ザ・グレート・展開予測ショー

こどもチャレンジ(10)


投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(05/ 3/24)



「ねぇ〜〜あなた〜〜〜?」

 もう40半ばに届こうとは思えない甘ったるい声。

「今度はなんだい?」

「冥子の事なんだけど〜〜」

 彼女はそう言って、夫の配下……つまり六道グループ傘下の、興信所の名が入った封筒を渡す。 その興信所は、六道の息が掛かっているだけに、言うまでもなくオカルト方面にも明るい。

 それを受け取ると、中身を取り出して手早く内容に目を走らせる。

「これは唐巣くんの所の…?
 ああ… なるほど、同世代の子供の中にと言うのは、確かにいいかも知れないね。 冥子はちょっと幼いくらいだから、年下相手の方が良かろうし」

「あなたもそう思う〜〜?」

「ああ」

 頷きながらも、彼は顰めた眉を崩さない。

「だが… 彼は難色を示すんじゃないか?」

「そーなのよ〜〜 それでちょっと困っちゃってぇ〜〜〜」

 胸の前で手を合わせて、全身で困ってますとジェスチャーする。 示されるどころか、既に反論の釘を返されているのだ。
 そんな妻の様子に苦笑しながら、彼は口を開いた。

「こう言う時は、搦め手で行くべきだろうね。
 これだけ癖のある弟子を揃えていれば、色々と付け入る部分も出て来るだろう。 とは言え、この間の件を出しても反発を増すだけだし、暫くは様子を見てにすべきじゃないかな」

「そぉお〜?
 でもあの娘には〜、出来るだけ早くGSらしくなって欲しいのにぃ〜〜」

 着物の着こなしもきちっとしているだけに、その様子は本人のバランスの悪さをも如実に現わしているようで、人によっては顔を顰めるかも知れない。

「まだ、冥子も高1だ。 学校でも目は届くし、卒業まで2年以上ある。
 焦っちゃいけないな」

「そーねぇ〜〜」

 と、ふと気付いて、彼は報告書を読み直す。

「そうだ。 今、見た限りだと、彼のところの二人は年齢的には、おまえの所に入れる事も出来るんじゃないか? その為の教育機関である事を前面に説得してみるのも、打っておいていい手だと思うが」

 報告書に有った内の二人は、今年15だ。 片方は義務教育の受講すら怪しいが、その程度の事ならどうとでも対処出来る。

「そうね〜〜 じゃあ、ちょっと根回ししておくわね〜〜〜」





 こどもチャレンジ 10





「あ〜〜〜っっ!!」

 大声で美神令子は叫んだ。

 神父が連れてきた、弟子の最後の一人を見てのリアクションである。

「どうしたんだい、いきなり大きな声を出して?」

「まさか、先生、そのガキが…」

 指差す先に居るのは、当然 横島の姿。

「あぁ、言ってあった横島忠夫くんだ。
 まだ若いが、ほんの少しの差での君の兄弟子と言う事になる」

「ちょ、なんでそんなエロガキがっ!」

「えっ、ゴメ…」
「霊力なら、そっちとは比べ物になんないくらい上なワケ」

 思わず謝り掛けた彼を、背に庇う様にしてエミが一歩前に出ると、威嚇する様に美神に答える。

 その態度にムッとしつつも、美神は神父へと顔を向けた。

「まぁ、その、なんと言うか…」

 言い淀む師に、彼女はギンと音のしそうな視線を向ける。

「…君たち3人の中で、最も霊力の高いのが彼、横島くんだ」

「なっ…」

 否定の言葉を期待していたのに、返された答えは肯定。
 美神の表情が強ばった。

 誰に言われるまでもなく、この1週間ほどの間に、自身とエミとの差を彼女は認識出来ていた。
 腹も立つし、悔しい事だが、ソレを認められないほど経験浅くはない。 まぁ、まだ自身がGSへ続く道のスタートラインに立ったばかりだと判ってもいたから、闇雲に事実を拒絶する愚を犯す筈も無かった。
 それでも、あの出逢いを振り返れば納得は出来まい。

「そ、そのなんだ…
 令子くんは、彼に有った事があったのかい?」

「…一度だけ」

 ふいっと顔を逸らしながらも、それでも返事が返って来る。
 それに苦笑しながら、神父は話を続けた。

「そ、そうか。 美智恵くんも、するべき事はしていたか…」

「なんで、そこでママの事が出て来るんです?!」

 言うまでもなく、美神と横島の出逢いは、あの1回限り。
 だが、それを聞いていない神父にしてみれば、美智恵が生前に会わせていたと考えても不思議は無い。
 百合子からも、彼が霊能に伴う様なおかしな言動を見せ出したのは、ここ一月に満たないと聞いていた事もある。 美智恵が存命の時分に会わせていたのなら、横島が強い霊能持ちだと知らなくても変ではないからだ。

 勿論、事実は違うし、美神の様子を見ればその想像が間違いだと判る。

「えっ? 違うのかい?
 そもそも、横島くんに私の事を紹介したのが、美智恵くんだったからそう思ったんだが…」

「ママが?!」

 横島を神父に託したと思える話を聞かされ、思わず美神は絶句した。

 そうならば、どんなに認め難かろうとも、彼を闇雲に拒絶する訳にはいかない。
 自身の母親は、何の意図もなくただ引き合わせて、その状況を楽しむなんて趣味の持ち主ではなかった。 故にそれだけの才を認めてなのだろうと、美智恵の意図をそう読んでしまったからだ。
 横島を拒絶すれば、彼女の見立ても拒絶する事になってしまう。

「…くっ、いいわ。
 でも、いつまでも上に居られるなんて思わない事ね」

 肩を怒らせて、美神主観である所のエロガキ……横島へとそう宣言する。

「すんませんすんませんすんません…」

 反射的に再び謝り出す横島に、腑に落ちない物を感じながらも、エミはちょっとだけムッとした。
 自分には、あんな出逢いだった事もあってか気軽い接し方なのに、美神に対してはどうみても低姿勢だ。 まるで弱みでも握られてるかの様に。 その出逢いの場面を見ていれば納得したかも知れないが、ソレは知る由もない事。 ましてや事実に至っては、想像の範疇を越えていた。

 横島に頼った事も有るだけに、美神に対する彼の様子はとても気に食わない。

「あれだけ出来るくせに、令子なんかに怯えてんじゃないわよ。
 ほら、しゃんとするワケ」

「は、はひっ!」

 今度は後ろから抱きすくめる様に、彼の背筋を伸ばさせる。
 背中に当る感触に、横島は鼻の下を伸ばす。 緩みながらも以前の雰囲気に戻った彼に、エミは内心で苦笑した。

「ふんっ」

 美神がつまらなそうに鼻を鳴らす。
 なんでだか、そのにやけた顔が気に入らなかったから。 エミに対する反発も含めて。

 そんな3人の様子に、神父は一人 深い溜め息を吐いた。

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 そうして始まった神父の弟子としての3人の生活だが、しかしすぐにGSとしての修行を始めると言う訳にはいかなかった。

 7月初旬となれば、つまり学業上の制約が掛かる。 1学期の期末考査が目前に迫っているからだ。

 特に美神は、事情こそ酌量されるだろうが、この1ヶ月と言う物ロクに登校していない。
 だが、母の様なGSを目指すと決め、その死を少なくとも表面上 割り切った今、半端な成績を残す事を彼女は良しとしなかった。

「…そう言う訳なんで」

「ああ、確かに修行は大事だが、学業を疎かにすべきではないね」

 殊勝な態度で断わりを入れてきた美神に、神父も鷹揚に頷いた。

「それに六道女史からの件もある。
 目の前の遣るべき事を一つずつ片付けて行くのは、悪くない事だしね」

「さすがっすね、みか…令子さんは。
 俺なんかどんな成績だって、全く気になんないのに」

 美神の事情を知って、その状況で学業にも手を抜かない彼女に、横島が感心した様な声を上げる。
 呼称が名前になっているのは、『美神』だと母娘の混同がしばしば起きる為、名前で呼び合う事を神父が決めたからだ。

「コネだけでの進学だなんて、この私のプライドが許さないわ」

 ちょっとだけ照れながら、胸を張ってそう言う。
 美神にしてみれば、美智恵と神父、その両方のコネだけでなどと言われる事は論外だった。 自身の実力が、まだ大した事は無いと自覚してもいる事だし。 コネを使う事自体を否定する気なぞ更々無いが、実力抜きでは破綻するだろう事も理解している。
 ただでさえ進学予定先の六女は、レベルの高い学校なのだ。

 そう。
 六道女史は、率直に申し入れしてきたのである。 二人の六道女子学院 霊能科への推薦を。
 正確にはソレを見越した中等部への編入を、だが。

 神父にしても、その思惑は読める。
 が、美神とエミ、二人の将来やこれからを思えば、それはけして悪い話ではない。 修行や実地研修での便宜も計られ、基礎的な知識の補充も授業で出来る。 また六女のOGとなれば、GS界においてはステイタスでもあり、後々独立するにしても、多方面に渡って有利に働く。
 彼女たちがGSとして身を立てる事を目指している以上、得られるメリットは小さくなかった。

 それに、六道がそこまでしようとするからには、結局 どこかで折れるしかないのだ。
 この世界に於いて、そのネームバリューは小さくないから。

「令子はそう言う所で頑張らないと、いざと言う時 困るワケ」

 横島の素直な称賛が気に食わなかったか、皮肉気な声が漏れる。

 一方のエミはと言えば、美神への対抗心は有れど、なにせこの3年間を学校などと言うモノと無縁に過ごしてきた。
 だから霊力を重視した推薦そのものへは、儲けた程度の感じ方しかしていない。 充分にGS試験合格圏の実力は持っているし、障害は力尽くで排除すればいいと思っているからだ。

「はん。 チカラだけで渡って行けると思ってるなんて、脳みそが筋肉で出来てるんじゃない?」

「ふっ。 その一番大事な部分が大した事無いんじゃ、そもそも意味がないワケ。
 ま、令子程度じゃ筆記で稼がなきゃなんないから、それも仕方ないけど〜」

 ギンっと視線をぶつけあう。

「その、二人とも、そんな恐い顔せなんでも…」

 間に入って、横島がおろおろとしだす。

「アンタは黙ってなさい」
「忠夫はこっちに退いてるワケ」

「君たちねぇ…」

 神父の苦笑いのままの仲裁。

「「ふんっ!」」

 彼女たちは、互いに顔を逸らして、一触の空気を掻き消した。

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 そうは言ったものの、エミも勉強しない訳にはいかなかった。
 いくら霊能科への推薦とは言え、義務過程を履修していないのは拙いからだ。

 そんな訳で、エミも2学期からの六女中等部編入に向けて、こなさなければならない課題が出されていた。

「…こっちは?」

「っと、確か公式が…」

 美神が試験対策も兼ねて、暫く教会へは来ない。 だから、彼女に教わる訳にはいかなかった。 尤も、素直に教えを請えるか、教えようとしてくれるか、は別問題だが。

 かと言って、神父に頼ろうにも、増えた食扶持の為に国内のあちこちへと仕事に出ているのだ。

 まるまる最初から判らないエミの相談に乗ったのは、だから横島だった。

「あぁそう言う事。 なら、こうして… ん、出来たワケ」

 頭が悪い訳ではない。
 ちょっと示唆すれば、打って返す様に答に辿り着く。

「けど… おたくも大概何でもありね」

「えっ? あ、あははは…」

 横島にしてみれば、中一の範囲は既に越えた場所だ。
 とにもかくにも、高校入試を越える程度の学力は有るのだから。 高校の課程に入ってしまうと、進学する気がさらさら無かった事もあり、また2年の頭からはバイトが忙しかった事もあって、全くと言っていい程 判らなくなるが。

 そんな事を知らないエミの身になれば、小学生の彼が中学の教育課程を網羅しているのは、充分に驚くべき事だろう。 …たとい、その知識のあちらこちらに穴が有ったとしても。

「まぁとにかく、エミさんの役に立てて嬉しいっすよ。
 美神さんに聞いた方が、もっとちゃんと教えてもらえると思いますけどね」

「令子に借りを作るのは、ゴメンなワケ。 …それと、また美神になってるわよ」

「えっ? あ… どうも言い難くて」

 指摘されて、頭を掻く。
 横島にとって、美神は『美神さん』なのだ。 2年近い間そう呼んできただけに、なかなか治らない。

「ま、私はどっちだっていんだけど」

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「ちょっといいかね?」

「あ、神父? また遠くなんすか?」

 庭先で一休みしていた所に、声を掛けてきた神父は、小さな旅行鞄を手にしていた。

「今日のは、今夜中には けりを付けられそうな近場だよ。
 で、そういうことだからまた留守を頼みたいんだが」

「それ、私たちが付いて行っちゃダメな仕事なワケ?」

「…いや、そんな事はないが」

 少し考えてそう答える。
 相場でも300万クラスの仕事だ。 目の前の二人なら、足枷になる事は無いだろう。

 慣れない勉強漬けに鬱憤が溜まっていたエミは、それ幸いと口元を緩めた。

「だったら…」
「そうだね、忠夫くんはまだ現場に連れて行った事が無いし、いい機会かも知れないね」

「俺も、ですか?」

 話半分に聞いていた横島が顔を上げる。

「うん。 大体の実力は判っているし、経験を積むのは悪くないと思うが、どうかね?」

「まぁ、いいっすけど…
 そしたら、美…令子さんは、どうするんすか?」

 試験終了までは出て来ない事になっては居たが、念の為に聞いてみる。

「彼女は、もう少し霊力の底値を上げてからだね」

「そうっすか」

 まだ霊体ボーガンなどは扱っていないのだ。
 現場に居合わせた経験なら一番だが、除霊技能 自体はまだ覚え始めたばかりなのである。 エミや横島との連携が取れるなら話も変わるが、まだ二人と隔意有る状態ではそれもままならない。

「令子の事は置いといて…
 それじゃ、一緒に行きましょ。 すぐに仕度して来るから」

「ああ、手早くね。 それと教材も忘れないように」

 ちぇ、と零して、それでも嬉しそうに自室へ戻る。

「エミくんが戻ってきたら、君の家へ寄って行くから、その時にお母さんにも話をして行こう」

「判りました」

 頷いた横島へ、表情を少し緩めて問い掛ける。

「ところで、エミくんの方の進みはどうだい?」

 言うまでもなく、勉強の事だ。

「悪くないんじゃないすか。 夏休みがまるまる間に入ってますし…
 ただ、俺だけだと手が回らないから、神父にも出来れば見て欲しいトコっすけど」

「そうだね。 出来るだけ時間を開けたい所なんだが…」

 思案気に宙を見上げる。

「今日みたいに一緒に動けば、待機時間とか、結構使えると思うんですけど?」

「まぁ、そうなんだが…」

「あぁ。 美神さんの方かぁ」

 察し良く頷く少年に、思わず神父の顔に苦笑いが浮かぶ。

 エミを連れ歩いたら連れ歩いたで、美神を刺激しそうなのが、確かに問題だと彼は考えていたのだ。
 精一杯 背伸びしようとしてるだけに、公平さが欠けるのは彼女を不快にさせるだろう。 エミの方が実力で先じていると、理解していたとしても。

 一度の実戦が、座学より秀でるのは確かだが、クリアすべきラインに達していないのも事実。 …そう程無い内に届くだろうが。

「ま、今は考え込んでも仕方ない」

「ですね」

 互いに苦笑を交わしていると、エミが戻ってきた。

「用意出来たワケ」

 一回分の着替えと、課題の一部と筆記用具だけだから、それほど大きな荷物ではない。
 が、習慣で横島はそれを受け取った。

「それじゃ、車んトコまで行きますか」

「あ、ちょっと…」

 その後をエミが追いかける。

 二人の姿に軽く微笑んで、神父も時分の荷物を手に歩き出した。





 【つづく】



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……ぽすとすくりぷつ……

 六女に中等部が有るかは不明ですが、都内の私学だと併設してるトコも多いので、有りと言う事にして下さい(笑)

 今回、展開に軽い山の一つも無いなぁ…(苦笑)

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