ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い42


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 3/27)

『一角公』ことアムドシアスは凄まじい爆音と共に、数メートル吹き飛ばされる。

「ちい・・・・・・・・」
何とか空中で体勢を立て直し、着地する。脇腹に走る鋭い痛みに顔が歪む。痛みが走る場所ー右脇腹に目をやれば軍旗が巻きつけられた短めの槍が突き刺さっていた。

「成る程、これが貴様の奥の手の一つか・・・・・・・・」
痛みを意識から締め出し、槍を引き抜きながら、一角の魔神は憎々しげに口を開いた。

アスモデウスの力の象徴。軍旗の垂れ下がった槍。
流石にそう伝えられているだけあり、込められた力は相当な物で、魔神である自分の体を貫くほど貫通力は高い。おまけに無差別破壊を起こしやすい高位魔術と違い、使い勝手は良さそうだ。

今まで、使われなかった理由も見当がつくのだが。

「威力は申し分無いが、射程距離は短そうだな・・・・・・」
あの時、お互いの距離は一メートルあるかないかだった。
そんな距離になるまで、使うのを待たねばならない理由など他に思い浮かばない。そして、それは事実だった。

「何にしても、こんな小細工に頼らなければ戦えないのか? 惨めだな」
アムドシアスの声は嘲りを含んだものだった。

「だが、実際お前はダメージを負った。足元がぐらついているぞ。このパターンで何処かの馬鹿も倒せたしな」
横島は、アムドシアスの挑発には乗らず冷静に指摘する。

過去にこの攻撃で倒された者は多いはずだ。何しろ「王手を掛けた」と思った瞬間グサリと刺されるのだから。


傷は既に塞がっているが、ダメージは大きい。加えて、精神の揺さぶりにも成功している。

だが、横島も満身創痍。戦局は微妙、どちらが勝つかわからなくなっていた。






一方、美神達・・・・・・・・先のタマモの凄まじい炎の暴風雨によって、草の蛇達はおろか、周りの草木までもが、根こそぎ消し炭と化している。
「しかし・・・・・・見事に焼けたわね・・・・・」
「たまげたでござる・・・・・・」
辺りの光景を見渡しながら美神やシロは呟く。服があちこち、こげてはいるが、何とか無事だ。

当のタマモは何やら幸せな顔で熟睡し、時折、「横島ー!! この私に油揚げを食べさせるのよ・・・・ほら早くぅ・・・・」「首輪や半ズボンはいいわよねえ・・・・」「耳や首筋が弱いのね・・・・」などと危ない寝言を呟いている。

一方、シロはタマモの危ない寝言に、当然の如く反応し「女狐!! 『拙者』の先生に何を・・・・・・・!?」と言いながらタマモの肩を掴んで、がたがた揺すり始めた。断っておくが、横島はゴモリーとルシオラのものである。断じて、猪突猛進単純狼のものではない、師匠ではあるが。


「やれやれ・・・・・・・少しは成長しなさいよね」
そんな二人の様子を見やり、美神は苦笑した。

ちなみにタマモの寝言は「あうー、メイドさんでもいいからお側に置いてください。え・・・・・・別に構わない?でも騒がしい馬鹿犬は駄目? いいわよ・・・・狐は友情よりも恋に生きるものなのよ・・・・フフフ」と続く。

どうやら女王様からメイドさんにクラスチェンジ(ジョブチェンジ?)したらしい。タマモの夢の会話の相手は誰なのだろうか。
シロは完全に置いてきぼりのようだ。シロは「酷いでござる!!」などと言っているが、タマモは聞く耳持たず。

断じて、筆者の陰謀などではない。






閑話休題。

「ち・・・・・・・やるな!!」
「性格は別として、貴様の力量は認めてやる」
ゴモリーとサルガタナスは、鋭い切りあいを演じていた。
黒い片刃の剣が、鋭く胴を凪ぐが、ゴモリーは槍を斜めにして受け、そのまま剣を跳ね上げる。
バランスを崩した相手の胸を鋭く狙う。だが、不意にサルガタナスの姿が掻き消える。

「ち!!」
後ろからのタイムラグ殆ど無しの斬撃をかわす。

「外したか・・・・・・」
サルガタナスは舌打ちと共に、忌々しげに吐き捨てる。

「瞬間移動か・・・・・・」
「その通り、一定空間だけだがな」

この「一定」という言葉が曲者だ。
『敵と自分の間の空間』なのか、それとも『戦場全体の空間』という意味なのか。

(ふん・・・・・わざと含みのある言い方をしたな・・・・・)
相手は「その通り」と言うように薄笑みを浮かべている。どの道、向こうの標的が自分である以上、大した問題では無いが・・・・・・・

ふとサルガタナスの後ろに見知った気配を感じる。
(そうか・・・・・・・・よし、手はあるな)
視線を交わさずとも、ゴモリーの意図を読み取った相手は小さく頷いたのが気配でわかった。







「考え事は俺に殺されて、あの世でするんだな!!」一方、サルガタナスは一気に勝負を決めるつもりらしく、間合いを詰めてくる。ゴモリー相手だと効果は見込めないからか、瞬間移動の能力を使うつもりは無いらしい。
「出でよ、我が分身!!」
以前、グレーターデーモンとの戦いで見せた自らの魔の衝動の化身たるさそりを瞬時に呼び出し、斬りかかってくる相手に差し向ける。
だが、相手が悪すぎた。グレーターデーモンとサルガタナスを比べるほうが間違いとも言えるが。

「小賢しい!!」
思った通り、一刀のもとに切り裂かれ、足止め程度にしかなっていない。

迫りくるサルガタナスと一瞬、視線が合う。

黒い片刃の剣が振り下ろされた。その鋭利な刃は受け止めた槍をたたき折り、さらに「私の額を割り、そのまま首、胸を通過し、腰の辺りで漸く止まった。紫色の鮮血が掘り当てられた間欠泉のように飛沫を上げていく。



「おかしい・・・・・手ごたえが無い」だが美しき女公爵に剣を振り下ろした当の本人ーサルガタナスは呆然と立ち尽くしていた。
一瞬の空白。そんな彼の止まった時間を戻したのは背中に走る鋭い痛みだった。
「幻視の魔眼か!?」
「ご明察」
ゴモリーは堕天前は月の女神であると同時に夜魔の女王リリスの妹でもある。

魅了系もしくはそれに類する能力を使えてもおかしくは無い。自分自身にも瞬間移動という特殊能力があったのに相手も似たようなものを持っている可能性があることを忘れていた。

幸いな事に、視線を合わせなければ効果が無いらしいが・・・・・・・・
だが、背中に走る痛みは別のものだ。
(どういうことだ・・・・・・・!?)
自分の迂闊さに歯噛みしながら振り返ると、自分の背中に霊剣が突き刺さっている。


「僕を忘れて貰っては困るね・・・・」
霊剣を突き立てた張本人ー西条は悪戯っぽく、それでいて凶悪に笑う。続けて、彼は離れ際に、サルガタナスに装甲車の中にあった改造型プラスチック爆弾を起動させて、投げつけた。同時にゴモリーも離脱する。


耳を引き裂くような爆音が響き渡り、サルガタナスの体が煙と炎に包まれる。
「これで終わりなわけは無いな・・・・・・」
「ああ・・・・この程度で、終わる甘い相手なら苦労は無い」
ゴモリーの言葉を裏付けるかのように、煙と炎の向かうからは禍々しい狂気と殺気が急速に膨れ上がっていった。







ザシュウウ!! 魔剣で胸を切り裂かれた一角の魔神がたたらを踏む。続いて、放たれた連続突きが腕を貫いた。
とうとう『一角公』アムドシアスは膝をついた。
「お互いボロボロだな・・・・・・」
自らも傷だらけとなった横島が油断無く、魔剣を向けながら、宣告する。
「全くだ、だがそう簡単に殺されはせんぞ」ハルバートを杖代わりにしながらもアムドシアスの声は揺らいでいない。
敵ながら大した気力だ。まだ勝負はついていないのだ。

両者が再び、武器を構えた瞬間、爆音が轟き、ある一点から凄まじい狂気が溢れ出してきた。




「ほう・・・・・・サルガタナスの本当の姿が見られるか・・・・」
「本当の姿だと?」
その狂気の源の察しがついたらしいアムドシアスの愉快げな声。
奴の本当の姿はあの人型ではないということなのか?

だが、そんなことを考えている余裕は無かった。
横島は頭に浮かんだ疑問を追いやり、ボロボロの体を引きずり、唸りを上げる相手のハルバートを受けた。









現に周囲の重圧は加速度的に増していた。
『形を持った狂気』といえばいいのだろうか。
西条は思わず、後ずさりしている。

やがて中にいる存在に脅えたかのように炎と煙が消え去り、サルガタナスは姿を現した。



「よくもやってくれたな・・・・・・ゴモリーやアスモデウスならいざ知らず、人間の貴様ごときに傷を負わされるとはな・・・・・・」
その声にはこれ以上無い憎悪がこもっている。背中の傷は消えているが、屈辱は脳裏にこびりついているらしい。
サルガタナスの左手に持っていたジャスティスから黒い煙が立ち昇り、たちまちの内にジャスティスはボロボロに腐食していった。




「貴様の大事な霊剣だったな・・・・・・こんなものでも一応返してやる」
サルガタナスは霊剣ジャスティスだった腐食した金属を西条へ投げつけた。
最早、霊剣は濃硫酸の液に浸かった鉄くずのようにボロボロだ。修復は絶対に無理だった。サルガタナス級の魔族に手傷を負わせた上での最後を誇るべきか、愛用の武器を失ったことを嘆くべきか。




「貴様らは殺す・・・・・・・俺の『本当の姿』でな・・・・・・生きたまま内臓を引きずり出して、脳みそを潰してやる・・・・・・」
言葉と同時に、サルガタナスの体が変化し始めた。同時に重圧も増していく。



サルガタナスの変化した姿に西条は凍りつく。余りにも禍々しく、異様な姿だ。
流石にゴモリーの顔も驚愕と緊張で引きつっている。





『さあ・・・・・・いい声で鳴けヨ、虫けらドモ・・・・・・!!』
サルガタナスが自らの異形を曝け出し、襲いかかろうとした瞬間、突然、彼の頭に声が響いた。

あの自分だけは正体を知っている『少年』の声が。


〖サルガタナス、アムドシアス、二人とも今日はその辺でいい。アスモデウスに手傷を負わせ、例の薬ーアポカリプスをばら撒いただけで十分だ。それに・・・・・今日は挨拶程度にするんじゃなかったのかな? 本格的な「お祭り」はこれからだ。じっくりいこうじゃないか〗

静かだが有無を言わさぬ重圧を持った『少年』の声。



「わかったよ、あんたの言うとおりだ。アムドシアス!! ボスの声が聞こえただろうが、引き上げるぞ!!」
通常形態に戻ったサルガタナス
アムドシアスも不承不承ながら頷き、ハルバートを収め、異界のゲートの中に消えていく。



『少年』の声が聞こえなかった横島達には突然の敵の撤退にあっけに取られている。


「そうそう・・・・・・ついでに教えてやると、例の薬の意味をよく考えてみるといい・・・・楽しい楽しいお祭りの幕開けだぜ」
『一角公』に続き、異界のゲートに消えるサルガタナスが嘲るように告げる。

さらに言葉が告げられる。
「それと・・・・・・・西条だったか? 貴様は俺が殺す。楽には死なさん、必ずな・・・・・・・!!」


その悪意に満ちた死刑宣告を最後に「斬撃狂」は虚空に消えていった。




薬の名前の意味ー『黙示録』それが意味するもの・・・・・・・・・・・・


これから神魔界や人界で流される大量の血を嘆くかのように、雨が滝のように流れ、稲妻が鳴り響いていた。






後書き    これでロンドン編終了、次回は上海編です。西条、やばいです。霊剣ジャスティスを失った上に、やばい奴に目をつけられちゃいました。サルガタナスの本性はどんなんでしょう? 物凄い姿なのは確かですが・・・・・・・・ゴモリーの魔眼は姉(リリス)のように相手を魅了する能力ではありません。あくまで幻を見せるだけで、視線を合わせないと駄目。でも戦いの流れを変える切っ掛けにはなりますね。
ちなみにサルガタナスだけは『少年』の正体を知っています。こいつの瞬間移動の能力も凄いですが(タイムラグ殆ど無し)・・・・・・・・西条対サルガタナスのフラグが成立、原作の女性キャラの誰か対サルガタナスの対決もあります。

横島の隠し技の一つの槍。貫通力が非常に高い代わりに、射程が一メートル前後ととんでもなく短いです。掌の真ん中から、飛び出し式ナイフのように出てくるらしいです。(モデルは旧ソ連のスペツナズナイフです)
今回のように相手に不意打ちでグサリと刺せば、大ダメージの上、さらに精神を揺さぶれます。
過去、このパターンで負かされた奴は多いみたいです。






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