生き埋めという言葉に、小鳩はとんでもなく物騒な感じを受けて、思わず硬直する。カオスは林檎を齧りながら「流石はやることが違うのう」としきりに感心していたが。
感心する要素が何処にあったのだろうか? 
「とはいっても、私の姉は生き埋めにしたぐらいでくたばったりはしない。というよりも殺しても死なないし、すぐに流砂の中から這い上がって来たからな・・・・」小鳩の様子を察したゴモリーはフォローの意味も兼ねてか、そう付け加えた。
「そ、そうなんですか・・・・・」
小鳩は乾いた笑いを浮かべたが、(殺しても死なないって、一体何処の世界基準なんですか!?)
内心、考えても仕方の無いこととはいえ、そう思わずには居られなかった。

(一応)有史以来、最も偉大な錬金術師はそんな彼女にはお構いなく、呑気に茶を啜った。

彼の従者たる自動人形は彼らを見ながら、ほんの微かに柔らかい笑みを浮かべ、無言で佇んでいた。





その頃の宝石店『シリウス』
「弓に相応しいのはやっぱり、アクアマリンだと思うんだよ!!」
雪之丞が、宝石言葉表を右手に握り締めながら、高らかに力説する。
横島と銀一は「あー、はいはい」といった感じで頷いている。
ちなみに、アクアマリンの持つ言葉は聡明と勇敢。深みのある青が魅力的な宝石である。

「選ぶ宝石が決まったのなら、次はデザインやけど・・・ここは無難に手っ取り早く買える指輪でいいんやないかと・・・・・」
「ゆ、指輪か・・・・」
銀一の「指輪」という言葉を切っ掛けとして、雪之丞は別世界に旅立ってしまったのだ。
時折、「ウエディングドレス・・・」とか「いや、白無垢も捨てがたい」などと言っている。指輪の上に、「結婚」という余計な言葉を見出したらしい。
それにしても気が早い男である。


「なあ・・・横っち、雪之丞が突然おかしく・・・・」
「心配無用だって、ちょっと幸せな夢(妄想)を見ているんだろうから・・・・」
戸惑う銀一とは対照的に横島は親愛なる戦闘狂を微笑ましそうに見守っていた。



「それで横島・・・・小鳩や砂川には何か贈らないのかよ?」
(妄想の世界から)還ってきた雪之丞が自らの失態を誤魔化すかのように言い放つ。といっても全く無意味だったが。

ちなみに恋人へのプレゼントは結局、弓矢と乙女が描かれたアクアマリンつきの耳飾りにしたらしい。指輪を止めたのは、それだとありたきり過ぎるし、弓の父親が妙な「勘違い」をしかねないからだった。耳飾りでも誤解されそうだが、見つかった場合、すぐに「結婚」という単語を連想させない分、指輪よりはいくらかマシだろう。

「うーん、小鳩ちゃんには何を贈るか決めてるんだけどな・・・・砂川には何を贈るか迷ってるんだよ」
横島が小鳩に贈ろうと思っているのはダイヤモンドで飾られ、鳩が飛び立つ光景が描かれた腕輪である。
純粋さを示すこの宝石は自らの境遇に挫けず、真っ直ぐな心を持ち続けた小鳩に相応しい。彼女自身の名前にちなんだ装飾というおまけつきだ。

ちなみに宝石を引き立てるための意匠の製作は、それぞれ十日間程かかるという。


「じゃあ、砂川さんに何を贈るかは昼飯を食べてからでええんやないか? この店は夜の十時まで開いとるし」
時刻はもう正午に近い。前もって、昼食は食べてくると屋敷の連中には連絡してあるので問題はない。
銀一の言葉に横島は頷き、西条を伴い何処か適当な店で昼食をとることにした。




その頃の国籍不明の寅男とその彼女。
「タイガー、ここのラーメンは美味いよ!!」
「魔理さん・・この屋台は穴場ですけん・・・・二人だけの内緒に(小声)」(内心、ガッツポーズ)
屋台でラーメンを啜っていた。こちらはこちらで実に微笑ましかった。




後書き
思ったよりも長くなりそうだったので、今回はここまで。それぞれの女性に贈られる宝石はこんなところでしょうか? 他にも相応しい宝石はあるでしょうが・・・・・後編で横島は二つの夢を見ます。一つは懐かしい『彼女』と出会った時の夢。もう一つは最強の『宿敵』との戦いの夢。
ちなみにゴモリーとリリスの二人は、もう仲が悪い云々のレベルではない模様。
某月姫の○崎姉妹と同じような関係っぽいです。姉妹喧嘩で姉を生き埋めにするとは・・・・恐るべし。
作中でもあったように、贈り物の概要は以下の通り。
弓→弓矢と乙女が描かれたアクアマリンつきの耳飾り
美神→双頭の鷲をあしらったエメラルドつきの胸飾り(裏の意味で痛烈な皮肉ありby悪戯仮面一号&二号)
小鳩→鳩が飛び立つ光景が描かれたダイヤモンドつきの腕輪。
砂川→???
砂川へ何を贈るかは後編で明らかになります。
番外編で流れるのは平和な時間です。影で「少年」の謀略が進行していることを考えると「仮初の平和」に過ぎないかも知れませんが・・・・・

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