ザ・グレート・展開予測ショー

蝿の王と東の王(前編)


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 3/26)

「本当に上手くいくんだろうな?」
「魔界軍空軍元帥とあろう者が情けない、君の実力ならば大丈夫さ」
魔界の東方の深い森の奥。

そこに二人の男が密談をしていた。一方は、黒と銀を基調とした軍服を身に纏った黒髪の男。一見したところでは彼は人間と変わりないように見える。だが、よく見れば彼の眼は蝿などを初めとする昆虫と同じ複眼だ。彼こそ、魔界の盟主サタンに次ぐ実力を持つ男。
『蝿の王』『空の覇者』『最速の魔王』の異名を持つ男、魔界軍空軍元帥ベルゼビュート。
一方の会話の相手は、魔界の東方を治め、悪魔六十六軍団を従える七十二柱筆頭にしてサタンに匹敵する実力を持つとも言われる『東の王』バエルだった。バエルは赤と黒の軍服で両肩に猫と蛙の頭蓋骨の肩当てをしており、その上には黒いローブを纏っていた。



奇しくも彼らは二人とも、黒を基調とした衣を纏っており、彼らの奈落よりも深い内面を表しているかのようだった。

双方、魔界では知らぬ者が無い大物であり、何故こんな辺鄙な場所で密談をしているのだろうか?

実はベルゼビュートは万魔殿に叛旗を翻そうとしていた。
その企みを持ちかけてきたのは目の前のこの男。自分の兵鬼などを貸し与え、叛乱が成功した暁には自分を支持するという。確かにこの男ならば万魔殿での敵対する連中を黙らせることが出来るだろう。

「私の兵鬼に加えて、君の配下には空軍の猛者が付いている。何も恐れることは無い」
バエルの言葉はベルゼビュートの迷いを振り払った。
ただでさえ、『サタンにとって代わりたい』という野心を抱く『蝿の王』にとっては、『東の王』の言葉は起爆剤に過ぎなかったのかもしれないが。


「そうそう君の叛乱に当たって、恐らく『剣の公爵』アスモデウスと『吟詠公爵』ゴモリーが動くかもしれん」
「たかが万魔殿を離反した逸れ者とそれに惚れている女公爵だろうが!! どの道、この俺の敵じゃねえよ」
『蝿の王』は『東の王』の忠告を一笑に伏した。純粋な実力ではこちらが上。そう信じ切っているのだ。
一度、迷いを振り払った彼は一気に増長していた。



バエルの言葉はそれ自体が魔力を持ち、神魔人あらゆる者の野心を掻き立て、判断力を失わせる。当然、この空軍元帥も例外ではなかった。野心に駆られていればなおのこと。


「じゃあな・・・・・せいぜい俺の栄光への第一歩を見ていてくれよ」
「ああ・・・・成功を祈っているよ」
『蝿の王』は飛び去り、後に残ったのは『東の王』のみ。
「くくく・・・・・栄光への第一歩か、貴様ではサタンどころか、アスモデウスにも勝てんさ。単純で力押しの空軍元帥ではな」先程とは打って変わった冷淡で酷薄な口調。

バエルの顔にこれ以上無いと言うほど酷薄な笑みが浮かぶ。
(まあ出来れば、アスモデウスかペイモンと相打ちになってくれれば邪魔者が一気に減る。どの道、空軍元帥の座は私が貰う、貴様の魔力もな・・・・)


「ククク・・・・・全ては私の掌の上だ・・・・」
この世の全てを嘲笑うかのような彼の声を聞く者は森の木々以外には無かった。





「ベルゼビュートが叛乱とはな」
「ああ、前々からそんな気配はしていたがな」
『剣の公爵』アスモデウスの呟きに、傍らの『吟詠公爵』ゴモリーは鳶色の長い髪を弄びながら答えた。

実は彼ら二人は恋人同士だと言う噂が密かに飛び交っていたのだが、当事者である彼らは全く気付く様子も無い。噂にもお互いの気持ちにも。
先程、現在の情勢を万魔殿に報告に行った大鎌の男―『死霊公爵』ネビロスは「手料理作ってやって、どっからどうみても恋人通り越して、夫婦じゃねーか・・・・俺は独り身で・・・・・(以下略)」などとぶつぶつ道中こぼしていたという。



ちなみに愚痴を言い合う相手は、赤毛の三本角の男―『西の王』ペイモンだろう。

それはさておき彼らは、魔界の丘の上に陣を張り『蝿の王』と彼が率いる空軍、そして魔術で作られた合成兵士の軍団、大量の魔道兵鬼を見据えていた。




万魔殿陣営

ベルゼビュート及び叛乱軍討伐部隊
『剣の公爵』アスモデウス指揮下―悪魔七十二軍団。(サタンの客将として参加)
『吟詠公爵』ゴモリー指揮下―悪魔二十六軍団。


万魔殿守備及び迎撃部隊
『西の王』ペイモン指揮下ー悪魔二百軍団。
『死霊公爵』ネビロス指揮下ー『死霊大隊』含む悪魔十九軍団。
その他の七十二柱数名及び指揮下の軍団。


遊撃部隊
『恐怖公』アシュタロス指揮下ー悪魔四十軍団。通称『恐怖公旅団』。





ベルゼビュート陣営
『蝿の王』ベルゼビュート指揮下ー魔界空軍の約半数(アガレアリプト、パフォメットなど)
魔術によって生み出された魔道兵鬼及び合成兵士(出所不明)


質でいけば、万魔殿陣営のほうが数段有利。だが、ベルゼビュート陣営には兵鬼と恐怖心の無い合成兵士が大量にあり、それらが戦場の半分を埋め尽くしていた。
物量戦で消耗し、敗北する危険性は十分にあった。
何よりサタンに次ぐ実力を持つベルゼビュート自身・・・・・桁外れの魔力と他の誰をも凌駕する機動力ゆえに彼は空軍元帥の地位を得、『最速の魔王』の名を手にしたのだ。


「それにしても、奴は何処であれだけの兵鬼や兵士を入手したのか・・・・・・」
「それも含めて、ペイモンやネビロスが調べているが、浮かび上がって来ないそうだ」
ゴモリーの言葉どおり、今まで放った密偵、間者は全て碌な目にあっていない。
記憶を操作された者、精神を破壊され、廃人同然になった者、二度と帰って来なかった者・・・・・・その数は五十名を超えている。ネビロスが死霊術で呼び出しても、彼らは死してなお錯乱しており、話が要領を得ず全く参考にならない。






ベルゼビュートが叛乱を起こすこと自体は不自然な事ではない。以前から奴は、サタンに取って代わろうという野心があることは周知の事実。
だが、奴にあれ程高度な兵鬼などを造る技術力は無かったはずなのだ。技術力がある連中の中でアシュタロスはベルゼビュートとは犬猿の仲なので、まず除外。あと思い浮かぶのは数名、誰もが潔白なように見えて、また疑わしく思えてくる。




(だが、恐らくあの兵鬼の出所はわからないままだろう・・・・・・)
こういう時のアスモデウスの勘は外れたことはほとんど無い。一度くらい外れてくれてもいいだろうに・・・・・


ちなみに彼ら以外の魔界の実力者達は表立った動きを見せていない。騒ぎを起こしたくないのか・・・・・それとも勝ち組に追従するつもりなのか・・・・あるいはその両方か。



「アスモデウス!! 万魔殿より伝令だ!! ベルゼビュート陣営に動きがある。連中が万魔殿に到着する前に叩くぞ!!」ゴモリーの鋭い声が飛ぶ。
「ああ、わかっている。ここからでも連中の動きがよく見える」

確かにベルゼビュート陣営は万魔殿に向けて、進撃を開始している。
アスモデウスは魔龍に乗り、ゴモリーは自らの翼で下に降りていく。配下の軍団達が続く。


今回の叛乱では、あからさまな野心を持ったベルゼビュートが余りにも目立っているおかげで、彼の裏に黒幕が居るとは誰も気づいていない。
これが後に大きな禍根を残すことになるのだが・・・・・・・






『蝿の王』の凋落と破滅への秒読みが始まった。





後書き  ベルゼの凋落の切っ掛けがこれです。この話は本編で重要な関りを持ってきます。特にサッちゃんがえらいことに・・・・
ベルゼ昔は強かったんです(しかも人型、でも複眼、おまけに馬鹿)
犬猿の仲だったアシュの軍門に下った気分はいかがなものか(取って代わろうと思っていたのかもしれませんが・・・)
次回、アスモ対ベルゼのバトル。七つの大罪を背負う男同士の激突です。

ちなみに、バエルの肩当てが猫と蛙の頭を持つという伝承の名残です。やはり黒幕は・・・・・・・こいつか。

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