ザ・グレート・展開予測ショー

百合子の話


投稿者名:HF28号
投稿日時:(05/ 3/29)



昔の話しさ。


そう―――12、3年は前になるかね。


あるとき、ゼロ歳の息子を連れて、高速道を東に向かっていたところだった。大体1時間は走ったところだ、助手席のチャイルドシートに居た息子がぐずりだして遂には大きな声で泣き出したのさ。チラチラ見ながら、声をかけてなんとか宥めて走っていると、運良くサービスエリアの標識が目に飛び込んできた。渡りに船ってこのことさ。私は、藁にも縋る気持ちでそこへ入ったんだ。

駐車場の端っこに車を停めて――子供の泣き声を嫌う人も多いから、あまり人の多いところに駐車出来ないのよ――息子を抱き上げて平屋建てのサービススペース右手にある展望スペースに行った。風に当れば機嫌も直るだろうと思ってね。眼下に広がる田植え前の田んぼ、その奥で陽光にキラキラ輝く大きな川、遠く連なる山々は緑〜茶色がかってそれは落ち着く景観を創り上げていたよ。思った通り吹き上がる風にあたっていたら息子も泣き止んでくれた。

その時さ、事件が起きたのは。

屋台の軽食コーナーで悲鳴が上がると禍禍しい空気が風船のように吹き上がって、得体の知れない何かが私の体をすり抜けていった。背筋が凍り、膝が笑って、恐怖に発狂しかけるような、何か良くないものが。

はっと我に返った私は腕の中の違和感に気づいて血の気が引いた。


まだたっちもしてないまだままとよんでくれない息子の

脈が

呼吸が

――――止まっていたのだから


私は叫ぶしか無かった。

『赤ん坊は悪霊の放つ歪な霊力や狂気を浴びるとショック死してしまうことがあります』と育児書に書かれていたのを今更になって思い出した。

けど、もう遅い遅すぎた。このとき程、自分の迂闊さを呪った事は無いね。

まだ温かい――でも動かない息子を抱えて座り込んだ私の前で息子から抜け出た霊魂がまるで和装を着た人のような形になると、『すまない』って頭を下げたのよ。なんでだって、どうして謝るんだって、そんなことさえ聞く間もなく一際大きな輝きを放った『息子』は屋台の方に飛んで行った。何が起こったのか判らない。ただただ凄まじい閃光が辺りを包み込むとさっきまでこの場を覆っていたドス黒い空気が サアアアアアアッ と消え去ったのだけは肌で感じたわ。

何が起きてどうしてああなったのか後で知った。なんでも『ソフトクリームを買いに来た3姉妹が妖怪だったから危害を加える前に退治しようとしたから』だとさ。そいつは―――って言い難いね、仮に『K』とでもしておこう。そのKは霊能力に目覚めたのでGSを目指したいと、そこのバイトを1ヶ月前に辞めてどこぞのGSの元で研修中だった。でも、その日は複数の従業員が抜けられない用事で休んでしまったから、近所に住むってこともあって緊急に呼ばれて仕事に入っていたんだそう。Kは7、8歳そこそこの少年の後ろに並んでいた色白で背の高いとても美しい3姉妹を時折意識していた。霊視が上手だったんだね、かなりの霊能力者でも気づけない彼女達の人化を薄々見抜いていたんだ。そして、とうとう彼女たちの順番がやってきた。Kは、注文を受けたフリをして破魔札を取り出すと3姉妹の顔に次々投げつけたんだ。

大した霊力も込められていないK手製の札だったから退治には至らなかったものの、札の直撃を受けた3姉妹は、それぞれ唇が耳まで裂け目は焼け爛れ、長女に至ってはそこから更に鼻が崩れてしまった。

ガラスに写った各々の顔を見て、三女は言葉を失い、次女は茫然自失となり、長女は怒り狂った。長女は全身から瘴気を噴き出し元凶となったKに飛び掛った。Kの頭を掴まえ、クレープ用果物をカットする為に脇に置かれていたナイフを手に取ると頚動脈を切り裂こうとしたらしい。だがその時、白い浄化の光があたりを包み込んだ。

言うまでも無い『息子』がやったことさ。

瘴気が塵と消え、Kを殺さんとしていた長女のギラついていた瞳が元の穏やかな物に戻った。『息子』は、『癒す術を殆ど知らないから傷を治せない』と3姉妹に済まなそうに言ってから消えたらしい。残された姉妹は、崩れた顔のまま逃げるように赤いセリカに乗り込んでそこを立ち去ったんだって。と、そんな風だったからKはなんとか命を繋ぎ止めたんだが―――失禁して白目を剥いていたらしいよ。自業自得だね。

それから何年か経って、また息子を、忠夫を産んだ。そして、忠夫が3歳になった頃、どうしてもそのサービスエリアに寄らなければいけないことになった。いつもは避けていたのに、その日はやけに忠夫が寄りたがってね。

後続の赤いスポーツカーも同じようにサービスエリアに入って来た。ガラ空きの駐車場に車を停めると、その車は私の車の真後ろでエンジンを落した。前が前だったから薄気味悪くてね、さっさと用事を済ませてここから去ろうと思ったときにその車から1人、赤い服を着た細身でみどりの黒髪を靡かせた長身色白の女性が降りてきた。花粉症なのか大きな薄桃色のマスクをしていたよ。

すると、忠夫は女性の服を引っ張って振り向いた彼女にいきなりこう言ったんだ、『今度は治せるようになるよ!』って。女性は一瞬怪訝な顔になったけど『ありがとう』と目元を柔らかく笑みの形にして言ったのさ。

彼女が建物に吸い込まれるように入って行ったのを見送った忠夫が今度は私の方を振り向いた。そして『この前はごめんなさい。もう二の舞は踏まないよ。だから、しっかり育ててね』ってとっても優しい笑顔で言ったんだ。

これで話は終わり。何だい、不満げな顔して。

あら判ったの?忠夫の言うように、子連れの人妻が船に乗ったら子供が転落して溺死して、その後できた子供を連れて同じ所に行ったら『今度は手を離さないでね』ってその子が言ったのをベースに、口裂け女を混ぜこぜにしたのよ。

それと、この話で『読書感想文』を書こうなんてふざけた事を言わないわよねー?

タマヤカップを優勝したんでしょ☆ あの情熱ぉ〜ちょっっっと宿題に向ければなんとかなるぅって、春休み前に言った証拠はちゃーんと録音しておいたわよぉっ。いやんっ百合子やっさしー♪

震える暇があるんなら、とっとと終わらせる!!




「はいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ」
科を作ってぶりっ子口調の百合子の姿は忠夫、その年一番の恐怖体験(トラウマ)となった。

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