吟詠公爵と文珠使い 番外編 present for you (前編)
投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 4/ 5)
ある日の除霊事務所を兼ねた横島の屋敷。横島がロンドンから帰ってきて、その後、とんでもない大騒ぎがあってしばらくたったある日。
「あのー、横島さんは御在宅でしょうか?」
ドアの呼び鈴が鳴り、声が聞こえてきた。
誰かが訪ねてきたらしい。声の主はまだ若い男だ。
(何処かで聞いたような・・・・)
「はーい、あら貴方は・・・・」
そんなことを考えながら、応対に出た小鳩が目を丸くする。テレビでよく見る顔だったからだ。
「おう、俺のこと知っとるんか?」相手が人懐っこい笑みを添えて、挨拶した。
訪ねてきた相手は横島の幼馴染にして、若手実力派アイドルの近畿銀一であった。
アイドルを生で見たことでやや舞い上がった小鳩に案内され、銀一は屋敷の居間に通された。
「横っち、独立したんやってな? おめでとう。これは俺からの土産や」
「ああ、ありがとう。ところで仕事はいいのか?」
親友と再会したことで、銀一は口調がさらに気さくなものになった。彼は、横島に土産を渡しながら「今日、仕事はオフやから、横っちの独立祝いを言いに来たんや」と来訪の目的を告げた。
「横島、こいつってもしかして、あの人気アイドルか?」横から雪之丞が割り込んでくる。
案外、ミーハーの気がある恋人、弓かおりの影響からか銀一の顔を知っていたらしい。
ちなみに、彼は現在、先の銀一の土産―高級クッキーの詰め合わせをボリボリと食している。そこには遠慮の欠片も無い。
「横っち、こちらの人は?」雪之丞の無礼な振る舞いを気にも留めず、銀一はそのクッキーを一人で処理しようとしている男の素性を尋ねた。大物になる可能性十分だ。
「ああ、こいつは俺の事務所の同僚で伊達雪之丞。マザコンのバトルジャンキー。食うより、寝るよりも戦いが好きという頼りにはなるが、ちょっと危ない男だ」
「おい!! マザコンは余計だ」
(他の部分は否定しないんやろか・・・・・・)
銀一はちょっと引いている。
生憎、横島の言った事は全て、事実なので否定のしようが無かったりするのだが。さらにいえば雪之丞は年齢不詳である。彼は一体、何歳なのだろう?
その後、小鳩やマリアと挨拶を交わした銀一だったが、自動人形であるマリアの存在に驚いたのは言うまでも無い。
「あー、初めて見たわ・・・・自動人形なんて・・・・」
アイドルとして度胸はあるつもりだったが、この事務所には驚きが一杯だと銀一は思っていた。
といっても、この事務所で自動人形などまだ序の口である。
戦闘狂に錬金術師、元貧乏神の飼い主(微妙に違う)、極めつけは魔神二人。これ程、凄まじいメンバーの除霊事務所は世界中、探しても見つかりっこないだろう。
人狼や妖狐が棲みついている事務所も、この業界には存在するが、やはりメンバーの顔ぶれはこちらに軍配が上がりそうだ。
「横島 お前の知り合いか?」
そんなところへ、いつもの黒スーツに身を包んだ砂川が出てきた。といっても起きたばかりで、まだ眠いらしく、声も何処か寝ぼけた様子だ。
「ああ・・・そうだが、まずは顔洗って来いよ」
横島の言葉に砂川は頷き、洗面所のほうへ向かった。十数秒後、「く・・・冷たい」という寝ぼけた声と共にバシャバシャという水音が聞こえてくる。
ちなみに現在の時刻は朝の九時。今日のように、GSの仕事が入っていない日は彼女の朝は遅いのだ。
「えーと、彼女は・・・・」
「ああ、俺の事務所のメンバーの一人の砂川志保だ。あの通り、朝が弱くてさ。仕事が無い日はいつもあんな調子だ。もっとも、敵の気配を感じると瞬時に飛び起きるけどな・・・・」ちなみに、彼女はまだ朝食をとっていない。
横島は、戸惑いがちの幼馴染に苦笑を交えながら、自らの相棒を紹介する。
「それで小僧、わしの紹介はせんのか?」
いきなり、二人の後ろに湧き出て来る黒マントの怪人。
(そろそろ、出て来ると思っていたけどな・・・・・)
もっとも横島は予測済みで、全く動揺していなかったが。
「え、えーと、どちらさんで?」
銀一はいきなり自分の後ろに現れた怪しさ200%の存在に一歩引いている。
いきなり後ろに黒マントの怪しい人影が現れたら、身の危険を感じるのは人間として当然のことである。あくまでも『普通の』という枕詞が付くが。
「ああ・・・それは、さっきの自動人形を作った奴で、ヨーロッパの変「ヨーロッパの魔王ドクター・カオスじゃ!! 何が変人じゃ!! おまけにそれとは何じゃ!?」
横島の言葉を途中で遮って、カオスが叫ぶ。確かに変人よりも魔王のほうがあだ名としては遥かにかっこいいだろう。
だが、このご時世に、いかにも暑苦しそうな黒マントはいかがなものか。
それに・・・・・
(千年生きたぐらいで魔王になれるなら、誰も苦労はしないんだがな・・・・)
横島は、自らのアイデンティティを懸命に主張するカオスを横目で見ながら、ある意味、もっともなことを考えていた。
「さてと・・・・じゃあ、弓の誕生日プレゼントを買いに行くか。横島、ついてきてくれ」
クッキーを食べ終え、その箱を供養した(ゴミ箱に放り込んだとも言う)雪之丞が、横島の肩を叩きながら言った。
「はあ・・・・昨日、約束したからしょうがないけどな。お前、相談する相手を間違えているぞ」対する横島は溜息をついている。
誕生日プレゼントを弓から催促された雪之丞が相談相手に選んだのは、女心に関しては一ミクロンもわかっていないという横島である。初っ端から躓いているとしか言いようが無い。
雪之丞とて、この男よりは女性との付き合いに関しては、マシだという自信はあるが、それでも某道楽公務員や某バンパイア・ハーフに及ばないと解っている。
はっきり一言で言ってしまえば、この二人は鈍い。
女性がどういった物を贈れば喜ぶかを余り理解していない。せいぜい、指輪や装飾品、服などを贈ればいいのかなー、という程度である。それらの物を贈るという考え自体は間違ってはいない。
だが、女性の全てがダイヤモンドが好きというわけではない。中にはトパーズが好きという女性も居るのだ。その辺の機微がこの二人には解っていなかった。
(俺がフォローしたろうかな・・・・)
二人の様子から、大まかな事情を察した銀一は助け舟を出すことにした。
「なあ・・・二人ともプレゼントに関しては俺がアドバイスしたろか?」
「何? 本当か!?」
「ありがとう!! 銀ちゃん、これで百人力だな」
横島と雪之丞にとっては、銀一の言葉は預言者モーセの言葉にも等しい。
諸事情から魔属性の彼らであったが、天を仰いで、祈りを捧げてもいいかなという気分だった。
「ああ・・・今日は仕事もオフやし、俺も羽を伸ばす意味も兼ねてな。いい店知っとるで」
満面の笑顔で銀一は言った。雪之丞と横島の鈍感コンビにとっては、正に救世主だ。
「よし!! じゃあ、お願いするぜ。呼び捨てでいいか?」
「ああ、ええで。それじゃ俺も呼び捨てにさせて貰うわ」
「じゃあ、出発だな」
雪之丞と銀一が打ち解けたのを確認しながら、横島は黒スーツの上にこれまた黒いコートを羽織る。
黒ずくめだが何故か何の違和感も無く似合っている。
(それにしても横っち、関西弁が出なくなったな・・・・・以前、俺と話した時は関西弁に戻っとったのに・・・・)
幼馴染が遠い存在になってしまったかのような錯覚を受け、銀一の心に一抹の寂しさがよぎる。
「おーい、行くぞー。銀ちゃん」先に出た横島が声をかけてくる。
「わかっとるって!! 相変わらずせっかちやな。横っちは!!」
だが、自分を呼ぶ時は昔ながらの愛称である。やはり、どんな風になっても彼は横島だ。
それを実感した銀一は、嬉しさを感じ、先に出た二人のもとにやや早足で向かった。
「それで・・・・・あいつらは、出かけたのか?」
「はい、何でも雪之丞さんの恋人さんのプレゼントを買いに行くとかで・・・・」
まだ、半分寝ぼけた状態で朝食をとる砂川に小鳩が、横島達が出て行ったドアを見つめながら言った。その声には若干の寂しさがある。
「ふむ・・・・そうか・・・・・」
対して砂川は小鳩の料理を口に運ぶ。彼女のほうは、少なくとも表面上は平静を保っている。
だが、料理を運ぶスピードが遅いのは、寝ぼけているためだけではないだろう。
「やれやれ、小僧も罪な男じゃのう・・・・わしも昔はマリア姫と・・・・・」
「ドクター・カオス・その話・百二回目です」
そんな彼女達を見ながら、のろけ話を語ろうとするカオスにマリアが冷ややかに突っ込んだ。暗に『聞き飽きた』と言っているのだ。
何にしても、横島の屋敷は平和であった。
ちょっと落ち込んだ錬金術師を除けば・・・・・
「わ・・・わしにも青春があったんじゃよ・・・・」
などといじけているが、大した問題は無さそうである。
その頃のある高級宝石店。
「やはり・・・・令子ちゃんにはこのデザインが・・・・いや・・・・」
某道楽公務員が何やら試行錯誤していた。
後書き さて現代を舞台にした番外編の第二段。本編が良い描写が思い浮かばないのと、本編での死闘が必至(特に横雪西の男連中三人)なので番外編のホノボノ話を一つ・・・・・今回は題名、紛らわしくないですよね?
お嬢さん育ちの弓さんは高級志向っぽいので雪之丞はプレゼント選びに苦労しそうです(金銭面では問題なしとしても)
後編では西条も本格的に登場。彼は宝石店で何をやっているのでしょう?(ばればれですが)横島もプレゼントを誰かに贈るかも・・・・・
ちなみに時期的には、やはりロンドンと上海での一件があって以降です。
それにしても美神や砂川、弓、そして小鳩に似合う宝石ってどんなのでしょう?
今までの
コメント:
- いや〜今回は結構面白かったです。皆に似合う宝石か、私としては何処かのサイトであった文咒を加工して作る指輪がお勧めです。此からは魔神とかとおもいっきり戦うので更に文咒の指輪化なんて必要になるかと思いますが、これをするとパクリみたいになってしまうから、没かな!残念 (翔)
- いいですね〜こういうの。
ほのぼのとしてていいですね〜(^^) (アガレス)
- 私としては、素直に宝石をプレゼントっていきたいのですが・・・・・私は肝心の宝石についての知識は皆無(どうするよ、オイ)・・・・・小鳩はダイヤが似合うかなーってぐらいで・・・・(純粋という意味から)
本編では、かなり先ですが、横島対黒幕の「少年」の激突が・・・(実はこいつら、過去にも戦っています)
コメントに多謝!! (アース)
- ゴモリー(面倒なので呼び方これで通します)って、ほんと朝は普通なんですねえ。寝起きが弱い魔神って、と思ったりしましたが、どこぞではゲーム好きの猿もいますし、まあこんなもんなんでしょうね。世界征服を企む一味のアジトが別荘だったりする世界だし。
プレゼントの宝石選びですが、ちょっと検索でもして花言葉みたいに石の持つ意味合いとか調べて、あわせてみたらいかがでしょう?横島がみんなに抱いてるイメージもはっきりさせれて一石二鳥ってことで。 (九尾)
- 女性へのプレゼントなら同じ女性のゴモリーの
助言を貰えば良いのでは? と思ったのは私だけ?
宝石ですがいっそメジャーなダイヤとかはやめにして
ゴモリーにはアメジスト、小鳩にはペリドットなんて如何?
雪之丞から弓へは何を贈るんですかね?
金に糸目をつけないなら精霊石がベストなんでしょうが
流石に高校生への贈り物が億単位というのも変ですね。
ちなみに女性が貰って嬉しいプレゼントの第一位は殆どの
世代で指輪だそうです。 (ぽんた)
- ユッキーにしてみたら、同じ女性にはそういった相談事は抵抗があったのかも・・・というか彼にとって、一番相談しやすい相手が横島だったわけで・・・
ゴモリーは寝ぼけてましたし・・・・
弓には指輪辺りが無難かな。(値段は億単位まではいかんです)
ぽんたさんの意見はちょっと心動かされるものが・・・・
後編はちょっとシリアス描写が入りそうです。
ちなみにおキヌ、シロタマには宝石の贈り物は無し。彼女達はまたの機会ってことに(女性キャラの人数が把握できなくなりそうなので) (アース)
- 弓さんに贈り物・・・寺の娘でしたよね?いろけは一切ないんですけど、そこんとこを考えて霊石を加工した数珠なんかどうでしょうか?噂の筋肉お父様対策もかねて(ヲィ (ユキ)
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