ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 75〜メイク・ミラクル〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(05/ 3/30)

横島は目の前に鎮座まします麻雀卓を注意深く見詰めていた。
魔界産の卓かと思って見ていたのだがメーカー名らしき物が刻んである。『平和』
記憶が確かなら、スポーツ新聞の片隅に広告を載せている最大手の雀卓メーカーのはずだ。
部屋の奥に目をやれば手動の卓があり、何度となく使われたような様子だ。
恐らく手で洗牌するのに飽きて全自動卓を人界から入手したのだろう。

「うーっし、ルールはいつも通りの“アリアリ”で良いな?」
「うむ、喰いタン有り、後付け有り、フリテンリーチ有り、特殊能力有りだな」
「点数は25000点の30000点返し、トップ目確定は31100点じゃな」

アスモデウスの宣言に応じてバアルとリリスが確認の意味も込めて声に出している。
だいたいの意味は横島にも解ったのだが、一つだけ理解不能なものがあった。

「なあ、特殊能力有りってどういう意味だ?」
「うん? ああ俺達がそれぞれ持ってる能力のこった。使い放題にしてるぜ」

例えば透視・予知・アポーツ・魅了・確率操作、などで扱いはイカサマと一緒。
但し使ったのがバレた場合はチョンボ扱いで8000点を場に放流、上がった者取りだそうだ。
当然魔王同士で出し抜いて使うのは非常に困難、事実初期の頃は容赦無く見抜いて罰符の山を
築いていたそうである。それが抑止力となり今では殆ど使おうとはしないらしい。

説明を聞いて横島も納得はしたが、ここでは語られていない真実がある。つまり三柱の魔王達が
結託した場合は見抜く事は不可能、実際かなりカモられた四人目が存在している。
これは決してセコいのではない、勝利を求める魔王達の飽くなき執念の賜物である。

「一つ聞いて良いか? 四人目の今迄の戦績を知りたいんだけど」

何となく気に掛かった事を聞いてみたのだが目に見えて三柱がうろたえだした。
これでは怪しんでくれと言わんばかりで当然追求してしまうのは人情であろう。

「ん〜? 今迄勝った奴はいねえんじゃねーか?」
「一番負けておるのはアスモの身内であろう?」
「確かフレイヤとか言ったか? 向こう100年給料無しになったのは?」

あっけらかんとアスモデウスが言うのを受けてリリスがツッ込みバアルが止めを刺している。
聞いているうちに先程会ったフレイヤの顔が思い出されてどうにも他人事と思えない。
今の横島は金銭的に困窮している訳ではないが、さりとてこの連中に見合う程の財産家でもない。
急に自分が場違いなような気がして腰が引けてしまうがそれを見咎めたように声が掛かる。

「あ〜心配すんな忠夫、お前から金取ろうとは思ってねえから」
「しかし何も賭けぬというのも興醒めじゃのう…そうじゃ横島は文珠を賭けるが良い」
「確か文珠の評価額が日本円で1個10億だったな? なら今日のレートは1000点10億で良いな?」

横島の意見を聞こうともせずに話がどんどんと決まっていく。
一瞬これは文珠を入手する為の出来レースなのかと疑う気持ちも出て来るが文珠など魔神に
とっては大した価値のある物とも思えない。それにハコテン状態でマイナス300億円など到底
払える金額ではない。第一一旦ゲームに挑む以上は負けるつもりなど毛頭無い。今迄の四人目は
相手の立場に遠慮して本気で勝ちに行こうとしなかった可能性が高い。所謂接待麻雀と同じだ。
勝負のテーブルに着く以上、横島は本気でやるつもりだった。

「お?その気になったようだな、そんじゃぁもう一工夫してみようか」

横島の様子の変化を見て取ったアスモデウスが新たな提案をしてくる。
通常の賭けの勝敗以外で、最近の人界の文化を取り入れた擬似点数表示を行うとの事。

「何だそれ?」
「知らねーか? 脱衣麻雀だ!」

アスモデウスが高らかに宣言した直後、見目麗しい女性魔族が三人入って来た。
古い言い方をすれば、何れが菖蒲・杜若と言った感じで黒髪・赤髪・金髪と揃っている。
それぞれラン・ファン、スー・リン、ミキ・ハウスと名乗り、さながらキャン○ィーズである。
事前に言い含められているのか戸惑ったような様子は無い。

だが四人で打つのに女性が三人しかいないのは良いのだろうか。
まさか四人目はリリスが自前でやるとも思えない、と考えていると唐突に四人目が入って来た。

「お呼びですか閣下?」

そう言いながら入室して来たのは人もあろうにワルキューレ、明らかに事情が解っていない様子。
アスモデウスの説明を聞きながら顔を赤くしたり蒼くしたりしている。
心の底から嫌そうにしているが強者の命令には逆らえないのが魔界の掟。
横島担当にさせられた事も手伝い、貫くような視線で横島を睨みつけている。
その視線はこう語っている、『負けたら殺す』、と。

「あ〜う〜、これじゃ男は嬉しいけどリリス…じゃねえや“ハニー”はつまんねえだろ?」

何とかプレッシャーを逸らす為にリリスに話題を振ってみた。魔界にセクハラの概念など
無いだろうがメンバー中唯一の女性なので、脱衣麻雀に反対してくれないかと期待したのだ。
だがその横島を哀れむような視線が残り二柱から向けられて来る。

(知らねえってのは哀れだね〜)
(無知とは時に滑稽だな)

穏やかならぬ内容を小声で囁き合っているがそれを裏付けるような台詞がリリスから放たれる。

「フフフ、心配無用じゃ。妾は両方行けるでな、しかも普段ガードの固い
 ワルキューレとは…そそるのう? こういうのを人界では何と言うたかのうアスモ?」
「う〜んと確か…“萌え”だったか? いや“ご飯三杯いける”かな?」

激しく歪んだ人界の知識を披露するアスモデウス、いったい情報部にどんな情報を収集させているのやら。
それはさておきリリスの発言を受けてワルキューレの形相が一変し、横島の首を鷲掴みにして激励して来る。

「貴様を信じているぞ? 友よ」

鋭く尖った爪が肉に食い込んでいるような気がするのはきっと錯覚だろう。
これは脅迫ではなくあくまで激励のはず、だと思いたい。

「んじゃ始めっか、あっそうそう役満ご祝儀は5000点オールな」

そのアスモデウスの宣言と共に場決めを行いサイコロを振る。
横島の上家がリリス、対面がバアル、下家がアスモデウスで起家はアスモデウスだった。
ここに世紀の一戦の火蓋は切って落された。はなはだ低次元ではあるが。




横島はそれ程麻雀に詳しい訳ではない。精々ゲーセンで脱衣麻雀ゲームをやっている奴を
後から観戦したり、深夜に放送していたVシネマの麻雀モノを見た事があるくらいだ。
もちろんルールは熟知している、何故なら他人の金で画面のおネーサンが脱ぐのを見たいが為に
猛勉強して適切なアドバイスが出来るようにしていたからだ。尤も実践した事は無いが。
だがそれでも解る事はある、即ちこの三柱がド下手だという事だ。

何せそれぞれ自分の手しか見ていない、互いにフリ込み放題なのである。
自分のアガリ優先で他人の手を読もうとしない、フリテンはするで正に素人。
だがそれでも微妙に緊迫した雰囲気で勝負が進んで行く。それは何故か?

俗に麻雀は“ツキ7:ウデ3”と言われている。つまりどれほど上手くてもツキが無ければ
勝てない。言い換えると下手でもツキさえあれば勝てるという事だ。
かつてGS試験会場において、幸運を呼び込むのも実力のウチ、とエミが言った事がある。
では魔王クラスの実力者が呼び込む幸運とはどの程度のものだろうか。

リリスの場合

役も何も無い、引っ掛けも無い、間チャン待ちのリーチ。

「ツモったぞえ、一発か。リーチ一発ツモだけかのう? …裏ドラは、おお三枚乗ったか。
 妾が親じゃのう、親ッパネじゃな6000オールじゃ早うよこせ」

バアルの場合

ポンだのチーだのとやたら鳴き散らかしている、考え無しに。

「よおバアル、それってドラが一枚あるだけで役が無ねぜ? ヒャハハ後は裸単騎じゃチョンボか?」
「余計な心配だアスモ」

アスモデウスの冷やかしを平然と受け流してツモ番が来る。

「来たな、カンッ! リンシャンッ ツモッ!」

既に晒していた刻子の四枚目を引き、山から持って来た牌が見事に単騎と揃いアガリである。

「アスモ、カンドラを捲ってくれ」
「…チッ解ったよ」

そう投げやりに答えて捲ったカンドラがモノの見事に四枚乗っている。

「ふっ、リンシャン ドラ5だ。私も親ッパネだな」

アスモデウスの場合

「かーっ! テメエら揃いも揃ってツキや偶然に頼り過ぎなんだよ。俺が手本を見せてやるぜ」

そう言うや手の内から4枚の牌を倒す。

「URYRYRYYY! リーチ、オープンだっ!」

リーチを掛けたとは言え残りは一巡、最後の牌をツモれるだけである。この時点で既におかしい。
晒した待ちは『白』と『三筒』のシャボ待ちだが、三筒はドラの為他に持たれている可能性大。
白は既に場に一枚切れている、つまり実質残りのアガリ牌は一枚しか無いのだ。だがしかし、

「おっしゃぁ一発ぅ! ピュアホワイトのオーバードライブヅモォ!」

選択のまずさをデタラメなまでの引きの強さでカバーしてしまう。

「リーチオープン一発海底ツモ、白ドラドラだ。親バイだな、8000づつよこしな」

一事が万事この調子で技術も打ち廻しもあったものではない。
もはや強運を通り越して豪運である。ワンサイドにならないでいるのは三柱の豪運が相殺
しあっている為にすぎない。横島は剣林弾雨の中を身を縮めてトーチカに潜んでいるようなものだ。
彼はノーミスで来ている、誰にもフリ込んではいないのだが、ツモられっ放しでジリ貧である。

点棒を払う度に背後でシュルシュルと衣擦れの音がしたり、パサッと何かが床に落ちる音が
聞こえて来るが背後を振り返った瞬間に絶命しそうな氷の気配が延髄の辺りを漂っている。
リリスの妖しい視線が横島の後ろに向けられているが、その視線の行方を追うのは死を意味する。
それがワルキューレ・ベアスキン・コキュートス・フェノメノンだっ!

それはともかく当然他の三人の脱衣係も随分と涼しげな格好になっているのだが、それを
見る事は今の横島には許されない。そんな事をしようものなら一瞬で集中が乱れ勝負が決してしまう。
まだ勝負はついていない、終わった時点での点数が順位を決めるのだ。
今の横島が見ているのは自分の手と相手の河のみ、後は全神経を思考に集中している。
ギリギリまで追い詰められて初めて発揮される極限領域での集中力。

横島は自分の戦力を分析する。ツキでは到底及ばない、ウデは横島の方が上だがツキの差を
覆す程ではない。では覆せる程のウデを持つプロならどうだろうか。かつて見たVシネマ、
それは《雀鬼・桜井○一の伝説》、アレのエンディングで紹介されていたテクニックを
駆使する事さえ出来れば。だが再現出来る程明確に記憶している訳ではない。だが覚えていない訳でもない。

思い出せない記憶というものは、忘れているのではなく、記憶野に保存されている物が上手く
意識の表層とリンクしないだけなのだ。人の脳の記憶容量はある程度のハードディスクに匹敵する。
そして横島には記憶野に埋もれている物を無理矢理引き摺り起こして活用する奥の手がある。
密かに複数の文珠を生成し発動させる、刻んだ文字は《雀》《鬼》《模》。
横島の脳裏で鮮やかに数々のテクニックが再生されていく、と同時に魔王達の視線が集まるが
卓上には一切の干渉をしていない、あくまでも自身に対してのみなのでイカサマ扱いにはならない。

横島が特殊能力使用の中止を要求しなかったのはここにある。言った処で通るとも思えなかったし
騙し合いや化かし合いなら弱い者の方が長けている。本番はこれからだ。

南三局リリスの親をバアルがあっさりタンヤオのみで流していよいよオーラス横島の親。
現在の点数はアスモデウス34000点、バアル33000点、リリス32000点、横島1000点。
横島以外の全員がトップ目確定の点数を保持しており、最後まで予断を許さない。
ドラマの舞台は整った、お楽しみはこれからだ。

最後の舞台のお膳立ての為に卓上に開いた穴に牌“等”を落とし込む。
蓋が閉じ内部で攪拌が始まるが、やがて異音をたてて動きが止まる。

「何だあ? 何かつまったのか?」

アスモデウスが土壇場で動作不良を起こした機械を不満気に見やっているのに声を掛ける。

「どうせ後残す処一局なんだ、あっちの手動でやらないか?」

この素人の集団では直ぐに不調の原因など見抜けるはずもなく、決着に逸る面々は移動を承知した。
皆が点棒を持って移動する後から横島もついて行く。さり気なく、さり気無く。
手動卓に着いた後、ジャラジャラと手で牌を掻き混ぜながらも軽口が飛び交う。

「俺は何でも良いからアガリさえすればトップ確定だな」
「私と君の差は僅か1000点だよ? 直撃か1300点で逆転だね」
「妾とアスモが2000点差故1300点の直撃か2600点で逆転じゃな」

ここに来てアスモデウスは逃げ切りを、残りの二柱はトップへの逆転に神経が集中している。
横島の事など誰の眼中にも無い。まあ30000点以上の差がついていればそれも当然だろう。

「最後だし何か飲むか? 今サーバーを呼んだから」

カチャカチャと牌を積みながらアスモデウスが提案している。もう勝った気なのかもしれない。
程なくして現れたのは先程別れたばかりのフレイヤ中将、周囲の脱衣状況を見て眉を顰めて
いたが賢明にも沈黙を守り上官に話し掛ける。

「閣下、私は執務中だったのですが」
「うっせえ! 文句あんなら負け分払え」

フレイヤの当然の抗議を身も蓋も無い言葉で跳ね除けると給仕を言いつけている。

「俺は酒だ、天狗舞の大吟醸な」
「私はヘネシーを貰おうか、当然XOだ」
「妾はクリュグにしようかの」

決戦前に一息入れる為か次々とオーダーが飛び交っているが横島はそれどころではなかった。
この積み込みで総てが決まるのだ。飲み物どころではない。

「忠夫は何にする? 遠慮すんなよ、サービスだぜ」
「じゃあ熱いお茶、それと冷たいオシボリ」

まだもう一仕事残っている、アルコールで感覚を鈍らす訳にはいかない。
そんな横島の様子をリリスが怪訝そうに見詰めていた。
不服そうなフレイヤの手により全員に飲み物が行き渡る。
そして横島の手により運命のサイコロが振られた。祈るような気持ちで、全身全霊を集中して。
出た目は五、確率はともかく総ての神経を集中させた指先は望んだ通りの目を出す事が出来た。

横島の仕掛けた逆転への起死回生の策は必殺の積み込み技、大三元爆弾。予め白・發・中の
三元牌を積み込んでおき配牌の段階で役を確定させる、完全無欠のイカサマである。
文珠で《雀鬼》桜井○一に為り切ってから手作業での積み込みを行う。特殊能力を駆使しての
イカサマを行う魔王達の盲点を突いた逆転の発想。その為にはどうしても手動卓に移動する
必要がある。その理由作りの為に、最後に残った点棒を全自動卓の中に落とし込んで故障させたのだ。

スコア上は1000点になっているが手元には一切無い、見られたら終わりだがこの素人集団は
トップ圏内の相手にだけ注意を集中している、いや集中していた。唯一柱の例外を除いて。
配牌を手元で並び替えて確認していく、早まる鼓動を意識しつつ。
手の内には白が三枚、發が三枚、中が…二枚? 一瞬で鼓動が爆発的に早くなる。
失敗したのかと思ったがそれなら二枚あるというのがおかしい。
第一神経が灼き切れる寸前まで集中していたのだ、ケアレスミスなど在り得ない。

「おやおや、お客人の顔色が優れぬようじゃが? 何かあったのかえ?」

実に愉しげに話し掛けて来る美しき魔王がどうやら原因のようだった。
途中どの段階でかは解らないが横島の挙動に不審を感じて手を打ったらしい。
恐らくはアポーツを使った牌の入れ替えだろうか。残りの二柱もリリスが何かしたらしい
事には気付いたようだがその対象が横島な為、そのまま流す事にしたようだ。
横島に出来る事はただ黙っていらない牌を切る事しか無い。

「そう言やぁ忠夫からアガレばお前トブんだよな?」
「ほうそれはそれは、そう言えばトビのペナルティーは何だっかな?」
「確かトバした相手の言う事を何でも一つ聞くのでは無かったかえ?」

アスモデウスの発言を皮切りに、俄かに横島に注目が集まりだした。
リリスの言った条件など、ウソをつくな、と言いたくなるような条件だが面と向かって
言う訳にもいかない。事前に確認しなかった引け目もあるし、リリスはこちらの弱みを
握ったつもりになっているのだろう。完全に横島は終わったと思っているようだ。

だが策は二重三重を以って良しとする、奥の手は幾つあっても良い。
リリスが自牌と入れ替えたのは“東”、恐らく字牌整理の手間を省くつもりもあったのだろう。
そして横島が三元牌以外で積み込んで集めたのも字牌である。最悪の場合は鳴いて作れる役満の為に。
そして二巡目のツモ、運命の天秤は大きく横島に傾いた。

「あ、ツモった」
「な? 馬鹿な、そんなはずは?」


横島の呟きに動揺したのは他ならぬリリス、積み込みは入れ替えて阻止し“中”は手元に二枚ある。
大三元は阻止して成立しないはず、何よりまだ僅か二巡目に過ぎない。
だが偶然の安アガリというのは有り得る。そして親番が横島な以上は勝負は続くのだ。
更に親のツモアガリである以上は均等に支払う為、上位の点差は変わらない。
ならば首の皮一枚繋がった処で時間の問題、今夜は横島をどうしてくれようかと心中で
舌舐めずりをしているリリスだった。既にワルキューレまで予定メンバーに入っているのかもしれない。

「それで? どんな役でアガッたのじゃ?」

挑発するように問い掛けるリリスに対し、横島は静かに手牌を倒し役を告げる。即ち、

「四暗刻・字一色、親のダブル役満だな。32000オールか?
 ああ御祝儀があるんだったな、じゃあ37000オールだ、全員トビか?」

刹那の逆転劇、ご都合主義のシナリオ、出来過ぎた結果、ではない。単なるイカサマである。
だが積み込んでいる最中に発覚しなければ単なる“偶然”で通せるし、途中で気付いた
リリスにせよ既に結果が出た後となっては何を言う資格も無い。決着はついたのだ。

「だああぁあっ! こんなんアリかよ? チクショウがっ!」
「ふむ、乾坤一擲だったね」
「………………」

悔しさを撒き散らす者、冷静に敗北を受け入れる者、無言で戦慄いている者と様々だが
文句をつけてくるような往生際の悪い者はいなかった。流石は誇り高き魔王という処か。

「あとトバされたら何でも言う事を一つ聞くんだっけ?」

極限の勝負を終えてようやく余裕が出来たのか横島の口から軽口が飛び出す。
背後からは慌しく衣服を身に着けているような気配がしている。どんな顔をして慌てて服を
着ているのか興味が湧くが迂闊に振り向いたら両目を抉り出されそうな気がして振り向けなかった。

「まあ言い出しっぺはコッチだからな」
「こんな事はソロモン王以来ではないかな?」
「取り敢えずは酒でも飲んで落ち着いて考えるが良い」

今更ジタバタ足掻く気は無いのか口々にそう言って来るがそうなると咄嗟には思いつかない。
だいたい魔王に何か要求出来るという今の状態をラッキーと思うには横島の人格は小市民過ぎた。

「ああ取り敢えず一つだけ、部下をタダ働きさせるのはやめれ。俺の今日の勝ち分はいらんから」

薄給でコキ使われた時代の記憶が未だ生々しく残っている横島としてはどうにも放置出来なかった。
余計なお節介かもしれないが、やはり労働に見合った報酬は与えるべきだろうと思ったのだ。
今の自分が優しい雇用主の下、正当な報酬を得ているだけに余計にそう思うのかもしれない。

「ああそれぐらいは何て事無いぜ? おいフレイヤ、おまえの給料今月から元通りな」
「サンキュー・サー! 閣下」

満面の笑みで踵を打ち合わせて敬礼をした後、横島に対してサムズアップをするフレイヤ中将。
実に値千金の笑顔だった。その笑顔を見ながら更に考える、今迄の分がチャラになっても
今後また負けたら元の木阿弥ではないかと。何故か六道除霊事務所で関わってきた経済的弱者と
呼ばれる人々の顔が脳裏をよぎる。彼等とフレイヤを同一視するのは恐らくとんでもない勘違いだろう
という気はしている。だが一定の存在に対して弱い立場にいる事は共通しているのではなかろうか。

「あと四人目に立場の弱い奴呼ぶのもやめてやれよ、別に無理に麻雀する必要なんか無いだろ?」

今後負けが込んで身を誤るような輩が出ないように、という気持ちから出た何気無い言葉。
それ程魔王達にとって大した意味があるとも思えず、軽い気持ちで言ってみただけだった。

「必要ならあるぜ?」
「ただの遊びという訳でもないのだ」
「妾はどちらでも良いのじゃがのう?」

三柱から返って来た返事はある意味意表を突かれるものだった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(あとがき)
麻雀シーンの描写は悩んだ末アッサリと流す事にしました。
つーか詳しい事知らん人の方が多そうな気がしましたので。
べらんめえなアスモ、ジェントルなバアル、時代がかったリリスと適当に壊して
みましたが如何でしたでしょうか?

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa