美神除霊事務所にとっては特殊な一日
投稿者名:Arih
投稿日時:(05/ 4/ 3)
「おはようございまー………ありゃ」
「「「「……すー……」」」」
平和やなぁ。
美神除霊事務所にとっては特殊な一日
四月の上旬にもなると、大分春らしくなってくる。
肌寒い日というのはもうほとんどない。日が出ている間は寒くもなく、暑くもない。ちょうど冬に布団にくるまっている時の暖かみの様なものを感じるのだ。昔からある言葉で表せば、『ぽかぽか』というのでわかるだろう。
日が暮れるのも遅くなってきて、本当に一日は二十四時間なのだろうか、とくだらない疑問も浮かんでくる。
桜も満開……とはいかない。この時期になると、都内の桜はもうほとんどが散りきってってしまっているかも、という話になってくる。
……とにかく、とても暖かい。だからだろう。今日も頑張りますかぁ………覗きを、とか考えながら開けた事務所の扉の先に待っていたものが、
四つの寝顔だったのは。
珍しい、とは思う。シロタマあたりがソファで寝ているのは別に珍しくないが、美神さんとおキヌちゃんまで寝ている、というのはそうあることじゃない。
事務所で待機している場合、大抵この時間はおキヌちゃんは家事をするかテレビを見るかのどちらかをしているし、美神さんはほぼ書類仕事。その間中、居眠りをしてしまった二人というのは昔を思い浮かべても見た憶えがない。
だが、さすがの二人も今日の陽気には勝てなかったらしい。だってテレビは点いたままだし、美神さんに至っては書類を枕にしてしまっているのだから。
「……春眠暁をおぼえず、か」
リモコンでテレビを消しつつ、最近になって憶えた言葉を使ってみる。
いつもはもっと手荒い歓迎(精神的・物理的両方の面において)を受けるのだけど。
もしかすると初めてかもしれない、こんなに静かなそれ。ちょっと拍子抜けだ。
普段の事務所は、年がら年中騒がしいというか賑やかというか、といったイメージで、落ち着いた、とか静か、といったものは無い。
つまり、割合忙しい。
だが今日はこんなにも静かでのんびりとした空気なのだ、自分ものほほんと過ごさせてもらおう。
獣形態のシロタマとおキヌちゃんとで寄り添って寝ているソファ。テーブルを挟んでその真向かいにある一人用のそれに腰を落として息をつく。
テーブルには急須が。もう大分時間が経っているのか、熱を感じないそれから空いていた湯飲みに茶を注いで飲む。
「美味い」
嘘だ。すんげー生ぬるい。
ただなんとなく緩んだ空気に心地よさを感じて、言ってて気持ちの良い言葉を言いたくなっただけ。
暇つぶしの品を探して、テーブルの上、両隣のソファ、三人の寝ているソファ、と見渡してようやく気づいた。四人に毛布か何かを掛けておかないと、いくら暖かくなってきたといってもさすがに風邪を引くだろう。
……ってなんか甲斐甲斐しい父親みたいだな、俺。美神さんみたいな娘はいらないけど。
っ!! ……もしかして起きてます? 美神さん。
「……すー…」
寝ながら殺気を放つとは……どこの挌闘家ですか、アンタ。
とりあえず自分の上着を掛けておこうとジャケット(というほどたいしたものではない。ただのGジャンだ)を脱いで近付くと、おキヌちゃんが何か言っている。目は閉じているので、寝言だろう。
「横島さん……」
何故か間が空く。なんだろう、ドキがムネムネしてき…げふん、ボケてどうする。
桃色っぽい展開に高まる鼓動。あ、緊張してきた。
これは期待してもよろしいのではないしょうか。いやするべきだ。するしかない!! っていうか実は起きてるんでしょ? こちらは受け入れ態勢もその後の準備もバッチリですよ?
さあ、カモ−ン!!
「せくはらはダメです……」
そっちかよっ!! 天然な娘って、時々恐ろしいぜ……
シロタマも何か呟いている。が、意味のあることを言っているわけではないようだ。うーん、とかくうぅーん、とかしか聞こえてこない。何か言っても、精々があぶらあげー、だとか肉ー、だとかだろうが。…あ、ちょっと可愛いかもしれん。
三人(と言って良いのだろうか)が寄り添って眠る姿は微笑ましい。特にシロタマが獣の姿なのが。これが人間の姿だったら、微笑みを通り越してニヤリ笑いを浮かべて飛び掛りかねない。最近は三人とも色気が出てきたから守備範囲に入りつつあるし。というかその道においては稀代の求道者である、この横島忠夫に襲えない女などいない!!……あ、嘘だ、オカンはさすがに無理。……まあ、その後に空中で迎撃される→墜落→折檻(袋叩きとも言う)、のコースになるが。っつーかそれで全員から殴られるのはちょっと理不尽だと思う。
これ以上思い出すと憂鬱になるので思考を切り替えよう。とりあえず、起こしてしまわないよう丁寧にジャケットを掛けて、美神さんに掛けるためのバスタオルを探して脱衣所に向かう。いや、私室に入ると後で殴られるし。……下着ドロ容疑で。
しかしあれだ。脱衣所にいると、誰かがシャワーを浴びているわけでもないのに、何故かドキドキしながら中を覗いている自分に気付くのだが。これが習性、生き物の性、というヤツなのか?………言っててむなしくなる………
ともあれ、無事にタオルを見つけ、そろそろ誰か起きてるかなぁ、いやでもえらい気持ち良さそうに寝てるしなぁ、などと考えながら戻る。やっぱりまだだった。
美神さんにタオルを掛けるために近付く。できるだけ足音をたてず、気配を殺して。
以前、似たようなシチュエーションで不用意に近付いたときには黄金の左を放ってきた。無論、寝たままで。もはや条件反射の域だ。無意識でそんなパンチを放てるのなら世界を狙える、というクラスの極上の威力のやつだ。当然のごとく死んだ。……思い出す度に震えが蘇る。あれをもう一度喰らおうとは思わない。
「横島ぁ………時給下げるぞぉ……」
寝言でそれかよ。苦笑しつつ慎重にタオルを掛ける。 ……ミッション・コンプリート。
いつまでも近くにいると、どんな理不尽に遭うか分からない。とっととソファに戻る。
淹れなおしたお茶を啜りながら外を眺めれば、気持ちの良い陽射しの中に鳩の群れが。あぁ、本当に今日はそういう日なんだなぁ。
これで鳩に餌をやっている爺さんとかがいれば尚良し、といったところなのだが。まあたいしたこっちゃ無いので良いか。
ひー、ふー、みー、よー、いつ、むう、……ってすげえいるな。なんとなく数えていたけど面倒っつうか眠くなってきちまうっつうか……
あー、こうも気持ち良いと俺も…寝ちまおう……か、な……と………
ぐー。
夢うつつに、頬に暖かい何かが触れた気がした。
…そんな変わった一日。
今までの
コメント:
- 皆さんこんばんは、もしくはこんにちは。
ほのぼのに挑戦してみました。このジャンルは初めてなので自信があるとは言いがたいのですが、これを読んでほんのちょっとでもいい気分になってくれれば、と思います。
それでは。 (Arih)
- はじめましてArihさん。
横島が襲わないなんて・・・。
条件反射で殴る美神にタオルをかける横島はさすがですねぇ。
しかも煩悩が発動せんかったし。
ほのぼのに初挑戦!?かなりいいですよ!
こういうほのぼの系は自分も書いてみたいです。
次の作品も期待しています。 (never green)
- はじめましてArihさん。
月並みですが、かなりいいですよ、ほのぼの。殺伐なネタばっかり考えていたのですが、なんだか穏やかな気分にれます。
>最近は三人とも色気が出てきたから守備範囲に入りつつあるし。
・・・・これって、何年後の話ですか?それ以前に、おキヌさんは元から守備範囲だったのでは?
(文・ジュウ)
- 最初から最後まで、オチ無しのほのぼの。
大好きです、こういうの。けど、書こうと思うと案外難しいんですよね。
ぬるいお茶を美味いと言った横島君じゃないけど、良い気分になれました。ありがとうございます。 (竹)
- えー、激しく今更なんですがレスです。皆様、コメントありがとうございます。
>never greenさん
すみません、襲わないのは私の都合です(笑)。それをやらせると前のお話と同じノリになってしまい、当初の目的を達成できなくなりますから、ギリギリで踏みとどまらせました(汗)。
>文・ジュウさん
何年後、というのは正確には設定していません。オキヌちゃんの卒業後くらい、という大まかなやつはありますが。それから守備範囲云々に関してですが、おキヌちゃんに対しては彼女が身体を取り戻して以降は(自発的に)襲い掛かっていないことと親交の深さから(ギリギリで)守備範囲外に置いているが、最近はそれが内に入りそうになっている、という設定になっています。……後書きで説明しなきゃいけない程に表現が稚拙であることを痛感してます。orz
>竹さん
はい。すごい難産でした(笑)。一度全部の書き直しを余儀なくされました。…いや、気付くともう既にギャグに走っているんですよ。そして修正、気を取り直して書き始めてそして暫くするとまたボケてる、の繰り返しでして。なんとか書き上げられてほっとしました(笑)。 (Arih)
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