ザ・グレート・展開予測ショー

刀に受け継がれた誇り


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 3/30)

人狼の里の一室。
人狼族の至宝―八つの斬撃を生み出す妖刀『八房』が祭られているその部屋で二つの影が対峙していた。

「犬飼、貴様・・・・八房を持ち出して何を・・・・・!?」
「決まっておろう・・・・我ら人狼を蔑ろにする人間共への復讐・・・・・拙者はこの身を『狼王』とすることで、それを遂げてみせる・・・!!」
一方の人影であった人狼―犬飼は静かだが、狂気と殺気に満ちた声で告げた。

「犬飼・・・・・・・」
そんな彼の声にもう一人の隻眼の人狼―犬塚の顔が悲しく歪む。
「どうしても邪魔するというなら貴様もここで斬る!! 剣の腕はそちらが上でも、八房を手にした拙者には勝てんぞ!!」
妖刀を抜き放った犬飼の顔が、益々邪悪に歪む。
「剣友と呼べた男だった・・・・・・なおさら、放ってはおけん!!」
犬塚は刀を正眼に構え、狂気の徒になった相手を見据える。


一瞬の静寂の後・・・・・・
「シイ!!」
犬飼の妖刀が閃き、八つの刃を生む。
犬塚は正面から、斬り込む。一見、無謀に見えるが最も傷を負わずに接近出来るやり方だった。

「く・・・・」
とはいっても、犬塚も流石に八つの斬撃全てをかわせず、両腕と左足を切り裂かれる。

「くくく・・・・・どうだ? いくら貴様程の使い手でも八房を手にした拙者には勝てまい!!」
「確かにな・・・・だが、そんなものに頼った時点で、貴様は誇りを失ったことになる」
「誇りだと? 人狼のとしての誇りか?」
「ふ・・・・・違うな・・・・自分が自分であるという誇り・・・・堂々と自分の名前を胸を張って言えるようなそういった誇りだ」
「ふん、くだらん。もとより拙者はこの身を『狼王』と化すつもり・・・・・今までの名など直に要らなくなろう。その時、拙者は『狼王』となるのだ!!」
犬飼の声は最早、正気を保っているようには聞こえなかった。
完全に自らが手にした力に酔っている。



「そんなことはさせん!!」
犬塚は、意識を手放しそうになりながらも刀を構えて、鋭く吼えた。その声は半死半生の男のそれとは到底思えない。

犬塚の間合いを詰めての居合が犬飼の妖刀を携えた右手を狙う。だが、その斬撃も紙一重でかわされてしまう。
「ふん・・・・・残念だったな」

犬飼はそういうと同時に、犬塚の胴を鋭く薙いだ。
「がは・・・・・・・」

犬塚が倒れると同時に、犬飼は刀の血糊を拭き取り、悠然と闇に溶け込んで行った。

(く・・・・・・駄目だったか・・・・シロ・・・・済まん)
意識が遠のいていく。血と一緒に生命力までもが流れ出していくかのようだった。
妻が死んでからの娘との思い出が浮かんでは消えていく。




「こっちに・・・・」「犬飼と犬塚が・・・・」「八房は!?」
長老を初めとする仲間達の声を、何処か遠くに感じながら、犬塚は目を閉じ、二度と覚めぬ眠りに落ちた。

最後に脳裡に浮かんだのは、何故か娘の元気な笑顔と笑い声だった。







『犬塚テツ』
そう刻まれた墓標の前にシロは立っていた。
「これが父上が好きだったお酒とみかんでござる」
シロは、父の墓前に彼の好物を並べ、両手を合わせた。今日は彼の父の命日―即ち、父が犬飼に斬られ、命を落とした日でもある。

「シロや・・・・・」
「長老殿、お久し振りでござる」
シロは振り返ると、迷いの無い声で長老に挨拶をした。彼女の顔には、最早、悲しみの色は無い。仇はもう居らず、過去は乗り越えたのだ。

「人界は今、大騒ぎのようじゃのう・・・・」
「はい、かのフェンリルと同等かそれ以上の魔物が世界のあちこちに大量に出現し、ザンスという国でも不穏な動きがあり、一連の事件は繋がっており、その黒幕はとんでもない奴のようでござる・・・・・」
シロの言葉に長老は重々しく、頷いた。

確かに、結界で遮断された人狼の里にも伝わってくる。
著しい気の乱れ。人間だけでなく、あらゆる生き物の不安や恐怖、そして死の気配。
人間だけではなく、神や魔の間でも大きな動きがあるということなのだろうか。

それらの中心に居るのは―――――シロの敬愛する存在のあの男。

以前にも似たようなことはあった。一般的に人界のほうでは「魔神大戦」と呼ばれている戦いのことだが、今回はそれよりも遥かに激しいものだ。

「もう・・・・・行くのか?」
「はい、拙者も微力ながら、先生の御力になりたいでござる」
そこに居たのは父の死を悲しんでいた小娘ではなく、自分の力量を弁え、剣を振るうことの出来る一人の剣士だった。

敬愛する師の側を占めるのは自分では無いとわかっている。それでも、彼と並んで戦えるだけでもいい。

彼と並んで戦えることが彼女の誇りだった。





「やれやれ・・・・・しっかり、成長しておったな。お前の娘は」
結界をくぐり、人界に戻っていくシロを見送り、長老は何処か寂しげに、それでいて誇らしげに呟いた。


長老の呟きに答えるかのように、一陣の風が空へ舞い上がっていった。
それは、娘の成長を喜ぶ父の声だったのかもしれない。





後書き シロとそのお父様の話を一本。西条の話を考えていたら、どういうわけかこんな話に。まあ、本編ではあまり出番が無いシロが可哀想だし、いいかなと・・・・・・
ちなみに、話を思いついてから書き上げるまでに二時間かかっていません。見直しはしましたけど、表現がおかしいところがあるかも・・・・・・
時期的には本編で、上海編が終わってしばらくしてからの頃でしょうか。世界中が大混乱に陥り始める直前といったところです)

本編で活躍する原作キャラは横島、西条、雪之丞、カオスとマリア、そしてタマモ、メドーサ、べスパ、ワルキューレとおキヌといった面々になりそうです。
このメンバーの何人かは黒幕の「少年」と正面から対峙、血も凍るような恐怖を味わうことになるでしょう。






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