ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(14)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 5/31)

加奈江がピートの事を初めて知ったは、半年ほど前。
たまたま書店で見かけた週刊誌に、彼の写真が使われているのを見たのがきっかけだった。アシュタロスと言う、全世界をも脅かした強大な魔族を倒したとかで、どの報道機関もその戦いに加わったGS達の情報を流すのに躍起になっていた頃の話だ。
中でもピートはその見目良い容姿とバンパイア・ハーフと言う神秘的な要素から、立て看板にはもってこいだったのだろう。報道関係の各社はこぞって彼の写真を撮り、雑誌・新聞の表紙や一面に彼の写真を掲載した。
・・・その頃の加奈江は、永遠を求めてなどいなかった。むしろ逆に、この世に永遠などありはしないと考えていたのだが。
表紙に使われている写真を見て綺麗な少年だと思い、それ以上は何の気もなしに手に取った雑誌の、ピートに関する記事を読んだ時、加奈江のその考えは大きく変わった。

バンパイア・ハーフ。
数百年の時を、少年の姿のまま変わることなく歩み続けている存在。
永遠は、ここにある。
永遠は、彼が持っている。
彼はきっと、永遠を持っているのに−−−

「・・・なのに何故、貴方はそれを否定するの?」
部屋の振り子時計が示している時刻はまだ真夜中。
ベッドの上で、加奈江は小声でそう呟きながら、床で眠るピートの顔に触れていた。
青いステンドグラスの下で、ピートは静かに眠っており、目を覚ます気配は無い。加奈江に初めて言い返したものの、会話が全く噛み合わず、さすがに少し疲れたのだ。
それでも、自分に接近してくる異常な気配にはかなり聡い筈のピートだが、相手がこちらに悪い感情を持っていない場合は、そうそう反応出来るわけではない。ピートには色々と、かなり迷惑な行動を取っている加奈江だが、彼女自身はピートへの悪意は全く無い。誘拐が犯罪だと言う事はわかっているが、加奈江には加奈江の考えがあって、全て、ピートに良かれと思ってやっている事なのだ。だから、ピートの頬に触れている今も、加奈江には全く邪気は無かった。
「貴方は永遠を持っているのよ。絶対に・・・」
黒い外套に包まって寝ているピートは、横向きになって軽く手足を曲げ、背中も少し丸めて、全体に丸くなるようにして眠っている。それは俗に胎児の姿と言われ、うつ伏せ寝と同様、孤独や寂しさ、内気、他人への警戒と言った心理的な要因からくる寝相だと一般に言われていた。
「・・・私ね。貴方を知ってから、ずっと貴方を見てたの・・・」
静かにそっと、優しくピートの頬を撫でる。
やはり、人間より体温が低いのだろう。低血圧で、指先やつま先と言った末端部分に少し冷え性の気(け)がある加奈江だが、ピートの頬は、その加奈江の指先よりも少し冷たい気がした。
「貴方の普段の顔も、笑顔も、怒った顔も・・・寂しい顔も、ね」
音を立てないように、静かにベッドから降りると、ピートのすぐそばに立つ。
包帯に顔の半分を覆われた加奈江の姿は、青白い月明かりの下で、怪奇趣味の蝋人形のように見えたが、その足元で眠っているピートの姿も、冷たく青い光の下では、体温も命も無い作り物の人形のように見えた。
「・・・だから、私は貴方が何を抱えているか知ってる・・・分かったの・・・貴方をずっと見てたから・・・貴方だけを・・・」
青い光に照らされて色を失い、銀髪か、白髪のように見える金髪を撫でる。
そして、静かにすくい上げるように首の下から手を入れると、加奈江は眠っているピートの頭をそっと腕に抱き抱えた。
「・・・加奈江・・・さん?」
頭が大きく動いたので、さすがに目を覚ましたのだろう。
気がついたら加奈江の肩口に顔を寄せるような格好になっており、戸惑ったピートは加奈江の方を見ようとしたが、がっちりと頭から抱きしめられていて、なかなか動けなかった。
「加奈江さん?ちょっと・・・」
これまで、こういう風に抱きつかれるような感じで触ってこられた事は無かったので、戸惑いながら、離れようとする。
そんなピートをしっかり抱きしめたまま、加奈江は、彼の耳元に顔を寄せて、囁くようにに言った。

「貴方はきっと、本当の永遠を持ってるのよ・・・それを、証明して見せて・・・」

「え」
ピートが、聞き返す声を言い終わるか終わらないかの内に、タンッ、と、爆竹が弾けたような音が響く。加奈江にとって、それは予想外に軽い音だった。
腕の中で、ピートの体が一瞬引き攣れたのを感じる。しかし、それは本当に一瞬の事だった。加奈江が、ピートが引き攣れたのをそうと感じた次の瞬間には、彼は脱力しており、カクンと言う感じで、力の抜けた首が折れ曲がるように項垂れる。それに続いて、加奈江の腕を振り解こうとしていた手が、首と同じように、だらりと両脇に垂れ下がった。
「・・・・・・」
ピートを抱きしめていた手を無言の内に解き、ピートの体を放すと、立ち上がる。
ピートの後頭部に回されていた方の加奈江の手には、拳銃が握られていた。
骨董店ででも買い求めたのか、工芸品らしい装飾的でなめらかな曲線彫りが各所に施されている少し古めかしい物だが、それでも立派に銃として扱える物だ。
それに込められた銀の銃弾で、後頭部から頭を打ち抜かれたピートは、加奈江が体を離した事で支えを失って、あっさりとその場に倒れた。額に出来た風穴から流れ出す血が外套に染み込み、フローリングの床の上にも流れ出す。力無く投げ出された指が、小刻みに、ヒクヒクと小さく痙攣するように震えていた。
「・・・・・・」
倒れたピートを無言で見つめると、再度、引き金を引く。
今度は、胴を−−−心臓を打ち抜かれ、加奈江が引き金を引くたびに、完全に脱力した筈のピートの体は、弾が撃ちこまれる衝撃にビクンビクンと小さく跳ねた。
弾は全部で六発だが、旧式なために自動連射ではないので、一発ごとに引き金を引く。
頭に一発、心臓に五発。
引き金を引くたびに、血に染まっていくピートの姿を目の前にしながらも、加奈江には、邪気は一切無かった。
これも全て、ピートのために良かれと信じてやっている事なのだから。
六発全部を撃ち尽くし、部屋に持って来た時と同じように、それをワンピースのスカートの裏に隠すと、加奈江はピートを見つめた。
青い月明かりに照らされているために、赤い筈の血は黒っぽいような、不気味な色に変化して目に飛び込んでくる。
そんな濃い色をした血溜まりの中で、もともと色素が薄い上に、血を流したせいかさらに青白くなって見えるピートは、冗談でも形容でもなく、命の無い人形−−−『ヒトガタ』と化していた。
薄く開いたままの目を、瞳孔が開いているか確認してから、そっと伏せる。
そして、加奈江はピートの頭をそっと撫でると言った。
「・・・大丈夫よ。心配しないで」
血に濡れた金髪にそっと手を差し入れ、指に付いてきた血を舐め取る。
「貴方は永遠を持っているんだもの・・・私はそれを確かめたいの・・・貴方を守ってあげたいから・・・」

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