ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 74〜再会・脱力・御対面〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(05/ 3/28)

ワルキューレの力で妙神山を一瞬で後にしたようだった。

「着いたのか?」

気付いたら知らない(当然だが)建物内らしい場所に立っていたので
隣に問い掛けるが返事は至って素っ気無かった。

「当たり前だ。ここは私の所属する第2軍の司令部だ、先ずはここの軍司令官に紹介しよう」

そう言ってずかずかと建物内を連れ回される。途中擦れ違った連中は好奇心丸出しの顔で
こちらを見ていたが敢えて気にしない事にした。
そうして行き当たった部屋のドアをノックし部屋の中へ声を掛ける。

「客人をお連れしました、ワルキューレ少佐入ります」

そう断って横島共々中に入る。
そこにいたのは豪奢な金髪を肩口で揃えた、目鼻だちのハッキリとした文句無しの美女。
第2軍の司令官というのでてっきり厳ついオッサンかと思っていたので意表を突かれた。

「ようこそ横島君、私がここの司令官を務めるフレイヤ中将です。我が軍は君を歓迎します」

席を立ち、こちらに歩み寄って来ながら気さくに話し掛けて来る。そのまま握手を求められて
応じると予想よりずっと柔らかい感触で少しドキリとしてしまう。

「こちらこそヨロシクお願いしますフレイヤ中将、色々とお世話になります」

言葉遣いに気をつけながら何とか尋常に挨拶を済ますが相手は一向に頓着しなかった。
それどころか肩を掴まれて少々乱暴なくらいフレンドリーに話し掛けて来た。

「お世話になるのはこちらの方です、貴方が閣下の退屈に付き合ってくれれば我々がどれ程助かるか」
「そのうえどれ程仕事がはかどるか」

フレイヤに続いてワルキューレまでが真剣な様子で話している。どうやら結構な期待を
されているらしい、問題は“何を”主に期待されているのか解らないという事だろう。

「あの〜俺は何をすれば良いんです?」
「…いや、君はあくまで客人だ。今回の来訪を楽しんでくれれば良い」

事前の予備知識は無しという事か。ブッつけ本番で何かをやるらしいが出た処勝負になるらしい。
取り敢えず横島としては迷惑を掛けた事の詫びと要望を聞いてくれた礼さえ言えば用は済む。
後は周りに合わせて、なるようになるしかないだろう。

「さて本来なら階級から言うと私が案内に着くべきなのだが、気心の知れた相手の方が君も落ち着く
 だろうという事でワルキューレともう一人が着く。彼も君とは面識があるらしいので安心だろう」

確かに初めての場所で顔見知りが傍にいるのは心強い。もう一人案内役がいるらしいが
“彼”というからにはジークだろうか、他に男の魔族の知り合いなどいない。
やがてドアがノックされ件の“彼”が入って来た。

「鎌田上等兵参りました」

そう言って入って来たのは横島も良く知るゴツい体躯のオカマ、鎌田勘九朗である。

「ゲッ! か、勘九朗? 生きてたんか?」
「アラ失礼ねボウヤ? 雪之丞ったら甘くってね、止めを刺さずに行っちゃったのよ」

コスモプロセッサで甦った後、真っ先に雪之丞を狙ったが強さのインフレも激しくあっさりと
ボコられてしまう。しかし先を急ぐ雪之丞が止めを刺さずに行ってしまった。
結局コスモプロセッサが消滅しても何故か生き残った勘九朗だったが、所詮は使い捨ての
下っ端という事で大したお咎めも無く放免された。とは言え今更人界で更生するのも馬鹿らしい、
取り敢えず軍に入れば食い扶持に困らないし闘いの場にも不自由しないという事だそうだ。

復活直後で力も存在も安定していない状態だったのを、全盛期の状態まで高める為にも
軍にいるのはちょうど良いそうで脱走者狩りでは大いに以前の勘を取り戻したとの事。

「ふむ、やはり鎌田上等兵の言う通り、相当親しいのだね」

対面の瞬間こそ引き気味だったがその後は普通に会話しているのを見たフレイヤがそんな事を
言っているが誤解も良いトコである。どこまで記憶を辿っても親しかった事など無い。

「もちろんですわ閣下、初めて私を背後から貫いたのが彼ですから」
「誤解招くような言い方すんじゃねーっ! ありゃ鏡の迷宮越しの霊波刀だろうがっ!」

台詞の一部分だけを聞けば間違い無く誤解されるような事を言う勘九朗に横島が激しくツッ込む。
点数稼ぎに仕事を増やそうとしているのかどうか知らないが、傍にいて癒されるタイプでは断じてない。
どこか遠くで仕事に励んで欲しかった。

「閣下っ! 是非案内はワルキューレだけで! 男はイヤ、男はイヤ〜〜!」

ワルキューレに半ばしがみ付くようにしてフレイヤに訴えている。男として絶対にこいつの
前を歩くのは嫌だ、という本能的な恐怖が横島の背筋を駆け上って行く。

「あ〜ら、せっかく母性本能くすぐるタイプで美味しそうなのに、つれないわね」
「イ〜〜ヤ〜〜ッ!!」

勘九朗の舐めるような視線を受けて一層隠れるようにして強くしがみつく。
その様子を見ればフレイヤとしては配慮するしかない。

「まあ、そういう事であればワルキューレのみで良いか、鎌田上等兵下がって良し」

勘九朗が退室するまで横島は隠れっ放しだった。いなくなるとようやくホッしたように
顔を上げる。唯しがみつかれた方はあまり平静ではなかった。

「おい良い加減離れろ、と言うかどこを触っとるかバカモノォ―ッ!」

男色家の脅威に怖気を振るうあまり、何やら怪しからん場所に手がいっていたらしい。
これは不可抗力とも言うべき不幸な事故だったが被害者は加害者の前歴に詳し過ぎた。
今はもう嘗てとは違うと聞いてはいても実際に見た事が無い以上は過去の鮮烈な記憶の映像が
印象として優先される。そして不幸な事に被害者の方が加害者よりも強かった。

「ああっ、堪忍や〜ワザとやないんや〜。恐怖から逃れる為に安らぎを求めたっちゅうか、
 感触が気持ち良かったっちゅうか、エエ匂いやった〜」

途中までは自己弁護だったのだが段々迷走しだした挙句に最後の方は完全に墓穴を掘っていた。
言われた方も途中までは眉間に皺を寄せながら聞いていたのだが最後の方では微妙に赤面していた。

「……取り敢えず横島、歯を食いしばれ―っ!」

微妙なタメの後でワルキューレの鉄拳制裁フルコースが始まろうとしたのだが、
フレイヤが間に入り総ての攻撃を防いでいた。流石に上官だけあって力量差も明らかだ。

「君らしくないな少佐、護衛役でもある君が対象に危害を加えてどうする?」
「ハッ!? も、申し訳ありません閣下、つい冷静さを失いました」


益々らしくない返事にフレイヤが怪訝そうな顔になる。彼女の知るワルキューレは常に沈着冷静で
安心して部隊を任せられる優秀な指揮官だった。その彼女が我を忘れるなど実に珍しい出来事だ。

「益々珍しい、どうやらこのお客人は君にとっても特別らしいな」
「……………………」

ぎりぎりで自分を抑制しているような様子でワルキューレが口を噤んでいるが恐らく胸中では
悪口雑言の嵐が吹き荒れているのではないかと思わせるような表情をしている。ワルキューレに
とっての横島は別に『特別な』存在ではない。では『単なる』知り合いか、と問われたら、それも
答えは否である。結局上官に噛み付く訳にもいかず、その場を退散する事で追求をかわす事にしたようだ。

「では客人を目的地へと案内します、最高司令官殿に引き合わせた後は直ちに原隊復帰します」
「うむ御苦労、だがそれには及ばない。休暇を与えるので君もあそこで寛いでき給え」

何やら二人の間に無言のやり取りが応酬されているようだが横島には良く解らない。
彼に限らず女同士の水面下の争いを敏感に察知出来る男の方が少ないだろう。
結局気になった事なりを質問するぐらいしか出来ない。

「あの〜“あそこ”って何処です?」

フレイヤの言ってる内容から察するに寛げる場所らしいので保養所か何かだろうか。
だがそんな場所に軍の最高司令官がいるというのも何だかピンと来ない。

「ああ、軍所有の保養施設でね、ゆっくりと体を休めてもらいたい」
「へぇ〜軍の施設ですか…名前とかあるんですか?」

横島にしてみれば他愛の無い疑問、保養施設であっても軍の物であれば何かアンバランスな
厳つい名前でも付いているのか思っただけなのだが、この質問に対する反応は微妙だった。
フレイヤがしきりに目配せをしているのをワルキューレが何とか気付かないフリをしようと
している。そんなに言い難い名前なのだろうか。例えば放送禁止用語のような?

「…アヴァドン・ハワイアンセンターだ」
「は?」

結局上官からの無言の圧力に屈したワルキューレが渋々ながら教えてくれた。
何やら関東在住の人間なら一度は似たような名前を聞いた事があるような響きだ。
どういうネーミングセンスをしているのか、名付けたのは誰なのか。

「聞きたい事がありそうな顔だが、敢えて言うぞ? 何も聞くな」

こちらの表情を読んだのか先手を打つようなことを言って来るが、恐らく口にしたくない
名前なのだろう。という事はやはり、さぞかし偉いサンの名前が出て来るのだろうか。

「まあ、上司は選べないって言うからな」

横島が何気にポツリと呟くとフレイヤまでが無言で力強く頷いている。どうも色々な意味で
予測のつかない相手と会見する破目になるらしいが事前の対応など考えようも無い。
精々相手の退屈を解消して部下の人達の苦労が軽減される事を祈るしかないだろう。

ワルキューレに肩を掴まれた瞬間にもう一度転移してどうやら目的地に着いたようだった。
アヴァドン・ハワイアンセンターなる妖し気な名前の保養所はこざっぱりとした感じの建物で
窓も大きくして採光も計算されている。そこから見える景色は何とも風光明媚なもので知らなければ
これが魔界の風景とは思えないだろう。少なくとも人界の景色より遥かに美しい。

「へぇ〜〜……」
「どうした? イメージと違ったか?」

横島が一頻り感心した後、何も言わないのを見てワルキューレが話し掛けて来るがこんな反応は
予測済みといった感じだ。一般的な人間が持つ“地獄”のイメージが広く浸透している為
ある意味横島の驚き様は予想通りの反応なわけだ。

「うんまぁ、血の池がボコボコ煮え滾ってるとか針の山があるとか、おどろおどろしいモンだと思ってた」
「無論そういう場所もあるぞ、望むなら案内するが?」

「心カラエンリョシマス」

以上ある意味お約束な会話を交わしながら何やら重厚そうなドアの前に着いた。
思い切り良くノックして中に大声で話し掛けている。土壇場で躊躇わない辺りが彼女の真骨頂であろう。

「失礼します、横島忠夫をお連れしました、ワルキューレ少佐入ります」

部屋の中に入ると隅っこの方に顔見知りが一人控えていた、目だけで挨拶してくる。
視線を戻すと中央のソファーに偉そうにふんぞり返っている偉そうな男がいた。
右手に一升瓶、左手にぐい呑み、テーブルには裂きイカが乗っている。
着崩した軍服を着用しており頭にはネクタイがハチマキ状に巻かれている。ご丁寧に結び目が
頭の横の部分に来ており、まるっきり宴会中のリーマンそのものである。
どんな魔王像を想像していたにせよ、横島の予想との共通点は欠片程も無かった。

「初めまして横島忠夫です。今回は大変ご迷惑をお掛けした事、又、にも関わらず
 俺の要望を叶えていただいてありがとうございます。後これ心ばかりの物ですがお土産です」

どういう相手かは解らないままだが自分の方が年下なのだけは間違い無い。こちらから挨拶を
して、ついでに当初の目的を果たしてしまう事にする。土産を出したのは一種の賭けだ。
相手は無言のまま酒を口に運びつつ、じっと横島の顔を見詰めている。

「ふん、動じんか、中々面白ぇヤツだ」

初めて相手が言葉を発した、その内容から察するに試されたらしい。こんな試しに何の
意味があるのか全く解らないが取り敢えず相手の出方を窺う事にする。こちらの言うべき
事は総て言った、次は相手の言葉に耳を傾ける番だろう。
ちなみに別に動じなかった訳ではなく、動じるのも馬鹿馬鹿しかっただけである。
そうして相手ははちまきネクタイを取り去ると席を立ち、目の前まで来て自己紹介した。

「俺は名はアスモデウス、人呼んで地獄の王・剣の公爵・淫らな公子、そして自称魔界一の
 イケメン・魔界正規軍最高司令官だ」

何か激しく聞き流せない事を言われたような気がした。最高司令官の肩書きが自称とはどういう事
なのか是非ともツッ込みたい気はするが、敢えてそっとしておくのが大人の対応なのかもしれない。

「え〜っと何と呼べば良いですか? アスモデウス公…かな?」
「堅っ苦しいのはやめにしな、そうだな、アスモデウスだから略して『ジミー』と呼びな!」

ビッ! と親指を立てながらアスモデウスがそう言って来る。これも一つの試しでこちらの反応を
窺っているのかそれとも単なるボケなのか。だが横島の中の何かが“乗れ”と言っている。
それは果たして大樹の血か、それとも百合子の遺伝子なのか。だがハッキリと正体の解らない
それは横島を掻き立てる、しかも安直に行くのではなく、もう一捻りしろと言っている。

「解ったよ『ジミー』、これで良いかい? 『ジミー』、よろしく『ジミー』」
「うぉっ!?」

何やら大そう驚いた顔になりそのまま沈黙している。暫く腕を組み考え込んでいたが
やがて腕を解くと顔を上げ厳しい表情で部下を呼びつけた。

「ジークフリード中尉」
「はっ!」

部屋の片隅で待機していたジークが駆け寄って敬礼と共に傍に控える。

「情報部が提出した資料はアテになんねーんじゃねえか?」
「はっ、確かにこの場合は高確率で『何でジミーやねん』という反応がある、というのが土偶羅も演算した
 可能性ですが彼もオオサカ育ちです。こちらの予測を読み更にそれを上回る対応をしてきたものと推測致します」

随分多大なる労力を使って果てし無く下らない事をしていたようである。虚しい仕事を
押し付けられた情報部の面々に心の底から同情を覚えつつ、自身も脱力感を感じていた。
先程横島を掻き立てたのは彼の体内に脈々と受継がれている上方の、お笑いを貪欲なまでに
追求しようとする、関西型お笑いゲノムの働きであろう。

どうも目の前にいるアスモデウスという魔王は掴み処の無い性格をしているようである。
少なくともアシュタロスとは似ても似つかない。当たり前かもしれないが。
掴み処が無ければ掴なければ良い、自分のペースを保ちつつ対症療法でいくしかない。
横島が胸中で基本方針を定めた頃、相手も態勢を立て直したようだった。

「魔界最高の演算兵鬼土偶羅の計算を上回るとは、横島忠夫、侮れん奴」

完全に勘違いしているような発言が飛び出しているようだが敢えて訂正するつもりも無い。
彼等にお笑いの何たるかを基礎から教える義理も無い以上沈黙を守ってもバチは当るまい。

「良いだろう仕切り直しだ、俺の事はアスモとでも呼べ。敬語は無しだ、興醒めだからな」
「了解アスモ、俺の事はまあ、好きに呼んでくれ」

いきなり魔王を“アスモ”呼ばわりするのを見てワルキューレ達がギョッとしていたが
相手の流儀に合わせるのも会話をスムーズにいかせるコツである。これは六道除霊事務所の
営業担当としてアチコチの企業で商談をこなしてきた横島に自然と身についた世渡り術である。
案の定魔王相手でも物怖じしない態度を気に入ったのか相好を崩して笑いかけて来る。

「益々良いな、確か人間同士で親密な場合はファーストネームで呼ぶんだったな?
 ならば“忠夫”と呼ぼう、良いな?」
「全然オッケー、問題ナッシング!」

傍から見たら会うや否やたちまち意気投合した友人同士に見えるかもしれない。
互いにどこまで本気なのやら解ったものではないが。

「ヨッシャ、そんじゃこれから一勝負やるんでな、既にメンバーは待ってる、着いて来い」

いきなり勝負とはまたも予想外の展開だがジタバタしても始まらない。何の勝負かは知らないが
少なくとも力づくの物ではないはずだ。そんな事をしようものなら一瞬で勝負は終わる。
退屈を持て余している男が結果の見えた事などやりたがるとは思えない。
それに先程“メンバー”と言った以上は1対1の勝負でもないだろう。最低でも3名以上での勝負。

アスモデウスに連れられて着いたのは娯楽室らしき場所、センスを疑うような電飾が施されている。
これもアスモの趣味かと思うと利用者に同情したくなってくる。まるで二昔前のミナミのキャバレーだ。
連れられるままにドアを潜り中に入ると、卓を囲むように男と女が座っていた。

男の方は銀髪の紳士、哲学者めいた風貌の苦味走ったイイ男、貫禄もあり男の色気とも言うべき物がある。
女の方は鴉の濡れ羽色の美しく長い黒髪を湛え、瓜実型の顔、抜けるような白い肌、スッキリとした鼻筋、
黒曜石の煌きを宿した瞳、艶やかに光る蟲惑的な唇、生まれて初めて見るような妖艶な美女だった。
横島の知る総ての女性より成熟しきった魅力を感じる。美神美智恵ですら彼女に較べれば小便臭い小娘だ。

「おうお前ら、せっかく客人が来たんだ挨拶ぐらいしやがれ」
「散々待たせておいて良く言えるな。まあ良い、お初にお目にかかる、私はバアルという」
「ようやっと『4人』揃ったからゲームが出来るのう、妾はリリスじゃ見知りおくが良い」

横島は表面上の平静を保ちながら相手の発言内容を吟味していた。アスモデウスの口調や
それに対する様子を見るに、恐らくは同格。つまりはこの男女が残りの二柱の魔王という事。
それともう一つ、リリスの発言から4人でなければ出来ない事をやりたかった。
考察を掘り下げてみる。2人でゲームをした場合、負けが込んだ側が熱くなってキレたりすると
シャレにならない事が起きそうな気がする。3人の場合、三竦みになる、もしくは2対1になれば
『1』の側が圧倒的に不利な為、激発は起こり難い。4人の場合、2対2に分かれた時がシャレに
ならない。魔王クラスのタッグ戦など下手をすれば魔界全体を巻き込む大戦になりかねない。

つまり魔王クラスの参加は三柱が最も安全。だがゲームに4人目が必須な場合は?
簡単な事だ、4人目が戦力外なら争いは起き難くなる。自分を呼ぶのをせっついた訳が解った
ような気がしたが、とても嬉しくなるようなモノとは程遠かった。
以上の如き事を無表情かつ無感動に考えていたのだがその態度は更なる誤解を呼んだ。

「こいつらの名前を聞いても微塵の動揺も無いとは、実に肝が太いな忠夫」
「なるほど、確かに人間にしては稀有な存在かもしれん」
「まさか妾達の事を知らぬなど有り得ぬ事じゃしのう?」

当然知らなかった。全く知らなかった。きっぱりと知らなかった。聞いた覚えも無かった。
師匠達との絡みもあって横島の知識はわりと東洋系に偏っている。大体魔王達と関わりになるなど
予想もしていなかったので、そちら方面の知識の習得を全くと言って良い程していない。

バアルといえば、殴られると痛そうな鉄製の工具ぐらいしか思いつかない。
リリスといえば、昔のサン○イズアニメに出て来た羽の生えた小妖精ぐらいしか思いつかない。
だがいくら横島でもその『思いつき』が間違い無く『間違い』だというくらいは解る。
バレないうちに話題を変えた方が無難そうだった。

「ところでお二方の事は何と呼べば?」

平然とした(表向きは)様子で問い掛けて来る横島を見て、問われた二柱は興味深そうな
表情をしながらフランクに答えた。

「私の事は“バアル”と、呼び捨てで良い」
「では妾もリリスと呼び捨てでは風情が無いのう。ふむ、そうじゃ、“ハニー”と呼ぶが良い!」

「敬語は?」
「「無しで良い」」

落ち着いた口調で答えるバアルとどこぞの星間国家の王女のような口調で答えるリリス。
その差こそあれど、双方共に堅苦しい言葉遣いはせずに済みそうなのは正直助かった。
ただでさえ胃に穴が空きそうなプレッシャーを感じているのだ、この上肩まで凝っては堪らない。
殆ど霊圧は抑えているのだろうが元の力が桁違いな為、それでもかなりキツイ。
だがこれからゲームを始める以上は慣れるしかないだろう。

「じゃあ呼び方はそれで良いとして、今からやるゲームとこの卓に関して説明してくんねえ? アスモ」
「はあ? 説明が必要か? 見たまんまじゃねえか」

そう、横島を含めた4人が囲んでいる卓はどこからどう見ても全自動麻雀卓だった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(あとがき)
う〜ん勝負の方法が下らな過ぎますかね? 一応私の知る限りでアレが世界で最も
勝つのが難しい知的なゲームだと思うのですが。
次回それぞれの実力を披露しながら脱力するような展開になります。

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