ザ・グレート・展開予測ショー

彼女と陰陽師2


投稿者名:MIYA
投稿日時:(05/ 3/23)




「ぜーっ、ぜーっ、ぜーっ」

俺は今体力の限界に迫ろうとしている。背中には半端じゃない量の荷物がのっかっている。その大部分が登山用具や除霊道具だ。そして両手にはスーツケースを持っている。中身は目の前を手ぶらで山道をのんびりと歩いている女性、つまり美神さんの洋服だ。

「大丈夫ー!?横島クーン。」

そう思うんならこんなに荷物を持たせんな!!しかし俺の口から出る言葉は思っているのとは正反対の言葉だ。

「大丈夫っス!!うわははーー…  」

っく、目の前の景色が一瞬ゆがんだ。

「さ、酸素ーーーっ!!」     ばたっ

やばい。ホントにやばい。なんだよこの空気の薄さはーーー!

「標高高いもんねー。」

美神さんは俺をおいて進んでいく。まったく俺の状態は無視かい!

「ま、待ってーー!待ってくださいーー!このままじゃ死ぬーーーー!!」

「若いんだからがんばって♪」

バイトを始めてしばらくたったが、この女はメフィストとはだいぶ性格が違うことが分かった。情け容赦なくこき使うし金にはがめついし。

雇われてから冷静になって考えてみると時給250円は安すぎる。最近除霊のときは破魔札を使ってないからだいぶ金にも余裕があるはずだ。それなのに給料上げの抗議をすれば誤魔化される。今回も除霊にくるとき抗議中だったのに露天風呂があると言われて誤魔化された。

おがめると思ったんだ!!美神さんの裸体がっ!!
それを期待して何が悪い!!

「先に行くわねーっ。」

俺の命はへとも思われてないらしい。美神さんは俺のほうを振り返って見ると手を振って先に行ってしまった。

「い、いかん。!女っ気がなくなってますます意識がモーローと…。」

俺は力をふりしぼって立ち上がり歩き出した。このまま荷物に押しつぶされたくないしな。

車はこの道を走れないためふもとに置いてきた。山に除霊に行くと聞いたときにこうなることを予測すべきだった。もしかしたら野宿をするかも、なんて希望、もとい野望を抱いたため荷物にテントや寝袋なんかを追加してしまった。当然寝袋は一つだ。しかしよく考えれば山道をどこまで車が通れるか分からないし、美神さんなら簡単に解決してさっさとホテルに引き込むだろう。俺は結局自分で自分の首を絞めてしまったようだ。





やっとの思いで俺は落石注意の標識のあるところまでやってきた。行く前に覚えさせられた地図のとおりならあと少しのはずだ。俺は露天風呂を支えに残りの道を歩き出した

が、

「えいっ!!」    ドン!!

「わ!?」

何かがぶつかってきた。疲れていたためまわりの気配に無頓着になっていてよけることはもちろん、気づくこともできなかった。そのためもろにくらってしまった。
ただでさえふらふらしていた俺は後ろに倒れてしまった。

「大丈夫ですかっ!?おケガはっ!?私ったらドジで…」

「今『えいっ』とか言わんかったかっ!?コラッ!!」

俺はなんとか起き上がるとぶつかってきた人らしきものに目を向けた。

幽霊じゃん。

巫女の格好をした髪の長いおとなしそうな女の子だ。それも実体化し、ものに触れることができるということはかなり力を持っているはずだ。

「うっ!今のショックで持病のシャクが…!」

んなわけないじゃん。俺はあきれたように言い放った。

「幽霊なのに?」

「!!」

「…」

「ああ…また失敗…。せっかく死んでいただけそうな人をみつけたのに…」

彼女はしくしく泣きながら消えた。なんだありゃ?

死んでもらうって何をたくらんでるんだか…。でもかわいかったなー。後でまた来て事情でも聞いてあげるかなー。

俺は山道を歩いていった。










横島がホテルに着くと美神は鍋料理を食べていた。横島の分は用意されてはいたが、食べ終わった美神がすぐに調査を開始したため食べることはできなかった。


問題の露天風呂には今のところ霊の気配はなかった。

「ここに地縛されている霊じゃないみたい。」

美神は手にもった見鬼くんを見ながら言った。見鬼くんはぐるぐると回っており、近くに霊はいないことを示している。

「やっぱ女性が風呂に入ってないとだめなのでは!?」

横島はかなりの期待を込めて言った。

「うーん…じゃ、とりあえず入ってみましょーか。」

美神は一旦服を脱ぎに戻ろうとした。が、次の瞬間目の前に髭を生やした登山家のような幽霊が現れた。

「じ、自分はめ「アホかーーっ!!貴様ーーっ!!もうちょっとで美神さんの裸体が拝めたものをっ!!!」

横島泣きながら桶を叩き、悔しがる。美神はそれをあきれたように見ており、登山家のような幽霊はあっけにとられていた。









ビョオオオオーー

「…」

横島は吹雪の中を歩いていた。前にはワンダーホーゲルが歌いながら先導している。ワンダーホーゲルから事情を聞いた美神が死体を捜させに行かせたのだ。つい背中を流してくれるという言葉にのせられてしまったが猛烈に後悔していた。なんせものすごい吹雪だ。しかもワンダーホーゲルの言うとおりならあと二時間かかるらしい。

横島はワンダーホーゲルの隣に目を向けた。そこには風が吹いているにもかかわらず白いすずめのような鳥が平然と飛んでいた。

その白い鳥は横島の式神だ。だいぶ前に偵察や探索用に作ったのだ。目をつなげることができるため鳥が見ているものを横島が見れるという優れもので、もっぱらのぞきに使われていた。今回はワンダーホーゲルの死体を探させていた。

「見つかんないか…。     なんか死の予感…」

「横島サン、そろそろビバークしませんか?」

ワンダーホーゲルがなぜか笑顔で聞いてくる。しかしなぜか横島は寒気がした。

(ビバークしてはいかん気がする…)

「なあ、お前なんで登山が好きなんだ?」

「友情っスよ!!青春っスよ!!男同士あっためあって山の夜を過ごす!!最高っスよ!!」


         ゾクッ!!!



「冗談じゃねーっ!!いやだっ!!男はいやだっ!!」

横島は走り出した。涙を流し叫びながら吹雪の中を風のごとく。必死になっていた。

「俺は女が好「えいっ!!実力行使!!」  バキッ!!

「べっ!?」

横島は突然頭に強烈な衝撃を感じた。




私は自分の代わりに死んでくれる人を探していた。三百年前に人柱として死んでから私は神様になれるようにがんばってきた。すこしでもみんなに幸せになって欲しかったから。今ではもう昔のことはあまり覚えていないが、大切な友人がいたから。
でも私には才能がなかった。神様になれずたださまようだけ。だからだれかに代わって欲しかった。その方がいいと思ったから。

だれかに代わってもらうことは今までできなかった。私の姿を見て逃げ出す人もいた。無視して通っていく人もいた。

彼らを見たとき今までの人たちとはなにか違う気がした。強い波動を持つ女性。そこそこ強い波動を持ちながらもコキ使われる少年。この人たちなら神様になれると思った。

私はコキ使われても平気そうな少年に代わってもらおうと思い、さっそくぶつかってみた。しかしあっさりと幽霊だと見抜かれてしまった。けれど今までの人とはぜんぜん違った。私を見て逃げなかったし無理やり追い払おうともしなかった。

少しうれしかった。


その後私はしばらくその辺をブラブラとさまよっていた。林の中をあてもなく。すると聞いた声が聞こえた。木の影に隠れて声が聞こえた方を見るとあの人が走ってこっちに向かってきていた。

もしかしてチャンス??

私はその辺に落ちていた石を持って彼の後ろにまわり、殴りつけた。





「…」

「…」

横島は自分を殴ってきた女の子の幽霊を見た。

(おとこはいやおとこはいやおんなおんなおんな女女女の子…)

「わーーっ女の子やーーっ!!」

「キャーッ!!」

「これやっ!!これなんやっ!!俺が欲しかったのはこれなんやーーっ!!」

「いやーーっ!!」


女の子の幽霊は必死で抵抗した。横島は抱きついたままほお擦りをしていた。もはや我を忘れていた。

「横島サーン!!」

「うわっ!!」

横島は追ってきたワンダーホーゲルを見てさらに恐慌状態におちいった。

「いやーっ!!」「いやだーっ!!女の子ーっ!!」「横島サーン!!」





「あー気持ちいい!」

美神は露天風呂につかっていた。

「こうしていると人間のみにくい欲望や争いがとてもちっぽけに思えるわ…」

しかし遠くから騒ぎ声が近づいてきている事に気づいた。

(この声は…横島クン!?)

                ドガッ!!


竹の塀が破られると先頭は見たことのない女の子で横島、ワンダーホーゲルと続いて美神に向かって突進してきた。

「助けてっ!!」「裸のねちゃーんーー!!」

                   バキャッ

とりあえず飛び掛ってくる横島を殴り倒すと自分の影に隠れる女の子から事情を聞くことにした。






「よろしい、大体事情は分かったわ。」

三人から話を聞いた美神は少しの間目を閉じて考えるようなしぐさをすると、おもむろに目を開けこう言った。

「じゃ、こうしましょ。ワンダーホーゲル部!!あんたこの子の代わりに山の神様になんなさい!」

「や…山の神様…!?やるっス!!やらせて欲しいっス!!」

「よろしい!あんたもこれでいいわね?」

「はい!!」

美神は横島の方を見るとこう言い放った。

「じゃ、横島クンよろしく。」

「えっ!!俺っスか!!」

「あんた陰陽師なんだからこれぐらいできるでしょ?」

「簡単なことじゃないんですよっ!!人柱っていうのは術式一部だから切り離したらどうなるか!!」

横島はうって変わったように真剣な表情で反論した。

「だからあんたにやらせんじゃない。わたしより確実でしょ?」

(この女責任を押し付ける気かーーっ!!)

「それとも何?この子を見捨てる気?」

「…」

「…」

「…分かりました…」

非難の視線に耐えかねたのか横島はしぶしぶといった様子で、両手で印を組むと呪を唱え始めた。

「謹上再拝それ天開き地固まつしより此方…」

人柱というのはそもそも呪いの一種だ。本来ならば成仏し、輪廻の流れに組み込まれる魂を無理やりつなぎ止め、抑止力として術式の中に組み込むのだから。そして術の解除などは前提ではないため、強力かつ複雑な術を使っている。だから簡単に人柱を代えることなどできるはずがない。

今回横島が行っているのはワンダーホーゲルを核に、元からある術式の一部を鋳型にして新しく呪いをかけなおすというのものだ。元の術式ほど精巧にはできないが、これが彼にできる精一杯だった。

「魂を呪にてつなぎ止め、楔となさん!さらにつながれし魂を解き放て!」


               カッ!!

彼らの目の前が光りだすとワンダーホーゲルの姿が変化する。白い衣をまとい、手には弓を持ち、背中に矢を背負っている。

「これで自分は山の神様っスねーっ!!」

「とりあえずはね。」

「ふー、疲れたー。」

横島はたれてきた汗を手でぬぐった。

(とりあえずはこれでオッケーかな。術式が誤作動を起こさないといいけど。)


ワンダーホーゲルは意味の分からないことを叫びながら山の方へ消えていった。横島はそれを見ながら考え事にふけっていた。

(でも何か感触が違った。この術式を見たことはないけど、ただ死者の魂を縛り付けるものではないはず。なにか別の核が在るはずだよなあ。)

(ま、なるようになるか。)

ワンダーホーゲルが消えていった方角の空を眺めた。都会では決して見られない満天の星空が見えた。

(久しぶりに空を眺めたな。昔はよく星の動きを読んでいたけど。)

ふと空の一角に気になる星を見つけた。なぜか心が騒いだ。

(何か大きな騒ぎか…。…この事務所に勤める限り騒ぎには巻き込まれるんだろうけど…)







翌日彼らが帰るとき、メンバーは3人になっていた。新しく雇われた彼女の日給は30円だったとか。










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