ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い44


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 3/31)

目的地は、地元の人間に霊山と崇められている山の麓に、色々な意味で規格外な一行が到着した。
竜神と魔神、錬金術師と自動人形、さらには一番普通に見える男は戦闘狂。どう考えても、観光客の一行には見えないし、実際に彼らは観光客などではなかった。
「ここでいいんだな?・・・・」
「ああ、そうだね・・・・」
雪之丞の確認も兼ねた問いにメドーサは頷いた。

ここまでは、Gメン手配の車で来たのだが、此処から先は道が狭すぎて、車では進めない。車が走り去るのを見届けた後、一同は改めて山を見上げ、その中へ踏み込んでいった。






霊山の洞窟最奥部。
「来たか・・・・」
侵入者達の気配を感じ取ったアンドラスは、誰ともなしに呟いた。
その中に見知った気配が二つ。
かつて、気紛れで拾った竜神の小娘と自分と同じ七十二柱の男。
(メドーサはともかくとして、ネビロスもお出ましか・・・・・・厄介な奴が来たな・・・)
今回の一件に、自分が関わっていると踏んで乗り出して来たということか。
確かにGS試験会場でのことを、メドーサからの報告で知っているだろうから、そう不自然な話ではない。ゴモリーと横島(=アスモデウス)の気配が無いところを見ると、彼らはロンドンのほうへ行ったらしい。
ロンドンの仲間達には悪いが、こちらの負担が減るのはありがたい。
「まあ・・・時間稼ぎはしなくてはな・・・・」
どちらにしても火角結界が作動するまでの暫くの間、彼らを足止めしなければならない。

彼は配下の者達に侵入者を迎撃するように命じ、自らも闇へ消えていった。




一方、その頃の上海組。
「それはそうと、ちょっと聞きたい事があるんじゃが・・・・」
狭く暗い山道を進みながら、目的地まであと半分といったところで、カオスはネビロスに問いかけた。

「ん、何だ?」
「今回、それに試験会場のことを初めとする一連の事件・・・・神族過激派は動きが無いのはおかしい・・・・余りにも静か過ぎるのはどういうわけじゃ?」
「一連の事件」の中には横島の魔神アスモデウスとしての覚醒も無論、含まれている。神と魔のデタントが進んでいるといえ、神族の過激派が何の行動も起こしていないのはおかしい。

「それなんだがな・・・・・キリストやミカエル、ガブリエルが抑えてくれているからだな・・・・だが、それも限界らしい」
カオスの真意を察したネビロスは苦笑気味に答えた。
「ということは、やはり神魔の話し合いの席を設けねばならぬと?」
「ああ出来れば人界側の代表も参加して欲しい・・・・恐らく、神界側からはミカエルとガブリエルが来るだろう。あの二人は神族の中でも融通が利くからな」
「成る程・・・・・神も魔もこういった部分は人間と変わりないわけじゃのう・・・・」
「まあ、当然だな。元人間だった奴も居るくらいだ。それを言うならば千年以上、生きているあんたも十分人外だろう?」
「違いないわい」
カオスはその通りだと笑った。

話している間にも足は進み、山の中の開けた場所まで来た。かなり多くの人間の気配がする。恐らくは行方不明になった中毒者達だろう。
「さて・・・・足止めのつもりか」
「恐らくはそうじゃろうて・・・」
ネビロスの言葉にカオスが答える。こうして、会話を交わしている間にも気配は増えていく。

「俺はいつでもいいぜ」
「戦闘準備・完了」
雪之丞とマリアが臨戦態勢に入っている。メドーサも刺又を持ち、無言で頷いた。

そして、彼らは敵地に足を踏み入れた。



「ちい・・・後から後から出てきやがる」
雪之丞の言葉通り、薬の中毒者達は後から出てくる。決して手強い訳ではない。しかし、薬のせいで理性が飛んでいるせいか、やたらと打たれ強く、しつこく纏わりついてくる。
雪之丞の拳を腹に受けても、なかなか倒れない。かといって手加減無しで攻撃すれば相手の命が無い。薬で精神を侵されていても、彼らは一般人なのだ。


「ええい、うっとおしいね!!」
メドーサも刺又や拳で、一応は手加減した一撃を加えていく。それでも、しぶとく倒れない。打たれ強さはゾンビ並だ。こういった所もメドーサ自身が起こした風水盤事件とそっくりだ。
自分と同じような手口を使って来る相手が忌々しい。

「ふむ・・・・ここはわしの新兵器を使うか」そういってカオスは懐から「何か」を取り出した。
「新兵器?」
死霊を操って、敵を攻撃するネビロスの問いに、カオスはうむと自信たっぷりに頷いた。

「名づけて、『スリーピング・ビューティー』じゃ!!」
「名前はともかくとして、使い方は?」
彼が取り出したのは、無骨なデザインの黒い大型拳銃。名前と外見が全く一致していない。
カオスのネーミングセンスが何処かおかしいことがわかる。

彼の側に控えるマリアも心なしか微妙な表情である。

メドーサの脱力したような問いに、カオスは「論より証拠」と言わんばかりに件の代物の銃口を中毒者の一人に向けた。


そして、カオスが引き金を引いた。
バシュッという音を立てて、銃口から飛び出した銃弾が中毒者の体に当たり、彼は崩れ落ちた。
「何をしたんだ?」
「ふふふ・・・・この『スリーピング・ビューティー』にはチーズあんシメサババーガーとかいう代物の成分を取り出して、銃弾に詰め込んであるのじゃ」

以前、元貧乏神の貧が小鳩のためを思って、作ったチーズあんシメサババーガー。厄珍に引き取られたが、小鳩から話を聞いたカオスが厄珍からいくつかを引き取り、新しい武器の開発に使ったのだ。

そして出来たのが、この『スリーピング・ビューティー』というわけだった。
「本来ならば、幽体離脱するらしいんじゃがの。理性が飛んでしまったこの連中だと気絶程度で済むわけじゃな」カオスが鼻歌交じりに解説する。
新兵器の調子は上々らしい。

ここに居る殆どの者達は、チーズあんシメサババーガーがどういうものかは知らなかったが、ろくでもない代物であることは察しがついた。

「流石はヨーロッパの魔王・・・何にしてもそいつは使えるな・・・・・」ネビロスが感心したように呟く。ネビロスは、ぼけまくったカオスを知らないから、こんなことが言えるのだ。以前のカオスを知る雪之丞などは(このカオス・・・・偽者じゃねーか)と一瞬、思ってしまったりするのだが。

「じゃが、銃弾の数は限られとる。何せ試作品じゃからのう・・・・・・残りの弾はあと二十発程度しかない」
カオスが申し訳無さそうに言う。

今までの経過から何人かは倒してきたが、まだ数十名程残っている。しかも本命の敵は未だ姿を見せていない。それでもかなりの人数を倒せるだろう。




「ち・・・・敵の親玉は何処に・・・・?」
「ここだ、伊達雪之丞」
やや焦り気味の雪之丞の声に答えるかのように、暗闇の中から声が響く。その声と同時に、浅黒い肌の魔獣が雪之丞に襲い掛かった。

「な・・・お前・・・・陰念か?」魔獣の攻撃を捌き、間合いを取った雪之丞が驚きの声を上げる。その姿は見覚えがあった。以前、GS試験で魔獣化してしまった男。

その問いかけに「そうだ」と答えるかのように、魔獣の鳴き声が悲しく響く。



「その通りだ。そいつはお前にとって、嘗ての同門だった男。陰念だ」
闇から抜け出てきた男―砕破が、冷然と残酷な事実を告げた。

陰念は病院から退院した後、アンドラスによって、便利な手駒の一つとして拉致され、再び魔獣化させられ、さらに南武の開発した薬品で洗脳されていた。元々、陰念はメドーサの試験会場の事件以降、重要性は薄れていた。
彼自身の交友関係の狭さも手伝ってか、彼の失踪を不自然に思う者は居なかった。


「てめえ・・・・」
「ふ・・・・嘗ての仲間と再会させてやったのだ。感謝の言葉の一つくらい欲しいものだな」砕破が、さも心外だと言いたげに肩を竦める。
「まあ・・・お喋りはこの辺にして、始めようか。陰念、貴様もだ!! とっとと攻撃しろ!!」
砕破は言葉と同時に雪之丞に攻撃を仕掛ける。元陰念という人間だった魔獣も戸惑うような素振りを見せたが、悲しげな咆哮の後、彼に続いた。


こうして、様々な因縁が絡んだ魔装術使い同士の死闘が始まった。





「それにしても・・・・アンドラスの奴は何処かねえ」
メドーサは死闘を始めた雪之丞達を横目で見ながら、気配を探る。雪之丞ならばそう簡単には負けはしないだろう。

一番の問題は確実にこの場所に居るであろうアンドラスだ。彼女の勘が正しければ、来ているはずだ。

(出来ればやりあいたくは無いけどねえ・・・・)
実力も戦いの経験値も向こうが圧倒的に上。何より自分に戦い方を教えたのはアンドラス自身だ。
はっきり言ってしまえば、彼我の間には小竜姫とハヌマン程の差があるのだ。


砂糖に群がる蟻のように纏わりついてくる麻薬の中毒者達を刺又で薙ぎ倒しながら、メドーサは必死で相手の気配を探る。






そんな彼女に、音も気配も、殺気すらも持たぬ影が静かに忍び寄っていた。



後書き  メドーサに不穏な影が・・・・一方では雪之丞対砕破&陰念戦に突入。カオス、結構活躍しています。さて、上海編はあと一、二回程でしょうか。チーズあんシメサババーガーもカオスにかかれば立派な兵器に・・・・

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