ザ・グレート・展開予測ショー

横島借金返済日記 4


投稿者名:純米酒
投稿日時:(05/ 3/25)

「1番、6番、7番コートの結界修復急いで!!」

結界札を片手に走り回る。

「彼女よりも彼の方が重体だ、彼を優先してヒーリングを!!」

役得とばかりに喜んでお姫様抱っこしていた女性を渋々おろして、汗臭い男の足を掴んで医務室へ引きずっていく。
その間に女性は別の人物に手当てを施されていて、ヒーリングの最中に目論んでいたナンパはダメになる。

チョコマカと、まるでハツカネズミのように走りまわっている「運営補佐」の腕章を着けた男は、この依頼をした人物を心の中で罵っていた。

(このクソ忙しいなかでどうやってナンパせいっちゅーねん!)

依頼人の思惑と自身の思惑がすれ違っているので、的外れな文句なのだが。
さらに依頼をした時に『忙しい』という事は説明されていた。

(さっきのねーちゃんはなかなかスタイルが良かった……惜しいことしたなぁ
 クッソー!!こんな事なら初日に冥子ちゃんの話し相手になってないでナンパに行ってりゃ良かったー!!」



GS試験の日程は、初日に一次審査の霊力測定と二次審査の受験生同士の試合の初戦だけが行われ、二次審査の試合は二日目から本格的に行われる。

初日は受付を終えた後、試合会場の結界を張りさえすれば意外と忙しくは無かった。

あっけなく仕事が片付き暇を持て余していた時、

「あ〜!横島クンだ〜」

と、妙に間延びした声を発する、この世のものとは思えない生き物を複数引き連れた、メン○レータムな看護婦に呼び止められる。

このときに聞こえないフリをして逃げていればよかったと思っても、逃げた時にどうなるかをリアルに想像できた為、実行する勇気は無かった。


(女の人と二人っきりなのに嬉しくない!なんでこんなに嬉しくないなんだ!)

実際は、彼女の式神が周りを取り囲んでいてたいそう賑やかな状態なのだが、彼は十二体のしもべの恐ろしさをまさしく「体験」していたのだ。
「ぷっつん」されては叶わないと、慎重に――時には適当に相槌をうちつつ過ごさざる終えなかった。

他の補佐担当者やGS協会幹部も「ぷっつん」の破壊力を知っている。『触らぬ神に崇り無し』を実践し、横島という生け贄の存在に感謝していた。

自分達二人……というより式神とその使役者を盗み見るようにしては、視線をそらしたりしている者たちを見て横島は疑問に思う。

そんなに怖いならなんで冥子ちゃんを呼ぶのか、と。

思い当たる理由は、彼女の格好からも容易に想像がつく『救護班』としての活躍に期待していることか。

霊能力で負った傷は心霊治療で癒すのが最良なのだが、心霊治療の心得のある人物は少なく――またそれが出来たとしても、霊を祓うことに特化し続けた現代のGSの攻撃力に追いつける程の能力者はとても少ない。
そんななか、心霊治療の可能な式神のショウトラの存在は、使役者の問題に目をつぶる事を仕方ないと思わせる位大きなものなのだ。
霊薬や仙薬、魔女の薬、あるいは普通の薬でも治療は可能だが、ショウトラは使役者の霊力のみで治療が可能な為、おトクというのも理由だ。
それでも「ぷっつん」で被害がでた場合は霊薬等と同じくらいの出費が予想されるため、本末転倒ともいえるのだが……


「横島ク〜ン、冥子のお話きいてる〜?」

「えっ!? あ、いやちゃんと聞いてるよ」

しばらく考え事をしていて反応のなかった横島を、膨れっ面で覗き込む彼女の姿は可愛らしいものなのだが『彼女が機嫌を損ねるのは即ち身の危険』という認識が根底にセットされている横島は慌てて誤魔化す。

「本当に〜?」

「ウン、本当に!」

「本当に本当に〜?」

「本当に本当に!」

「本当に本当に、本当に〜〜?」

「本当に本当に、本当だよ、冥子ちゃん!!」

この後も似たようなやり取りが延々と続き、一日目が終了してしまったのだ。


そんな一日目を後悔して、張り切って望んだ二日目なのだが……想像以上の忙しさにナンパなどしている余裕は全く無く、命ぜられるがまま走り回るだけだった。

それでも時が経つに連れて試合の数は減っていき、負傷者も修復すべき結界の数も少なくなっていく。
負傷者の手当てもひと段落つき、使われなくなったコートが出始めると少しばかり余裕が戻ってくるが、なにぶん今までが忙しすぎたために積極的な行動にでようという気が起きなかった。

パイプ椅子に腰をおろし、ぼんやりと試合を眺める。
試合の行われているコートを眺めてみても、残っている受験生が『男ばかり』ということで精神的にも体力的にも回復する見込みが無さそうな状況だ。

だが、横島は試合から目を離す事が出来ずにいた。
別段、試合内容のレベルが並外れて高いものという訳でもなく、特異な能力者がいる訳でもない。

真剣に闘いを繰り広げている――
傷を負っても立ち上がり相手に向っていく――

そんな光景を目の当たりにして、横島は自分の試験の時のことを思い出していた。

成り行きと目先の欲で受験した試験を、運と小竜姫から授けられた心眼の力を借りて合格したのだ。
お札もロクに使えない自分が合格したのを考えてみる。「一生分の運を使い果たした」と、言われても今なら納得できてしまう。


試合も残す所、決勝戦だけとなっていた。
自分の周りに、いつのまにか手の開いた運営補佐に携わっていた人達が集まり、試合会場に熱い視線を送っていた。

と、不意に声を掛けられた。その声は横島の良く知っている声だった。

「やぁ、仕事のほうはどうだったかね?」

神父は横島の隣に腰を下ろしながら話しかけてきた。

「忙しくてナンパどころじゃなかったですよ」

試合会場で審判からの開始の合図を待つ二人から目を離さずに応える。

「私はナンパをして欲しくてこの仕事を依頼した訳ではないよ。しかし、一日目は余裕があったとおもうんだが……」

神父も神通棍を打ち合う二人に視線を向けたまま横島と会話する。

「冥子ちゃんに捕まってましたんでね。身動き取れませんでした」

自嘲めいた笑い声をあげる。
神父もなんとなくその光景が眼に浮かんだのか、引き攣った表情で乾いた笑い声をあげる。

「そ、それは……なんとも……」

言葉につまり、わざとらしく咳払いをして済ますしかなかった。
GS協会の役員になってからますます六道家に対してうかつな事を言えないのだ。


視線の先ではお互いの誇りをかけて闘う二人の姿がある。
この試合で今年度の受験者の主席が決まる。


「そういえば、君が受験した時はイロイロとあったね」

「そうですね〜……メドーサが部下をGSに仕立て上げようとしていて、
 それを防ぐ為に美神さんが受験生にまぎれて潜入することになって……」

過去を懐かしむでなく、淡々とした口調で横島は答える。


試合は、お互いが最後の一撃に賭けた膠着状態に陥る。


奇しくも自分と雪乃丞との試合と同じような状況になった決勝戦を目の当たりにし、当時の自分の事を鮮明に思い出す。

美神の忠告に逆らって試合に臨んだ。
心眼という師匠とも味方ともいえる人物(?)の見立てでは五分五分の勝負だった。今考えても相当な無茶をしたと分かる。

それでも、意地を見せたかった。

ダレに?

期待してくれた女神さまか?

それとも、いつも優しい言葉をかけてくれた彼女に?

それとも…自分には手の届きそうにないちょっとハデめのいい女に? ――たぶんそうなのだろう。

「勝手にしなさい!!」と送り出してくれたとき、認められたような気がして嬉しかった。だから調子に乗って飛び掛ってみたんだろう。
いつもどおり思い切りシバかれて、いつもの自分に戻った時は安心もしたが少し残念だった。

(そういえば栄光の手が使えるようになった時も、美神さんにハッパかけられた様な気がしたなぁ……)

右手を見下ろす。お札もロクに使えなかった自分が手にした必殺技。

香港全体を吹き飛ばすような火角結界が現れたとき、自分は逃げるようにと彼女に言われた。
死ぬのは嫌だ。痛いのも怖いのも勘弁して欲しかった。だから彼女の言葉に従った。
だけど、彼女が居なくなるのはもっと嫌だった。だからまた逆らって彼女の元に向った。

文珠を使えるようになったときも、やはり彼女の隣に立っていたいという気持ちがあった。
助手や荷物持ちの自分では、彼女の支えになれないという事を突きつけられた一件だったので、良く覚えている。

月での仕事で初めて認められたと思えた。守りたくて……――ただそれだけの気持ちで必死に戦った。

誰よりも彼女に振り向いて欲しかった。認めて欲しかった。



突如として巻き起こった拍手と歓声で横島は現実に引き戻される。
見てみれば道着姿の男が、倒れている修験者の男に手を差し伸べていた。
横島が気付いた時には決勝の試合に決着がついていた。

「主席を取るって大変な事なんですね……」

ポツリともらした横島の言葉は唐巣に届いていた。

「確かに、何試合も勝ち抜き続けるのは並大抵の事ではないね。だが、あくまでもこれは資格試験だ。
 これからGSとして大成するかどうかは今後の努力でどうにでもなることだよ」

年寄り臭い掛け声と共にパイプ椅子から立ち上がった唐巣神父の答えに、幾分真剣な表情を取り戻した横島。
その表情をみて、満足げな表情の唐巣は祈らずにはいられなかった。

(君の未来に幸あらんことを…頑張りたまえ、横島君!)






会場の後片付けも終わり、運営補佐を示す腕章の返却とともに二日分のギャラを茶封筒で受け取る。
はしたないとは知りつつも、中身を検めながら歩いていると、一日目の大半を一緒に過ごした彼女が声をかけてきた。

「おつかれさまでした〜。今年は横島君がいて〜楽しかったわ〜」

「は、ははは……なんかずっと走り回ってて疲れたよ。けど、なんか充実してたなぁ」

不純な動機で請け負った仕事だったが、自分を省みる良い機会になったということで、横島の表情は晴れ晴れとしていた。

「横島君と一緒だと〜お仕事も楽しいしの〜」

「アハハハハ……」

横島にはあまり良い思いではない。故に愛想笑いしか出てこなかった。

「だから〜今度一緒にするお仕事も〜冥子すっごくたのしみなの〜」

「ハハハ……ハァ!?」

そんな約束をした覚えのない横島は凍りつく。

「ちょ、ちょっとまって冥子ちゃん。いつの間にそんな話に……」

「昨日お話したじゃな〜い」

「え?」

思い返してみるが、一向に思い出せない。思い出せる訳がなかった。横島は、ずっと冥子の話を聞かずに考え事をしていたのだから。

「……もしかして〜昨日のお話忘れちゃったの〜?」

冥子の瞳が潤みはじめ、鼻をすする音も聞こえてきた。

まずい。このままでは非常にまずい。

「あ、いやっ! 忘れた訳じゃないんだ! ただもう一回詳しく確認したいなぁ〜って……」




しばしの沈黙。




「……本当に〜?」

「ウン、本当に!!」

「本当に本当に〜?」

「本当に本当に!!!」

「本当に本当に、本当に〜〜?」

「本当に本当に、本当だよ、冥子ちゃん!!!!」

「本当に本当に本当に、本当に〜〜〜??」

「本当に本当に本当に本当さっ!!!!!」

爽やかに笑って見せる横島。無意味に歯も光らせてみる。しかし、どう見ても嘘臭さ満点の笑顔にしか見えなかった。
だが、冥子はあっさりとその笑顔に騙されてしまう。人が良いというか、まるで疑う事を知らないというか……



こうして横島君は、冥子ちゃんと一緒にお仕事をするハメになりました。












試験会場から自宅への帰り道。
頭を抱えて悩みながら歩き、ブツブツと呟く横島が居た。

当然周囲から危ないものをみるような目つきで見られる。
指差す子供の手を引く母親、しっかりと周囲に聞こえる声でここだけの内緒話をするオバサン方、バカにするような視線を投げかける学生達、果ては職務質問した方が良いのか迷っている警察官等々。

当然、横島はこのような人達が自分を見ていることに気が付かない。
それほど深く悩み、周りが見えていないからだ。

「あ、横島さん! こんばん…は……」

「あーっクソ! 俺のバカ!! 何やってんだよ、もうあんな思いするのはコリゴリやってゆーのにぃぃぃっ!!」

だから、彼に挨拶しようとした彼女さえも目に入っていなかった。



無視された格好になった彼女は滝のような涙を流し、遠ざかる彼の背中をながめながら呟くのだった。

「よ、横島さんに無視されてしまいました………貧ちゃん、私グレてもいーい?」

「……グレたらどないなるんや?」

「晩のおかずをコンビニのお惣菜にします」

「ア、アカンで小鳩!! いくらワイが福の神になったってゆーても、そんなゼータク出来るほどやないんやっ!!!」

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